BOND52 Vol.1『山笑う』松本哲也(小
松台東)×山﨑静代(南海キャンディ
ーズ)インタビュー 「この役はきっ
としずちゃんに合うと思った」

2022年7月7日(木)より下北沢・小劇場B1にてBOND52 Vol.1 小松台東BONDゴツプロ!『山笑う』が開幕する。
本公演は、劇団ゴツプロ!の浜谷康幸が新たに立ち上げたプロジェクト「BOND52」の皮切り公演。BONDの意味は、“繋がる・絆・縁”。その文字通り、他劇団とのタッグを通して魅力ある舞台作品をより広く届けることを目的とした試みである。記念すべき第1回目は、人間関係における心の機微を繊細にあぶり出す会話劇で観客を魅了する劇団小松台東作品の中から、宮崎を舞台に家族の繋がりを描いた『山笑う』をピックアップ。小松台東・主宰で劇団内外でも幅広い活躍を見せる松本哲也を演出に迎え、個性豊かな俳優陣とともに戯曲の魅力と可能性を紐解き、新たに立ち上げていく。
出演は、ゴツプロ!メンバーである塚原大助、浜谷康幸、渡邊聡のほか、俳優としても唯一無二の存在感を誇る南海キャンディーズの山﨑静代、青年座の実力派女優・野々村のん、小松台東のワークショップで選出された平岡亮の6名。
開幕を目前に控えた稽古場で、作・演出を手がける松本哲也と、企画が立ち上がった当初から松本自らがその出演を切望していた山﨑静代に本作について話を聞いた。
これまで演じたことのない役柄への挑戦
――『山笑う』は2017年に小松台東の劇団公演として、三鷹市芸術文化センター星のホールで上演されています。5年の時を経て、今回はゴツプロ!の新たな試みとなる「BOND52」の皮切り公演として再演。まず、この企画のオファーを受けた時、台本を受け取った時にお二人が感じたことをお聞かせください。
松本 自分自身がキャリアを重ね、その都度出会いが増えていく中で「いろんな場所でいろんな人と作品をつくってみたい」という気持ちが強くなっていました。一緒にやってみたい役者さんもどんどん増えていくのですが、劇団公演以外でそういった出会いを形にしていく機会がなかなか作れないなあと感じていたんです。そんな矢先に今回の企画に呼んでいただいたので素直に嬉しかったですね。ご一緒するキャストさんたちはしずちゃんをはじめ、ほぼ全員がっつりご一緒するのは初めての方ばかり。とても楽しみだと感じました。
松本哲也(小松台東)
山﨑 最初に台本を読んだ時、そこかしこに人間の繊細な心の動きを感じました。何か大きな出来事や事件が起きるわけではないのに、シーンの一つ一つから登場人物の心の動きやうねりが細やかに浮かび上がってきて……。一人で読んでた時にも感じてはいたんですけど、自分だけでは読み取れなかった部分や掬いきれなかったものが皆さんとの稽古や松本さんの演出を受ける中でより深まっていくような実感がありますね。稽古場で存分に影響を受けたいと思っています。
松本 そうですよね。僕自身も含めていろんな場所から各々の芝居の特徴や持ち味、バラバラのキャリアと個性を持った方々が集まっているというのはプロデュース公演の面白いところですよね。その一つ一つの個性を掴んで、さらに慣れていくのは大変なことでもあるんですけど、それ以上に楽しくやりがいのある作業だと改めて感じています。
――山﨑さんと松本さんも今作以前に面識があったわけではなかったのですね。
松本 そうですね。しずちゃんと初めて挨拶をさせてもらったのは、去年の12月だったかな。僕が作・演出を務める劇団の公演「小松台東”east” 『東京』」を観に来て下さって。その時はまだ今回の出演も決まってはいなかったんですけど、この企画で『山笑う』を上演するという話はすでにあったので、「オファーさせていただいていいですか?」というお話をして……。
――そんな経緯があったのですね。山崎さんはそこから実際にオファーを受け、演じる役柄を聞いた時はいかがでしたか?
山﨑 これまで私がやらせていただいてきた役って、ちょっと強そうだったり、変わっていたり、どちらかと言うとあてがきのような特徴的な役柄が多かったんです。でも、今回いただいた菜々という役柄は、それらに比べてかなり普遍的な女の子の役。すごく新鮮でした。「こういう役をやれるようになってみたいなあ」と思いました。挑戦ですね。

山﨑静代(南海キャンディーズ)

松本 これってもちろん、しずちゃんを想定して作られた本ではないじゃないですか。でも、直感的に「きっと合うんじゃないかな」と思ったんですよね。そんな中で稽古初日に初めて本読みをした時、思っていたよりもさらに合っていると感じました。今の稽古でもすごくいい感じ。面白い作品になると思います。
山﨑 稽古の度に新しい発見があって、どんどん変化していってますよね。松本さんの細やかな演出を聞きながら、「こんな風に気持ちがつながっていくんだ」とか「この人間関係や出来事から影響を受けてこの人はこうなったんだ」とか、そういう一つ一つの繋がりを自分の体にしっかり落とし込んでやっていきたいと思っています。
>(NEXT)全編宮崎弁で描く、「家族」や「故郷」における葛藤と愛着
全編宮崎弁で描く、「家族」や「故郷」における葛藤と愛着
――故郷を去った妹と故郷で生きてきた兄。そんなきょうだいを中心に様々な人間模様が紡がれますが、「家族」や「田舎」の煩わしさや憎みきれなさがぎゅっと詰まったその会話劇にふと記憶を呼び起こされたり、郷愁を覚える方も多いのではないかと感じました。松本さんがこの作品を書くに至られたのには、どんな背景やきっかけがあったのでしょうか?
松本 これを書いたのは7年くらい前だったかな。『山笑う』のきょうだいは田舎に残った兄と田舎を出て行った妹という設定なんですけど、僕自身には姉がいて……。だから、しずちゃん演じる妹の菜々には、家を出て好きなことやってきた自分を投影している部分が少なからずあるんですよね。宮崎に長く住んでいた姉はそんな自分をあまりよく思ってなかっただろうな、親も心配してんだろうなとか。実際長らく帰省もしていなかったので、僕が突然宮崎に帰ったらどうなるんだろう?って。そういう思いで書きましたね。
山﨑 田舎に帰った時に感じる、あの時間が止まっている感じ。そういう特有の感覚ってたしかにありますよね。稽古しながら色々想像しています。この空気が嫌で菜々は都会に飛び出したのかなとか、でも生まれ育った場所と自分はどうしても切り離せなかったりもして。田舎の人が考えや常識を押し付けてくるようなシーンもあって、つい苛立ったり……(笑)。それでも家族に代わりはいなくて、そこにしかいなくて。煩わしく感じたり、でもやっぱり大事だなって思ったり。そういう葛藤を感じるお話ですよね。
山﨑静代(南海キャンディーズ)、松本哲也(小松台東)
――宮崎弁でのお芝居も見どころの一つだと思うのですが、台本を拝見して、やはりこれだけの方言を会得するのはご苦労もあるのではないかと想像しました。方言は松本さんがレクチャーされているんですか? 
松本 そうです。最初に僕が本を読んで録音したものをキャストの皆さんに渡して。
山﨑 方言はとにかく何度も聞いて話す、を繰り返すしかないないのかなと思っていますね。「昨日は言えてたのに今日は全然言えへんなあ」とかまだ全然ありますよ。頭ではできていたはずが、いざ発してみたらその音が取れなくて言い直したり……。無意識で発しても音を間違えないくらいに仕上げていかないと!
松本 でも、僕ほとんど修正してないんですよね。方言という意味合いではしずちゃんが一番大変だと思うんです。菜々は東京に住んでいるから標準語を話すところもある。目の前の人と宮崎弁を話して、隣の人と標準語でしゃべるみたいなシーンもあったりして。でも、上手なんですよね。なんだろう、バレにくいのもあるのかな? バレやすい人とバレにくい人がいますよね、方言って(笑)。
山﨑 あはは。そうかも。私、ボソボソしゃべるから……。
松本 ははは。しかも、しずちゃんは普段関西弁だからね。スイッチの切り替えが多くて大変だろうなって。でも、本当いい感じですよ。
松本哲也(小松台東)

>(NEXT)稽古も大詰め。「しっかり溢さずやっていきたい」

稽古場で起こる全てに反応したい
――稽古場での豊かな時間が伝わってくるお話でした。お笑いをはじめ、あらゆる表現の場で多彩なご活躍をされている山﨑さんですが、ご自身にとってお芝居や演劇の場はどんな存在なのでしょうか? 
山﨑 初めてお芝居をやらせてもらった時から、どんどん難しさを感じるようになりました。いろんな人と出会って、今の稽古場でも個性のそれぞれ違う俳優さんの表現を間近で見たりする中で奥深さを痛感しています。今回は松本さんの演出を思いっきり吸収させてもらって、今後の自分の表現にも活かしていきたいなって思っています。この2時間弱のお芝居で人の気持ちやその交錯や衝突の全部にぎゅっと反応していかないとと思っていますね。普段の私はぼーっと生きているというか、あんまり反応せずに生きてるから……。
松本 マイペースにね(笑)。
山﨑 そう(笑)。でも、お芝居って反応の連続じゃないですか。表現にそのまま反映しない部分はあるにしても、全部に反応して作っていくものだから。だから、いつもの自分よりもずっとずっと気を張らないといけないと日々思っています。
山﨑静代(南海キャンディーズ)
松本 でも、役にすごく人柄が滲み出ていますよ。昨日はラストシーンの稽古をしたんですけど、あとは僕自身の頑張り次第かなと感じました。劇団で上演したものと大きな見た目は変わらないかもしれないけど、5年の間に僕も経験を積んで、当時は気づかなかったことや言えなかったことが演出で伝えられるようにもなりました。ご一緒する役者さんも違うので、みなさんが発信されたことに新しい気づきもあって、それがまた演出に反映されたり……。確実に深くなっていると思いますね。熟成というか。そういう意味では、再演の機会を与えてもらって本当に良かったと思います。
――お二人のお話をお聞きして開幕がさらにが楽しみになりました。ここから稽古は大詰めに入りますが、最後に初日開幕までの展望をお聞かせいただけますか?
松本 舞台の価値ってやっぱり生であること。物語そのもの以前に、目の前の人が生きて、呼吸をしているということ。その息遣いを感じながら一緒の時間を過ごすという特別さが舞台の醍醐味だから、稽古でも「呼吸を伝えたい」というのはよく言っています。宮崎の田舎でこの瞬間を生きている人々の呼吸を感じてもらえるお芝居に仕上げていきたいと思っています。
山﨑 松本さんが仰るように、劇場ではお客さんとの距離がすごく近いから、舞台で起きている全てを客席で同じ温度や質感で感じとっていただけると思うんです。逆に言うと、ちょっとしたところや小さな所作までしっかり丁寧につくっていかないといけないなって。お茶を淹れるシーンがあるんですけど、それもすごく近くで見られるわけじゃないですか?とにかく、しっかり溢さずやっていきたいですね。
松本 しずちゃん、それは演出を取り溢さないっていう例え?
山﨑 いや、あのシーンうっかりしてたら本当にお茶溢しそうになるから……。
松本 お茶の方だった!(笑)。
山﨑静代(南海キャンディーズ)、松本哲也(小松台東)
取材・文=丘田ミイ子 撮影=池上夢貢

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着