伊藤英明、坂井真紀らが、新たな演出
で描かれる家族の悲劇を見せる PAR
CO PRODUCE 2023『橋からの眺め』会
見&ゲネプロレポート

『セールスマンの死』、『るつぼ』などで知られるアメリカの劇作家アーサー・ミラー。20世紀を代表する彼が描いた社会派ドラマ『橋からの眺め』が、2023年9月2日より、東京、北九州、広島、京都で上演される。違法移民の従兄弟家族を受け入れたことで一家に巻き起こる悲劇を描いた本作は、ピュリツァー賞をはじめ、数々の賞を受賞。近年はウエストエンドでリバイバル作品として上演され、マーク・ストロング主演、イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出のもと、ローレンス・オリヴィエ賞、トニー賞の各賞を総なめにした。
日本における公演で演出を務めるのは、演劇・オペラの演出家として定評があるジョー・ヒル=ギビンズ。かねてよりミラー作品の演出を熱望していた彼が、日本での初演出を手がける。主演は13年ぶりの舞台出演となる伊藤英明。
初日に先駆けて、ジョー・ヒル=ギビンズと伊藤英明、坂井真紀、福地桃子、松島庄汰、和田正人、高橋克実による会見が行われた。
ーーまずはジョーさんに、初の日本演出への意気込みをお聞きしたいです。
ギビンズ:ここに来ることができたのも、素晴らしい俳優たちと作業を進められたのも素晴らしい経験です。今回の見どころをお話ししますと、1950年代のアメリカを舞台にした作品ですが、古代ギリシャ演劇に大きな影響を受けています。現代社会において、この作品を通して何を伝えるかを重視しました。そこで美術家のアレックス・ラウドとともにこの作品の焦点となる不法移民の世界について考えました。作中にはイタリアからの不法移民が登場します。昨今、世界各地に存在する移民者を反映しているとともに、ある家族を中心に据えた物語でもあります。国に関係なく共感できるのではないかと期待しています。
ーー初日に向けての意気込みを教えてください。
伊藤:1ヶ月近く稽古を積み重ね、ようやくここまで来たので楽しみです。今日もギリギリまで稽古をしました。ドキドキしつつ、皆さんと一緒に作り上げていくことを楽しみたいですね。
坂井:約60年前に書かれた作品ですが、力強くて色褪せないと感じます。さらに、ジョーさんが現代に置き換えて面白い演出をつけてくださり、素敵なセットの中で演じられます。ぜひ楽しんでほしいと思っています。
高橋:ジョーさんが今日も細かいところまで突き詰めてくれました。丁寧というかもはや執念深いです(笑)。でも、諦めないジョーさんの姿を見て、私たちが絶対に客席を湧かせないといけないと思いましたね。
福地:私は舞台初出演で、こんなにも長くキャストの皆さんやスタッフさん、カンパニーの皆さんと時間を共有するのも初めてでした。でも、あっという間にこの日が来たと感じています。信頼できる皆さんとお芝居を作れるのがありがたいですし、お客様が入って幕が空いたら私自身も思いもよらないものを受け取れるんじゃないかと感じています。楽しい初日を迎えられたらと思います。
和田:主演の伊藤さんをはじめ、坂井さん、高橋さん、福地さんなど皆さんセリフ量が多いんです。苦労されている姿を見ていましたが、みんなで早く来たり居残りをして練習したり、稽古を重ねるうちにチームワークができていく様子を見て「いける!」と思いました。ジョーさんについていけば必ずいい作品をお届けできると感じました。
松島:セットや衣装を見ただけでもすでに楽しいと思います。見た目だけでなく中身もお客様の印象に残るように頑張っていきたいと思います!
ーー伊藤さんは13年ぶり、福地さんは初の舞台出演です。
伊藤:節目となる50歳を目前にして、芝居というものに向き合いたいと思ったタイミングでこの作品とジョーさんに出会いました。稽古を重ねる中で、積み上げたものが毎日ゼロになって、また積み上げて、気付きがあってという日々でした。これはいつ終わるんだと思いましたが、13年前の感覚とは違って、早くこれをみなさんに届けたいと思いました。これを終えた時に自分自身どんな景色が見えるか楽しみですし、共演者の皆さんとジョーさんには感謝しかないです。しっかりとお客さんの心を掴んで物語を届けたいです。
福地:ジョーさんの演出が毎日楽しいとみなさんも言っていたし、私もそう思いました。舞台に慣れているみなさんも驚くような新鮮な演出やウォーミングアップもあり、初舞台というコンプレックスを感じることなく楽しくできました。
ーー稽古で印象的だったことはありますか?
坂井:ウォーミングアップで、回数を決めて輪になってバレーボールを繋いでいくんですが、ジョーさんが一番燃えていたのが印象的でした(笑)。
和田:稽古中に誕生日を迎えてケーキでお祝いしていただいたんですが、稽古が佳境でみなさん本当に大変そうな時期で。あとで写真を見返したら、僕とジョーさん以外みんな顔は笑っているけど目が笑っていませんでした(笑)。大変だったんだなって後から認識しました。
高橋:ジョーさんはお芝居がとても上手です。伊藤くんにボクシングのシーンを教えているのを見て、やっぱりジョーって名前の人はみんなボクシングが上手いんだなと思いました。
一同:(笑)。
松島:伊藤さんが稽古に向かう姿勢は勉強になりました。最後の方は稽古3時間前にいらっしゃって、稽古場が開くまで車の中で練習して、そこから2時間自主稽古する姿を見ていたので、すごく刺激を受けましたね。
ーージョーさんから見て、日本の俳優のみなさんはどうでしたか?
ギビンズ:(松島)庄汰さんが今言っていた通り、みなさんすごく頑張って練習していました。イギリスだと、演出家が帰った後も俳優たちが練習するという状況はまずありません。そんなことが起きるとしたら、演出がひどくて「これじゃダメだ」と自主的に作る必要がある時。今回はそういうケースではないと思っておきます(笑)。
一同:(笑)。
ーー最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
伊藤:ぜひいらっしゃってください。
一同:それだけ?
高橋:今回、セットもすごいことになるんですよ。見てわかる通り衣装もなかなかです。やる方は大変ですが、この空間を楽しんでいただけたら。
福地:確かに、お客さんとして見てみたいですよね。
伊藤:スピード感がすごくあるし、エネルギッシュ。そのエネルギーをみなさんに届けられたら。じゃあ最後に松島くん。
松島:えっ!? 伊藤さんはすごくたくさん喋るので、最後まで喉がもつように祈っております!
※以下、ゲネプロの写真とレポートあり
PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』舞台写真
PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』舞台写真
会見でもセットや衣装の話が出たが、まず目を引くのはずらりと並んだコンテナのような背景と雑多に置かれた生活用品。基本的に家の中で話が展開するが、彼らの暮らしぶりから周辺の様子や町の景色までスムーズに想像できる。シーンによって上部の照明が降りてくることもあり、閉塞感が増す演出も面白い。
伊藤はこれまで真面目に働き、妻と姪を養ってきたエディのひととなりを丁寧に表現。妻・ビアトリスの従兄弟が現れたことで、姪に向ける愛情の種類がわからなくなっていく様子を生々しく見せている。冒頭の過保護ながらも愛情深いエディが魅力的なぶん、彼が少しずつ変化していく過程にゾッとさせられた。
1950年代の港湾労働者というパーソナリティもあるのか、ブロンドで歌や料理が得意な色男・ロドルフォ(松島庄汰)を毛嫌いしてことさらに“男らしさ”を強調する姿は滑稽ですらある。同時に、移民などのマイノリティが社会や職場というコミュニティでうまく生きていく難しさを感じてやりきれなさも覚える。
PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』舞台写真
PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』舞台写真
姪のキャサリンを演じる福地は、少女らしいあどけなさと大人の女性の艶やかさを両立させ、危うい魅力を振り撒いている。ロドルフォへの愛と、育ててくれたエディへの情の間で揺れ、戸惑う姿が痛々しい。 エディの妻・ビアトリスを演じる坂井は、複雑な心中を台詞や表情で的確に見せている。エディへの憤りや心配、キャサリンに対する大人の女性としての忠告など、家族を保とうという努力がエディにもキャサリンにも伝わらりきらないのが切ない。
PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』舞台写真
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出稼ぎのために密入国してくるビアトリスの従兄弟・マルコ(和田正人)とロドルフォは、一口に「移民」といっても一人ひとりにさまざまな理由や思いがあることを改めて認識させてくれる。また、生きていくために仕事を求めてアメリカにやってきたが、故郷のシチリアに対する愛やプライドは失っておらず、法律や面子に対する意識もアメリカ人とは違う。エディに世話になってはいるが、だからと言って侮辱されるのは我慢ならないという思いをともに説得力を持って見せており、緊張感のある関係性を繊細に描き出していた。
エディたち一家と交流があり、本作の語り手でもある弁護士・アルフィエーリ(高橋克実)は、観客に近い立場でエディたちを見ている存在。エディの狂気にも似た感情を目の当たりにし、何度も忠告しながらも家族の問題に介入できずにいる第三者のもどかしさや苦悩が印象的だ。悲劇に心を痛めながらも、どこかあたたかさをもって語る姿に惹きつけられる。
PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』舞台写真
PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』舞台写真
PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』舞台写真
日本ではまだそれほど移民問題が注目されていないが、家族の関係性、文化が違う人間とともに暮らす難しさ、人生において大事にしている核が何かといった部分は世界共通。彼らの抱える思いに共感し、身近に感じられる。また、「移民は助けるもので密告は恥ずべきこと」という価値観のもと、平気で法律を無視しておきながら、ロドルフォとキャサリンを別れさせるための法律はないのかとアルフィエーリに詰め寄るエディの矛盾も興味深い。彼らの物語を見ながら、さまざまなことに思いを馳せられるはずだ。
本作は9月2日(土)より24日(日)まで東京劇場プレイハウスにて上演。その後、北九州のJ:COM北九州芸術劇場大ホール、広島のJMSアステールプラザ大ホール、京都の京都劇場でも公演が行われる。
PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』舞台写真
取材・文・撮影=吉田沙奈

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