フルート奏者・鎌田邦裕「このリサイ
タルで、非日常を感じていただきたい
」~『鎌田邦裕フルートリサイタル
〜 √(ルート)〜』インタビュー

フルート奏者の鎌田邦裕が、東京と出身地の山形県鶴岡市でリサイタルを開催する。鎌田は、2022年の日本音楽コンクールフルート部門で第2位と聴衆賞を、2023年の第1回リヴァプール国際フルートコンクールで第1位に入賞した俊英。京都市立芸術大学、同大学院で学び、現在は京都、東京、鶴岡をベースに活躍している。
ーーフルートを始めたきっかけを教えていただけますか?
母が趣味でフルートを吹いていたので、生まれたときからフルートは身近な存在でした。私は、もともとはピアノを習っていましたが、小学校3,4年生のときに母が通っていたフルート教室に行くようになり、ピアノからフルートに移りました。そして中学、高校の吹奏楽部で吹いていました。中学3年生からは、当時、山形交響楽団首席奏者だった故・足達祥治先生にレッスンしていただきました。
ーーその後、京都市立芸術大学に進まれましたね。
大嶋義実先生に学びたいと思って、京都市立芸大に入りました。京都市⽴芸大では、途中から名古屋フィルハーモニー交響楽団の首席奏者である富久田治彦先生にも習いました。
ーー今回のリサイタルは、東京と鶴岡で開催されますね。
地⽅では若い音楽家の具体的な像を描くのに苦労した経験から、少しでも故郷に貢献したいと思い、20歳の頃から山形でリサイタルを開催するようになりました。昨年で地元での開催10回目を迎え、11回目となる今回は、気持ちを新たに、原点を見つめ直すという意味と今を見つめるという意味で、バッハと現代の曲を並べました。師匠のひとりである藤井香織先生をゲストにお招きするのですが、藤井先生は私にとってバッハのイメージが強く、是非一緒に演奏してみたいとも思いました。また、現代の音楽がどんなものなのかを伝えることは、演奏家としての使命だと思うので、コンテンポラリーを取り上げました。
ーー藤井香織さんにはいつから師事しているのですか。
5,6年前に受けたコンクールで藤井先生に習っている方と知り合い、紹介していただきました。そして、ニューヨークや東京でレッスンを受けるようになりました。京都に先生をお招きして、マスタークラスを開催したこともあります。
今回は、藤井先生とバッハを演奏したいと考えて、デュオということで、オーボエとヴァイオリンのための協奏曲をフルートで演奏したら面白いかもと思いました。私がオーボエ・パートを、藤井先生がヴァイオリン・パートの楽譜を吹きます。「シャコンヌ」に関しては、藤井先生が編曲したもの(原調通りのニ短調)に私が自分のアイデアを取り入れながらト短調に移調したものを演奏します。フルートの音域はヴァイオリンの⾳域よりも高いので、ヴァイオリンの楽譜のままでは低い音が出ず、代わりにオクターヴを上げるなど別の音で対応します。ですが、バッハが考えたメロディラインやベースの音を大事にしたいと思い、フルートの音域に合わせたト短調に移調しました。そのことで、フルートらしさも出てくると思います。ヴァイオリンの重音は、アルペジオなどを使って、リズム的に無理のないように編曲しました。
藤井香織
ーー現代曲では、森田拓夢さんに新作を委嘱されたのですね。
森田拓夢さんは、私と同じ京都市立芸術大学の卒業生で、私と同じく2022年の日本音楽コンクールの作曲部門で第2位を受賞されました。同じ大学出身、そして同じタイミングの日本音コン受賞という御縁から新曲を依頼しました。作曲にあたっては、学⽣時代に大嶋先生から「草原に1本筒があって、たまたま風が吹いたときに、それが振動して自然に音が鳴る。それがフルートの理想の音の出し方だ」というお話を伺い、今回の曲のモチーフとして話しました。そして、“鎌田邦裕らしさ”が出るノリの良いビートやリズム感のある曲にしてほしいという希望を伝えました。フランスのユレルの「エオリア」は、いわゆる現代音楽です。1982年の作品で現代曲のなかの古典といえます。曲中では発声したり、重音を使ったりもします。ハインドソンの「オデュッセウスとセイレーン」は 2017年にオーストラリアで開催されたコンクールのために作られた曲で、前半は微分音などを使った神秘的でゆったりとしたメロディが流れます。後半はテンポが上がり、ポップス的なリズムもあり、ノリノリで本当にクラシック!? と思われるようなノリの良い⾳楽になっています。いろいろな特殊奏法が使われていますが、面白いと思っていただけると思います。
ーー共演するピアニストの三上翼さんについて紹介していただけますか?
彼も京都市立芸術大学で学びました。学年は一つ下の後輩ですが、歳は同じで、在学中から仲良くさせてもらっています。京都市立芸術大学は、東北からの進学者が少ないのですが、彼は青森出身で、同じルーツを感じます。三上くんはソリストとしても素晴らしいのですが、アンサンブルのとき、ただ寄り添うだけでなく、一緒に作り上げてくれる力がすばらしく高いピアニストです。人柄の優しさだけではなく、演奏にはパワフルさもあります。
ーー現在の活動についてお話ししていただけますか?
大学院まで京都市立芸術大学で学びました。そのまま京都や関西、また東京や故郷の鶴岡を拠点にして演奏活動をしています。昨年10月からは、京都フィルハーモニー室内合奏団にも所属しています。また、フルート、クラリネット、ピアノで「panna cotta(パンナコッタ)」というトリオを組んで、大阪府の枚方市を中心に演奏活動をしています。それから、今年3月までの2年間、京都コンサートホールの第2期登録アーティストとして、アウトリーチ活動もしてきました。そのほか、鶴岡市のふるさと観光大使も拝命しています。
鎌田邦裕
ーー将来はどのような活動をしていきたいのですか?
教育活動に興味があるので、専門的なフルート奏者を育てる、大学の先生になりたいです。また、故郷でリサイタルを続けていることとつながりますが、プロのフルート奏者を育てるだけでなく、音楽を学びたいけれど学ぶ機会のない人、地方や過疎地などでそもそも音楽を聴く機会のない⼈たちに、きちんと音楽を学んだり、体験できたりする機会をつくる活動をすることが私の目標であり、夢です。音楽を愛して、楽しむ人間を育てたいというのが、ずっと自分のなかにあります。
ーー最後に今回のリサイタルへのメッセージをお願いします。
今回は、バッハとコンテンポラリー(現代の音楽)を並べることによって、昔から変わらない美意識や価値観と現代で変わったものとを対比して感じてほしいですね。そしてこのリサイタルの約2時間で、非日常を感じていただきたいです。バッハとコンテンポラリーという両極端な作品が並ぶので、刺激的な体験になると思います。私もお客さまと⼀緒に音楽を感じて、楽しみたいと思っています。

取材・文=山田治生

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