FEATURE / Brightness Music & Art
Festival10周年を迎えた音楽とアート
の総合芸術祭。都心近郊に現れるユー
トピアの足跡、魅力を紐解く 10周年
を迎えた音楽とアートの総合芸術祭。
都心近郊に現れるユートピアの足跡、
魅力を紐解く

Text by STDK
Photo by Official

今週末10月21日(土)〜22(日)の2日間にわたって神奈川・川崎ちどり公園を舞台に開催される『Brightness Music & Art Festival』。クラブ・シーンを中心に活動し、本パーティの立ち上がりから“いちファン”として参加してきた筆者が、10周年を迎えるこの度の開催を記念し回想するとともに、ダンス・ミュージック・ファンのみならず日本の音楽イベント、フェス、アート・ファンまで幅広くその魅力をお伝えしたい。

『Brightness』を体験した背景。ロケーション・環境にこだわったパーティの出現

90年代より当時隆盛を究めつつあったダンス・ミュージック・シーン、いわゆる“クラブ界隈”に身を置いてきた筆者。現在よりも店舗数はもちろん少なかったものの大音量のサウンドシステムから流れる欧米発のダンス・ミュージックを体感するため、若者たちはこぞって毎週末“クラブ”に赴いた。

芝浦GOLD、南青山MANIAC LOVE、代官山AIR、西麻布YELLOW……コアなダンス・ミュージック好きであれば年代を超えて今も語り継がれる伝説のヴェニューたち。未知の世界へ足を踏み入れることやライブ・コンサートでは体験できない知り合い以外との会話とコミュニケーションが発生するクラブに、ある種のスリルと期待を持ちながら過ごす一夜。メディアやSNSで紹介されてる海外アーティストのプレイを至近距離で体感できる僥倖、反復する音楽とライティングなどの演出により時間を追うごとに没入していく自分。そんな体験を重ねていくことが未だにやめられず四半世紀が経つ。閉鎖された建物内クラブでの音楽体験とは違う経験を求めて、屋外のキャンプ場などで開催されるレイヴもこの時期より増えていった。
時は2013年、知人の紹介でその当時お台場海浜エリアにあるクリエイティブ・アパートメント・ビル「SOHO」の屋上と階下のバーを舞台に開催されていた『Brightness』に初めて参加することに。お台場の景色を一望できる屋上デッキにて当時はディープ・ハウスを中心としたラインナップとジャム・バンドによる演奏が行われており、日中はデッキに配置されたハンモックにゆられながらウトウトし、夜は徐々にダンサブルな音楽へと変わっていくパーティのコンセプトに大変共感したことを強く覚えている。
5年目となる2017年開催時にはあまりの期待度に数時間の入場規制が発生するなど、着実に『Brightness』が掲げる精神性と空間演出を体験したいファンが筆者の想像を超えて存在していることを強く実感した瞬間でもあった。2018年開催を最後にお台場での開催に一区切りをつけた彼らは、WOMBやVENTなど都内のビッグ・クラブでも海外アーティストを招聘したパーティを開催していったのだが、彼らの気持ちが野外開催に向かったきっかけはやはりパンデミックであった。

屋内会場でのイベント開催や外出までも制限されることになった中、芸術活動を止めないことを目標に社会的リスクも抱えながらも、都市近郊の屋外会場での開催にこだわり、ちどり公園へと会場を移すことを判断した。2020秋よりこれまで計4回ちどり公園での開催をしたことがさらにファンに支持される要因となったと言っても過言ではないだろう。社会的逆風の中に新価値を提案する行動・実行するマインドこそが芸術なのである。

『Brightness』前半、オススメの過ごし方と注目のラインナップ

これまで開催された『Brightness』の歴史を一通りご紹介したところで、先日公開されたタイムテーブルをもとに順を追って今回出演するアーティストのおすすめポイントをご紹介したい。

まず第一に嬉しいポイントはアクセスのよさであろう。川崎駅よりタクシーもしくはバスで20分ほどの立地にも関わらず、開放的で広々とした空間で思う存分音楽やアートを楽しめることが、筆者のような遠出が苦手でコストを気にしてしまう方々にとっては有益な部分であろう。そういった部分にもこだわって開催していることが、筆者としてはカスタマーファーストのように感じるところである。
11:00開演ということで筆者は毎回オープン後必ず最初にチェックするのが飲食店とバーのラインナップだ。お昼前に到着すると朝出発してからどうしても食事を取りたくなるので、各店のメニューをしっかりチェックするのが毎回の恒例行事である。気になるフードとオフィシャル・バーのドリンクを片手に、まず向かうのはSEASIDE AREAだ。都心近郊で海風を感じられる貴重な場所で東京湾に浮かび行き交う船と海鳥たちと共に京浜工業地帯を眺めながら食事に舌鼓を打つのはオツなものである。今回も様々な種類の“フェス飯”が販売されるとのことで、長時間のフェスティバルを過ごすためにチョイスを楽しみながら過ごしてもらいたい。
オープニングから夕刻にかけては長年『Brightness』を支え続けてきたPOPPO、SIGNAL&RINN、Da Yamaらローカル・アーティストによるウォームアップに始まり、DJ YOGURTなど現場環境にフィットする最適解な選曲センスを持つDJを挟みつつ、17:30〜SEASIDE AREAではライブ・アクトによるパフォーマンスがスタートする。

ラッパーの愛染-eyzen-、ウッドベースを弾きながらメロウでジャジーなラップを奏でるNAGAN SERVER、静岡・磐田が産んだ多人種ラップ・ユニットGREEN KIDS、そしてAwichを中心に高まっている沖縄ヒップホップ・シーンを牽引し、その注目度でインターナショナルな存在となりつつあるOZwoldと続く。
ここ数年、ヒップホップ・カルチャーでは通常ビートから倍速へ展開し、アッパーなビートと4つ打ちにラップを乗せる技法や、ディープでスリリングなシンセサイザーによるメロディ、民族的でヒプノティックなサンプリング・ソースが取り入れられることが多くなっている。新世代のプロデューサーやラッパーが音楽キャリア形成の中で90年代に世界的隆盛をきわめたトランスやレイヴ・シーンの楽曲を体感し、自らの楽曲に取り入れてグルーヴを生むことに起因していることを、『Brightness』は2020年の段階で読み取り、ヒップホップとレイヴ・カルチャーの現場での相性のよさに目をつけ、双方のアーティストを融合させることに挑戦。ファンからも評価を受けている。

その後ヒップホップ、ベース・ミュージック・シーンの重鎮DJ/プロデューサーDJ QUIETSTORM、90年代からのヒップホップ伝道者YOU THE ROCK★、バトルDJとして日本を代表する存在DJ KENTARO、ジャパニーズ・ヒップホップの金字塔的アーティストTHA BLUE HERBのO.N.Oによる貴重な新セッティングでのライブと、怒涛の流れが展開される。

多彩なライブ・アクト、装飾やアートといった視覚的要素も

シーンの礎を築いたベテランたちと交互に出演する形となる新世代のプロデューサー/アーティストによるライブも必見だ。ニューウェーブ・ラップを体現する“なかむらみなみ”、奇妙で絶妙なポップ感あるトラックにリリックを乗せるZOMBIE-CHANG、CMへの楽曲提供やロック・フェスへの出演も続く“どんぐりず”、産まれた環境やバックボーンを活かしディープなトラック/ビートにフロウを落とし込む釈迦坊主らによる立て続けのライブは、シーサイド・フロアの朝方まで続いていく。

新世代アーティストをブッキングすることにより、幅広い世代の音楽好きが参加しているのも『Brightness』の特徴だろう。彼らのステートメントにもあるように、特に若い世代の音楽好きの方々に対する配慮と受け入れ態勢は寛容である。25歳以下の方々にとって大変お得な「サンキューアンダー25チケット」の販売によって、音楽・アートに対して興味のある学生や若年層の顧客を取り込んでいる姿勢は大変共感できる。
一方、広く開放的な空間であるGROUND AREAでは、夕刻よりテクノ/レイヴ・シーンにおいて数多くの出演で全国各地のフロアを沸かすDJによるグルーブが時間と風景の経過とリンクしつつメイクされていく。ERIMIYA、DANA & DANDAN、YUKIMASA、EMIRI TSUKUI、TOMO HACHIGA、KOJIROと続き、『Brightness』主催であるTAICHI KAWAHIRAからKALI、DAIJIROと続き朝を迎えることになる。

また、同エリアで注目したいのが、DJのみならずオープンからエンディングにかけてリアルタイムに完成に向けて制作されるアーティストたちによるライブ・ペインティングと会場内に散りばめられた装飾、アーティスト作品の展示だ。フロアを囲うように装飾されるKanoya Project、HEAVEN HUG DESIGNの有機質なデコレーション、15組にもおよぶライブ・ペインターたちがデコレーションにマッチしたキャンバスに作品を描いていく。音楽と屋外の爽快感を感じながら完成に向かっていくアートの制作過程を目撃できるのは、本フェスの見どころのひとつである。
中でも、MC漢率いる伝説のラップ・グループ“MSC”メンバーでもあったグラフィティ・アーティスト/漫画家でもあるTABOO1によるスペシャル・ライブ・ショーケースは見逃せない。そして、フィルム・シートをキャンバスにしグラフィティを描き、最後は破棄してしまうという現場でしか体感することができないVIX、ヴィヴィットでポップながらもサイケデリアを感じるNancy Snake、普段は数多くのストリートに作品を描くYESCAによる壮大かつ刹那的なライブ・アートにもぜひ注目を。

海辺で朝日を眺める贅沢なひととき〜都市型フェスならではのリフレッシュ方法

深夜まで充分に堪能し、夜が明けてくるとさらに驚きのサプライズにも出会えるだろう。ちどり公園が海に面した野外会場であることの最大の享受は、海辺から眺める朝日だ。筆者はこの時間のちどり公園の朝日と海のグラデーションを4度体感したが、素晴らしい景色にフィットさせるDJに耳を傾けつつ、コーヒーを片手にぼーっと水平線を眺めることができる。とても贅沢な時間である。そこには思い思いに語らい合う人々や、踊り疲れてチルする人々の解放的な瞬間が垣間見れる。
テント・チケットを購入していない方々で夜通しフェスを体感するのは体力的にキツいという方々もいらっしゃるだろう。そんな方々には川崎が会場である利点をお伝えしておく。会場付近から川崎駅の区間には銭湯が数多く点在しているのだ。なかでも「中島湯」「かまぶろ湯」は6:00〜深夜0:00まで営業しており、一度会場を後にし、回復に向かうのもオススメ。そして川崎駅前にもサウナやカプセルホテル、シティ・ホテルが多く、リフレッシュしてから再度ちどり公園に訪れる人も多い。都市近郊会場という利点を活かし、自分なりのスケジュールを組んでみてはいかがだろうか。

■参考リンク: 川崎銭湯どっと混む(https://kawasaki1010.com/map.html)
夜が明けGROUND AREAで始まるのはパフォーマー、イーサンによる「サイケデリックラジオ体操」だ。反復するビートで踊り疲れた時間帯に行われるのだが、これがまたクセになる。ラジオ体操とは実に計算され組まれた体操プログラムであることを身を持って体感できるだろう。リフレッシュしてスタートする“2日目”のトップバッターとなるのは、KAORU INOUE。豊富な経験値に裏付けられた確かなセンスと巧みな選曲術で最高の朝を演出してくれるに違いない。そしてカルト的人気を誇る野外レイヴ『The Labyrinth』レジデント・SO、海外からのオファーも多くこちらも日本を代表するテクノDJ/アーティストのDJ SODEYAMAと続き。スペシャルなサンデー・モーニングを彩っていく。

そして、元・電気グルーヴのメンバーでありMETAFIVETESTSETでの活動で存在感を知らしめる砂原良徳と続き、14:00〜はインターナショナル・アーティストでありパーティ・アイランド、イビザ島での活動などからチルアウト/アンビエントのオリジネーターとして世界的にも著名なMIX MASTER MORRISが登場する。メロウでエモーショナルなプレイ・イメージのある彼だが、この日はロンドンでスタートしたキャリアを振り返るかのように、フロア・ライクなプレイを準備しているとのこと。キャリアに裏付けられたプレイでマジカルな瞬間を生んでくれるだろう。

SEASIDE AREAではヨーロッパ・ツアーを成功させその存在がライブ・シーンにも響き始めているライブ・ユニット、Good Fellas Tokyoや、ダンス・ユニットSIVAのショーケースなど、DJのみならず視覚と聴覚を楽しませてくれるアクトが続き、12:30〜は90年代よりラップ・シーンで常に高いクオリティのライブを披露する仙台のラップ・グループGAGLEのライブ、ベース・ミュージックを中心としながらあらゆるジャンルのダンス・ミュージックと融合させるプレイスタイルでDiploやGiles Petersonまでをも虜にするDJクルー〈TREKKIE TRAX CREW〉と続き、実にバラエティ豊かな音楽体験が待っている。

サンデー・アフターヌーンから加速、非日常感を演出する大団円へ

今回、GROUND AREAにはお子さんがアートを体験できる「キッズ・アート・ブース」が登場。これまでも数多くのファミリー層も参加している同フェスだが、お子さん向けの雑貨やお菓子を販売する店舗も参加していることや、お台場開催時からフロア演出として展開している〈HUMMOCK 2000〉による大型ハンモックが設置されていることもあり、日中は親子や子供同士でフェスを楽しむ微笑ましい瞬間を目の当たりにすることができる。
そして、サンデー・アフターヌーンの時間帯に突入し同エリアは一気に加速していく。90年代ロック・シーンを支えたTV番組でのMCやスタジアム級海外アーティストの橋渡し役として名高いBryan Burton-Lewis、サイケデリック・トランスとロックを融合させたライブ・パフォーマンスで海外フェスや『SUMMER SONIC』にも出演したJOUJOUKAが『Brightness』のために12年ぶりにライブ・パフォーマンスを披露する。

同じく90年代に国内外のレーベルより楽曲を多数リリースし、ジャパニーズ・テクノの礎を築いたアーティストの中の1組であるCO-FUSIONのギグも、SEASIDE AREAにてぜひ体感してほしい。さらに、EVE、Disc Junkeyと続き、同エリアのラストを締めくくるのは、これまでの『Brightness』ちどり公園開催時にトリを務めてきたトランス・クイーン、REE.Kとなる。
どちらのフロアも熱が高まっていくなか、GROUND AREAでは欧米のビッグ・フェスへの出演が続き今最も海外でのオファーが絶えないDJユニットDRUNKEN KONG、そしてこの度の大トリを務めるジャパニーズ・テクノ・ゴッドKENISHIIと、終焉に向けて畳み掛けるような流れが展開。日が落ちていくと共にSense Of Wonderによるレーザーとスモーク、VJチーム ACGUYの映像、そして会場内に施されたデコレーションが組み合わさり壮大な非日常空間を空間を演出し、大団円を迎える。

ダンス・ミュージックのみならず音楽と芸術がもたらす“パワー”や“感動”を信じ、純粋に人々と共感できる“特別な場所”を創ることにこだわりつづけてきた『Brightness』。10周年を迎える今回の開催にも大いに期待したい。まるでテーマパークで体感するような感動と歓喜の瞬間がそこにあるはずだ。
【イベント情報】

『Brightness Music & Art Festival 2023 – 10th Anniversary -』

日程:2023年10月21日(土)10:00〜10月22日(日) ※オールナイト開催
会場:神奈川・川崎 ちどり公園

■ チケット詳細(ZAIKO)(https://brightness.zaiko.io/item/355589)

■ 『Brightness Music & Art Festival』 オフィシャル・サイト(https://brightness-music.com/)
Text by STDK
Photo by Official

今週末10月21日(土)〜22(日)の2日間にわたって神奈川・川崎ちどり公園を舞台に開催される『Brightness Music & Art Festival』。クラブ・シーンを中心に活動し、本パーティの立ち上がりから“いちファン”として参加してきた筆者が、10周年を迎えるこの度の開催を記念し回想するとともに、ダンス・ミュージック・ファンのみならず日本の音楽イベント、フェス、アート・ファンまで幅広くその魅力をお伝えしたい。

『Brightness』を体験した背景。ロケーション・環境にこだわったパーティの出現

90年代より当時隆盛を究めつつあったダンス・ミュージック・シーン、いわゆる“クラブ界隈”に身を置いてきた筆者。現在よりも店舗数はもちろん少なかったものの大音量のサウンドシステムから流れる欧米発のダンス・ミュージックを体感するため、若者たちはこぞって毎週末“クラブ”に赴いた。

芝浦GOLD、南青山MANIAC LOVE、代官山AIR、西麻布YELLOW……コアなダンス・ミュージック好きであれば年代を超えて今も語り継がれる伝説のヴェニューたち。未知の世界へ足を踏み入れることやライブ・コンサートでは体験できない知り合い以外との会話とコミュニケーションが発生するクラブに、ある種のスリルと期待を持ちながら過ごす一夜。メディアやSNSで紹介されてる海外アーティストのプレイを至近距離で体感できる僥倖、反復する音楽とライティングなどの演出により時間を追うごとに没入していく自分。そんな体験を重ねていくことが未だにやめられず四半世紀が経つ。閉鎖された建物内クラブでの音楽体験とは違う経験を求めて、屋外のキャンプ場などで開催されるレイヴもこの時期より増えていった。
時は2013年、知人の紹介でその当時お台場海浜エリアにあるクリエイティブ・アパートメント・ビル「SOHO」の屋上と階下のバーを舞台に開催されていた『Brightness』に初めて参加することに。お台場の景色を一望できる屋上デッキにて当時はディープ・ハウスを中心としたラインナップとジャム・バンドによる演奏が行われており、日中はデッキに配置されたハンモックにゆられながらウトウトし、夜は徐々にダンサブルな音楽へと変わっていくパーティのコンセプトに大変共感したことを強く覚えている。
5年目となる2017年開催時にはあまりの期待度に数時間の入場規制が発生するなど、着実に『Brightness』が掲げる精神性と空間演出を体験したいファンが筆者の想像を超えて存在していることを強く実感した瞬間でもあった。2018年開催を最後にお台場での開催に一区切りをつけた彼らは、WOMBやVENTなど都内のビッグ・クラブでも海外アーティストを招聘したパーティを開催していったのだが、彼らの気持ちが野外開催に向かったきっかけはやはりパンデミックであった。

屋内会場でのイベント開催や外出までも制限されることになった中、芸術活動を止めないことを目標に社会的リスクも抱えながらも、都市近郊の屋外会場での開催にこだわり、ちどり公園へと会場を移すことを判断した。2020秋よりこれまで計4回ちどり公園での開催をしたことがさらにファンに支持される要因となったと言っても過言ではないだろう。社会的逆風の中に新価値を提案する行動・実行するマインドこそが芸術なのである。

『Brightness』前半、オススメの過ごし方と注目のラインナップ

これまで開催された『Brightness』の歴史を一通りご紹介したところで、先日公開されたタイムテーブルをもとに順を追って今回出演するアーティストのおすすめポイントをご紹介したい。

まず第一に嬉しいポイントはアクセスのよさであろう。川崎駅よりタクシーもしくはバスで20分ほどの立地にも関わらず、開放的で広々とした空間で思う存分音楽やアートを楽しめることが、筆者のような遠出が苦手でコストを気にしてしまう方々にとっては有益な部分であろう。そういった部分にもこだわって開催していることが、筆者としてはカスタマーファーストのように感じるところである。
11:00開演ということで筆者は毎回オープン後必ず最初にチェックするのが飲食店とバーのラインナップだ。お昼前に到着すると朝出発してからどうしても食事を取りたくなるので、各店のメニューをしっかりチェックするのが毎回の恒例行事である。気になるフードとオフィシャル・バーのドリンクを片手に、まず向かうのはSEASIDE AREAだ。都心近郊で海風を感じられる貴重な場所で東京湾に浮かび行き交う船と海鳥たちと共に京浜工業地帯を眺めながら食事に舌鼓を打つのはオツなものである。今回も様々な種類の“フェス飯”が販売されるとのことで、長時間のフェスティバルを過ごすためにチョイスを楽しみながら過ごしてもらいたい。
オープニングから夕刻にかけては長年『Brightness』を支え続けてきたPOPPO、SIGNAL&RINN、Da Yamaらローカル・アーティストによるウォームアップに始まり、DJ YOGURTなど現場環境にフィットする最適解な選曲センスを持つDJを挟みつつ、17:30〜SEASIDE AREAではライブ・アクトによるパフォーマンスがスタートする。

ラッパーの愛染-eyzen-、ウッドベースを弾きながらメロウでジャジーなラップを奏でるNAGAN SERVER、静岡・磐田が産んだ多人種ラップ・ユニットGREEN KIDS、そしてAwichを中心に高まっている沖縄ヒップホップ・シーンを牽引し、その注目度でインターナショナルな存在となりつつあるOZwoldと続く。
ここ数年、ヒップホップ・カルチャーでは通常ビートから倍速へ展開し、アッパーなビートと4つ打ちにラップを乗せる技法や、ディープでスリリングなシンセサイザーによるメロディ、民族的でヒプノティックなサンプリング・ソースが取り入れられることが多くなっている。新世代のプロデューサーやラッパーが音楽キャリア形成の中で90年代に世界的隆盛をきわめたトランスやレイヴ・シーンの楽曲を体感し、自らの楽曲に取り入れてグルーヴを生むことに起因していることを、『Brightness』は2020年の段階で読み取り、ヒップホップとレイヴ・カルチャーの現場での相性のよさに目をつけ、双方のアーティストを融合させることに挑戦。ファンからも評価を受けている。

その後ヒップホップ、ベース・ミュージック・シーンの重鎮DJ/プロデューサーDJ QUIETSTORM、90年代からのヒップホップ伝道者YOU THE ROCK★、バトルDJとして日本を代表する存在DJ KENTARO、ジャパニーズ・ヒップホップの金字塔的アーティストTHA BLUE HERBのO.N.Oによる貴重な新セッティングでのライブと、怒涛の流れが展開される。

多彩なライブ・アクト、装飾やアートといった視覚的要素も

シーンの礎を築いたベテランたちと交互に出演する形となる新世代のプロデューサー/アーティストによるライブも必見だ。ニューウェーブ・ラップを体現する“なかむらみなみ”、奇妙で絶妙なポップ感あるトラックにリリックを乗せるZOMBIE-CHANG、CMへの楽曲提供やロック・フェスへの出演も続く“どんぐりず”、産まれた環境やバックボーンを活かしディープなトラック/ビートにフロウを落とし込む釈迦坊主らによる立て続けのライブは、シーサイド・フロアの朝方まで続いていく。

新世代アーティストをブッキングすることにより、幅広い世代の音楽好きが参加しているのも『Brightness』の特徴だろう。彼らのステートメントにもあるように、特に若い世代の音楽好きの方々に対する配慮と受け入れ態勢は寛容である。25歳以下の方々にとって大変お得な「サンキューアンダー25チケット」の販売によって、音楽・アートに対して興味のある学生や若年層の顧客を取り込んでいる姿勢は大変共感できる。
一方、広く開放的な空間であるGROUND AREAでは、夕刻よりテクノ/レイヴ・シーンにおいて数多くの出演で全国各地のフロアを沸かすDJによるグルーブが時間と風景の経過とリンクしつつメイクされていく。ERIMIYA、DANA & DANDAN、YUKIMASA、EMIRI TSUKUI、TOMO HACHIGA、KOJIROと続き、『Brightness』主催であるTAICHI KAWAHIRAからKALI、DAIJIROと続き朝を迎えることになる。

また、同エリアで注目したいのが、DJのみならずオープンからエンディングにかけてリアルタイムに完成に向けて制作されるアーティストたちによるライブ・ペインティングと会場内に散りばめられた装飾、アーティスト作品の展示だ。フロアを囲うように装飾されるKanoya Project、HEAVEN HUG DESIGNの有機質なデコレーション、15組にもおよぶライブ・ペインターたちがデコレーションにマッチしたキャンバスに作品を描いていく。音楽と屋外の爽快感を感じながら完成に向かっていくアートの制作過程を目撃できるのは、本フェスの見どころのひとつである。
中でも、MC漢率いる伝説のラップ・グループ“MSC”メンバーでもあったグラフィティ・アーティスト/漫画家でもあるTABOO1によるスペシャル・ライブ・ショーケースは見逃せない。そして、フィルム・シートをキャンバスにしグラフィティを描き、最後は破棄してしまうという現場でしか体感することができないVIX、ヴィヴィットでポップながらもサイケデリアを感じるNancy Snake、普段は数多くのストリートに作品を描くYESCAによる壮大かつ刹那的なライブ・アートにもぜひ注目を。

海辺で朝日を眺める贅沢なひととき〜都市型フェスならではのリフレッシュ方法

深夜まで充分に堪能し、夜が明けてくるとさらに驚きのサプライズにも出会えるだろう。ちどり公園が海に面した野外会場であることの最大の享受は、海辺から眺める朝日だ。筆者はこの時間のちどり公園の朝日と海のグラデーションを4度体感したが、素晴らしい景色にフィットさせるDJに耳を傾けつつ、コーヒーを片手にぼーっと水平線を眺めることができる。とても贅沢な時間である。そこには思い思いに語らい合う人々や、踊り疲れてチルする人々の解放的な瞬間が垣間見れる。
テント・チケットを購入していない方々で夜通しフェスを体感するのは体力的にキツいという方々もいらっしゃるだろう。そんな方々には川崎が会場である利点をお伝えしておく。会場付近から川崎駅の区間には銭湯が数多く点在しているのだ。なかでも「中島湯」「かまぶろ湯」は6:00〜深夜0:00まで営業しており、一度会場を後にし、回復に向かうのもオススメ。そして川崎駅前にもサウナやカプセルホテル、シティ・ホテルが多く、リフレッシュしてから再度ちどり公園に訪れる人も多い。都市近郊会場という利点を活かし、自分なりのスケジュールを組んでみてはいかがだろうか。

■参考リンク: 川崎銭湯どっと混む(https://kawasaki1010.com/map.html)
夜が明けGROUND AREAで始まるのはパフォーマー、イーサンによる「サイケデリックラジオ体操」だ。反復するビートで踊り疲れた時間帯に行われるのだが、これがまたクセになる。ラジオ体操とは実に計算され組まれた体操プログラムであることを身を持って体感できるだろう。リフレッシュしてスタートする“2日目”のトップバッターとなるのは、KAORU INOUE。豊富な経験値に裏付けられた確かなセンスと巧みな選曲術で最高の朝を演出してくれるに違いない。そしてカルト的人気を誇る野外レイヴ『The Labyrinth』レジデント・SO、海外からのオファーも多くこちらも日本を代表するテクノDJ/アーティストのDJ SODEYAMAと続き。スペシャルなサンデー・モーニングを彩っていく。

そして、元・電気グルーヴのメンバーでありMETAFIVE、TESTSETでの活動で存在感を知らしめる砂原良徳と続き、14:00〜はインターナショナル・アーティストでありパーティ・アイランド、イビザ島での活動などからチルアウト/アンビエントのオリジネーターとして世界的にも著名なMIX MASTER MORRISが登場する。メロウでエモーショナルなプレイ・イメージのある彼だが、この日はロンドンでスタートしたキャリアを振り返るかのように、フロア・ライクなプレイを準備しているとのこと。キャリアに裏付けられたプレイでマジカルな瞬間を生んでくれるだろう。

SEASIDE AREAではヨーロッパ・ツアーを成功させその存在がライブ・シーンにも響き始めているライブ・ユニット、Good Fellas Tokyoや、ダンス・ユニットSIVAのショーケースなど、DJのみならず視覚と聴覚を楽しませてくれるアクトが続き、12:30〜は90年代よりラップ・シーンで常に高いクオリティのライブを披露する仙台のラップ・グループGAGLEのライブ、ベース・ミュージックを中心としながらあらゆるジャンルのダンス・ミュージックと融合させるプレイスタイルでDiploやGiles Petersonまでをも虜にするDJクルー〈TREKKIE TRAX CREW〉と続き、実にバラエティ豊かな音楽体験が待っている。

サンデー・アフターヌーンから加速、非日常感を演出する大団円へ

今回、GROUND AREAにはお子さんがアートを体験できる「キッズ・アート・ブース」が登場。これまでも数多くのファミリー層も参加している同フェスだが、お子さん向けの雑貨やお菓子を販売する店舗も参加していることや、お台場開催時からフロア演出として展開している〈HUMMOCK 2000〉による大型ハンモックが設置されていることもあり、日中は親子や子供同士でフェスを楽しむ微笑ましい瞬間を目の当たりにすることができる。
そして、サンデー・アフターヌーンの時間帯に突入し同エリアは一気に加速していく。90年代ロック・シーンを支えたTV番組でのMCやスタジアム級海外アーティストの橋渡し役として名高いBryan Burton-Lewis、サイケデリック・トランスとロックを融合させたライブ・パフォーマンスで海外フェスや『SUMMER SONIC』にも出演したJOUJOUKAが『Brightness』のために12年ぶりにライブ・パフォーマンスを披露する。

同じく90年代に国内外のレーベルより楽曲を多数リリースし、ジャパニーズ・テクノの礎を築いたアーティストの中の1組であるCO-FUSIONのギグも、SEASIDE AREAにてぜひ体感してほしい。さらに、EVE、Disc Junkeyと続き、同エリアのラストを締めくくるのは、これまでの『Brightness』ちどり公園開催時にトリを務めてきたトランス・クイーン、REE.Kとなる。
どちらのフロアも熱が高まっていくなか、GROUND AREAでは欧米のビッグ・フェスへの出演が続き今最も海外でのオファーが絶えないDJユニットDRUNKEN KONG、そしてこの度の大トリを務めるジャパニーズ・テクノ・ゴッドKENISHIIと、終焉に向けて畳み掛けるような流れが展開。日が落ちていくと共にSense Of Wonderによるレーザーとスモーク、VJチーム ACGUYの映像、そして会場内に施されたデコレーションが組み合わさり壮大な非日常空間を空間を演出し、大団円を迎える。

ダンス・ミュージックのみならず音楽と芸術がもたらす“パワー”や“感動”を信じ、純粋に人々と共感できる“特別な場所”を創ることにこだわりつづけてきた『Brightness』。10周年を迎える今回の開催にも大いに期待したい。まるでテーマパークで体感するような感動と歓喜の瞬間がそこにあるはずだ。
【イベント情報】

『Brightness Music & Art Festival 2023 – 10th Anniversary -』

日程:2023年10月21日(土)10:00〜10月22日(日) ※オールナイト開催
会場:神奈川・川崎 ちどり公園

■ チケット詳細(ZAIKO)(https://brightness.zaiko.io/item/355589)

■ 『Brightness Music & Art Festival』 オフィシャル・サイト(https://brightness-music.com/)

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