『フランソワ・ポンポン展』アートデ
ィレクターのナカムラクニオ、革新的
な動物彫刻で知られるフランソワ・ポ
ンポンの美術史的重要性を語る

動物彫刻の名作「シロクマ」などで知られるフランスの彫刻家、フランソワ・ポンポン(1855年~1933年)の回顧展『フランソワ・ポンポン展 ~動物を愛した彫刻家~』が7月10日(土)より京都市京セラ美術館で開催される。日本初となる同展について「美術史で非常に重要な作家でありながら評価される機会が少なかったポンポンを、今回見つめ直すことができる」と語るのは、アートディレクターのナカムラクニオだ。フランソワ・ポンポンの作品から、一体どんなメッセージを受け取ることができるのか。「ポンポンの作品は普遍的かつ全世界的」と語るナカムラクニオにその真意について訊いた。
ナカムラクニオ
――ナカムラさんは、さまざまな美術家たちの作風をモチーフにして「描いてわかる」「作ってみる」という講座を開いていらっしゃいますね。
そうなんです、美術を理解するための体験型のワークショップです。今回のフランソワ・ポンポンの彫刻作品はちょうど良いモチーフなので、題材にする予定です。
――ナカムラさんもご自身で、ポンポンの作風をモデルに彫刻を作ってみたそうですね。
実際にパッと見るだけでは気づかないけど、作ってみて分かることがたくさんあります。ポンポンの作品の面白さは、まずデフォルメの仕方。代表作「シロクマ」は手足が大きく、顔が小さいなど誇張表現がされている。あと「シロクマ」は、曲線を魅力的に見せるために、ところどころに直線表現が隠れています。たとえば鼻筋は非常に直線的ですよね。
――たしかによく見ると直線的な表現があります。
そう。実はポンポンの作品はアール・デコ的な直線があるんです。なぜ直線的表現がなされたかというと、美術史の進化が関係しています。直線表現は近代化の象徴とされ、100年前、キュビズム、未来派、アール・デコが流行ったときに「直線をどう取り込むか」がひとつのテーマになりました。そして直線を多様化することが近代化のシンボルになった。スピード感、躍動感、近代性を入れるときに直線を使ったんです。
――まさにそういったイメージを受けます。
直線表現が入っていれば入っているほど、近代彫刻から現代彫刻に移り変わっていくという。新しいものの象徴なんです。そこにはオシップ・ザッキン(1890年~1967年)、コンスタンティン・ブランクーシ(1876年~1957年)によって、より直線表現が進化していく系譜があります。ポンポンの場合は曲線の系譜ではあるのですが、しかし直線も織り交ぜている。そういった系譜には、のちにヘンリー・ムーア(1898年~1986年)などが登場します。
――ポンポンの作品の直線表現には「近代化/現代化」という時代的メッセージが滲んでいるわけですね。
1920年代くらいなのですが、近代への憧れが広がっていき、それにリンクするように美術でもアール・デコが流行しました。近代への礼賛や「新しいものはカッコ良い」という意識なわけです。イタリアは未来派が流行って直線だけのスピード感を出すものが現れてくる。アメリカはアール・デコで近代化の象徴として直線を多様化してデザインに取り込まれていきます。
――なるほど。
ヨーロッパや南米の彫刻のフォルムなど、世界中のさまざまな要素をミックスしているところがアール・デコにはあって、そこが普遍的かつ全世界的な印象になります。だからもしも南米の人がポンポンの彫刻を見たら、「自分たちの地域の彫刻をモデルにしているのではないか」と感じるかもしれません。同じくヨーロッパの人も「これはヨーロッパの伝統だ」と。アジアの人が見ても同じような現象が起きるんですよね。
ナカムラクニオ
――それは興味深い現象ですね!
ポンポンの作品には、世界の良いところが凝縮しているんです。もちろん古代美術もミックスされています。たとえば埴輪も、ポンポンの彫刻に似ていると思っています。ポンポンの作品は埴輪的な造形美に近い。そこまで意識していた気がするんです。「普遍的に美しいものはなにか」と考え、エジプトの彫刻をすごく研究したんじゃないかなと想像が膨らみます。インカ帝国の時代の動物彫刻の影響も感じ取れますから。そういう意味では、ポンポンの彫刻は見ながらいつまでも語れるんです。
――いろんな要素がこめられているわけですね。
あとポンポンの動物彫刻は、動きが誇張されている点も見どころ。実際のシロクマはこういう風に動いているわけではない。でも作品としては、「今から突進するぞ」と準備しているような動きになっていますよね。本当はもう少しおとなしい動きであるはずなんです。作ってみて「なるほど、強調しているんだな」と気づきました。つまり、リアルではなく誇張なんですよね。だからどこかマスコットキャラクターに近い感じがします。それによってかわいらしさも現れてきます。
――日本人に受け入れられそうな造形だと思いました。
日本は特に、デフォルメされてコミカルさを感じるキャラクターが好まれますよね。ちなみに日本では、北海道の熊の木彫りがよく知られていますが、すごくずんぐりしていて誇張表現がされていますよね。これはスイスの木彫りの熊をモデルにしているんです。有名なリサ・ラーソン(1931年~)のシロクマはよりアール・デコを強調して形をデフォルメしています。僕はいろんなシロクマ彫刻を集めているのですが、こうやって並べると系譜が分かりますよね。ポンポンはシロクマ彫刻の進化過程のちょうど中間地点に位置する。たとえるなら猿が人間っぽくなるような、その地点。ポンポンあたりから、現代のデフォルメ系彫刻が生まれてくる。そういう意味では非常に重要な美術家なんです。
――それって見過ごされやすいポジションですよね。
リアルな彫刻か現代彫刻が多く取り上げられるので、ポンポンのように中間地点にある作家は評価される機会が少ないですよね。師匠にあたるオーギュスト・ロダン(1840年~1917年)の系統だと、ポンポンの後にはブランクーシ、ヘンリー・ムーアなどもうすこし曲線だけの彫刻になっていくのですが、いきなりそのあたりが有名になっています。ただ、ポンポンを再評価することで見つめ直せるものは多い。ポンポンがいたから進化した系統があることが、改めて認識できますから。
――今回は「シロクマ」はもちろんのこと、いろんなポンポン作品を鑑賞することができます。
ほかの動物作品もどれもスタイルが確立していて面白いです。「フクロウ」などは造形が現代的だけど、どれもキャラクター的だからグッズに向いている。北欧に行く人はよくリサ・ラーソンのグッズを買ってきますよね。でもリサ・ラーソンっておそらくポンポンの影響や意識が強かったのではないかと考えています。ポンポンの作品は、リサ・ラーソンのように日常のなかの彫刻として受け入れられるんじゃないかなって。
――グッズ性があるという話は、先ほどナカムラさんがおっしゃっていた「かわいらしさ」にも繋がってきますね。
現代の彫刻で重要なのは「かわいいか、どうか」がすごく大切。ポンポンの彫刻はかわいい度で言えばダントツだと思います。そういう目線で語られることはなかったはず。でも、かわいいという観点から最近、美術を切り取る流れもあります。僕はそれはすごく良い傾向だと考えています。ポンポンの作品は、かわいいという意味では最高峰。「どこがかわいいか」という目線で新しい発見をしてほしいです。
ナカムラクニオ
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

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