松坂桃李が“殺人マシーン”の呼び名
にふさわしい演技を披露 舞台『マク
ガワン・トリロジー』ゲネプロレポー

アイルランド出身の劇作家シェーマス・スキャンロンの問題作を、小川絵梨子演出、松坂桃李の主演で送る『マクガワン・トリロジー』。愛知公演、兵庫公演を経て、13日にはいよいよ東京公演が開幕。そのゲネプロを観た(7月12日18時半、世田谷パブリックシアター)。
松坂が演じるのは、IRA(アイルランド共和軍)の“殺人マシーン”ヴィクター・マクガワン。IRAとは、北アイルランド紛争が1998年に終結するまで、長年イギリス相手にテロ闘争を行なってきた組織である。タイトルの“トリロジー”とは“三部作”の意味で、マクガワンが1984年、1985年、1986年のそれぞれの年に体験した出来事が一つずつ、三部構成で語られていくという趣向。1984年、ベルファストのバー。マクガワンは、敵に情報を漏らした疑いがある男を尋問する。その尋問は次第に司令官やバーのバーテンダーをも巻き込んでいき……。1985年、メイヨー州の湖畔。マクガワンは、手にかけるべく運んできた幼馴染の女性を車のトランクから出す。1986年、ゴールウェイ州の老人施設。マクガワンは、痴呆の母親の病室へと忍び込む――。
舞台『マクガワン・トリロジー』 撮影:岡千里

舞台『マクガワン・トリロジー』 撮影:岡千里

マクガワンを演じる松坂は、ほぼ出ずっぱりで膨大な量のセリフを語る。1984年の彼は、ハイテンションである。ときに歌い、音楽に乗って踊り狂う。そして実によくしゃべる。イカれている。イギリス製のお菓子にすら激しい敵愾心を燃やす。そして、己の振るう暴力に何のためらいもない。慈悲を乞う者をも、殺す。些細な理由で、殺す。こともなげに。自ら言う“殺人マシーン”の呼び名がふさわしい。1985年の彼には、いささかの心境の変化がみられる。引き金を引くその手に、ためらいが感じられる。1986年の彼は、――傷を負いながら、そもそも、なぜ、母親の病室へと逃げてきたのだろうか――。エピソードとエピソードの間、彼がどんな生活を送っていたかはほとんど明らかにされないが、最終的に見せるに至る絶望と疲労の色が、行間を埋めて物語る。
舞台『マクガワン・トリロジー』 撮影:岡千里
舞台『マクガワン・トリロジー』 撮影:岡千里
20年前に終結した紛争だから、若い世代にとっては歴史上の出来事なのだろうが、筆者が少女のころは、北アイルランド紛争は現実の出来事であり、例えばロンドンでもテロが多発していた。紛争の終結により、IRAによるテロ行為こそなくなったものの、今度はイスラム過激派によるテロ行為が世界中で行なわれるようになっていった。最近上演された、さいたまネクスト・シアターØ『ジハード―Djihad―』(彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO)では、深い信仰心ゆえではなく、何とはなしに“ジハード(聖戦)”に参加するためシリアに渡る、ベルギー在住の移民2世の若者たちの姿が描かれていた。若さゆえ、己の生のエネルギーを持て余しがちであり、そのエネルギーが暴力性へとつながることも多いだろう青年にとって、闘争、戦争が身近にあることの痛切な意味を、時代も場所も違えど、この二つの舞台作品を通じて感じずにはいられない。そして、時代と場所を超えて、今、日本に生きる我々もまた、人間存在が内包する暴力性にどう向き合うべきなのか、考えずにはいられない。“問題作”たるゆえんである。
舞台『マクガワン・トリロジー』 撮影:岡千里
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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