高泉淳子に聞く~「クリスマス時期に
気軽に見られる芝居があったらいいな
」で始まり今年で35年目の『ア・ラ・
カルト』を『僕のフレンチ』として上

レストランを舞台にしたショートショートのお芝居と生演奏でおくるエンターテイメントとしてクリスマスシーズンに上演されてきた『ア・ラ・カルト』が、今年も『僕のフレンチ』として、2023年12月19日(火)~22日(金)に上演される。
『ア・ラ・カルト』の初演は1989年。以降これまでの35年間には様々な変遷があった。初演から出演していたメンバーの卒業、ホームグラウンドとしてきた青山円形劇場の閉館、コロナ禍、2019年にライブショー色の濃い『僕のフレンチ』をスタートさせるきっかけにもなった会場・eplus LIVING ROOM CAFE & DININGの閉店、と変化を余儀なくされる出来事を乗り越えて長く愛されてきた作品だ。今年の公演に向けた思いを、初演以来『ア・ラ・カルト』を主導してきた高泉淳子に聞いた。
4年やってきた会場が閉店「新たな会場には新たな何かがある」
ーー2019年から『僕のフレンチ』の会場となっていたeplus LIVING ROOM CAFE & DININGが今年3月に閉店してしまいました。今回の会場がI’ M A SHOWに決まった経緯を教えてください。
これまでLIVING ROOM CAFE & DINING では2019年から4年やってきて、ようやく会場の感じがつかめてきたところでした。今年もあそこで、と思っていたので閉店は本当に残念ですし、今年の12月はもう無理かな、と思いました。特にクリスマスの時期は会場を抑えるのが大変なので、なかなか場所が見つからなかったんです。I’ M A SHOWは全く予期もしない場所で、たまたま紹介してもらえて、この時期が空いていたのは奇跡でした。どうするかかなり悩みましたが、この会場に巡り合えたのもタイミングなのかなと思い、最終的には「やらないよりやったほうがいい」と結論を出しました。
稽古場より (左)高泉淳子
ーーLIVING ROOM CAFE & DININGで作り上げて来た『僕のフレンチ』を、初めての会場で再構築するというのは挑戦でもあり、大変な作業でもあると思います。
あの会場で4回作ったことで、やっと会場の雰囲気に合うような、ライブと芝居がうまく混じり合った感じになってきたな、と思っていた矢先でした。でもそこはもう切り替えて、新しい場所では新しい場所の何かがあると思って作っています。『ア・ラ・カルト』を『僕のフレンチ』としてやり始めたタイミングで、自分の中で「お芝居」から「ライブショー」にシフトを変えたところがあるんです。今回も、お芝居とライブ感覚のバランスについて、今はまだ悩んでいます。I’ M A SHOWのようなプロセニアムの劇場というのが、『ア・ラ・カルト』にとって初めてということもあって、どんな雰囲気で作れるのか模索しているところです。
中西俊博さんたちの音楽が不安を消し去ってくれた
ーー公演に向けてのお稽古やリハーサルもスタートしているとうかがいました。
先日ミュージシャンとの1回目のリハーサルがあって、やはり彼らの存在が大きいなと改めて思いました。『ア・ラ・カルト』初演のときも、音楽と融合させた舞台を作ろう、というところからスタートしたんですが、最初はどうやって作ったらいいのか悩んでいたんです。でも中西俊博さんたちの音楽が入った途端、そんな不安を全部消し去ってくれたんです。そのときの私は、自分が言い出したことだし、台本を書いて出演もしていたし、だから自分で全部やらなくちゃいけない、と思っていて他の人に任せるという考えがなかったんですね。「芝居には力がある」というひとつの方法論だけでしゃかりきに突っ走っていたんですが、ミュージシャンの生演奏が入ったことで「ああそうか、音楽とか絵とか、言葉がなくても語れるものっていっぱいあるんだな」ということを強く思った瞬間でした。それからはそんなに怖がらずに、ミュージシャンに任せて自分の中だけで解決しないようにしよう、と言い聞かせてやっています。
稽古場より
ーー今回はミュージシャンの方ももちろんそうですし、あとはギャルソン役も山本光洋さん、采澤靖起さん、中山祐一朗さんとおなじみのメンバーが3人揃って心強いですね。
『ア・ラ・カルト』にとって、2016年から采澤くんが入ってくれたことはとても大きいです。彼の真面目さが、2016年以降の『ア・ラ・カルト』の雰囲気を作ったところもありますね。やっぱり新しい人が入ると、すごく刺激を受けますし助けられます。采澤くんとの出会いは2013年に出演した『ホロヴィッツとの対話』(作・演出:三谷幸喜)のときに、稽古場のプロンプターとして入ってくれていて、すごく真面目な青年だなという印象でした。その後『ア・ラ・カルト』を見に来てくれたときに、終演後にすごい顔をして「こんなの初めてです!」と言ってくれて(笑)。当時はまだ役者としての彼のことはあまり知らなかったので、まずはワークショップに誘ってみたら参加してくれて。彼の持っているいいところがたくさん見えました。同時にまだ若いのに固めてしまっている部分があって、不自由さも見えたんですね。その後、2016年に初めて『ア・ラ・カルト』に声をかけて。彼の出演しているお芝居も見させてもらってます。芝居がずいぶん変わって来たなと感じています。これからもっともっとよくなっていくんじゃないでしょうか。
ーー今年は公演が4日間ということもあり、ゲストは4名です。
篠井英介さんは昨年出演してくださって、古くからお互い知っているし同級生ですし、英介さんが頑張っていると私も頑張ろうと思える存在です。尾上菊之丞さんは『ア・ラ・カルト』における理想のカラーなんです。舞踊家だけどお芝居も歌も素晴らしくて、菊之丞さんをこれまでご存じなかった人が「この人は何者なんだろう?」と思ってくれたらしめたものだなと(笑)。春風亭昇太さんはどうしたって初日にはいてほしいという、私にとって安心できる存在です。ダイヤモンド☆ユカイさんは今回で4回目の参加ですが、特に昨年は歌はもちろん、お芝居が本当に素晴らしかったんです。今年もどんなお芝居を見せてくれるのか楽しみです。
「芝居ってもっと自由でいいのに」と思いながらやってきた
ーー『ア・ラ・カルト』シリーズは、演劇を普段あまり見ない人にとっても間口が広くてとっつきやすい作品になっているところも魅力だと思います。
もちろんストレートプレイでしっかり作られた演劇も好きですが、『ア・ラ・カルト』を始めたのも、クリスマスの時期にフラッと気軽に入って見られるようなお芝居があったらいいな、という思いだったんです。お芝居ってなぜだか、見に行くと絶対に「良い作品だった」と思えないと嫌だ、という気持ちがあるような気がするんです。映画だと、つまらなくても「あれはないよね」って笑い話で済ませられたりするし、逆にB級なところを面白がれたりもすると思うんですが、演劇を見る人ってもっと真剣に見ているような印象があるんですよね。
例えばクラシックのコンサートを聴きに行ったとき、日常とは違った空間で演奏を聴きながら、なぜか違うことがフッて頭をよぎることがあって、何で今こんなことを思い出すんだろう、という感じなんですけど、そういうのが私は好きなんです。真剣に集中して聴くのも素晴らしいことですが、もっといろんな聴き方があっていいと思いますし、それは演劇にも当てはまることだと思います。それこそ80年代に唐十郎さんとかが出てきたときの爆発力というか、あんなふうに芝居ってもっともっと自由でいいのに、と思いながら私はやっていたので、それで音楽とお芝居と半分半分でバランスを取らないとやって来られなかったんだと思います。そうやって中西さんたちと一緒に音楽の自由さを取り入れながらやってきたから、これまでお芝居を見たことがない人たちにも入りやすいような作品に成長していったのかなと思います。
稽古場より
ーー今年で35年目ということになりますが、これまでお話しを聞いてきた中でも本当にいろいろなことがあった35年だったと思います。それでもここまで続けて来られた今の心境を、改めて教えてください。
去年のインタビューで「辞めるときには理由が必ず出てくる」とお話ししましたが、やっぱりやめる理由がないんですよ。芝居をやり続けることは大変なので、これまでも節目には「もうここで終わりでいいんじゃないか」という話になりました。でもそのたびに、私はまだそういう気持ちは持ってないな、と思って。続けてきた理由は、本当にシンプルにそれだけです。私の場合、多分やめるときというのは、どうしようもない理由が生まれたときだと思います。もう動けないとか、声が出ないとか。
私は芝居でも映画でも、内容がどんなものであっても「ああ、生きててよかった」「明日があるんだ」と思えるようなものであって欲しいと思っています。それが「表現」だし、そのために作品はあるんじゃないかなと思うんです。久しぶりの劇場公演で、どんな『僕のフレンチ』になるのか私自身もまだ見当がついていませんが、お客様にそう思ってもらえるような作品をお届けしますので、ぜひ足をお運びください。
取材・文=久田絢子

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