中村うさぎのホスト狂いを振り返る:
ロマン優光連載21

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第21回 中村うさぎのホスト狂いを
振り返る

『狂人失格』という作品のモデルに名誉毀損で訴えられ敗訴(本当のことを書いても訴えられてたら負けるんだからモデル小説というのも大変ですな。)した中村うさぎさんの著作に『さびしいまる、くるしいまる。』という作品がありまして、うさぎ女史がホストにはまってた時期のことを書いている作品なのですが、ホストに対する心情が、ある種のアイドルヲタクを思わせて、久しぶりに読み返してみたんですが、なかなかしんどい作品でした。
 うさぎ女史の言う「推してるホストの順位が自分が金を注ぎ込んでいくことであがっていくことに対して感じる高揚感 」というのが、同じCDを買いまくることで自分の推してるグループのオリコン順位をあげたり、自分の推してる子のグループ内順位をあげることに達成感をおぼえるタイプのヲタクの心理に似てるのはわかりやすいですね。なんというかタニマチ感ですか。ちなみに、自分は接触する権利のために同じCDを買ってるだけでそこに過剰な意味を見いだせないし、グループ内の順位を決めるような投票に対しては「そんなのやめようよ…」とか思っちゃうタイプの、自分のことしか考えてない意識の低いヲタクです。
「ホストに自分の魂の失われた部分、自分の魂の中の一番清らかな部分を投影する。」という心理もなんとなくわかります。私が私立恵比寿中学の杏野なつさんに対して抱いていたのはそれに近いものだったのかもしれません。アイドルヲタクがみんなわかりやすい恋愛感情を抱いて推しを見ているわけではないんですよね。まあ、単純な恋愛感情を抱くより、こんな自己投影をしている人の方が気持ち悪いのは言うまでもありません。

ホスト(アイドル)との望ましい関係性

 好きさをこじらせて推しホストを苦しめてるところとか、ホストに対する感謝の念の持ち方とか、色々と知ってるヲタクの人を思い出させるところはいっぱいあるんですが、そういうわかりやすいところは自分にとっては別にどうでもいいんですよね。自分が凄く気になるのは関係性に対する無自覚さです。さらに言えば理論武装がされていて無自覚さに自覚がないというところです。
 特殊な環境でお金を介在として生まれる人間関係というのは、突き詰めていけば結局は他人同士だと思うんですよ。いや、実際のところお互いに人間同士なのだから、それを超えた感情の交流は存在するし、その一線を越えてしまう例外的な例も実在はします。でも「他人同士でしかない」という前提を、客側(ヲタ側)が持ってないといけないと思うんですよ。お金が介在している以上、向こうは良い対応をしてくれますし、そのテンプレ的な良い対応の隙間からこちらに対する個人的な感情が垣間見えてそれが嬉しかったりするものです。人間は愚かしい生き物です。自分に都合のいいように解釈するようになってる生き物です。ほっとけば、良質なお客さんに対する好意や、人間としてのちょっとした好感の現れを、異性としての自分への好意だと考えたり、自分が特別な存在だと考えたりしがちです。そうすると、相手の内面にがさつに入り込もうとしたり、相手の日常に割り込んでいこうとしてしまうのです。それは相手の漠然とした好意を嫌悪に変えてしまうことになりかねません。どこまでいっても他人同士でしかないという自覚を持つことが、自分を律して楽しい空間を長く成立させていくことになるのではないでしょうか。「本当に向こうが自分に対して特別な感情を抱いていて今の仕事よりそれを取りたいと思ってたら、向こうからくるはず。」とでも思ってればいいんですよ。相手の真心を疑えというわけではなくてですね、自分を律して相手への礼儀を守る必要があるという話です。自分が好きな子を傷つけないためにも。
 この本の本編は「今までありがとう! 君は私の星でした! その真実は変わらない!」みたいなホストに対する感謝で感動的に終わりますが、現実にはさらに先があります。「お金がもうないからこれない」と言ったうさぎ女史に対してイロコイ営業を推しホストがしかけ、まんまとそれにはまってしまった上に、テレビで寝たことを告白、バラされたことに怒ったホスト(他の客にも「好きなのは君だけ」みたいなことを言って寝てたんですな。)に自宅に殴り込まれるというオチがついたわけです。もう金出せないって言ったら初めて「愛してる」とか言われるのとかおかしいでしょ、普通に。ほんとに好きだったら、長く来て欲しいから普段から極端なお金は出させないように配慮したり、出しすぎてないか心配されたりします。まあ、アイドルに対して有り得ないくらい極端にお金を出しすぎてる人の中にも、アイドルに心配される人とされてない人がいて、お金をいくら出しても好かれてないんだろうなという人を見てると物悲しくなります。うさぎ女史は「お金で愛を買ってなぜ悪い!」「自分は汚い!」とか言ってみてはいたけど、どこまでいっても客でしかないという見極めが本当の意味ではついてなかったんでしょうな。その結果、自分の美しい幻想さえ泥塗れにしてしまったわけです。うさぎ女史の場合は相手が本当にタチの悪いホストだったのも不運だったわけですが、お金の介在する特殊な環境においては、他人同士でしかないという自覚は自分の身を守るためにも必要だとは思います。
 私ですか? 私は推しに本当に好かれてるので大丈夫です! きっと大丈夫です! 大丈夫だったら!(泣)

【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っている。好きなアイドルは、イニーミニーマニーモー
(コピペして検索窓に)

オススメ書籍:さびしいまる、くるしいまる。(角川文庫)/中村うさぎ・著

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