(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会

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うそとまことの境界を描いた心理ミス
テリー『アンダーカレント』/モキュ
メント風のミュージカル劇『シアター
・キャンプ』【週末映画コラム】

『アンダーカレント』(10月6日公開)
 かなえ(真木よう子)は家業の銭湯を継ぎ、夫の悟(永山瑛太)と共に幸せな日々を送っていた。ところがある日、突然悟が失踪してしまう。かなえは途方に暮れながらも、一時休業していた銭湯の営業をどうにか再開させる。
 数日後、銭湯組合の紹介で、堀(井浦新)と名乗る謎の男が現れ、住み込みで働くことに。かなえは友人に紹介されたうさんくさい探偵の山崎(リリー・フランキー)と共に悟の行方を捜しながら、堀との奇妙な共同生活を送るようになる。
 フランスを中心に海外でも人気のある豊田徹也の同名長編漫画を今泉力哉監督が実写映画化したヒューマンドラマ。
 劇中に「みんな本当のことより、心地いいうその方が好き」というせりふがあるが、なるほど、悟の失踪の謎、かなえや堀が抱える屈折の真相を明かしながら、うそとまことの境界を描いた一種の心理ミステリーとして見ることもできる。
 今泉監督は「人を分かるってどういうこと? というのがテーマ。他人について全て知ることなんてもちろんできないし、自分についてすらよく分からない。相手によって見え方が違っていたりする。それでも、相手を知ろうとするとか、分かろうとする、理解しようとする、寄り添うみたいなことが、すごく大事なんだと思う。映画を作った後に、公開に向けて取材を受ける中で、そういうことに気付いてきた」という。
 原作は「映画のような漫画」といわれている。今泉監督は映画化に際して「もちろん漫画としても素晴らしいけれど、生身の人間が演じることで初めて伝わるものがあると思った」と語っている。
 その言葉通り、昔なら高倉健が演じそうなストイックな役を演じた井浦、うさんくさいが実は…という探偵役が似合うリリー、何を考えているのか分からない瑛太といった具合に、主人公のかなえをめぐる三者三様の男たちを演じた役者たちの演技が見どころの一つになっている。今泉監督は群像劇を得意とするが、今回もかなえを取り巻く人々の群像劇として見ることができる。
 また、探偵がかなえと会う際に指定するいろいろな場所(喫茶店、遊園地、カラオケ店、海辺のカフェ)の描写も、実写映画ならではの動く絵としての面白さがあった。
『シアター・キャンプ』(10月6日公開)
 人気演劇スクールで、今夏の開校目前に校長が倒れて昏睡(こんすい)状態に。演劇に興味のない息子が引き継ぐが、実はスクールは経営破綻寸前。存続のための新作ミュージカル発表に残された時間は3週間。変人ぞろいの教師と子どもたちは劇を完成できるのか? 
 サンダンス映画祭で、USドラマチック審査員特別アンサンブルキャスト賞を受賞した本作の監督はニック・リーバーマン&モリー・ゴードン。脚本は2人に加えて、ノア・ガルビンと『ディア・エヴァン・ハンセン』(21)のベン・プラット。ゴードンのほかは皆出演もしている。中でもガルビンが全てをさらうようなもうけ役を得ている。
 というような、アメリカのショウビズ界の若き才能の持ち主と達者な子役たちによるモキュメント風のミュージカル劇。全編に舞台への愛憎があふれ、いい意味で、『フェーム』(80)や『コーラスライン』(85)の小型版、あるいはB級版のような味わいがある。
 キャンプは人種、性別、容姿などお構いなしのカオス状態というのがいかにも現代風だが、そこがまた面白い。加えて、粗くざらついた画面が、かえってドキュメンタリーっぽく見せる効果を発揮している。
(田中雄二)

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