L→R 桜井 青(Gu&Vo)、村井研次郎(Ba)、石井秀仁(Vo)

L→R 桜井 青(Gu&Vo)、村井研次郎(Ba)、石井秀仁(Vo)

【cali≠gari インタビュー】
いろいろなカラーがあることが
cali≠gariにとってプラスになる

歌詞に出てくる3つの言葉は
切腹した人の辞世の句

『16』はバラエティーに富んでいますが、その中でも特に自身にとって印象の強い曲を教えてください。

村井
強いて挙げるとしたら「Engaging Universe」になりますね。SOFT BALLETのカバーですけど、うちのメンバーの中で僕は唯一SOFT BALLETはまったく通っていなくて。ふたりからSOFT BALLETと、あとBUCK-TICKを教えてもらって、後追いで学ばせていただいたんですけど、どちらも素晴らしいんですよね。なので、今回カバーさせていただけたのは光栄ですし、ドラムをかつてSOFT BALLETをサポートしていた上領 亘さんが叩いてくださったんです。実は上領さんは僕が最初に知り合っているんですよ。大学時代に呑みの席で(笑)。大学の同級生にドラムを叩いている先輩の家で鍋をやるからって誘われたんです。それで、上領さんの家に行って、ご飯を一緒に食べたという。僕は上領さんがどういう人か知らなかったので、ふたりに上領さんというドラマーと知り合いだと言ったら、すごくびっくりされました(笑)。僕は“有名な人なの?”くらいな感じだったので、“誰だと思っているんだ! GRASS VALLEYだぞ! SOFT BALLETでも叩いていたんだぞ!”みたいな(笑)。当時は今みたいにネットもなかったし、上領さんのことを調べようがなかったんですよね。そんな背景もあって、今回の中では「Engaging Universe」が一番印象深いです。
桜井
今回「Engaging Universe」をカバーさせていただいたのは、耳にする機会を増やしたいって気持ちが強かった感じです。もう、SOFT BALLETというものは概念としてでしか存在していないわけですよ。今後、彼らを覚えている昔の人しか聴く機会がなくなるなんて、やっぱり寂しいわけで。だから、どこまで届くか分からないけど、こんなにすごい3人組がいたんだということをどうしても残しておきたかった。それで、カバーをさせていただくことにしました。もうただのセンチメンタルなエゴですよね。『ブルーフィルム -Revival-』(2020年9月発表のアルバム)でSPANKERSの「Sex On The Beach」とかをやりましたけど、それとはちょっと訳が違う。自分の中では本当に偉大な曲なので、心持ちが大きく違っていました。
石井
僕らは森岡 賢さんが亡くなった時に、ライヴでSOFT BALLETのカバーをしたんです。EX THEATER ROPPONGのライヴだったんですけど、演奏してびっくりしたのが、“こんなにみんなこの曲知っているんだ!?”というくらいに客席が号泣していて。その景色がすごくて、SOFT BALLETの偉大さを改めて感じました。
桜井
すごかったよね。
石井
うん。青さんも泣いちゃうし(笑)。しかも、そのままどっかに行っちゃったんです(笑)。
桜井
感極まっちゃって(笑)。石井さんはSOFT BALLETのカバーは入れないほうがいいと言っていたんですけど、cali≠gariくらいしかそんなことはできないだろうと。現存するバンドの中で、彼らの曲をオリジナルアルバムに入れられるバンドがどこにいるんだと。そういう話をしたら、石井さんも納得してくれました。

確かにそれは言えますね。では、桜井さんにとって印象の強い曲は?

桜井
「切腹 -life is beautiful-」かな? さっき話した“やりたいことをやって死ぬ”というテーマが一番色濃く出ている曲なので。この曲の歌詞の3つの言葉は切腹した人の辞世の句なんですよ。《あら楽し 思ひは晴るる 身は捨つる/浮世の月に かかる雲なし》は大石内蔵助。《これでよし 百万年の仮寝かな》は「特攻の父」と呼ばれた大西瀧治郎。3つ目の《散るをいとふ 世にも人にも さきがけて/散るこそ花と 吹く小夜嵐》は、みんな大好き三島由紀夫です(笑)。それぞれ譲れない意志を達成して割腹している。

そんな切腹をテーマにしていながらタイトルが“life is beautiful”であることにセンスの良さを感じますし、毒気が漂う狂騒感を表現している曲調も魅力的です。

桜井
毒気はこのバンドの十八番ではあるけど、1曲目がそういうものだとよりパンチが効くというのはありますよね。しかも、「切腹 -life is beautiful-」の前にアルバムの導入として歌舞伎の台詞が入っているじゃないですか。“cali≠gariってどんなバンドなんだろう?”と思った人がこのアルバムを店で試聴すると《いかようの〜》という声で始まる(笑)。“なんだ!? 何のCDだ?”みたいな(笑)。続いてベースのシーケンスフレーズのループが始まって、そこからヌルッとポストパンク的にジャカジャカ始まって…というふうに正体が分からない状態で始まって、気づいたらちゃんと曲として成立しているという。アルバムの始まりにそういう流れを作れたことに手応えを感じています。そうなったのは、たまたまですけどね(笑)。

そんなことはないと思います(笑)。

桜井
最初は4つ打ちというかEDMみたいな感じで、シンセベースでガァーッとやっていたんです。結果的に違う方向に行ったけど、“まぁ、いいや”みたいな。最近やっとそう思うようになったんですが、cali≠gariじゃないと作れない曲というのがいくつかあるんですよね。とりわけ「切腹 -life is beautiful-」はそうだと思います。

石井さんの中で、特に印象の強い曲は?

石井
研次郎くんと一緒なんですよね。「Engaging Universe」は個人的にドラマもあるんです。“この曲をやりたいんだけど”と相談されていたらやっていなかったと思うんですよ。絶対に“やらない”と断ったと思う。だけど、相談もなくやることが決まっていたんです(笑)。で、“どうしようかな?”と思って。この曲、歌を3回録り直しているんですよ。ライヴでカバーした時はもうSOFT BALLETは完全になくなってしまって、お客さんやSOFT BALLETが好きな人が脳内変換できるように、遠藤遼一さんのヴォーカルに近づける感じで歌ったから、僕のオリジナリティーとかはまったくなかったんです。だから、今回は普通にサラッと歌ってみたら、もう子供の歌みたいで(笑)。つまらないし、これは一番いろいろ言われちゃうやつだと。それで、どう歌おうかすごく悩んで、結果的に3回歌い直して、今の歌に落とし込みました。あと、cali≠gariのマニピュレーターの方が森岡さんのアシスタントをやっていた人なんです。打ち込みとかアレンジをその人に全投げしたし、ドラムがSOFT BALLETをサポートをしていた上領さんということで、少し血が入っているんですよ。そういうところで落としどころを見つけていって…そうしたらさっき青さんも言ったように、この曲はもうcali≠gariしかやっちゃいけないと思えるものになった。他の人がカバーしたら怒るお客さんもいるだろうし、cali≠gariがやっても嫌な人は嫌だろうけど、誰かがやるとしたらcali≠gariしかないと。自分の中でなかなか決着がつかなかったけど、そういうところに落とし込めて良かったです。

「Engaging Universe」はアルバムのいいアクセントになっていますし、この曲の歌は絶妙です。

石井
本当ですか?

はい。サビの歌などは、ちょっと宗教的な匂いがありませんか?

石井
どうなんだろう? 僕は原曲を知っている人が自然に聴けたら一番いいと思ったんです。だから、原曲に寄せるのか寄せないのか、自分だったらこうするとかではなくて、自分もファンのひとりとして、“こういうトラックだったら自然と聴ける”というところを目指しました。

本当のリスペクトや愛がなければ、こうはならないです。

石井
それを感じ取ってもらえると嬉しいです。カバーは今まで何曲かやってきましたけど、この「Engaging Universe」はちょっと冥土の土産レベルだと思っています(笑)。
桜井
宗教感みたいなものは、歌詞にそういう匂いがありますからね。サビの《英雄は空の上》にしても森岡さんがオーバーラップするというか。すごく神々しいイメージがあって、それが自然と出たような気がしますね。

みなさんのSOFT BALLETに対する想いの深さが伝わってきます。『16』は「Engaging Universe」「切腹 -life is beautiful-」をはじめとして夢幻的なスローチューンの「紫陽花の午後」や洗練感をまとったロックチューンの「赤色矮星」など、強いインパクトを放つ楽曲が揃っているのも特徴的です。

桜井
「紫陽花の午後」はイレギュラーな構成になっていますけど、それは理由があるんですよ。メロディーと歌詞が完全に一緒に出てきてしまって、そこに無理やり曲を合わせていった感じなんです。

イントロ→Aメロ→Bメロ→サビというようなフォーマットにとらわれないことが、いい結果を生みましたね。特に後半の展開と歌詞は素晴らしくて、映画を観ているような感覚を味わえました。

桜井
全体を通して暗い曲ですけど、最後の最後に差し込む光によって縫いつけられる影がより濃くなるという。光が明るければ明るいほど影は濃くなるわけで、光に照らされているのに何も満たされない…いや、満たされてはいるのかな? 聴き方やとらえ方によって印象が変わる曲だと思います。
村井
「赤色矮星」はアツいエピソードがあります(笑)。僕はいつも曲を作る時は、もう自分が好きなように作るんですよ。ですけど、この曲のテーマは…ちょっと失礼ですけど、“青さんでも弾けるメタル”という(笑)。ギターが8割ぐらい1コードなんです。ポジションが動かないまま、ほぼオンコードで弾けるように作っていて。で、調子こいてメロも歌詞も作ったんだけど、それを石井さんに聴かせたら“ちょっとこれは危険です”と言われたんです(笑)。その昔、cali≠gariはふざけてLa'royque de zavyという覆面のビジュアル系バンドをやっていて、そっちの方向に向かっていると(笑)。なので、歌詞とメロを石井さんにバトンタッチして、結果的にこういうものになりました。ただ、僕は様式美メタルが大好きなので、間奏だけはピアノの秦野猛行さんにしっかり指示を出しました。コード進行だけを作って、“ここに様式美なソロを入れてください”とお願いしたんです。

もちろん秦野さんの技量も活きていますが、間奏でハープシコードとパッドになるアイディアが光っています。

村井
そういうのが好きですよね、いつまで経っても(笑)。あと、この曲はギターソロのパートも作っていたんですけど、そこに石井さんが大サビのメロディーをガン!と乗せてきたんです。それがめっちゃエモくて、自分のイメージを超えるものになって感謝しています。

OKMusic編集部

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