【吉田山田】「街」には「日々」と通
ずるものがある
L→R 吉田結威(Gu&Vo)、山田義孝(Vo)
デビュー7周年を経た、新章の幕開けとも言えるシングル「街」。ロックチューンを表題曲に掲げた本作について、ふたりは“今の吉田山田が凝縮されている”と語ってくれた。
取材:石田博嗣
ニューシングルは約1年2カ月振りの音源となるのですが、初の47都道府県ツアー(『吉田山田47都道府県ツアー~二人また旅2016~』)やデビュー7周年7カ月7会場マンスリー企画『Over The Rainbowツアー』があって、むしろ“いつ曲作りしてたの?”という感じなのですが。
吉田
ツアー中はリハーサルが終わると、本番までの間に楽屋でパソコンを使って鼻歌を録ったり…それこそ山田は鼻歌で作るので、日常的に思い付いたものをメモ的に録ってたりするんですよ。それにツアー中の空き日って観光するほどの時間はないので、それぞれの時間というのが結構あって…都内にいると友達の誘いとかもあるので、むしろ音楽に集中できた日々でしたね。
ツアー中ということでライヴのモードのままだろうし、いいテンション感で曲も作れたのでは?
吉田
そうですね。ライヴをずっとやっているからこそできる曲というのがあって…でも、家でゆっくりしているからできる曲もあるから、どっちが良いとかはないですけど、“ライヴにこういう曲が欲しいな”っていう想いから作り始めることはありますね。
「街」は『Over The Rainbowツアー』の最終公演(3月25日@ディファ有明)で初披露されたわけですが、この曲はいつ頃に作ったのですか?
吉田
デモ段階のものは47都道府県ツアーの前にはありました。ずっと温めていたんですけど、僕らだけでなく、スタッフ間でも、いくつか曲の種があった中からこの曲をシングルにしようと思えたのは、やっぱり47都道府県ツアーの経験があったからでしょうね。実は今年の頭に制作のディレクターが6年ぐらい一緒にやっていた方から新しい方に変わったんですね。その方が第三者的な目で“こういう吉田山田を見たいんだよね”って言ってくれて、それで僕らもシフトチェンジができたし、チームとしても向かうべき方向が定まって、そこで一丸となって制作した第一弾になるんですよ。種は結構前にあったものなのですが、アレンジや歌詞の直しは今だからこそできるものになっていますね。
そうだったのですね。ライヴ映えするロックチューンなので、ツアーの中で生まれたものなのかなと思っていました。
吉田
例えば「てんてんてんて」とか、今までもアルバムの中の1曲としてロックな曲はあったので、僕らの中ではそんなに真新しい感じではないんですよ。昔からこういう曲も好きだし。要はそれをシングルにしたっていうことですよね。
「街」は山田くんが原曲を作っているわけですが、もともとはどんなものを作ろうと?
山田
“シングルっぽい曲を作ろう”とかはなく、あまり考えすぎずにスタートするんです。日常の中で“あっ、今こんな想いだな”っていうのが鼻歌になって出てくるというか。この曲の種は3年ぐらい前になるのかな。小さい頃からよく見る悪夢があるんですけど、それを音楽というかたちにしたという感じです。
では、吉田くんが最初に原曲を聴いた時の印象は?
吉田
最初は“悪夢”という前情報もなく、単純にいい曲だなと思ったのと同時に、朝の満員電車の中で通勤している新卒のサラリーマンの青年の姿が思い浮かんだんですよ。《逃げる人戦う人 迷う人突き進む人》というフレーズにあるようないろんな人とすれ違いながら、眠い中を通勤しているっていう。その青年が上司に怒られながら悪戦苦闘してるんだけど、帰りに上司に飲みに連れて行かれて、いい話をしてもらって、心がほっこりする…みたいな。いろいろあっても最後はこの街で一生懸命に生きていくって決意する青年の姿が思い浮かんで、当然のように山田に“そういう歌なんでしょ?”って訊いたら、悪夢で見た実風景だって(笑)。でも、シングルとして出すにあたって、僕が受けたイメージを膨らませて、ふたりで歌詞を考えようってことになって、希望がある歌にしたいと思ったんですね。ただ、単純に“頑張ろうぜ!”というのは違うなって。光を見せるために闇を描く…それって昔の僕らにはできなかったことなんです。光を描くなら光を描こうって思ってたので。デビューして7年が経って、そういう歌詞が描けるようになってきたので、一見ネガティブな歌なんだけど、ちゃんと光を描いたシリアスなものにしたかったんですよね。
サウンド的にはアッパーなロックチューンですが、それは原曲の時から?
山田
そうです。そこはほぼ変わってないですね。デモを作ってる時と同じアレンジャーさんがやってくれてるんですけど、彼との出会いもすごく大きくて。その人との出会いでサウンド面でもかなり攻めたり、これまでと違うことができた…そういう意味では、彼も第三者的な目線で“こういう吉田山田はどう?”って言ってくれるひとりですね。
吉田
僕、初めてアコギを入れてないんですよ。エレキのみで構成されていて…今まではその間にアコギを入れて、“アコースティックデュオ”という体裁を守っていたんですけど、“今回、アコギはいらないね”って。それは僕もアレンジャーさんも相違がなくで、そのほうがちゃんと歌が立つって思ったんです。
振り切ってますよね。それが表題曲というのは新鮮であり、意外でもありました。
山田
でも、僕の中には「日々」と通ずるものがちゃんとあるんですよ。「日々」を聴いたあとに胸がグッとなる、あの感じをこの曲にも入れられたと思っていて。いろんな人が“「日々」とは全然違う切り口ですね”って言ってくれて、確かに切り口は違うんだけど…言葉にすると陳腐なんですけど、儚なくて、壊れやすくて、いつかなくなってしまう、そういうものが感じられるというか。
愛しい街が怪獣に壊されるわけですしね。
山田
そうなんです。「日々」もそうですけど、なくした時の気持ちを想像すると胸が痛くなる…それが本当に起こったら大変だけど、歌で味わえたら、今あるものをもっと大事できるんじゃないかなって。
2曲目の「RAIN」は吉田山田らしいハートフルでメロディックな曲ですね。これも山田くんの作曲で。
山田
最初は恋愛の歌だったんですけど、昨年の47都道府県ツアーが終わったあとに歌詞を書き直したんです。
歌詞を書き直すまでに至った、その想いというのは?
山田
初めて47都道府県を回る前、いろんな人がいろんな言葉をかけてくれたんですけど、いつも一緒にやっているバンドのギタリストから“ふたりだけで旅をすると、きっと喧嘩もするし、顔を見たくなくなる時があるだろうけど、相手の良いところを見つけながら旅をしてきてね”って言われたんですよ。その時は聞いてるようで聞いてなかったんですけど(笑)。でも、旅を回っている中で、“なるほど”って。それって家族にも友達にも恋人にも当てはまるから、その想いをかたちにしようって。
吉田
47都道府県ツアーという一生のうちに何回できるか分からない経験をした上で、そこで得たものを何かかたちに残しておきたいという想いがあって…自分たちのことを歌うのってなかなか恥ずかしいことなんですけど、“今、大事にしないといけないもの”や“いろんなものが削がれて残ったもの”をちゃんとかたちにしようと思って、もともとあったさわやかなサウンドにその想いを乗せました。
通常盤の3曲目の「たしか」は吉田くんの作詞作曲なのですが、どんな曲を?
吉田
この曲は前回のアルバム『47【ヨンナナ】』に収録しようと思っていたんですよ。でも、アルバムには収録できなかったので、次の作品に入れようと思っていて…だから、もう歌は録ってあったんです。でも、それが1年以上も前のものだったので、なんとなく歌詞が僕の中でしっくりとこなくなってしまっていて、“頼むから録り直させて”って。マネージャーも“47都道府県ツアーをやって、そのあとに7カ月間ツアーもやったんだから、それは気持ちも変わるよね”って言ってくれたんで、歌詞もほぼ作り直して…その時には今回のシングルのカップリングに収録されることは分かってたので、3曲のバランスというのもちょっと考えましたね。
吉田くんらしい曲ですよね。
吉田
まどろっこしくて、暗いっていうね(笑)。
(笑)。でも、散々悲しんだあとの穏やかな感情だなと思いましたよ。
吉田
そうですね。“たしか”という言葉って普段の会話では使うけど、歌詞に入れるのはなかなかないんですよ。なぜなら、あやふやなことってメッセージにしづらいというか、はっきりと自分の中で出た答えを歌詞にしがちだから。でも、“たしか”っていう言葉には、そのあやふやさの中に“切なさ”とか“愛おし”さが含まれていると思ってて。なので、“たしか”っていう言葉を使って歌を作りたかったんです。《あの日もたしか雨が降っていた》と歌っているけど、実は鮮明に覚えてる。…ってとる人もいると思うし、本当に忘れちゃっていると受け取る人もいると思うし。そこは聴く人次第ですね。
山田
《あの日もたしか雨が降っていた》という部分以外は原曲とかなり変わったんですけど、僕の中ではこの1行が全てのような気がしてて…僕、この1行を聴いただけで自分の思い出の中に入っちゃうんですよ。聴いた人がそれぞれの思い出にふけっちゃうのもいいかなと思いますね。
アルバムの次の作品になるのですが、このタイミングだからこその3曲を収めたシングルになっていますね。
吉田
今の吉田山田が凝縮されていて、3曲のバランスも良いし…斬新だけど、今までの吉田山田が好きな人にも届くものになっているし。去年の吉田山田と今の吉田山田は全然違うので、それがちゃんと表現できたなって思いますね。
山田
チーム全体が「街」をシングルの表題曲にしようとなった時点で、結構な冒険だと思うんですよ。これまでの根っこの部分は変わらないんだけど、切り口としては大きく変わったと思うので、一番はそれを感じてほしいですね。希望としては“あ、こんな曲も歌うんだ”っていう興味からでもいいんで、そこから昔の曲も聴いてほしいくて。そうやって新たな人との出会いの入口になればいいなって思ってます。
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