tofubeatsがメジャーで挑戦しようと
すること「パーソナルな部分を突き詰
めた先に全体がある」

 そしてtofubeatsは今回、10月2日(トーフの日)に1stフルアルバム『First Album』をリリースした。PES(RIP SLYME)やBONNIE PINKをはじめとする豪華ゲスト陣を迎えた今作は、楽曲構成についてはインディーズ時代のままに、ビートはより強固に、ウワモノはよりポップに仕上がっている。今回、リアルサウンドではtofubeatsへ前後編に渡るインタビューを実施。前編では『First Album』制作の舞台裏や、今作での新たな挑戦について話を訊いた。

・「Sound Cloudの音源と聴き比べて、メジャー感が出てるなーと(笑)」

――『First Album』は、ゲストボーカルを迎えた歌モノとトラックオンリーの楽曲とのバランスにおいて、インディーズ時代のフルアルバム『lost decade』に近い面もありつつ、ゲストボーカルの人選や音の迫力によって、さらにポップなものに仕上がっていますね。

tofubeats:メジャーに行った分、シングルが豪華になるので、それに対してバランスを取るための曲を作っているという手法は以前と変わりません。ただ、自分でマスタリングしていた『lost decade』とは違って、今回はマスタリングを他人に任せているので、自分でアップロードしたSound Cloudの音源と聴き比べて「メジャー感が出てるなー」と思います(笑)。ちなみに配信シングル「Come On Honey! feat. 新井ひとみ(東京女子流)」のマスタリングは自分で、基本的にパッケージにならない細かい仕事…Webで上がっているものはだいたい自分で完結させてます。

――2曲目「#eyezonyou」では、tofubeats流の自己紹介ラップを披露されています。

tofubeats:これは、アルバム頭の曲でレペゼンするというヒップホップに対するパロディでもあり、「僕がヒップホップを本気でやってたらこうなった」という曲です。頭にこの曲を持ってきたのは、コラボアルバムと思われないためにも良いかなと思って。

――なるほど。コラボ主体のアルバムに見せないように攻めのトラックを作りつつも、EP2枚(『Don't Stop The Music』『ディスコの神様』)の、森高千里さん、藤井隆さん、の子(神聖かまってちゃん)さんに加え、アルバムではlyrical school さん、PES(RIP SLYME)さん、LIZさん、新井ひとみ(東京女子流)さん、BONNIE PINKさんといった豪華なゲストボーカルを揃えましたね。

tofubeats:lyrical schoolに関しては、彼女たちの楽曲制作を手掛けている縁もありますし、どちらかというとお世話になっている部分が多くて。だから少しだけでも参加してもらいたかったんです。「poolside feat. PES(RIP SLYME)」は、杏里さんの「プライベートSold out」をサンプリングした状態で2年前からあったんですが、絶対日の目を見ないだろうと思ってました。でも、ワーナーの担当者が「これ、PESさんを呼んで作り直すのはどうか?」と提案してくれ、その結果、杏里さん側のクリアランスも取れ、参加していただくことになりました。

 新井ひとみ(東京女子流)さんは、過去にdancinthruthenights名義の『マジ勉NOW! feat.新井ひとみ』でご一緒していて。もう一回この面子を揃えたらMVは自分の範疇で撮れると思ったのと、前回はavexさんからお話を頂いたので今度はこっち側仕切りでもう一回やりたいと思ってオファーしました。LIZは『BBC Radio 1Xtra - Diplo and Friends』もそうですけど、Mad Decentとある程度繋がったところで「tofubeatsと一緒にやってもいいよ」と言ってくれるアーティストが何人かいて。その中から今回はLIZと組むことになりました。今後もMad Decent周りのアーティストとは何かできればと思ってますね。

――「衣替え feat. BONNIE PINK」は、同曲のtofubeatsさんが歌唱したバージョンが先に『ディスコの神様』のカップリングに収録されていました。なぜこのタイミングでBONNIE PINKさん歌唱バージョンに変わったのでしょうか。

tofubeats:実は、この曲って最初からBONNIE PINKさんに歌っていただきたくて作った曲なんです。本来、『ディスコの神様』には「衣替え」ではない、とある曲のカバーが入る予定だったんですけど、申請の問題がギリギリまで行ってしまって。最終的にマスタリングの少し前に「入れることが不可能だ」という判断になり、先に出来ていた「衣替え」のデモバージョンを入れることになったんです。そして今回、アルバムのタイミングでオファーしたところ、快諾していただいて。BONNIE PINKさんはワーナーミュージックに所属しているアーティストの中で正直一番好きなミュージシャンなので、コラボレーション出来て嬉しかったですね。

――「CAND¥¥¥LAND feat. LIZ」では、Mad Decentの看板娘であるLIZを迎えたことも衝撃ですが、そんな彼女にパラパラを歌わせていて驚きました。この曲については「パラパラを作る方法をやっと習得」したということで。

tofubeats:仕事でEDMっぽい楽曲を作ることがなくて、このトラックを作れるようになるまで苦労しました。EDMに興味がないから、そういう音色とかを集めてなくて…。やつい(いちろう)さんに提供した「そりゃそうよ」というおもしろEDMみたいなのがあるんですが、あれをやるためだけにMassive(ベースやリードなどに向いた分厚いサウンドのソフトシンセ)を初めて買って「バカみたいな音ばっか出んなー」と思ってました。そんなこんなで素材が集まって、レイヤーの感じがわかるようになってきて、初めて人前に出せるパラパラができたなと。パラパラとトリルが合うってアイデアはずっとあったので、着想から2年間、誰かがやるんじゃないかって気が気じゃなかったです。

・「人が増えれば増えるほど、“tofubeats”を制御するのが難しくなってくる」

――アルバム最後のトラックである「20140803」は、Sonud Cloudに上がっていたデモバージョンに歌詞を加え、フェードアウトする形になっています。

tofubeats:この曲は、アルバムが制作終盤でどうしようもないけど「とりあえずサンプリングで曲作るか」って息抜きにデモを作ったら上手くいったもので…その後、打ち込みし直して収録しました。あとは、『lost decade』の最後に入っている「LOST DECADE Feat. 南波志帆」みたいな、嬉しい曲に悲しいことを合わせることが美しいと思っていて。あの曲は杏里さんの「愛は誰のものでもなく」っていうシャッフルビートの失恋ソングが元ネタなんですけど、曲調は悲しく聴こえなくて、リプライズ、カーテンコール的な作りが好きで。「衣替え feat. BONNIE PINK」でアルバムを終わるなんてことは絶対したくなかったし、「ありがとうございましたー!」ってみんなで言う時間が欲しくて、アウトロは徐々にフェードアウトしていく形になった。

――最後のワンフレーズである「君が好きな音楽で/てゆか毎日 音楽で」は、雑誌『WIRED』のコラムにある「日々を良くするために音楽をやろう」と連動しているように感じさせられました。

tofubeats:実は、それに加えてアルバムの最後には、僕が書いた手書き風のメッセージが入っているんです。そのメッセージは「we have to make it better day by day looks make music」っていう一文で締めていて、「20140803」や『WIRED』の原稿と関連付けるようにしてあるんです。

――さらに奥があったんですね。

tofubeats:そう。だからCDを買って、ブックレットを読んで、最後の1ページを見ると、そこを補完できるんです。

――フィジカルで最後を補完できるというのは、面白いですね。

tofubeats:この文章が先にある形で、『WIRED』の原稿があって…我ながらキレイだなーって思いますね(笑)。でもCDにブックレットを入れるというのは、宇多田ヒカルさんの『First Love』のオマージュなんです。このアルバムの『パーソナルな部分を突き詰めたものが日本で一番売れた』というのは、自分がパーソナルなことを目指してやるうえで、ずっと希望になっている。“みんなに向けて曲を書かなくていいんだ”っていう回答に思えて。一点に向かっていった先には全体があるというか、精神は細部に宿るという感じですかね。

――宇多田さん以外にもいくつか影響を受けたアーティストを挙げるとすれば誰なんでしょうか。

tofubeats:他には、杏里さんとか、角松敏生さんとか…。でも、ブックオフで売ってるアルバムで一番オススメを教えてと言われたら宇多田ヒカルさんの『First Love』か中澤真由さんの『STEP INTO MY HEART』を選びますね。中澤さんのこの作品は本当に名盤だと思っていて、良い意味でうだつの上がらないポップス~R&Bの、決して100点満点のアルバムだとは思わないんですけど、逆に隙があるところ含めて100点なんですよね。ただ、これを各所でオススメするもんだから、amazonでの価格が徐々に上がってて(笑)。

――ほかにも、『WIRED』の記事には、メジャーアーティスト故のメリットとデメリットも書いてありました。

tofubeats:得しているなって思うのは、今、まさにプロモーション段階ですね。自分で金銭的なリスクを背負わないし、在庫を抱えなくていい。あとはフルストリーミング試聴だったり、ゲストボーカルの提案や実現に向けての動きなどを見てると、メジャーなのに自由にやらせてもらってるなって思います。それに対して、損という部分では、人が増えれば増えるほど、作品…つまり“tofubeats”を制御するのが難しくなってくる。でも、一番はタイムラグに尽きると思います。慌ただしくしていると「すぐリリースされた」って思うんですけど、「20140809 with lyrical school」や「20140803」みたいに、日付を曲名に入れとくのってそういう理由があって。8月に作った曲が10月に出るって、メジャーのなかでは詰めて頂いている方なんですけど、それでもやっぱりなんかちょっと遠いと思うこともあったりしますね。

――Sound Cloudにアップして、リスナーの反応を見ながら洗練させていけるインディーズ時代と比べてしまうんですね。

tofubeats:まあ、その期間がないとMVが撮影できないというのもわかっていますし、大きいコラボとかプロジェクトを動かせるのに対し、個人として動ける範囲が以前より限られてくるのもきちんと理解しています。以前がCDを作って納品するところまでやっていたので、操作し過ぎてただけなのかもしれないですが(笑)。

・「今は色んな童貞を捨ててる時期なんです」

――今作の「おしえて検索 feat. の子(神聖かまってちゃん)」でもコラボされているの子さん(神聖かまってちゃん)に先日インタビューをした際、「(tofubeatsくんからの)影響は大きいですよ、DTM始めたのもそうですし、『俺は負けてんな』って」とtofubeatsさんについて発言していました。(参照:神聖かまってちゃん・の子が音楽を作り続ける理由「すごく負けず嫌いで、飢餓感もかなりある」)

tofubeats:あ、見ました。頻繁に名前が出ていてビックリしました。

――お二人はインターネットを駆使して自分の音楽を届けるところからメジャーのフィールドまで上がってきましたが、世代もやり方も違いますよね。逆にtofubeatsさんから見たの子さんはどう映るのでしょう?

tofubeats:これに関しては、の子さんが僕に言った言葉がすごく印象的で。「もう5年間始めるのが遅かったらDTMから入ってた」って。インターネットに出会ったのは同時期だと思うんですけど、最初にギターを持ってしまったが故の違いというか。僕は最初にベースを持ったんですけど、すぐ捨てたんで(笑)。だから僕もDTMを選択しなければ、の子さんのようになっていたかもしれません。先日の『YANO MUSIC FESTIVAL 2014』で人生初のバンド演奏を行ったくらいですから。

――バンド演奏を体感された感想、是非お伺いしたいです。

tofubeats:それまでは人とアンサンブルすることなんてなかったんですけど、最高でしたね。「バンドっていいな」って思いました。全員がトップクラスのアーティストだし、打ち込みも鳴らしてくれて同期もバッチリだったし、バンドマスターが矢野(博康)さんだし、僕はもうカラオケするだけでしたから(笑)。

――そんな中、今回の作品では「20140803」でtofubeatsさん自身がギターを弾いています。

tofubeats:買って半年経って初めて使いましたね。下の3弦・2小節だけですけど、弾いてみて「ウワァー! これが楽器か!」って高揚感がありました。あとは『YANO MUSIC FESTIVAL 2014』で「LOST DECADE Feat. 南波志帆」をEWI(ウインドシンセサイザー・電気笛)で演奏したり、初めて人前で生歌を5小節だけ歌ったりと、今は色んな童貞を捨ててる時期なんです(笑)。

――これは今後の音源にも大きく影響してきそうですね。

tofubeats:今回のアルバムでも、「poolside feat. PES(RIP SLYME)」のイントロでは僕がEWIを吹いていますし、の子さんの打ち込みと同じく、そこまでガッツリやるわけではないですが出番は増えるかもしれませんね。今は長いスパンで習得できていけばいいと思っていて、ずっと「Just the Two of Us」を練習してます。(後編へ続く)(取材・文=中村拓海)

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