クリープハイプ『ストリップ歌小屋 
2017』大阪編

クリープハイプ主催の『ストリップ歌小屋 2017』大阪編のゲストはKANA-BOON。クリープハイプとKANA-BOONは、尾崎世界観(Vo.&Gt.)とKANA-BOONの谷口鮪(Vo.&Gt.)がラジオで共演したり、今年1月にはクリープハイプの『陽』という曲でコラボしたりするなど、ここ数年で急速に距離の縮まってきた先輩後輩という間柄。KANA-BOONの地元・大阪で、彼らはどんな対バンを見せてくれたのか。
本記事では、東京公演に続いて当日の様子を詳しくレポートし、東京公演と大阪公演の違いについても触れていく。

Text_Sotaro Yamada
Edit_司馬ゆいか

クリープハイプの後輩・KANA-BOON

この日のファーストアクトはKANA-BOONから。まずは谷口鮪を先頭に、古賀隼斗(Gt.&Cho.)、小泉貴裕(Dr.)、飯田祐馬(Ba.&Cho.)が手を振りながら登場。
「大阪元気ですかー!? KANA-BOONですよろしく!!」
と鮪が威勢良く挨拶すると、満員の会場はいきなりの大声援に。ここがKANA-BOONの地元だからなのか、それとも大阪という場所の地域性なのか、オーディエンスからは跳ねるように元気な反応が返ってくる。男女比は半々くらいで、東京会場よりもやや男性の比率が高いだろうか。しかし聞こえてくる声援は圧倒的に女性の声が多い。
古賀隼斗(Gt.&Cho.)

1曲目の『1.2. step to you』が始まると、一斉にオーディエンスの手があがり、縦ノリの波が起きる。会場前方ではすでにモッシュが始まっており、左右にウェーブが発生した。このはっきりしたオーディエンスの反応は、全然「曖昧」じゃなかった(『1.2. step to you』の歌詞より)。
飯田祐馬(Ba.&Cho.)

『Fighter』でさらに盛り上げると、「まずは尾崎さんに謝りたいことがある」と鮪が尾崎と二人で飲みに行った時のことを語る。鮪は尾崎を「お兄ちゃんみたいな存在」というが、そのお兄ちゃんが一生懸命、まじめに話をしてくれているのに、後ろのカップルが超濃厚なディープキスをしていたため、そちらに気を取られてしまい尾崎の話がまったく頭に入って来なかったという。「すいません、後ろのカップルがめっちゃキスしてて……」という鮪、それに対して「早く言ってよー!」と返した尾崎。
こう文章にしてみると、もはやどっちがイチャついてるのかわからないが、二人のロックスターがディープキスに夢中になっているところを想像すると、なんだかものすごく無邪気で可愛らしい気がする。
谷口鮪(Vo.&Gt.)

「みなさんも、尾崎さんの後ろでディープキスしてるカップルがいたらすぐ教えてあげてください」

そうまとめて笑いを取ると、笑いの余韻もほどほどに『結晶星』から『MUSiC』へ。短いMCで的確に笑いどころをおさえ、しっかり演奏で盛り上げる様はさすがKANA-BOON。続いて「好きな食べ物何? チャーハン好きですか?」と、『ないものねだり』を演奏(KANA-BOONの代表曲『ないものねだり』のMVは調理場でチャーハンを作っているシーンから始まるため)。
会場の隅から隅まで手があがりこの日最初のピークを迎えるわけだが、大阪のオーディエンスを見ていて思うのは、彼ら彼女らは、ライブとは演者と客の両者がいることによって初めて成立するものだとよくわかっているなあ、ということ。曲の始まりと終わりには必ず大きな歓声があがり、曲間はメンバーの名を呼ぶ声で埋め尽くされる。『ないものねだり』のサビ部分のコール&レスポンスはあまりにも息が合っていて、鮪に「すごいです!いきなり100点じゃないですか!」と言わせるほどだった。
小泉貴裕(Dr.)

続くMCでは、鮪がKANA-BOONとクリープハイプの出会いを語る。
「クリープハイプとは2011年3月に、三国ヶ丘FUZZ(大阪にある、KANA-BOONのホーム的なライブハウスで、著名なアーティストが多数出演している)で初めて共演させてもらって。その時は全然話せなかったんだけど、自分たちもいつかもっと大きくなったら、共演とまではいかなくても覚えてもらいたいなと思っていた。その後、ラジオなどで曲をかけてもらったりして、勝手に恩義を感じていたので、こうして対バンすることができてすごく嬉しい。ありがとうございます」

(ちなみにこの三国ヶ丘FUZZでのライブに、当時は客として飯田が見に来ていたらしい。かなりグッと来るエピソードだが、こういうエピソードを話す間も惜しんで先輩のために時間を確保するあたりも、後輩としてものすごく出来が良い)

その後、7月にリリースした『バトンロード』を披露すると、あっという間に最後の曲へ。

鮪「早いもんであと1曲です」
オーディエンス「ええー!」
鮪「とか言ってクリープを心待ちにしてるんでしょ?」
オーディエンス「(笑)」
鮪「今日はすげー良いステージやらせてもらいました。ありがとうございます!」

という微笑ましいやり取りを経て、最後は『シルエット』で締めた。
あくまでも後輩らしく先輩を立て、MCも簡潔にまとめつつ、しっかりと場を盛り上げたKANA-BOON。この日初めてKANA-BOONのライブを見たクリープハイプのファンにも、彼らは好印象を与えただろう。
クリープハイプ、先輩としての余裕と風格を見せつける

転換の最中も、オーディエンスの興奮はまったく冷めない。会場前方にはほとんど隙間なく人が押し寄せ、まだクリープハイプが出てきてもいないのに、すでに曲が始まっているかのような雰囲気に。後ろから見ていると、それがスモークのせいなのか熱気のせいなのか見分けがつかないほど、前方の空気は白く靄がかかり、手をうちわのように振って風を浴びようとするオーディエンスが目立った。

照明が落ち、ステージ中央の赤い絨毯と「ストリップ歌小屋」という垂れ幕をライトが照らすと、小川幸慈(Gt.)、長谷川カオナシ(Ba.)、小泉拓(Dr.)が登場。大声援の中、遅れて尾崎世界観(Vo.& Gt.)がゆっくりと、堂々と歩いてくる。そして東京公演に続きこの日もまずは尾崎のMCからスタート。

「KANA-BOONは大阪が地元だから羨ましいなと思ってたんですけど、クリープハイプを好きな人がこんなにいるんだから、もう地元ですよね?」
尾崎世界観(Vo.& Gt.)

たった一言で、大阪のファンは心を撃ち抜かれることになった。
この日の尾崎は、後輩のKANA-BOONに良いライブをされたせいか何らかのスイッチが入っていたようで、いつもに増して切れ味が鋭かったように思う。
「KANA-BOONのライブを見ていて、まだまだ若いなと、青いなと思いました」と、まずは『ないものねだり』のサビを軽く独唱。会場からどよめきが起こると、「こっちは何の揺らぎもなく『あいあいあいあい愛して』ますよ!」と『HE IS MINE』の歌詞を見事に引用。
そして「なあ、カオナシ?」と、東京公演と同じようにカオナシに問いかけると、
「行くぞ。ついてこい」
と男前な返事が。
中性的なイメージの強いカオナシだが、このツアーではめちゃくちゃ男前である。
長谷川カオナシ(Ba.)

そのまま『HE IS MINE』が始まり、大盛り上がりの中「SEXしよう!」の大合唱へ。
なんばHatchという会場は日本の“ライブハウス”で唯一「音響家が選ぶ優良ホール100選」に選ばれており、最高の音響で楽しむことができるライブハウスなわけだが、この素晴らしく声の反響する優良ホールが、大勢の女の子たちが「SEXしよう!」と叫ぶためだけの時間に使われたのは、なんばHatch十数年の歴史の中でも、クリープハイプのライブの『HE IS MINE』のあの箇所だけではないのか。贅沢な使い方だなあ。

その後、東京公演と同じように『愛の標識』、『寝癖』の順に演奏が続く。オーディエンスの盛り上がりは凄まじく、前方では、少しでも近くでクリープハイプを見ようと押し合いへし合いの状態が続く。尾崎によると、「ステージからフロアまでが真っ直ぐで新鮮だった」とのこと(尾崎が連載している水道橋博士のメルマ旬報:尾崎世界観『苦汁100%』6/14版には、この日のことが詳しく書かれているので、興味がある人はぜひともチェックしましょう)。
小泉拓(Dr.)

曲が終わり、MCに入ろうとすると、「尾崎さん大好きー!」という声が次々と飛ぶ。大阪のオーディエンスは気持ちが良いくらい真っ直ぐに反応する。

尾崎「……とか言いながらさ、どうせ後で『セトリ、今日も変わらず』とか『もうワンマンだけ行けばいいかな』とか言うんだろ?」
オーディエンス「言わなーい!尾崎さん大好きー!」
尾崎「だったらいつもと違う曲をやるから、その代わり、またやりたいなと思わせてくださいよ?」

そうして『ABCDC』のイントロが流れると、東京公演と同じく悲鳴のような声援が湧き上がった。やはりこの曲はファンにとって特別なようだ。『週刊誌』では、サビの部分で尾崎の高音が特に冴え渡っており、また、いつにも増して楽しそうにギターを弾く小川も印象的だった。
小川幸慈(Gt.)

さらに「忘れてしまうことが悪いことだとは思いません。忘れてしまうからまたライブができるのかもしれないし。今日のことも、もしかしたら忘れてしまうかもしれないけど、5%くらいは覚えて帰ってください」と語り、『5%』を演奏。さっきまでの激しい演奏からはギャップのあるしっとりした雰囲気の中、尾崎の吐息まじりに色気を帯びた歌声が、ライブ中盤の素晴らしいアクセントになった。

ちなみに、「忘れてしまうこと」は、KANA-BOONがデビュー当時から繰り返し歌い続けている大きなテーマのひとつでもあり(『1.2. step to you』や『シルエット』など)、こうしてさりげなくクリープハイプなりのアンサーをMCとセットリストに仕込んでいるところが非常に上手い。

その後、『百八円の恋』、『社会の窓と同じ構成』、『社会の窓』、『イト』と、東京公演と同じ順で人気曲を演奏。『社会の窓』で小川のギターがディストーションを効かせまくっていたのが印象的で、翌日に名古屋で行われる銀杏BOYZとの対バンに向けての布石のように感じられた。
百八円の恋 MV
イト MV

尾崎が「最後の曲になりました」とライブを締めようとすると、「ええー!」「なんでー!」「はやーい!」という声が飛ぶ。「今日はいろんなことを感じて、いろんな気持ちになりました。どうでしたか?」という問いかけに、「最高ー!」と誰かが叫び、それに乗っかるように多くのオーディエンスが「最高ー!」と続き、大きな拍手が起こる。

「次の曲は、大阪で作った曲です。まだデビューする前、ガソリン代を気にして大阪に来ていた頃、朝方、珍しく最初から最後まで一気にできた曲なんです。関西に対する憧れとか悔しさが込められているのかもしれません。関西弁の曲なんですよ」

そうして『イノチミジカシコイセヨオトメ』を演奏。会場はざわつき、「え?え?」というようなリアクションが目立ったが、すぐに大盛り上がりとなり、最高の締めとなった。

しかし、この日最大のトピックはアンコールに訪れる。

尾崎世界観、谷口鮪とカラオケをする

まずは尾崎が大股で登場。会場からは「おかえりー!」という声があがる。

「共演者同士のアンコールセッションってよくあるじゃないですか。ああいうのクソだなと思っていて(笑)。でもせっかくだから1曲、一緒にやろうかな。アンコールセッションを小馬鹿にして、カラオケでいきたいと思います。それでは、鮪ちゃん、よろしくお願いします(笑)」
と鮪を呼び込むと、
「ハイどーもー!」と鮪が現れ、尾崎世界観と谷口鮪によるプチ漫談が始まる。

和やかな雰囲気で漫談が進むと、『陽』の伴奏が流れ出し、「仕事帰りにスナックで歌うおじさんの気分」で肩を組みながら、二人は『陽』を歌った。ロックバンドがライブのアンコールで自分たちの曲をカラオケで歌うという、奇妙に捻れた、しかし貴重な一幕であった。かなり楽しそうに歌う尾崎が印象的だった。
鮪がステージを去ると、再びクリープハイプのメンバーも現れ、最後に『大丈夫』を演奏。さっきのカラオケでの良い雰囲気のまま、オーディエンスは幸福に体を揺らし、ハッピーな雰囲気で大阪公演は幕をおろした。メンバーがステージから完全に退出するまで、長い長い拍手が続いた。
エモい東京、ハッピーな大阪

大阪公演では、東京公演と比べると、やはりオーディエンスのまっすぐな反応が目立っていたように思う。

尾崎の言葉を引用すれば、「ステージからフロアまでが腸のような形になっている(水道橋博士のメルマ旬報:尾崎世界観『苦汁100%』6/14より)」のが普段のクリープハイプのライブ。腸のように複雑なうねりは、そのまま尾崎の人間性やクリープハイプの音楽性を反映したものかもしれない。同じように複雑にうねった心を抱える多くの人間は、尾崎やクリープハイプのそうしたうねりに心を揺さぶられ、肯定され、勇気付けられ、魂が浄化される感覚を味わう。東京公演では、そのうねりが極まり、泣き出すオーディエンスが続出するなど、非常にエモーショナルな展開があった。

一方、大阪公演では、クリープハイプの音楽や尾崎のMCをもっとストレートに楽しむ様子が印象的で、「多幸感」という言葉さえ連想させられた。終演後のオーディエンスの顔はキラキラと輝いていたし、彼ら・彼女らの輝く顔からは、「音楽って楽しいよね!」という雰囲気が感じられた。

その原因はいくつか考えられると思う。単に大阪という地域性によるのかもしれないし、『ただ』に代表されるような、作品集『もうすぐ着くから待っててね』から『イト』へと続くストレートなメッセージ性への変化。あるいは、そもそもKANA-BOONというバンドの客層にそうした特徴があったのかもしれないし、彼らとクリープハイプの関係性がそうさせたのかもしれない。
いずれにしろ、バチバチと火花が散っていたUNISON SQUARE GARDENとの週刊少年ジャンプ的な友情タイマン対バンライブとは違った雰囲気で、クリープハイプの新たな一面が開花しそうな、そんな予兆に満ちたライブだった。
東京公演と大阪公演の違いを一言で表すなら、「エモい東京、ハッピーな大阪」という感じだろうか……。

ちなみに、ライブの後はFM802にて尾崎世界観と谷口鮪がともにラジオ出演していて、こちらも終始ハッピーな楽しいラジオだった。ライブで楽しみ、帰ってラジオを聴く。大阪公演に来られたファンにとって、この日はとても幸せな一夜だっただろう。

もちろん筆者にとっても最高に幸せな夜でした!


セットリスト(KANA-BOON)

1. 1.2. step to you
2. 机上、綴る、思想
3. Fighter
4. 結晶星
5. MUSiC
6. ないものねだり
7. フルドライブ
8. バトンロード
9. シルエット

セットリスト(クリープハイプ)

1. HE IS MINE
2. 愛の標識
3. 寝癖
4. ABCDC 
5. 蜂蜜と風呂場
6. 週刊誌
7. グレーマンのせいにする
8. 5%
9. 鬼
10. 百八円の恋
11. 社会の窓と同じ構成
12. 社会の窓
13. イト
14. イノチミジカシコイセヨオトメ

En1. 陽(尾崎世界観と谷口鮪によるカラオケ)
En2. 大丈夫

クリープハイプ『ストリップ歌小屋 2017』大阪編はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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