MOROHAアフロ『逢いたい、相対。』ゲ
ストはランジャタイ・国崎和也ーー「
悲しい話はなぜ面白いのか」表現の出
発点、過去の自分が報われる瞬間につ
いて語る

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第四十回目のゲストは、ランジャタイの国崎和也。前回の伊藤幸司に続き、2回連続でランジャタイの登場。今回のキーワードは「可哀想ってなんで面白いのか」である。2人がこれまで体験したブルーなエピソードを立て続けに披露し、その度に爆笑し、それがなぜ面白いのかを紐解いていく。アフロは言った。「MOROHAも芸人さんも表現の出発点は同じなのかもしれない」。悲しい話、可哀想な話、寂しかった話を拾い集め、果たして彼らはどのように表現へと昇華するのか?
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
M-1決勝進出が決まり、モグライダーの芝さんと食べたラーメンは最高に美味かったね
(撮影を終えて、そのままノンストップで話し続ける2人)
アフロ:今まででこの人は売れるなって、パッと見て分かったことある?
国崎和也(以下、国崎):売れる前のフワちゃんに、俺らのライブに出てもらったことがあって。それがめちゃくちゃ面白くてさ、絶対に売れるなと思った人はフワちゃんが一番じゃないかな。なんかね、その場がめっちゃ明るくなるの。キャパ40人の高円寺の公民館に来てくれたんだけど、その会議室でもあの感じだった。
アフロ:今のまんま?
国崎:世に出る前から、フワちゃんはフワちゃんだったね。そこから1年半ぐらい経って『ウチのガヤ』(『ウチのガヤがすみません!』)のひな壇で、さっしー(指原莉乃)の友達みたいな感じで出てきて。テレビでもあのままのフワちゃんだった。
アフロ:国ちゃん自身は誰かに「お前は行くよ」って言われたことある?
国崎:ザ・ギースの尾関(高文)さんだけは、ずっと言ってくれていた。地下ライブってそんなにギャラを貰えないんだよ。500円とか1000円をもらって喜んでいたら、尾関さんが「いや、こんなもんじゃない。お前らは、もっともらえるようになるから」って。
アフロ:嬉しいね、めっちゃ。
国崎:嬉しかったね。逆に、1発で売れると思った人はいる?
アフロ:いるよ。共演して「初めて見たけどお前らヤバいわ。これからすごいことになるわ」って言った。でもムカついてるの。凄過ぎて悔しいから。それがMy Hair is Badというバンド。ただ「一緒にやるの2度目です」って言われたの。「そんなわけねぇだろ!」って言ったら本当に2回目だったのよ! めっちゃ恥ずかしかった。
国崎:そこからすぐ売れた?
アフロ:割とすぐ売れた。とはいえ1年半ぐらいかな。
国崎:すごいね! 俺、音楽の売れ方って分からないんだよ。お笑いは『M-1』があるから、まだ売れる糸口が見えるんだけど、音楽って明確に「これに出れば必ず売れます」みたいな大会がないじゃん。どういう道筋で売れるの? 
アフロ:しっかりした会社がついて、プロモーション費としてちゃんとお金をかけてくれて、テレビとかメディアに出してもらうっていうのが1つの方法かもね。あとYouTubeとかに音源やMVを上げてドーン、というパターンもある。もしくはライブハウスでお客さんがいないところから、まずは対バン相手を自分のファンにして、企画やイベントに呼んでもらう。で、そっちの音楽をやってる人たちの間で話題になってくると、少しずつお客さんがついてきて。
国崎:そこはお笑いと似てるね。
MOROHA アフロ、ランジャタイ 国崎和也
アフロ:俺たちは割とそんな感じだったね。お客さんがついて、そこそこ自分たちでやれるようになったタイミングで、ユニバーサルと仕事するようになった。パワーバランス的なのがあって、本当に何にもない状態でデカい会社と仕事をすると、実績がないからどうしても発言権がない。逆に、ある程度のキャリア積んだ後に仕事をすると、ちゃんとお互いがいいバランスで仕事を進められる。まあ、どのパターンがハマるのかは分からないんだけどね。俺は芸人さんの方が分からないんだよ。確かに、賞レースだけは分かりやすいよ。でもそれ以外ってさ「絶対に面白いしみんなも認めてるけど、この人の売れるタイミングはいつなんだろう?」という人ってめっちゃいるでしょ。
国崎:モグライダーの芝(大輔)さんがそうだったよ。MCもできて、トークもできて、大喜利も全部がパーフェクト。「絶対にいつか売れる」とみんな言っていたけど、俺は1番仲が良かったから、ずっと芝さんのことを近くで見ていて「こんな面白しくて、こんな売れないってことは、もう売れないんじゃないかな」と思った。
アフロ:そういう星の元っていうか。
国崎:うん。だけど、やっぱり売れたよね! でも注目されるきっかけは『M-1』じゃないだろうと思っていたけど。そういえば、モグライダーと俺らは同じ2021年に決勝へ行ったんだ! アレは嬉しかったな。
アフロ:決勝が発表されたタイミングで、モグライダーも行くし、ランジャタイも行くしってなった時は、うわー!って喜んだでしょ?
国崎:記者会見があってその後に色々撮影して、深夜になってもまだ「やったー!」となっててさ。そのまま芝さんと2人でラーメンを食いに行って。あの一杯は最高に美味かったね。2人でニヤニヤして「やりましたね!」「いきましたね!」って。アフロは仕事でも人生でも1番楽しかったのは何? 
アフロ:ここ数年で言ったら『ランジャタイのがんばれ地上波!』はマジで楽しかった。
国崎:アレはめっちゃ楽しかった!
アフロ:最近そういうのが面白いね。違う畑に行って、自分なりの表現をするのが。
崇められたら俺たちヤバいな、ってちょうど感じていた

MOROHA アフロ

国崎:あとさ、チキンラーメンのCM見たよ。
アフロ:去年の「芸人ツアー」(MOROHA vs 芸人ツアー 2022『無敵のダブルスツアー』)をやっていなかったらCMに出るのはちょっと怖かったかも。というのも着ぐるみを着て自分の表現をCMに落とすって、諸刃の刃じゃん。今までよりも茶化されることは想像がついたし「安売りしてる」って言われたりすんのかなあ、とか思った。だけど「芸人ツアー」をやって思ったんだ。なんかそういうのを振り切って、開き直った先に次のステージがあるんじゃないかなって。瞬間の負けに気を取られないというか。国ちゃんは特にあるよね? すべった方が面白くなるっていうのが。
国崎:あるある。ここですべったら、どうなるんだろうって楽しくなる。
アフロ:芸人さんのステージを観て、侮られるところからの戦いの方が、すごくやりやすいんだろうなって感じたの。何より「崇められるようになっちゃうとダメなんだ」って気概を感じた。それがMOROHAの活動にもフィットすると思ったんだよね。崇められたら俺たちヤバいな、ってちょうど感じていた時期だったから。
国崎:たしかに視野が広がるからね。やりたいことも増えるだろうし。
アフロ:チキンラーメンのCMは、微かに残ってたミュージシャンの神秘性みたいなものを引っ剥がして、生身を晒してその上でこれからどうやってその美しさを歌おうかなって思ってるよ。
国崎:なるほど、面白いね。
アフロ:国ちゃんも俳優やってるでしょ? この前も観たよ。
国崎:劇団ひとりさんが主役の『横道ドラゴン』ね。アレはその場で話が進んで行く即興芝居なんだよ。俺は中華屋の殺人鬼役でさ、打ち合わせの時にふせえりさんから「自由にしていいから。何でもやった方がいいよ」と言われて、本当に自由にやったらふせえりさんに途中で引っ叩かれた。
アフロ:アハハハ!

ランジャタイ 国崎和也

国崎:同じことを何回もしつこくやっちゃって。最後、刑事の人に撃たれて「う、う……」ってずっとやって全カット。でも、こっちはやりたかったことが全部できたからホクホクなのよ。そしたらメイクさんが、最後の片付け中に「こんなの初めて聞いたんですけど、監督が『もういい、こいつずっとやるから終わりにしよう』と言ってました」って言われて。
アフロ:途中からカメラを回していなかったってこと?
国崎:分かんないけど、何も撮っていないと思う。こいつずっとやるから、もうカットでいいよって。すごい楽しくてテンション上がってずーっとやっていたら、カンペで「国崎ストップ」って。ドラマの現場でそんなことある?
アフロ:国ちゃん、しつこくやるの好きじゃん。多分ね、時間感覚がバグっているんだよ。その理由はガソリンスタンド勤務だと思う。『へんなの』(※国崎☆和也名義で発表した初のエッセイ集)を読んだけど、ガソリンスタンドでさ、狭い部屋にずっと1人ぼっちで毎日8時間いたんでしょ?
国崎:アッハハハ、そうそう!
アフロ:あの精神と時の部屋で、俺らの1分が国ちゃんにとっては1秒になった。国ちゃんが1分やってる感覚でも、もう俺たちからしたら60分やられてる感じ。
国崎:多分そうかもね! ずっとそんな感じがしてた。
アフロ:ガソリンスタンドの小さな部屋の中で、やることがないあまり、窓から電柱を見ていて「電線にカラスが止まったら喜ぶ男」を演じていたんでしょ?
国崎:「マジかよ! スゲー!」って拍手をしたり、話しかけたりしてた。側から見たらめちゃくちゃ怖いよ。
人生で一番楽しかった仕事が『ガキ使』の七変化
ランジャタイ 国崎和也
国崎:最近、人生で一番楽しかった仕事があって、それが『ガキ使』(『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』)の七変化(※9月10日放送回)。ダウンタウンさんが自分のネタを7つも見てくれる機会なんてないのよ。それがめちゃくちゃ楽しくて。そこで全財産を使うボケをしたの。海外から取り寄せたオブジェを用意してもらって、その場で買い取って自分の全財産をゼロにするっていうボケ。
アフロ:ハハハ! 爆笑だった?
国崎:それがさ、カードの機材トラブルか何かで「お支払いができません」となって。説明すると、小学生の男の子と女の子と俺が遊んでるの。ジャンケンをやっていたら、美術商みたいな人が来て「国崎さんお待たしました」「あ、分かりました。みんな、ちょっと待ってて」と言って、バーっと行ってオブジェを買う。で、子供は「国ちゃん、(買うの)やめなよ」とずっと言ってるの。それでも買い切るってボケだったんだけど、裏の話で、その子たちがリハの段階で「え……本当に買うの? やめなよ」とずっと言ってて。「だってお兄ちゃんの全財産なんでしょ? いくらなの? え、そんなのやめな!」って。そしたら、さっきのカードのトラブルの時に、男の子が天然でさ「よかったじゃん!」って。そういうイレギュラーがあったね。
アフロ:全財産がバレちゃうじゃん。
国崎:バレる、表示もされた。
アフロ:結局買ったの?
国崎:もう契約はしてるから、今は手元に一銭もない。
アフロ:今、お金ゼロ?
国崎:うん。
アフロ・国崎:(顔を見合わせて)ハハハハ!
MOROHA アフロ、ランジャタイ 国崎和也
国崎:みんながジュースをおごってくれた(笑)。
アフロ:オブジェは何を基準に選んだの?
国崎:ちょうど財産ゼロになるように計算したのと、「なんでこんな高いんだよ!」みたいなやつ。嬉しいのが、こっちの事情を説明したら了承してくれたの。面白かったのはさ、1つぺしゃんこで届いたの。数百万するんだよ!? それがぶっ壊れた状態で届くって、そんなことある!? それを見た時も楽しかったな。
アフロ:金に対しての、不安とか執着はないの?
国崎:ないない。一回やりたかったの、全財産使うボケを。ダウンタウンさんが見てるなら、ここしかないと思って。不安よりもやったー!だよね。
アフロ:全財産使うボケって、意味が分かんないもんね。
国崎:あの時しか無理じゃないかな。
アフロ:もっと金を持ったら、いやらしく見えて厳しいってこと? 
国崎:もっとお金を持ったら「まあ、来月もお金が入るし」という汚い考えになるけどさ、今回はリアルに「生活どうすんの!?」っていうね。しかも、自分には理解できないオブジェで全財産を使う。
アフロ:やりたい、が勝っちゃうんだね。
国崎:本当はもう一発やりたいんだよ。だってちゃんと出来ていないから。ちなみにさ、音楽業界でダウンタウンさんみたいな人はいるの?
アフロ:いたけど、近づけば近づくほどカッコよくない部分が見えちゃって幻滅することがあったな、最近。でもダウンタウンは、そんなことないでしょ?
国崎:オブジェのボケが失敗した時も、松本(人志)さんは理解力がめっちゃ早いから「これはこうで、こういうことやったんちゃうかな?」みたいな。「俺らの前で本当に買う気やったんやろ?」と瞬時に全てを察知してくれて、アレはカッコよかったね。
アフロ:そうやって実力を優しさに変えてくれると感動するよね。逆にその実力が選民意識に変わってしまうとガッカリするもんね。カリスマって遠くから見ている分には良いんだけど、近くで接するとそんな部分が見えちゃったりして。
国崎:カリスマって本当の人物像が分からないもんね。
アフロ:そうやって扱われ続けた人間はこうなるんだ、っていう。
国崎:カリスマにされた人の成れの果て、みたいな。
アフロ:「周りがイエスマンばっかりになるとこうなっちゃうんだ、悲しいな」と思うから、そういう扱いをされないためにも俺は今すごくジタバタしてる。
国崎:そこに気づけたのはいいね。
MOROHA アフロ
アフロ:やっぱり「芸人ツアー」は大きかったのよ。芸人さんは自分の負け様も許せるし、人の負け様も許せる、そういう寛容さがすごくあると思ったんだよな。どちらかと言えば、ミュージシャンはカッコいいところを見せる職業だから、自分にも周りにも厳しくなってしまう。俺もそういうところがあるから、色々失敗もしてきた後悔もあって。何より「これを続けていたら、ああなっちゃうな」と思ったから俺は少しギアを入れ替えたね。
国崎:今は新しい自分になりつつあるんだ。
アフロ:そう、絶賛挑戦中。ライブは真顔のお客だけが集まってくる感じじゃなくて、別に俺らをバカにするつもりで来た人がいても構わない。でも、こちらが芯に迫る演奏をして一瞬、その人が真顔になったらいい。芸人さんがそうなんだよね。笑って帰るんだけど「本気だったな、あの人たち」という後味が残るから、カッコよさもちゃんと持ち帰れる。単独ライブとか観に行ってもそうなんだ。笑ってさ、馬鹿だったなって思うよ。でも、あの人は本気で生きていたなって。質の良いカッコよさを胸に抱いて帰れるじゃない。そういうのを自分もできるようになりたい、と思うツアーだった。
国崎:芸人の好きなところは、1人がすべると異常にみんなも被せてすべってくれるの。 なかなかないじゃん。一緒にすべって死ぬみたいな、それがすごく楽しい。
アフロ:美学があるから、見ていて眩しいよ。この前、伊藤ちゃんと喋ったんだけど、“本当に面白ければ絶対売れる”と信じさせてくれている人たちがいるから、芸人さんは誰かの手柄に対して過剰に妬んだりしないんじゃないかって。
国崎:あー、確かにね!
アフロ:音楽の方がお笑いよりも、もう少しいろんな要素が絡んでいて。周りの環境とか巡り合わせに左右されて、売れる・売れないが決まる気がする。だから、他人がうまくいったことに対して素直に喜べない、みたいなのがあるんじゃないかな。でもね、伊藤ちゃん(伊藤幸司)とその話をした帰り道、そんなことを言っちゃうのは寂しいな、と思った。音楽に対してもっとロマンを持てたらいいのに、って。
幼稚園の先生が「この子、将来ダメです!」と言って親が驚いていたのを覚えてる
ランジャタイ 国崎和也、MOROHA アフロ
アフロ:芸人さん以外だったら、何をやっていたと思う?
国崎:漫画家とか画家は楽しそうだよね。
アフロ:普段、絵は描くの?
国崎:描かないけど、小学校の図工の授業ってめっちゃ楽しくなかった? ああいうのがずっと続けられるなら、楽しいだろうなって。もう1つあってさ、タイガーマスクって分かる? タイガーマスクって自分が育った孤児院に、素性を隠して物をプレゼントしていたという、すごくいい話があって。今、俺はそれになろうと思ってる。マスクをくり抜いて、ちゃんと自分の顔が全部見えるようにして、プレゼントを差し出すけどなかなか離さない。渡す時もめちゃくちゃ恩着せがましくやりたい。「これ、おじさんのお金なんだよ」って。
アフロ:ハハハ。それで思い出したけど、この前Twitterで「親から言われた忘れられない一言」とタグをつけてエピソードを書くツイートがあってさ。辛い時に励ましてくれたとか、いろんな良いエピソードがある中で、ピアノの発表会を観に来てくれて、帰りの車でお父さんが「お前がピアノをやれるのは、お父さんが働いたお金で月謝を払っているからなんだよ」と言われて「それが親から言われた忘れられない一言」というツイートがあった。
国崎:うわぁ、きっつ。
アフロ:なんなんだろうね? なんか悲しいよね。
国崎:そうね、哀愁がある。
アフロ:哀愁ってたまんないよね。
ランジャタイ 国崎和也
国崎:幼稚園の時にさ、先生が親を呼び出して、隣にいる俺を見て「この子、将来ダメです!」と言ったら親が驚いていたのを覚えてる。あ、自分はダメなんだと思ったね。
アフロ:いやいや! なんでそんなこと言われるの!?
国崎:分かんない。全然覚えていないけど、本当にダメだったと思う。
アフロ:落ち着きがないとか?
国崎:落ち着きがないを超えて、先生が「こいつは1回言ってやらないとダメだぁ……」となったんだと思う。「お父さんお母さんに言うのも申し訳ないんですけど、この子は今も将来も多分ダメです」「ダ、ダメですか? ハズレですか?」みたいな。その後のことは覚えていないけど、親は何も言わなかったんじゃないかな。
アフロ:ご両親はどんな方?
国崎:変わってるよ。お母さんは散財というか、親父がもらった給料をその日に全部使おうとする。アメリカンショートヘアって種類の猫は分かる? 給料日に母親が俺と妹を引き連れてペットショップに行ってさ。その猫をジーッと見ながら、親父の給料をブツブツ言ってて。店員さんに「これいくらですか?」「~~円です」「じゃあ、あの2匹で」って。
MOROHA アフロ
アフロ:タハハハ! 言い方にも愛情がないし、秋刀魚みたいな買い方するし。「この子とこの子」じゃなくて「2匹」って。で、本当に引き取って育てたんだ。
国崎:そうそう。結果、ウチには猫8匹と犬2匹がいた。ヤバいのはさ、おもちゃのファービーが流行った時に、母親はミーハーだからファービー人形を4体も買ってきて。中にはUSファービーという、英語を喋るのもあって。それがめっちゃ怖いの。犬も猫も家の中で放し飼いだからさ、食卓で人の言葉じゃない言語がめっちゃ飛び交ってるんだよ。「ワンワン!」「ニャー!」USファービーの「Oh!」みたいな。めちゃくちゃ気狂いみたいな。どうするの、この家庭!?みたいな。ずっと誰か喋ってるみたいな。異常だけどそれが普通だと思ってた。
アフロ:猫8匹もすごいよね
国崎:そう言えば、母親が親父と喧嘩をしたのか分からないけど、掃除をしながら急に「もー、お父さん! この家はよくないと思いました! 出て行きます!」と言って。猫のバッグを持って、猫を連れて行こうとするんだけど……自分のお気に入りの猫だけ連れて行ったの。
アフロ:アッハハ! なんでだろ? なんで悲しいってこんなに面白いんだろ。
血まみれの彼女の手を引きながら、六本木の街を歩き続けた
ランジャタイ 国崎和也、MOROHA アフロ
国崎:子供の頃と言えばさ、あの話はできる? モスバーガーの話。俺、アレが大好きなんだよ。
アフロ:俺が少年野球をやっていた時、ウチの母親が当時60円のマックのハンバーガーをチームの人数分買ってきてくれたの。午前中から練習して腹も減っていたから、母親が「ハンバーガーだよ!」と言ったら、みんなも「やったー!」って一斉に群がるわけ。で、俺も得意げに「俺のお母さんが買ってくれたハンバーガー!どうぞ!」って。 でもみんなが手を伸ばした瞬間に、お金持ちの家のお母さんが来て「ほらみんな! モスバーガーだよ!」って。そしたら、俺の友だちがみんなそっちに群がった。その時、ウチの母親がマックの袋の端を“グシャッ”と握りしめた音が聞こえたの。俺、絶対そっち見ちゃいけないと思って、ノールックでマックのハンバーガーを掴んで、人生で初めて3個食べた……というお話。
国崎:それをBarで話してる時、アフロの飲んでいたモヒートが結構高かったんだよね。
アフロ:いいお店でね。
国崎:それで「今、飲んでるこれよりも、俺はあのハンバーガーが美味かった。俺はあのハンバーガーの味を忘れない」って。本当にモスバーガーを食わなかったんだよね? 「アフロも来いよ」と言われたけど。
アフロ:うん、「俺はハンバーガーがいい」って。
国崎:すごくいい話じゃない? 俺だったら絶対にモスバーガーに行くもん。
アフロ:俺がハンバーガーを食べたこと、モスに行かなかったことを、もしかしたら母親的に子供に気使わせちゃったなっていう負い目を感じてるんじゃないか、と思っていたわけ。でも、この話を親になった友達にしたら「そんな優しい子に育って良かったって、めちゃくちゃ嬉しかったと思うよ」と言ってくれて。家に帰って「モスを食べたいはずなのに、マックのハンバーガーを食ったんだよ」ってお父さんに話したんじゃないかな、と言ってた。俺の中では、母ちゃんにとってトラウマの記憶になっているんじゃないかと思っていた。でも、どっちなんだろう?
国崎:直接は聞いてないか。
アフロ:聞いてない。覚えてないと思う、たぶん。
国崎:いや、覚えてると思うよ! グシャってなってるじゃん。あとさ、六本木の話もいいよね。
MOROHA アフロ
アフロ:専門学生時代に、遠距離恋愛をしていた彼女がいて、俺も彼女も金がなかった。でも夏休みに彼女が新幹線に乗って東京に来てくれたの。その時に、初めて彼女がスニーカーじゃなくてハイヒールを履いてきてさ。きっと東京だからオシャレしてきてるんだ、と思った。じゃあ、俺もいいお店に連れて行こうと「六本木に行くぞ」と言って駅を降りて店に向かって歩くんだけど、 当時はGoogleマップなんてないんだよね。お店の場所が分からなくて永遠に歩かせたわけ。気づいたら、彼女は靴ずれで足が血まみれになって真っ赤っか。足を引きずって歩いてた。そんな俺らの横を空車のタクシーがビュンビュン通っていく。手を挙げて乗せてあげればいいのに、乗せてあげれない。だってタクシーに乗ったら ご飯が食べられなくなっちゃう。だから血まみれの彼女の手を引きながら、六本木の街を歩き続けた。
国崎:彼女は言わないの? 乗せてって。
アフロ:多分、選択肢になかったかもな。俺が金ないの知ってたから。あの頃の貧しさを俺は許さないっていう話。
国崎:しかも、店に着いた時にはランチタイムが終わっていたんだよね。シャッターも閉まっていて。
アフロ:ただの暗い話じゃねえか!
国崎:いいのよ、俺はこの話が好きなんだ。
アフロ:で、結果マックで食べるってね。
国崎:その六本木とハンバーガーの話を聞いて、「前口上さんぽ」企画ができたの。「アフロ、それ番組(『ランジャタイのがんばれ地上波!』)でやっていいか?」って。
アフロ:こういう悲しい話はいっぱいあるし、悲しい話っていっぱいあっていいよね。
国崎:その時はうわー!ってなるんだろうけど、今なら笑って喋れるしね。
ランジャタイ 国崎和也
アフロ:もう1つ、悲しい話を思い出した。俺は高校の野球部で補欠でほとんど試合に出られなかったのよ。でも親が観に来るわけ。息子は試合に出ていないけど、チームに点数が入ると、周りの親と喜んでハイタッチするの。それをベンチで見て、ずっと嘘だと思っていたんだ。息子が出ていない試合を観て楽しいわけがないし、ハイタッチしている相手は子供が試合に出ている親。俺は気まずくて、親の方を見るのが本当に嫌だった。
国崎:なかなかしんどいね。
アフロ:虚しさを掻き消すように、俺はベンチで一生懸命に声をずっと出してたの。そしたら野球部のコーチがウチの親のところにきて「息子さんは補欠だったけど、大きな声を出してチームを盛り上げてくれました。実は強豪校の監督が古くからの友達なんですけど、そこの監督と話した時に、お前のチームに1人だけ欲しい選手がいる、と言われたんです。それが息子さんです。あんなにチームのために声を出して盛り上げる選手はウチにはいないから、あの選手が俺は欲しいって言われました」と言ってくれたの。それを聞いた母親が家に帰ってきて嬉しそうに俺にその話をしてくれた。いい話でしょ? ………これね、嘘なの。
国崎:え!? 親の?
アフロ:コーチの。
国崎:えぇ!?
アフロ:なんで嘘かって、前の年に補欠だった1つ上の先輩の親にも、コーチが同じ話をしていたのを聞いたことがあるんだよね。だから毎年の恒例行事なんだって、俺は知ってんの。この話……オモロいだろ?
国崎:オモロい。それは自分の胸にしまったの?
アフロ:言った、親に。
国崎:えぇ!?
アフロ:「母ちゃん、それ嘘だよ。去年の補欠の先輩の親にも言ったの聞いてたから」。で、俺から最後の一言「同情されたんだよ……」って。
国崎:ハハハ、すごいな。まあ子供って残酷だからね。
アフロ:いや、俺が傷つきすぎて、1人で抱えきれなかったんだと思う。なんか、超オモロいでしょ?
国崎:オモロいね。
アフロ:それを面白さに持って行くのが芸人さんで。それをトラウマとして煮詰めて、シリアスに歌うのがMOROHAだよね。だけど、出発点は一緒なのかもしれないね。
イケてなかったってことが財産になる
ランジャタイ 国崎和也、MOROHA アフロ
アフロ:俺、成人式でライブをしたんだけど、成人する子にこの話をしても分かんないじゃん。「そういう惨めな体験もいい思い出になるよ」と言っても、当時はさ。
国崎:しんどいよな。
アフロ:そうじゃん。イケてない男の子に「イケてなかったってことが財産になるよ」ってさ、絶対に意味わかんないじゃん。
国崎:リアルタイムだから、しょうがないよね。部活繋がりで言うと、俺は中学の時にバスケ部だったの。1年生の時に先生が、引退する3年生に向けて最後のミーティングで「先生も中学校の時にバスケ部だった。だけど、途中でサボって引退試合に行かなかった。未だにすごく悔い残っている。君たちを見ていて、羨ましいと思う瞬間がある。今日がその日だ。今日の経験をこの先の財産にしてほしい」と言ったの。中学生なからにいい話だなと思ってさ。俺が中2になった時も、引退する3年生の前で先生が「去年も言ったんだけど……」って話してくれた。で、自分が3年生になった時にさ、地域の大会で負けちゃったんだけど、最後のミーティングで先生の言葉を楽しみしていたんだ。そしたらさ、バスの出発時間があるからって、その話をめちゃめちゃ端折ったの。
アフロ:「俺の話はああいうことだから」って。
国崎:そう! バスの時間とかでこんなに端折るんだ、と思って。大人の可笑しさっていうかさ、そういうのがずっと記憶に残ってる。
アフロ:幼稚園の先生がさ「ハーイ、みんな〜!」とニコニコって笑って、子供たちの姿が見えなくなった時のすん!と素の表情になる、みたいな。自分がそっち側になるじゃん。ステージや舞台から降りていく瞬間ってさ、袖に消えるまでは気を抜かない?
国崎:でも、まあ割とヘラヘラしてると思う。
アフロ:そっか。袖とステージで差がないもんね。
国崎:キリっとしてるってこと?
アフロ:俺は最近、ライブが終わって袖にはける時はヘラヘラしてる。それも「芸人ツアー」がキッカケ。カッコいいで終わらずに、これから銭湯行きます、みたいな35歳男性の仕事終わりの顔で帰りたい。
国崎:ライブの時も言ってたね、「今日だけはカッコいいで終わりたくない」って。心境の変化があるんだね。
アフロ:今、なるべくカッコ悪いところを見せようとしてる。
国崎:人間味があっていいじゃない。
アフロ:人(にん)の部分だよね。男性ブランコの平ちゃん(平井まさあき)に教えてもらった言葉。
国崎:錦鯉の(長谷川)雅紀さんとか、空気階段の(鈴木)もぐらとか、芸人がよく言うね。さっきの野球の話で思い出したけど、モダンタイムズのとしみつさんが中学生の時に野球部で補欠だったんだって。だけど監督の意向で、引退試合はみんな出るんだって。そしたら監督が、としさんのことを忘れていたらしくて。試合が終わった後、みんなでカレー食べていたら1人の子が「監督! としみつが試合に出ていません!」と言ってくれて、監督がパニックじゃないけど「え!? としみつ、出てないのか! おま……カレー、おかわりしていいぞ!」って。めちゃくちゃ可哀想じゃん!
アフロ:はぁ〜、面白い! やっぱり、可哀想っていいよね。 だけど可哀想を笑うのと、誰かを傷つけて笑うのって、言葉の印象は近いのに決定的な違いがあるよね。なんなんだろうね。
国崎:自分が体験してるから、かな。
アフロ:そうかそうか。「あいつがさ~」じゃなくて。としみつさんが話してくれた話だもんね。
国崎:もう1つ、としさんのすごく悲しい話がある。モダンタイムズが、初めての単独ライブを地元の青森でやることになってさ。誰も来ないと思って、なんとか地元のラジオ放送にちょっとだけ出演して「今日、単独ライブやるんで、皆さん来てください!」という告知ができた。いざ公民館でライブをやるんだけど、蓋を開けたら客が0人なんだって。2人でうわーって思いながら、それでもネタはやってさ。「誰も来なかったけど、打ち上げだけは行こう」と言って。で、その打ち上げをする居酒屋に入った。そしたらワイワイしてる奴らの中に、学生時代の2人をいじめていた同級生がいて「あれ~!? ラジオ聴いたぞ! お前ら単独ライブだったらしいな、こっちこいよ」と言って。かわ(川崎誠)さんが、昔と同じようにはがいじめにされて「もう勘弁してくれ、 やめてください」と言いながら横をパッて見たら、としさんがいないんだって。「あの野郎、裏切った! 逃げやがった」と思って、かわさんだけめちゃくちゃ酒を浴びせられて「もう最悪や!」と思いながら今度は外を見たら、駐車場でとしさんがジャイアントスイングされていたんだって。いや、可哀想すぎるだろ!
アフロ:いやぁ、可哀想すぎるよ。
国崎:本人が笑いながら話していたから、全然いいんだけどね。
アフロ:思うのはさ、コロナ禍で音楽が虐げられた時に「音楽を聴くことは癒しです、だから守りましょう」と言っていて、その通りだと思いつつ、俺の実感としては「歌う側が救われるためにも必要なんです」だったのよ。今の話でもそうだけどさ、言う側が救われてるじゃん。
国崎:あー、確かにね!
アフロ:あの時、音楽をやることで自分が救われている実感がすごくあったんだ。むしろ、聴き手じゃなくて、やる側が表現することによって救われている感じ。
国崎:芸人も可哀想な体験を笑い話にすることで、過去の自分が報われるもんね。
アフロ:その出来事は『はだしのゲン』の質感で書かれたら悲しい話だけどさ、『浦安鉄筋家族』の質感で書いたら笑えるじゃん。
国崎:うん、笑えるね。
アフロ:その行為をしているのかもしんないよね。画風を変えていくっていう。
国崎:画風だね。悲しい感じで喋られたら、やっぱり悲しいから。
アフロ:そう、悲しいんだよ。俺の場合は『はだしのゲン』のテイストを『ゴルゴ13』に書き換えて歌ってるのかもしれない。あとは自分にとって都合の悪いところを編集していたり。俺の六本木の話もさ、実は歩きながら彼女にめっちゃキレられたんだよね。「場所ぐらい調べとけよ。なんで西と東を間違えんだよ」って。自分の中で、より悲しさの純度を高めるために削いでる部分があった。
国崎:田舎から来た、もっと純木な女性を想像してた。そこを切り取るとだいぶ印象が変わってくるね。もちろん一緒に歩いてくれて、すごくいい彼女だけどね。あと、1つ思ったことがあるわ。この前、会った時にすっげえ寒かったじゃん? 中学生の時さ、駐車場で友達と一緒に夜を明かしながら、ずっと2人で「10年後、20年後、何やってんのかなっ」て言ったけどさ、アフロと飲んでいた時に「あ、今じゃん!」思ったんだ。なんかハッとしたんだよね。
文=真貝聡 撮影=suuu

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着