【Bray me インタビュー】
アルバムとしての
ベストのかたちがこの14曲だった
ライヴを会場で観るのは
同じ時代に生きている人の特権
「魔法のように」もそうですが、ライヴの定番曲もたくさん収録していますね。
はい。今のBray meのチーム編成になって走り出したのが、2021年にリリースした「魔法のように」なんです。それ以降の曲を中心に入れています。
一番古い曲は2018年にリリースした「曖昧な日々だ」ですね。
再アレンジ、再レコーディングをしました。もともとのものはメンバーが今と違っていたし、当時は3ピースだったんです。リードギターがいなかった頃のかたちでしか音源化していなかったので、改めて今のかたちで聴いてほしいと思って。
「エビデンスロード」もライヴでよくやっていますよね?
はい。この曲はすごく広がったというか。《よくぞここまで歩いてきた》という歌詞があるんですけど、ライヴでやると涙を流しながら聴いているお客さんが多いんです。“生きていかなきゃいけない”というメッセージが裏にはある曲なので、“一歩間違えるとキツい内容だな。大丈夫なのかな?”と心配していたんですけど、しっかりと届いてくれたのが印象的でした。今回のアルバムの中でも、しっかりと届く曲になっていたらいいですね。
「サイダー」も人気がある曲ですね。こういうどこかノスタルジーを誘う作風もBray meの魅力のひとつだという印象があるのですが。
体験したことがあっても、ちょっと忘れちゃっているような何かを歌っているからですかね? 「サイダー」は夏の終わりのあの切ない感じを歌っていて。そういうことをずっと歌いたかったんですけど、なかなか曲にできなかったんです。2022年6月にミニアルバムの『HELL-BENT』を出したあとのツアーは夏の終わり頃にいろんなところを回ったので、その時の感覚と自分が子供の頃の感じがリンクして生まれたのが「サイダー」です。
子供時代を過ごしたのは静岡のどの辺りだったんですか?
富士宮です。田んぼがあって、植えてある稲を引っこ抜いたりしていました。
そんなことしちゃダメです(笑)。
怒られるのが恒例でした(笑)。あの時の空の感じとツアーの時の岡山で見た空が自分の中でリンクして、この曲が生まれました。
「明日になれば」は2022年のリリースですから比較的最近の曲ですね。
《潔く歩いて行ける程/僕ら もう 子供ではないみたいだ》というフレーズは25歳くらいの時からあって、それをやっとかたちにできたんですよね。この曲には《大人になっても分からない答えは/たくさんあるんだけどな》というフレーズもあるんですけど、「シンシア」の歌詞でも《大人になったら その次は何になる?》って書いています。
こういう歌詞の根本にあるのはどんな感覚なんですか?
人間は子供の時期よりも大人の期間のほうが長いので、大人になったらそれ以上の成長はないのかもしれないと思っていて。そういう成長がない中で生きていく感覚があるので、こういう歌詞になりました。
「シンシア」は《大丈夫 まだここにあるんだ/知らない音楽を聴いて/眠れなくなる程/心、震える夜が》というフレーズが印象的です。
バンドに自分の人生を懸けたいと思った時、音楽に心が動かなくなることが一番怖いと感じたんです。実際にそうなりそうな瞬間があったから、この曲を書くことで落ちそうになった穴から這い上がってきた…みたいな(笑)。そんな感じでしたね。
「青い炎」は会場限定シングルだったんですよね?
はい。ドラムが“こんなメロディーで作って”って鼻歌を歌ったのから広げました。ライヴを会場で観るのは同じ時代に生きている人の特権だと思うんです。目の前で歌うというのは生きている証しで、目の前で鳴る音楽だからこそ聴こえるものがあるようにも思うので、ぜひライヴに来てほしいんです。それで会場限定シングルを作りました。
「あの街の行方」は他の曲とは異なるものをかなり感じました。ウクライナで続いている戦争に対する気持ちを描いていますよね?
まさにそうです。何かのレコーディングをしていた時期に何日か空けてSNSを見たら、ウクライナの戦地の人から“銃声や悲鳴が鳴り響いている夜でも、Bray meの音楽を聴くと少しだけでも眠れます”というメッセージが届いていて。どんな人かも知らないですけど、確実に自分たちの音楽に向けて発信してくれたんですよね。でも、それを知ったのはリアルタイムではなくて、自分の都合のいい時間だったんです。そこで感じたことを記しておきたかったので、日記みたいな曲なのかなと思います。
《時々思い出すよ/無事を祈る あの街の行方を》の《時々思い出すよ》にリアリティーを感じます。
ずっと思い出していたら自分の人生じゃなくなっちゃうと思うんです。自分は音楽…バンドをやりたいですから。でも、思い出せる時に少しでも思い出して生きていけたらなと思っているんです。そういう想いがそのまま歌詞になっています。
かなり盛りだくさんのアルバムになりましたね。
はい。本当はもっと録った曲があるんですけど、アルバムとしてのベストのかたちだと思ったのがこの14曲でした。届くべき人に届いたら嬉しいですね。
アルバムのリリース後は、1月28日の京都GATTACA公演から対バンを各地で迎えるツアーが始まりますが、かなり長期にわたりますね。
ツアーはいつもこれくらいの本数です。ライヴハウス出身なので、ツアーはやってなんぼみたいなところがあって(笑)。メンバー4人で運転しながら全国に行きます。冬の時期から始まるので、しっかりスタッドレスタイヤにして、気をつけて運転しないと。このアルバムを聴いて何かを感じたら、ライヴに来てくれると嬉しいです。
取材:田中 大