志麻(浦島坂田船)、エンターテイナ
ーとしての貪欲でストイックな姿勢を
見せたソロツアーZepp Haneda(TOKY
O)公演をレポート

SHIMA LIVE TOUR 2023 ~Violet

2023.5.14 Zepp Haneda(TOKYO)
紫煙をくゆらせながらフロア側に視線を向けた志麻が、煙草の火を消してからひと呼吸を置いて今宵まず歌い始めたのは、最新ソロアルバム『Violet』に収録されていた情熱的アッパーチューン「ZEAL」だった。
「今日は1日、楽しんでいきましょう。声、聞かせて!!」(志麻)
志麻の出身地・高知でのファイナル公演まで続く今回の『SHIMA LIVE TOUR 2023 ~Violet~』は計6本にわたるものとなるが、Zepp Haneda(TOKYO)にて行われた東京公演の段階で既に“こなれ具合”と“熟し加減”はなかなかのレベルに至っていた印象で、その背景には今ツアーが志麻のソロ活動としては久々の声出し解禁ライブであったことも、きっと大きく影響していたものと思われる。盛大なるコール&レスポンスが映えた「快刀乱麻!!」といい、ダンサーふたりを交えながら志麻が繰り広げてみせたパフォーマンスに場内から歓声が湧きあがることになった「十六夜ナイトフィーバー」といい、このライブの空間では観客側と志麻の間における意思疎通やエナジーのやりとりというものが、声を通じてはかられることになった。
志麻
また、今回のソロライブは、志麻が全編で生バンドを従えていたところも特徴的で、話は前後するかたちになるがオープニングでジャジーなサウンドをバックに志麻が登場するシーンの粋さを醸し出したり、バラード「君の手」での繊細にしてエモい志麻の歌を鮮やかに彩ってくれていたのは、猛者揃いのバンド陣による手腕によるところが大きかったように思う。
志麻
ちなみに、冒頭での煙草を使った演出やバックバンド陣のからみ方など、今回のライブに関するあらゆる意思決定は志麻が全てくだしていたそうで、その詳細はライブ中盤で場内に流されたドキュメント映像で明かされることに。今春に行われていた浦島坂田船のツアーや、自身のレコーディングと並行しながら、ソロツアーに向けてのリハーサル、ダンスレッスン、さらに舞台監督的な役割を担っての打ち合わせに志麻が刻々と真摯に臨んでゆくその姿からは、彼のプロフェッショナルな姿勢とエンターテイナーとしての精神を強く感じることになったのは言うまでもない。(煙草を小道具のひとつとして取り入れたのは、志麻リス勢からの「志麻さんが煙草を吸っている姿を見てみたい!」という要望に応えたものだったそう)
志麻
かくして、このツアーの裏側を描いたドキュメント映像の後にはダンスレッスンのシーンで志麻が奮闘していた「Violet Thunder」がリアルにステージ上でパフォーマンスされていくことになったうえ、レッスン時の映像とは格段に進化したキレの良い動きで観衆を魅了することになっていた点は流石の一言。しかも、この曲だけに限らず今回のライブで披露されたどのダンスチューンにも言えることだったが、志麻はインカムマイクをつけて歌いながら踊るわけではなく、どの曲でも使用するのはハンドマイク。もちろん、片手がふさがった状態で踊りを成立させ、なおかつ歌のクオリティも維持するというのは、並大抵のことではない。歌をしっかりと聴かせながらも、観客たちの眼にも訴えたいという志麻の貪欲でいてストイックな姿勢は、間違いなく今回のライブのクオリティをより高めていたはずだ。
志麻
かと思えば、退廃的な雰囲気の漂う「ダスティピンク」では「オトナにしてやるよ」「好きにどうぞ」といったキメゼリフで志麻リスたちを悶絶させたほか、次いでの「ネッ閉じ即抱きREAL LOVE」でも「おやすみ、子猫チャン」だの「今夜、俺とどう?」といった軽妙なボイシングで武器のイケボをいかんなく駆使してみせた志麻。彼は受け手側が志麻というアーティストに何を求めているのか、ということをしっかりと理解したうえでそのラインをさらに超えていくようなステージングを実現する男であるらしい。浦島坂田船においてもその才が発揮されることはよくあるものの、ソロワンマンともなると彼のサービス精神とホスピタリティはより濃厚になるのかもしれない。
志麻
なお、志麻が昔から大切にしているという「recoup」が丁寧に歌い上げられたあとには長めのMCがとられる一幕もあり、ここではいつも以上に志麻の客席イジりが大炸裂することに。そうなったのには理由もあって、今宵は東京近郊のみならず沖縄から来たという人や、中国、韓国、香港といった海外からの遠征組、はたまた彼女と一緒に来たという男子や、子供の付き添いで来たという親御さんといったさまざまなタイプのファンがいた中で、ひとりやたらと通る声&好リアクションの“お父さん”が強い存在感を放っており、これに志麻がすかさず食いついたのだ(笑)。
この絶妙な状況を文面で詳しく表わすのはとても難しいのだが、とりあえず事あるごとに“お父さん”をイジっては客席から確実に笑いをとっていたあたり、志麻はアーティストであると同時に芸人魂のようなものも持っているということなるのだろうか。いずれにしても、彼は人を楽しませることにとても長けている。
志麻
当然、和のテイストが活きた音像を受けた「恋々遊々」での扇子を使った舞い、ヒップホップ的アプローチがクールな「NEVER LET YOU DOWN」でのラップ、エキゾチックな味わいの曲調にあわせた「Magiない♡カリグラフィック」でのナートゥ的ダンスも華麗にこなしてみせてくれた志麻。彼がこのワンマンツアーにどれだけの想いと労力と時間を注ぎ込んでいたのかは、そうした場面からもひしひしと感じられた。
「楽しかったワンマンライブも残り数曲となりました。(中略)ほんまに今日はありがとうございました。やっぱり、ライブっていうのは来てくれたみんなとひとつになれたり、みんなと一緒に作っている感があって、ライブが終わった後はいつもそこに達成感を感じますし、辛かったリハもやって良かったなと思うわけです。ここで、今日はもう1曲みなさんとこころをひとつにしたいです。聴いてください、「こころあわせ」」(志麻)
そんな「こころあわせ」からの本編ラストとなった晴れやかなるポジティブチューン「永遠のシナリオ」への流れでは、志麻の歌心が場内いっぱいにあふれ返ることになり、その光景がただただ輝いて見えたのは筆者だけではあるまい。
志麻
一方、アンコールで歌われた「イエスタデイはトゥモローを歌わない」ではビニール製のトイギターを使ってのエアギターを茶目っ気たっぷりにかましてみせた志麻だが、この曲のサビでは〈パピヨン?チャウカ!マンチカン!〉のフレーズを筆頭とした大コールが客席フロアで終始勃発。その盛り上がりのまま、記念写真撮影と記念TikTok撮影へとなだれこみ、志麻と志麻リスたちの親睦はより深まっていくばかりとなった。
「みんな楽しかった? 俺も楽しかったです! 最後は、みんなで今日ここに来て良かったなって思えるような1曲を一緒に歌いましょう! きっと、もうタイトルコールも俺が言わんくてもいけるよな? みんなが最後の曲やと思うのを頼むわ。せーのっ!」(志麻)
志麻
ここでZepp Haneda(TOKYO)の場内に響きわたったのは、一糸乱れぬ「愛してもいいかい?」という曲名。そして、この曲の詞の中の〈素直な気持ち 届けたいんだ〉という1節は志麻の気持ちそのものであったと同時に、この日この場に居合わせた全志麻リスの想いでもあったのではないだろうか。
今回の『SHIMA LIVE TOUR 2023 ~Violet~』を経て、さらに強い絆で結ばれた志麻と志麻リスたちの関係性はここからの志麻をいっそう進化させていくことになるものと確信する。なんでも、風水における紫色とは精神的成長や出世運を誘うパワーを持った色なのだとか。そうと来れば、Violetから始まるここからの未来にもおおいに期待しよう。

文=杉江由紀
撮影=小松陽祐​

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