十人十色のプロデュース、スキマスイ
ッチ KANが放つパズル手法
大橋卓弥と常田真太郎による2人組ユニットのスキマスイッチが2月15日に、リアレンジアルバム『re:Action』をリリースする。昨年11月リリースの「全力少年 produced by 奥田民生」の流れをくむ外部プロデュースのもとで制作したフルアルバム。小田和正やKANなど錚々たる面々が名を連ねている。インタビュー前編では、小田和正やオランダの人気アーティスト・BENNY SINGSとの制作秘話を中心に語った内容を紹介した。後編では、シンガーソングライターのKANによる、過去楽曲を使用した「回奏パズル」の制作裏話や、『re:Action』というタイトルに込められた想いなどの話を聞いた。
全部スキマスイッチのメロディラインが入っている
――KANさんの「回奏パズル」はどの様な形でオファーしたのでしょうか? 色々な曲を繋ぎ合わせている感じですが。
大橋卓弥 これは元々KANさんがご自身のコンサートで、いつも1曲目から演奏をして後半になってくるとアンコールで「今日のダイジェスト」と言って、1曲目からメドレーで全部やるんですよ。テンポも変えてショートバージョンにして。僕らもKANさんのコンサートではそれが楽しみなんです。それを知っていたので駄目元で「僕らの今までの作品を全て使って新しい曲を作ってくれないですか?」とお願いしたんです。
――全曲お渡しして?
大橋卓弥 そうです。どの曲を使ってもいいし、ワンフレーズを切り取って組み合わせて新曲を作ってくれないですかというオーダーをしたんです。
――こんなに綺麗に繋がるものなんですね。感銘しました。
常田真太郎 絶対誰にも出来ないです。KANさんだからですよ。
――予想を遥か上回るミックスですよね。
大橋卓弥 しかも、メロディに乗っている歌詞も変わっていないですからね。歌詞の意味も通っている様に仕上がっていますし。流石という感じのクオリティですね。
――歌録りは大変だったのではないかと。
大橋卓弥 相当大変でしたね。その曲の一部を歌うと、その続きをそのまま口ずさんでしまうんです。KANさんから「デモを今送りました」と連絡があった時に、「いつも歌っている曲たちが出て来るんだけど、その曲を歌っている瞬間違う曲に変わるから、凄く大変だと思うので早くデモを送った方が良いと思ったから送りました」と言ってたんですけど、それが歌録りの3日前だったんです(笑)。そこから必死に覚えましたね。新曲を1曲覚えるという感覚でした。
――曲が混ざっているとフレーズ毎に引っ張られますよね。
大橋卓弥 そうなんです。恐らくKANさんがして欲しい事って、「オリジナルをいかに残せるか」という所がこの楽曲の面白さだというのが伝わったので、なるべくそのオリジナルのその部分っぽく歌うニュアンスを残せたらいいなと思ったんです。そこが難しかったですね。
常田真太郎 録りながら原曲を聴いたりしてたよね。
大橋卓弥 確認しながら録りました。
――凄い繋げ方ですよね。こういう事をやっているのはKANさんだけですかね?
大橋卓弥 奥田民生さんもやってたかな。
常田真太郎 ただ、自身の曲でやるのと他人の曲でやるのとでは訳が違いますよね。
――そうですよね。やはり全曲聴いて頂いたのでしょうね。
常田真太郎 「2016年は俺が一番スキマスイッチを聴いた」って言ってましたね。世界で一番聴いているはずだと(笑)
――それくらいしないとイメージを湧かせるのが大変ですよね。
大橋卓弥 しかも、もちろん自分達から音源を全曲渡すんですけどKANさんは「いや、こういうのは自分で買う」と言って、全CDを購入して聴く所から始めたそうなんです。
――モチベーションが違いますね。
常田真太郎 ちなみに、イントロも間奏も、全部スキマスイッチのメロディラインが入っているんですよ。そこも是非聴き取ってもらえたらなと思います。
――「ここは何の曲」と当てていくのも面白そうですね。
常田真太郎 KANさんは「クイズにしたい」って言ってました。
――今後の新たな手法になるかもしれないですね。
常田真太郎 今回の件がきっかけで他の方がKANさんにオファーしたら申し訳ないですよね(笑)。「そういう事じゃないんだよ」って。
――そういう職人みたいに見られたりして(笑)。
常田真太郎 そうなったら申し訳ないですね。
“re”というのは使いたかった
――「奏(かなで)」はご自身プロデュースで、以前に出したバージョンを含めると3パターン目という感じでしょうか?
常田真太郎 多分ライブバージョンを入れると、もっと数えきれないくらいでしょうね。だから逆にここで一発バシッとまとめてみようかなという気持ちもありましたね。
――試してきた事をここで集約しようと。
常田真太郎 「奏(かなで)」だったらこの楽器が合うのかなという事も含めて、やってみたいという気持ちがあったんです。あと、当時はドラムとストリングスが打ち込みだったので、そこも生演奏でという事もありますね。
――凄く趣が変わったという印象を受けましたがこれは狙い通りですか?
常田真太郎 そうですね。作ってみてこういう解釈で新しく「奏(かなで)」を提示していくのも良いのかなという事を得るくらいのものになったと思います。映画『一週間フレンズ。』バージョンもありますし、そこを分ける事が出来たのが面白い所なんです。映画は映画の為に作りましたし、その時は昔のCDのボーカルトラックを抜き取って作っているんです。演奏だけは今の感じでやって。
――リミックス的な感じの?
常田真太郎 そうです。ただ、今の演奏ですし途中までは当時のオケのままの演奏しているんです。だから一聴した感じだと分からない様になっていて、途中から変わっていくという面白さもあるんです。
――何万回もという回数を歌ってきている曲を改めて歌い直して、やはり変わってきますか?
大橋卓弥 変わります。けど、他の曲に比べたらそこまで難しい感じでもなかったですね。2人でやる分には、他のアーティストさんがアレンジするもの程、違うベクトルにいかないのでそんなに迷うという事は無かったですね。
――『re:Action』というタイトルは後から付けたのでしょうか?
常田真太郎 はい。去年の秋くらいですね。
――他にも候補はありました?
大橋卓弥 “re”というのは使いたいという事を言っていて。リアレンジなので“re”を残したい、しかもその“re”が返信の[Re: ]みたいに見えたら面白いよねという事で、小文字と、「A」だけ大文字にしたんですけど、『リアレンジ(re: Arrange)』『リスペクト(re: Spect)』とか考えました。
常田真太郎 “re”を外しても意味が通るというのを探してはいたんです。例えば「re: Arrange」や「re: Produce」だと、“re”を切り離した時の方が意味が大きくなり過ぎちゃうんですよね。リアレンジというのは一般には浸透していない言葉だと思うので、だったら切っても切らなくても同じワンワードとして使える、でも「切った時に意味が変わると余計良いよね」という事で、『re:Action』に落ち着きました。
――そういう意図があったのですね。
常田真太郎 僕らには珍しく音だけじゃないという(笑)。今回はけっこう意味を考えました。
切り離しても“カラー”は凄く出るもの
――『re:Action』を引っ提げたツアーも4月から始まります。
大橋卓弥 ツアーは色んな事を考えているんですけど、せっかくこんなにも大勢のアーティストさんと一緒に活動させてもらったので、皆で一緒に旅をして回れたりしたらいいなとは思います。でも全国を皆で回るのはなかなか難しいので、それをどこまで出来るのかという事を今探っている感じです。
――アルバムはどのように聴いてもらうのが良いでしょうか?
大橋卓弥 僕らの音楽を知っている方々は「この曲はこういう風に変わったんだ」という感じで楽しんでもらうのも良いと思うんです。その為に初回盤にはオリジナルバージョンのボーナスCDを付けて、聴き比べ出来る様にしたんです。でも、全然知らない人も新曲を聴く様に楽しむ事も出来ると思います。そしてプロデュースしてもらったアーティストさんのファンの方々にどう届くか、という事も楽しみな一枚になりました。
常田真太郎 僕らの詞、曲が元々あるものを、皆さんのアレンジによって雰囲気が変わっているという部分においては、お願いした皆さんのファンの方々の好きな要因って「作詞・作曲・編曲」だと思うんですけど、その部分を切り離しても“カラー”は凄く出るものなんだなと今回分かったんです。そこの部分の楽しみって新鮮なのかなと思うんです。
そこでスキマスイッチの作詞作曲の部分で、例えばバンドで演奏したらこうなるんだという事を感じてもらったら、音楽の幅って広がると思うんです。僕らの音の雰囲気というのは原曲を聴けば分かると思うので「今度はこういう人とやったら面白いな」という事を探しても良いですよね。そういった化学反応みたいなものを今作によって認識してもらったら、音楽としてとても面白いなと思います。クレジットを見ても今回は面白いです。「この人がこんな楽器をやっているんだ」みたいな感じで。僕なんかは「見学」してますから(笑)。
大橋卓弥 「見学」ってクレジット作ったの?
常田真太郎 作ったの(笑)。あとはリズムマシンも叩いたりして。「ノイズ」というのもありますし。
――クレジットにはWatchと書かれていますね。小技やSE的な部分もあるんですね。
常田真太郎 「どういう事ですか?」という面もあったりして、そういう部分も自分としては新しい挑戦だったりするんです。コラボした人が並んでいる、という所を見てもらっても面白いと思うんです。それと同時にスキマスイッチの次の活動、ライブなり新曲なりに想いを馳せて頂いて、「これを作ったから次はこういう曲が出来るんだな」とか、もっと言うと「その曲を聴いた時にリアクションを作ったからなんだな」という風に感じてもらえる様な活動をしていくと思うので、2017年は期待して頂けたらと思います。
(取材=村上順一/撮影=冨田味我)
作品情報
タイトル「re:Action」 初回生産限定盤[2DISCS:Blu-spec CD2]:AUCL-30040~1 3611円+税 全24曲 通常盤[CD]:AUCL-218 3000円+税 全13曲 初回特典(初回生産限定盤) 収録曲(初回生産限定盤/通常盤共通) DISC1 BONUS CD(初回生産限定盤のみ) DISC2 |
ライブ情報
「スキマスイッチTOUR 2017“re:Action”」 チケット代:全席指定7000円(税込)、ライブハウス6500円(整理番号付き・ドリンク代別・税込) BAND MEMBER:Dr・村石雅行、G・石成正人、B・種子田 健、Key・浦 清英、Per・松本智也 ※ホール公演:未就学児童の入場可能、小学生以上の方はチケットが必要。 ※ライブハウス公演(★マークの箇所):未就学児童の入場不可、小学生以上の方はチケットが必要。 4/30(日)名古屋国際会議場センチュリーホール TRICERATOPS 17:15/18:00 JAILHOUSE:052-936-6041 |
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