【葉月 インタビュー】
最初に浮かんできたのが
「睡蓮」のコード進行と
メロディーだった
誰かのカバー曲を入れるよりも
まだ音源化されていない自分の曲で
続いてカップリング曲についてお聞きしたいと思います。
カップリングは2曲ともlynch.の曲なんです。「睡蓮」の他に何を入れようかとなった時に、ここで誰かのカバー曲を持ってくるよりも自分の作った曲で、すでにアレンジが済んでいて、まだ音源化されていないものでいこうかなと思って。それで、入れたいと思ったのが「CRYSTALIZE」と「ALLIVE」でした。「CRYSTALIZE」はもう2年前くらいからこのアレンジで出来上がっていて、『奏艶』ではやっていたんです。
「CRYSTALIZE」は、いわゆる『奏艶』スタイルとバンドサウンドの中間的な雰囲気が印象的でした。
そうですね。ちょっとダンサブルな感じで、「睡蓮」とは違っている。『奏艶』のライヴで演奏する時はここまでリズムが出ていなくて、今回音源にするということでデジタル色をちょっと強くしました。だから、ドラムも打ち込みでEDM的なアプローチになっていて、クラシカルな部分と電子的な部分を混ぜて遊んだ感じです。もともと「CRYSTALIZE」は4つ打ちで、テンポもこれくらいの曲なんですよ。クラシックアレンジにする時に、単純に遅くすればいいというものではないと思ったんです。バラード化すればいいわけではなくて、このノリは残そうということで、こういう面白い感じに仕上がりました。
その辺りは本当にさすがです。「ALLIVE」がそうですが、ヘヴィチューンをクラシックアレンジにする場合はまったく違う方向性にするという手がありますが、原曲のエモーションを保った上でオーケストラ化していて驚きました。葉月さんの中にはそれぞれの楽曲の世界観が明確にあることを感じます。
まさにそうです。「ALLIVE」なんてコード進行とメロディーだけで言うと、アコギで弾き語りできるような曲なんですよ。それをアプローチとしてlynch.がやるということでローチューニングで、激しいビートで…というかたちでやっているだけで、クラシックアレンジにしてもあのアツさは変わらない。
楽曲の芯になる部分そのものが大きな力を持っていることを感じます。
でも、lynch.の曲でも“さすがにこれはクラシックアレンジはできないね”という曲はいっぱいありますよ。「ALLIVE」はできるけど、やっぱり激しすぎるのは無理ですね(笑)。
とはいえ、「ALLIVE」はヘヴィなリフをオーケストラが奏でていて、オリジナル同様厚みや切迫感などを醸し出していますよ。
それはアレンジャー氏の腕ですよ。本当にすごいと思います。“これ、ジャンルなんですか?”みたいな(笑)。
そうなんです。他にあまりない音楽になっています。
ですよね。僕も“オーケストラで、こんなに激しい感じが出るんですね”と言いました。ご本人は“映画音楽の戦いのシーンだったりでこういう感じをよく使っていて、葉月さんの曲に合うんですよ”とおっしゃっていましたね。僕も含めて、みんなジャンルにこだわっていないというか、“『奏艶』はこういう方向に持っていきたいよね”というのはなくて、“曲がこうだからこうしました”というやり方をしています。
それがいい方向に出ていることは間違いないです。話を「CRYSTALIZE」に戻しますが、この曲の歌詞は忘れたと思っている昔の恋が不意に蘇ることに対する戸惑いが描かれていますよね。
「CRYSTALIZE」を書いたのは10年くらい前ですけど、内容は今でもよく思うことというか。僕は夢がすごく嫌なんですよ。夢というのは回避できなくて、勝手に見てしまうじゃないですか。「CRYSTALIZE」は昔におつき合いしていたりとか、好きだった人とお別れして、もう忘れた頃にその人がすごくいいかたちで夢に現れて、目が覚めた時の“なんだ、これ?”という心情を歌っています。“なんで、今こんなものを見せるんですか?”みたいな。あれ、嫌なんですよね。ひとりではなくて、いろんな方が出演されるんですけど(笑)。
そ、そうですか(笑)。いいかたちで現れるのであれば、いい夢のような気がしますが。
僕は嫌なんですよ。だって、現実ではまったく引きずっていないのに、いいかたちで出てこられると変な気持ちになるというか(笑)。いい思い出があることは確かだけど、それが現実かのように今出てくると混乱しますよね。
世間で言うところの“男性は恋の思い出を別名保存する。女性は上書き保存する”ということじゃないですか。忘れたと思っていても男性はどこかに残っているという。そういう意味では、「CRYSTALIZE」も普遍的な歌詞と言えますね。
自分の中で、一番J-POP向けなテーマだと思います。でも、その話をファンの人にすると、どうもみんなピンとこないんですよ。きっと女性が多いからなんでしょうね。
そうだと思います。
やっぱりそうか〜。“なんで分かんねぇんだよ!”と、いつも言っています(笑)。ということは、「CRYSTALIZE」は男の歌ですね(笑)。
「CRYSTALIZE」は力強さとエモさを併せ持ったヴォーカルも本当に魅力的です。
この曲の歌はちょっと思い入れがあって、10年前に1度録っているので、その時の歌い回しを覚えているわけですよ。それがベストテイクとして自分の中に残っていて、それを受けて今回改めて録ることになったんですけど、10年前の感じでは歌えなかったんです。それがいいことなのか、悪いことなのか分からないけど、変化というのはやっぱりあるんだなと思いました。10年前のことなんてできて当然だと思っていたけど、意外とそうではないことを痛感しましたね。“あれ? ここでこのスピードのビブラートがかかんねぇ”みたいな。結構挑戦したけどできなくて、どうしようということになって。“今、自然体で歌ったらどうなるのか?”という答えは別のところにあるけど、それは10年前に歌ったベストテイクとは違うものになるので、やろうとはしていなかったんですよ。でも、今の歌を歌うしかないと思って、受け入れて歌った感覚です。
ですが、シンガーとしてキャリアを重ねていく中で失われていくものがある一方、得られたものもたくさんあるんじゃないかと思いますが。
そうですね。10年前のものだけを正解としてしまうとつらいけど、そうではないので。僕は最初はそういう目で見ていたから“ヤバい、できない!”と思っていましたけど、別に再現する必要性はないので、今回のテイクも気に入っています。