ブス会*『The VOICE』配信&『映画
○月○日、区長になる女。』公開直前
ペヤンヌマキインタビュー 映画と
演劇を横断して伝える”住民の声”と
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2024年1月2日(火)よりポレポレ東中野を皮切りに、演劇ユニット「ブス会*」主宰・ペヤンヌマキの初監督映画『映画○月○日、区長になる女。』が公開される。2022年6月の杉並区長選挙に立候補した岸本聡子氏(現・杉並区長)と彼女を支えた住民たちを追った、“草の根ドキュメンタリー”。初監督作にして類を見ない地域密着映画となる本作は公開前から早くも話題を呼んでいる。
【動画】『映画 ○月○日、区長になる女。』予告

「自身の家が道路計画による立退区域であったこと」をきっかけに区政に目を向け始めたペヤンヌにとって、本作と切っても切り離せない作品がもう一つある。同じく2022年に上演された、ブス会*『The VOICE』だ。「都市計画道路問題」をテーマにその土地に生きる人々の“声”を元に創作されたその舞台は、道路問題のど真ん中に位置する西荻窪・遊空間 がざびぃで上演された。当時は劇場公演のみであったが、「映画と併せて改めて広く届けたい」という思いから映画公開直後の1月4日(木)よりイープラス「Streaming+」ほかにて舞台映像の配信が決定。
映画と演劇を横断して伝える「暮らしの問題」と「住民の声」とは?ドキュメンタリーの撮影と舞台の上演から約1年、その間も絶えず動き続ける杉並の街でペヤンヌマキに今の思いを聞いた。

■『The VOICE』の客席に感じた、これまでにない “融合”
――『映画○月○日、区長になる女。』の公開2日後から配信される舞台『The VOICE』。上演から約1年、当時を振り返りつつお話を伺えたらと思います。
ペヤンヌ 『The VOICE』の話が最初に立ち上がったのは、『○月○日、区長になる女。』の撮影で区長選に密着していた真っ只中だったんですよね。「今の私が演劇をやるなら」と考えた時に一番に思い浮かんだのが、会場となった西荻窪・遊空間 がざびぃ。道路拡幅によってなくなるかもしれない危機を抱えた劇場で、“今、ここでやる意味のある演劇”をやりたい。観る前と観た後で道中の景色が変わるような体験をしてもらいたい。そう思って、急遽企画した作品でした。ドキュメンタリー同様地域の方々にインタビューをするところから始めたのですが、俳優さんたちにもその過程から関わっていただき、その場その場で感じたことを表現に繋げていただきました。
――これまでのブス会*作品とはガラリと印象の違う本作。稽古や上演において大切にしていたことはどんなことでしょうか?
ペヤンヌ 現在進行形の問題を住民の方の声を元にして演劇にするというのは全く新たな挑戦でした。この題材を扱うにあたっては、私が一人で見聞きしたことを「物語」というフィクションにしてしまうことに強い抵抗があったんですよね。俳優さんも含めて、“生の声”を拾い上げることからアプローチしていきたい。そんな風に思っていたので、「物語やセリフを予め書かない」と決めました。一方で、その創作方法は1人で台本を書く作業とは全く異なるものだったので、想像以上の困難もたくさんありました。「演劇は一人ではできない」ということをより痛感した作品でもありましたね。
――住民に扮した俳優さん方の会話は一つ一つがとてもリアルで、今この瞬間に街の中から取り出したような手触りを感じました。今までにない体感を得たのは、観客もまた同じだったのかもしれません。
ペヤンヌ 開幕して客席を初めて見た時、これまでとは明らかに違う空気が流れているのを感じました。演劇好きの方もいれば、この街に暮らす住民の方もいて、それぞれの境遇を生きる人たちが同じ時にこの劇場に来てくれたんだ、ということがひしひしと伝わってきたんですよね。それは、私がこの演劇を通して「こうなったらいいな」と願っていた光景そのものでした。「演劇が好きな人にこの暮らしの問題を知ってほしい」と思うと同時に「演劇を普段観ないという地元の人たちにもお芝居の面白さを体験してほしい」という気持ちもあって……。だから、地域密着型の演劇を通して、双方のお客さんが融合した空間を作れたことはとても嬉しかったです。
ペヤンヌマキ 写真/浜田一喜

■地域密着型演劇とドキュメンタリー映画から得る、連動と一体感
――いち演劇好きとしても、演劇をあまり観ない方と上演に立ち会えることは嬉しく、劇体験がより豊かになるような感覚があります。隣の人が目の前の光景をどう感じているのか。そんな想像もかき立てられます。
ペヤンヌ 映画にも同じことが言えますよね。演劇同様にデイリーに映画館に行く人と行かない人がいますし、それぞれの理由を持って観に来て下さるのだと思います。中でも「ドキュメンタリー」ってより特殊なジャンルだとも思うのですが、「自分の暮らす街が題材になっているから」とか「この間の区長選の話だったら見てみたい」というきっかけから思い切って足を運んで下さる方もきっといて……。だから、『The VOICE』の客席と同じようなことが『映画○月○日、区長になる女。』の上映の際にも映画館で起きたらいいなと願っています。
――ちなみに、『The VOICE』を観た住民の方からはどんな感想や反応が寄せられたのでしょう?
ペヤンヌ 「演劇って面白いんだね」「お芝居っていいね」。そんな風に観劇を楽しんで下さる方が予想以上に多かったことがすごく嬉しかったですね。「めちゃくちゃ生っぽかったけど、どうやってつくったの?」なんて反応もいただけて、今までの創作とは違った手応えを感じました。そういった反応をもらえたのは、やっぱり俳優さんそれぞれの呼吸があったからこそ。脚本家が1人で考えたセリフを言ってもらう中では決して生まれない何かができたし、それが伝わったのだと感じました。「演劇も市民活動だよね」って言ってもらえたことも印象深く残っています。確かに、演劇を通じて何かしらの問題を発信していくことで、知る/考える機会にもなる。だから、演劇=市民活動という言葉は、今の私にとってすごく腑に落ちました。「芸術作品として観てもらうこと」とは別の側面を演劇の役割に見出せたことは作家としても貴重な経験でした。
――『映画○月○日、区長になる女。』でも、そんな“市民活動”に勤しむ住民の方の生の声や姿が沢山掬い上げられていました。
ペヤンヌ 『The VOICE』で登場人物のモデルとなった方が『映画○月○日、区長になる女。』に出ていたりもするので、そういう意味では、双方観た方だけに分かる連動や一体感、密やかな発見も散りばめられています。ちなみに、完成披露試写会的なイベントを杉並でやった時には、選挙時の街の熱気を思い出して歓声や拍手があがるシーンもありました(笑)。映像だけどすごく生な体感ができる映画と、映像によってまた新たに出会える演劇。互いに補完しながら観ることで広がりができ、より濃い体験をしてもらえると思います。
ペヤンヌマキ 写真/浜田一喜
――演劇と映画の連動、とても豊かな体験になりそうですね。その全貌はそれぞれの本編で、と言いたいところなのですが、このインタビューを読んだ方に少しだけどんな“リンク”があるか教えていただけますか?
ペヤンヌ 『The VOICE』も『映画○月○日、区長になる女。』も冒頭は私個人の語りから始まります。“私の話”がやがて“みんなの話”に広がっていく。そんな視点の広がり方は演劇と映画の共通した見どころかもしれません。演劇の演出がドキュメンタリーの編集に繋がったことは私にとっても意義深く、双方の作品にとって大きな軸になっていると思います。あとは、魅力的な楽曲の数々でしょうか。『The VOICE』の客入れ曲として向島ゆり子さんが本番直前に作ってくださった『商店街のテーマソング』という曲は映画でも使わせていただきました。あと、杉並区長選挙時に杉並区民のブランシャー明日香さんが応援歌として作った『ミュニシパリズム 』という曲を小泉今日子さんと上田ケンジさんによる「黒猫同盟」という音楽ユニットがカバーして下さったり……。映像のみならず音楽も魅力的なので、ぜひお楽しみいただけたらと思います。
――貴重なお話の数々をありがとうございました。最後に、二作品の完成を通して、今ペヤンヌさんが感じていることをお聞かせいただけますか?
ペヤンヌ 二作品の創作を通じて今痛感しているのは、記録の大事さ。時間が経つと忘れてしまうこともあるけれど、「ドキュメンタリー」という記録によって思い出したり、追体験したり、新たに何かを感じることができる。それは、この『映画○月○日、区長になる女。』の大きな魅力であり、意義でもあると思います。それと同じように『The VOICE』も舞台映像を「ドキュメント」しておいたからこそ「ここぞ!」というベストなタイミングで再び届けることがいました。二つの作品を通して、街や暮らしを見つめる目が増えたり、変わったりしたらいいなと願っています。映画が2日、舞台配信は4日からなので、ぜひお正月の2本立てとして楽しんでいただけたら!
ペヤンヌマキ 写真/浜田一喜
取材・文/丘田ミイ子
写真/浜田一喜

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