デビュー15周年を迎えるチェリスト新
倉瞳が4つの新作を世界初演 藤倉大
、挾間美帆ら作曲家とその委嘱作品に
ついて聞く

チェリストの新倉瞳が、自ら委嘱した4つの新作を世界初演する、たいへん画期的なリサイタルを開催する。新倉が依頼した作曲家は、藤倉大、挾間美帆、佐藤芳明、和田薫の4人。世界初演を前に、彼女にそれらの作品についてきいた。
――新倉さんが委嘱した世界初演曲ばかりを集めたリサイタル『あなたとわたし 音の往復書簡』をひらくことになった経緯を教えていただけますか?
今年3月に、ファジル・サイさんが私のために書いてくださった新作(「11月の夜想曲」)を世界初演しましたが、それと同時進行のように今回の4人の作曲家のみなさんと少しずつご縁ができていました。来年、デビュー15周年を迎えますが、自分が存在するから生まれてきた作品をみなさんと共有したいと思い、企画したコンサートです。
新倉瞳
――4人の作曲家の方々との出会いについてお話ししていただけますか?
藤倉大さんに関しては、Hakuju Hallでの藤倉大さんの個展(2013年)に行ったとき、弦楽四重奏曲第2番「フレア」とホルンのための「ポヨポヨ」が特に印象的で、藤倉さんのチェロ作品もあれば弾いてみたいと思いました。そして、私が「エターナル・エスケープ」を演奏した動画を藤倉さんが気に入ってくださって、2018年の藤倉さんの個展で「エターナル・エスケープ」や「Osm」を弾くことになりました。次は私のためにも作品を書いていただければうれしいと藤倉さんにお願いしました。
挾間美帆さんは、私のサード・アルバム『ラルゴ』などで素晴らしい編曲をしていただいたのがご縁で、10年以上の知り合いです。彼女がニューヨーク、私がスイスと、お互い留学した国は違ったのですが、再会して、意気投合しました。狭間さんの「アメリカ組曲」が好きで、共通の友人であるマリンバ奏者の塚越慎子さんとのデュオで何か組曲を書いていただければとお願いをしました。
佐藤芳明さんとは、2年ほど前から、アコーディオンとチェロのデュオでご一緒させていただいています。佐藤さんは、クラシック、ジャズ、ブラジル系、ブルガリア系、タンゴなど、いろんなジャンルの音楽を演奏される方です。私はスイスでクレズマー(注:東欧のユダヤ系音楽)を演奏するようになっていたので、日本でのクレズマー音楽のコンサートで佐藤さんとご一緒したことがきっかけでバロックから新しい曲まで一緒に弾くようになり、佐藤さんの曲も大好きで今回、お願いしました。
新倉瞳
和田薫さんとは、2014年に日本センチュリー交響楽団の演奏会で彼の「チェロとオーケストラのための『祷歌』」を日本初演して以来、公私ともに仲良くさせていただいています。和田さんはこの数年私のコンサートを聴きにいらしてくださっているナンバー・ワンかもしれません(笑)。和田さんはアニメの世界でも活躍されていますが、彼の作品には、日本の良い意味での湿気が感じられ、香りが強くします。いつか私にも曲を作っていただければといつも思っていました。
そういうご縁がつながり、こちらの4つの作品が出揃い、今回のコンサートにたどり着いたという感じです。​
――それでは、それぞれの作品について教えてください。 プログラム順に、まずは、藤倉大さんの「Sparkler for cello」から。
「Sparkler」は「輝くダイヤモンド」のような意味ですが、ダイヤモンドでもいびつで粒子が浮き立つような感じ。藤倉さんは、私の内側の暗い部分やあまのじゃくな部分を音に引き出しそうと思ってくださったようです。チェロが、美しく朗々と歌うのではなく、パーカッション的に扱われます。バッチン、バッチン、バッタン、バッタン(笑)。普通に弓で弾くシーンはほとんどありません(笑)。特殊な弾き方がほとんど。藤倉さんの曲は譜読みがたいへんなのです。
インターネットの動画で何百回もやりとりして、藤倉さんが、二人三脚で作った曲とおっしゃってくださいました。今生きている作曲家に、自分の音を聴いてもらって、曲が出来上がっていく。演奏家としてこんなにうれしいことはありません。それが体験できました。
――次に、挾間美帆さんの組曲「Into the Eyes」ですね。
私が暮らしてきた都市、思い入れのある土地のことを、狭間さんにいろいろと話し、彼女はそれで組曲形式の音楽を作ってくれました。
新倉瞳
第1曲「サンフランシスコ」は、私が幼少期を過ごした街です。私が好きなロスコの絵のイメージも取り入れてくださいました。第2曲「デュッセルドルフ」は、ライン川や私が遊んでいた近所の森など、自然がモチーフになっています。第3曲は「チューリヒ」。チューリヒは、自分を見つめ直し、バロック音楽やクレズマーに出逢った街。狭間さんはオネゲルのテーマを用いて、バロック調やクレズマー調の音楽を登場させます。第4曲「東京」。海外だけではなく東京にも知らないことがあふれていて、出逢う事柄にたくさんの刺激を受けていることをお伝えし、挟間さんが音にして下さいました。
マリンバとチェロ、それぞれの楽器が活きるという感じ。塚越さんとは二人で弾くのが楽しく、今回の初音出しも一緒に冒険をしている感覚で初演に向けてワクワクしています。
――佐藤芳明さんは「2つの楽器の為の2つのカノン『寛容』『琢磨』」です。
佐藤さんとも共演も楽しく、いつも新しい発見をさせて頂いてます。佐藤さんの曲は即興を含むフリーな曲も多く、彼のポリリズムや民族っぽい音楽が大好きです。
『寛容』は、チェロとアコーディオンの音域が一緒でうまくマッチし、おおらかで豊かな曲。『琢磨』は、切磋琢磨の「琢磨」です。大きな7拍子のなかに小さな7拍子が入っていて、それがカノンとなります。音がファンキーで、民族的で、バロックでもある、佐藤さん節!が炸裂しています。
佐藤さんは、デュオとしてバロックから現代音楽まで密に演奏してきた、楽器の枠にとらわれない音楽パートナーの一人です。今回のコンサートで唯一、作曲者ご本人での演奏があります。楽譜とは作曲家と演奏家の手紙のやりとりのようなものということを私はいつも感じているのですが、『あなたとわたし 音の往復書簡』というタイトル、実は佐藤さんと音楽談義しているなかで生まれました。
新倉瞳
――最後は、和田薫さんの「巫(かんなぎ)- チェロと和太鼓のための ー」ですね。
「巫」とは、神に祈り、神に近い者です。演奏ではなんと巫女鈴も使います。
チェロと大太鼓のボリュームの違いをどうするのかが問題ですが、和田さんは、私のチェロをよくご存じですし、林英哲さんの和太鼓も熟知していらっしゃるので、うまくバランスを取ってくださっています。私には、チェロと和太鼓がマッチしたとき、チェロの美しさが際立つというイメージがあり、傍からは不可能な組み合わせの曲のように見えますが、私は絶対に良いと信じてお願いしました。まるで昔の日本映画を観ているような壮大な一曲を書いてくださり、初音出しではつい感極まってしまいそうでした!
――最後に、今回のコンサートについて、ひとこといただけますか?
今ここで生まれる曲は、これから何十年、何百年、残ってくれるものになればいいなと思います。
この4人の作曲家の方々のラインナップは、私だから並べさせていただけたように思います。ザワザワする感じのラインナップかもしれませんが、それが良いかなと思います。私を知っていていらしてくださる方や、今回の作曲家やプレーヤーのファンの方がいらして下って、今まで聴く機会がなかった各作曲家の皆さまの世界もいいね!と思ってくださるきっかけになれば嬉しいですね。
今回、それぞれの曲で違う編成(無伴奏、チェロとマリンバ、チェロとアコーディオン、チェロと和太鼓)で演奏するのも楽しみです。ライヴ録音もします。デビュー15周年記念アルバムとして来年秋に発売する予定です。

新倉瞳

取材・文=山田治生 撮影=荒川潤

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