嵐山の景色にとけこむ福田美術館、嵯
峨嵐山文華館で若冲、北斎、芦雪――
初心者でも楽しめる江戸絵画の名品が
勢ぞろい

『ゼロからわかる江戸絵画ーあ!若冲、お!北斎、わぁ!芦雪』ー2023年10月18日(WED)~2024年1月8日(MON)福田美術館、嵯峨嵐山文華館
歌川広重の浮世絵、伊藤若冲の鶏、円山応挙や長沢芦雪の仔犬など誰もが一度が目にしたことのある江戸絵画の優品118点を紹介する『ゼロからわかる江戸絵画ーあ!若冲、お!北斎、わぁ!芦雪ー』が開催中。福田美術館、嵯峨嵐山文華館の2会場で開催する同展は、キャプションやパネルで江戸絵画の基礎知識や鑑賞ポイントがわかりやすく紹介されていて、日本画に精通している人はもちろん、江戸絵画に触れたことのない人でも楽しめる展覧会となっている。
「100年続く美術館」をコンセプトに2019年にオープンした私設美術館
観光客で賑わう嵐山・渡月橋
福田美術館
紅葉の季節が近づく京都・嵯峨嵐山は観光シーズン真っ盛り。たくさんの外国人観光客や旅行者で賑わう渡月橋を渡ると、大堰川(桂川)沿いに福田美術館が見えてくる。福田美術館は、四季折々の景色と日本美術の融和を目指し、「100年続く美術館」をコンセプトに、2019年にオープンした私設美術館。嵐山を日本文化の新たな発信拠点とするべく、約2,000点の所蔵作品と趣向を凝らした企画展で、京都のアートシーンを盛り上げている。

渡月橋の絶景を一望できるカフェを併設

パンとエスプレッソと福田美術館
蔵をイメージした展示室
洗練された和モダンな建物は、東京工業大学教授・安田幸一氏によるもの。蔵をイメージしてつくられた展示室や、四季折々の花が咲く庭、自然とつながる縁側のような廊下など、日本的な意匠が随所に盛り込まれている。来館者のみ利用できる館内のカフェ「パンとエスプレッソと福田美術館」には、大堰川と渡月橋を見渡せる180°のパノラマビューを望むことができる特等席も。スタイリッシュでありながら、日本を感じさせる癒しの空間でじっくりと鑑賞の余韻にひたることができる。

昨年再発見された長沢芦雪「大黒天図」を半世紀ぶりに公開
長沢芦雪「大黒天図」1786~1787年 福田美術館

第1会場の福田美術館では、17~18世紀にかけて京都で活躍した画家たちの作品を展示。「写生」を重視した絵画で革命を起こした農民出身の円山応挙、ユーモラスな作風で知名度を上げている弟子の長沢芦雪、近年爆発的な人気を得た伊藤若冲らの魅力に迫っていく。作品解説以外にも「絵を屏風に貼るのはなぜ?」といったQ&Aを書いた初心者向けのキャプションもいくつか設置されていて、興味深く鑑賞することができる。
本展覧会の目玉となるのは、52年ぶりに再発見された長沢芦雪の「大黒天図」。畳一畳の画面いっぱいに描かれた大黒天は迫力満点。芦雪が筆を紙に振り下ろす様子が目に浮かぶような躍動感にあふれている。大黒天の福々しい表情に加え、打出の小槌、鏡餅などおめでたいものがたくさん描かれていて、なんだか見ているだけで商売繁盛のご利益がありそうだ。
長沢芦雪「親子犬図」18世紀 個人蔵

花を咲かせる藤の下でくつろぐ母犬と8匹の子犬たち。長沢芦雪が描く犬は、毛のふわふわの質感までうまく表現されていて、今にも動き出しそう。師匠の丸山応挙が描く犬は、理想的なかわいらしさが表現されていたが、芦雪は道端にいそうな身近な犬を描くことが多かったという。横座りしている犬は芦雪の作品にたびたび登場しているとのこと。お気に入りのポーズだったのだろう。
伊藤若冲「蕪に双鶏図」18世紀 福田美術館

「蕪に双鶏図」は、若沖が30代に描いた初期作品。蕪畑の中につがいの鶏が描かれていて、雄鶏は首、胸、尾など身体がダイナミックに描かれているのに対し、雌鶏は画面下に生える蕪の葉の後ろでうずくまっている。2020年に国宝となった代表作「動植綵絵」にみられる緻密な描写や大胆な構図などの特徴がすでに確認できる貴重な作品だ。
日本画の2大流派、狩野派・琳派に迫る
海北友松画 玉室宗珀ほか賛「禅宗祖師・散聖図押絵貼屏風」17世紀 福田美術館

師匠に弟子入りして技術を会得することが一般的だった江戸時代。室町時代から何代にもわたって技術を継承していった狩野派は、幕府や宮中などの権力者からの注文に応じ、江戸城や京都・二条城をはじめ、大型建築の障壁画を手がけていた。しかし、京都と江戸において、師匠につかずに尊敬する絵師の表現を継承した琳派が出現。
そんな狩野派・琳派の歴史を学びながら鑑賞する美しい屏風絵からは、それぞれの奥深さが感じられ、そのスケールに圧倒される。屏風の数え方や掛け軸の仕組みについての詳しい解説もあるので、絵の形状に注目して観るのもおもしろい。
現代作家・品川亮の個展を同時開催

品川亮 個展「Re:Action」

福田美術館内のパノラマギャラリーでは、日本絵画の流れを意識しつつ、現代絵画の可能性に挑戦する現代作家・品川亮による個展「Re:Action」を同時開催。琳派をはじめ江戸絵画から着想を得て創作する新進気鋭の作品からは、「たらし込み」などの技法や金箔を使った表現に琳派の特徴をとらえることができる。

品川亮 1987年大阪府豊中市生まれ 京都を拠点に活動中

プレス内覧会には、品川氏も来場。日本画を始める前後にイタリアやスイスに滞在していたという品川氏。「海外から日本を見たときに、寺で見る襖や掛け軸のなど日本の美しさをポジティブに捉えたコンテンポラリーアートがないと思ったんです。それならば自分で作ろうと挑戦をしています」と現在の表現に至ったきっかけについてコメント。品川氏が初めて描いた「嵯峨菊」から2023年の作品まで彼が生み出した作品をコンパクトな空間で楽しむことができる。
晩年まで絵に情熱を注いだ葛飾北斎の貴重な肉筆画

第2会場の嵯峨嵐山文華館

続いて、福田美術館から徒歩5分ほどのところにある嵯峨嵐山文華館に移動。嵯峨嵐山文華館は、嵯峨嵐山で誕生したと伝えられる百人一首の歴史や魅力、日本画の粋を伝える美術館だ。百人一首にまつわる常設展のほか、京都文化を紹介する企画展を実施している。四季折々の彩りが美しい石庭に面してカフェテラスも併設されているので、こちらも嵐山観光とあわせて楽しみたい。

第2会場の嵯峨嵐山文華館では、江戸の庶民の生活や流行、役者などを題材にした浮世絵を紹介。浮世絵には画家が直接描いた肉筆画と画家の下絵をもとに印刷した木版画がある。木版画は大量生産が可能で、広く流通することができたため、多くの人々の目に触れ、現在の雑誌や広告のような役割を果たしたのだ。
葛飾北斎「大天狗図」1839年 福田美術館

福田美術館では、1点ものの貴重な肉筆浮世絵を約40点所蔵。本展では、その中から選りすぐりの作品を公開している。中でもアクロバティックな構図が目を引く葛飾北斎「大天狗図」は、90歳まで生きた北斎が80歳のときに描いた貴重な作品。世界中の画家に影響を与えた北斎の才気ほとばしるエネルギーを感じることができる。
祇園井特「京妓美人図」18~19世紀 福田美術館
ほかにも江戸時代の歌舞伎や遊郭といった享楽的な風俗が描かれた風俗画や、18世紀から19世紀の京都で活躍した祇園井特の個性あふれる美人画を公開。さまざまな画題によって描かれた絵から江戸時代の庶民の生活や文化を知ることができる。
歌川広重「東海道五十三次」の版画55点を一挙公開(展示替えあり)
嵯峨嵐山文華館2F畳ギャラリー
歌川広重「東海道五十三次」1833年頃 福田美術館
そして、浮世絵版画の代表作として忘れてはならないのが歌川広重の「東海道五十三次」。全55点の版画を、2Fの畳ギャラリーにて、前期・後期に分けて一挙公開している。当時の人々は、多くの難所を乗り越えながら、江戸から京都へ2週間をかけて移動したそう。長旅で疲れた身体を癒す宿場の風景には、さまざまな各地の名物やお土産も描かれている。小田原のういろう、由比の桜えび、鞠子のとろろ汁……厳しい旅の途中で美味しいものに出会うよろこびは大きなものだったに違いない。靴をぬいで、壮大な大広間で畳の香りに癒されながら一緒に旅をしているような気分に。
嵐山の美しい自然を間近に、個性あふれる画家たちの江戸絵画を堪能できる本展。嵐山観光と合わせて芸術の秋を楽しんでみては。
『ゼロからわかる江戸絵画 ーあ!若冲、お!北斎、わぁ!芦雪ー』は、2023年10月18日(水)~2024年 1月8日(月・祝)まで福田美術館と嵯峨嵐山文華館にて開催中。前期は10月18日(水)~12月4日(月)、後期は、12月6日(水)~2024年1月8日(月・祝)で展示替えが行われる。
取材・文・撮影=岡田あさみ

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