【ヒグチアイ インタビュー】
最悪と最愛、
両極端の感情が存在していてもいい
もし消したい過去だとしても、
それによって生かされている
「悪い女」には“最悪な人”“最愛な人”というアルバムのタイトルにつながる言葉があって。好きな人から酷い目にあっているにもかかわらず、《わたしが悪い》と思う女性が主人公ですが、恋愛の負の側面に焦点を当てたヒグチさんの曲、やはりすごいですね。
そういう曲が多いかもしれないですね。アルバムに入っている「距離」は別れていないというか、ずっと想い合ってる感じがありますけど、他の曲はそうではないので。私の曲は恋人と一緒に聴くよりも、ひとりで聴いたほうがいいと思っていて。「悪い女」もそうで、“こっそり思い出すあの人”ということを歌っているんです。表の面だけではなくて、自分の裏の顔だったり、汚いと感じているところを見てくれた人がいたというのはすごく大事だし、もし消したい過去だとしても、それによって生かされていることもあるんじゃないかなって。
本当に深いテーマですね、それは。「サボテン」はアルバムの中でもっとも明るくポップな手触りの楽曲ですね。
アルバムの中で一番新しい曲なんです。曲が揃ってきた時に重い曲が多いと思って、ちょっとやさしくて、軽く聴けるような曲を入れたくなって。これまでもずっと重いアルバムを作ってきましたけど、「悪魔の子」「縁」で初めて私のことを知ってくれた方が手に取ってくれるかもしれないし、あまり重すぎないほうがいいかなって。ちょっとは売れたいというか、好かれたいですからね(笑)。
「サボテン」があることで、アルバムのトーンもかなり変わりますよね。
良かった(笑)。最初はもうちょっとバンドっぽいサウンドだったんですけど、明るい曲にしたいと思って、アレンジは完全にプロデューサーにお任せしました。
アルバム全体を通してサウンドの幅がすごく広いですが、“ピアノが中心じゃなくてもいい”みたいな気持ちもあるんですか?
ほとんどの曲にピアノが入ってるし、自分で弾いているので、そこはこだわりがありますけどね。でも、ピアノが入っていない曲があってもいいと思っています。それは私がピアノを弾けるからでしょうね。ある程度自信があるからこそ、なくてもいいと思えるというか。
アルバムリリース後、3月には東京と大阪でバンドセットのワンマンライヴが開催され、4月からは弾き語りツアーが行なわれますね。
生のライヴは音源と全然違うし、自分で歌って伝えられたらいいなと。たくさんライヴをやっていた頃は、心が動きまくってたんですよ。そういう経験をもう一度したいと思って。ライヴが好きかどうかって言えば、そんなに好きじゃないんですけど(笑)。
えっ、そうなんですか!?
はい(笑)。特に弾き語りのライヴは、楽しくないと言っても過言ではないですね。ただ、“別に楽しくなくても良くない?”とも思うんですよ。ライヴに来てくれた方にも“楽しかった! 最高!”というより、“いや〜、ほんと食らった”と思ってほしくて。楽しいライヴは他の方に任せて、私のライヴでは自分と向き合ったり、考える時間になったらいいなと思っています。
取材:森 朋之