宮沢氷魚、舞台『パラサイト』は「役
者としてのパフォーマンスが試される

2019年に韓国で公開され、日本でも大ヒットを記録。『第72回カンヌ国際映画祭』で韓国映画初のパルム・ドールを受賞し、『第92回米アカデミー賞』では非英語作品として史上初の作品賞ほか計4部門を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』が日本で舞台化、6月より東京、大阪で上演される。金田家の長男、純平を演じる宮沢氷魚が来阪し、舞台『パラサイト』についての取材会とSPICEの独自インタビューに応えた。稽古はこれからという今の心境とは。
「格差社会」をテーマに、緻密な「伏線」や「テーマ性」を散りばめ、サスペンス、ブラックコメディ、ヒューマンドラマなどジャンルを超えた傑作として世界各国で称賛された同作。日本での舞台化にあたっては、映画『愛を乞う人』や『焼肉ドラゴン』、舞台『泣くロミオと怒るジュリエット』などで知られる脚本・演出家の鄭義信(チョン・ウィシン/ていよしのぶ)が台本と演出を手掛ける。
日本版『パラサイト』の舞台となるのは90年代の関西。家内手工業の靴作りで生計を立て、地上にありながら一日中、陽がささないトタン屋根の集落で細々と暮らす金田一家。一家の主である金田文平として古田新太、身分を偽造し高台の豪邸に住む永井家の家庭教師としてアルバイトを始める息子の純平として宮沢氷魚が出演する。
世界的にも話題となった作品が舞台化、しかも出演が決まったことについて、心境を聞くと、「驚きましたね」と宮沢。韓国ではなく日本での舞台化以外にも、キャスト陣が豪華であることも要因のひとつ。というのも永井家にアートセラピー教師として取り入る純平の妹、美姫を伊藤沙莉、美姫に続いて家政婦として雇われる文平の妻の福子を江口のりこが務める。次第に金田家に「寄生(パラサイト)」されていく永井家の主人である永井慎太郎を山内圭哉、その妻千代子を真木よう子、娘の繭子を恒松祐里が演じる。さらに、永井家の家政婦で、この物語のキーパーソンとなる安田玉子をキムラ緑子、舞台『パラサイト』オリジナルの人物としてみのすけが登場することが発表されている。「韓国や日本のみならず、世界中で評価されている作品なので、その分、プレッシャーも感じながら、今、ここにいます」と思慮深い表情で語った。
宮沢氷魚
上映当時、「流行りものにはあえてのらない!」という自身にあった「謎の反抗期」ゆえに映画館では観なかったという。その後、自宅にて配信で鑑賞し「格差社会を見事に描いていて衝撃を受けた」と話す。「これは映画館で観るべきだったなとすごく後悔したのですが、でも、家で観るからこそ考える時間があって、改めて世界中にある格差の問題を考え直さないと、と思うキッカケになりました」と振り返った。
宮沢が演じるのは、裕福な暮らしの永井家に、娘の家庭教師として入り込む金田家の長男、純平。純平はその後、一家全員が永井家に「寄生」する計画を立て、遂行する。「純平は頭のいい青年で、映画と同様に舞台も彼が軸になって物語を進めていきます。モノローグでストーリーを伝えていくという役割もあるので、とても大事な役です」とその人物像を語る。
役作りにおいては、映画版は参考にしつつ、自分にしかできない純平を作っていきたいと意気込む。「映画の家族の雰囲気を軸に演じていきたいと思うのですが、共演者の皆様がかなり強めのキャラクターなので、おそらく舞台ならではの家族感というか、お芝居が生まれてくると思います」。
宮沢氷魚
鄭演出の舞台にも初出演だが、親友の大鶴佐助から稽古場での鄭の様子などを聞いているという。「佐助は鄭さんと何度かお仕事をしていて。佐助に聞くところによると、本当に役者に対する愛情が深くて、稽古も愛を持ってやっておられて。一つひとつの演技に妥協がないと。それは本当に役者とその作品に愛情がないと、なかなかできないことだと思うので、まだ稽古は始まっていませんが、とても楽しみにしています」。
また「格差問題は鄭さんの描く物語によく出てくるテーマで、見事に描いていらっしゃいますが、ネガティブ過ぎない演出をされるんですよね。ちょっと笑いがあり、感動があり、最終的にはすごく前向きな気持ちで終わっている印象があるので、舞台『パラサイト』でもそうなるだろうと思います」と、期待を寄せた。
アメリカ出身の宮沢、関西弁の役は初めてだ。今は、音源を元にセリフの稽古中。難しさも感じつつ、「役者だから挑戦できること」と、前向きだ。「鄭さんが思い描く世界にしっかりチューニングしていきたいなと思います。出演者も関西のご出身の方々が多いので、皆さんの力を借りることになると思いますが、1ヶ月ちょっと稽古があるので、自然と自分も馴染んでくると思います。不安がないといったら嘘になりますが、頑張りたいです」。
宮沢氷魚
関西弁の魅力も発見しているようだ。「例えば「絵」とか「血」とかだと、「絵ぇ」、「血ぃ」と語尾を伸ばすじゃないですか。「ここを伸ばすんだ」という面白さがあって。あと、関西弁は激しく上がったり下がったりと抑揚があって、アクセントが強い印象があったのですが、台本の音源を聞いていると、平坦な発音も多くて。だからこそアクセントが強い言葉が特別大きく目立っているところも面白いなと思いました」。
物語は、映画を踏襲しながらも舞台版としての見せ場も多々あるという。「変えるところは変えているので、映画を観た方は驚くところもあると思います。次はこうなるだろうなと予想していたことが「あれ、違う」と。その辺はぜひ期待してください。台本を読んだだけでも面白くて、実際に稽古が始まるとさらにパワーアップされると思うので、僕自身もすごく楽しみにしています」。
取材会の最後は次のように締めくくった。「皆さんご存知のこの作品が、日本で舞台化されるということで、我々としてもすごく楽しみで、期待が高いからこそ、より一層頑張りたいなと思っています。鄭さんの演出で、豪華なキャストだからこそ描ける、また新しい『パラサイト』を、大阪では10日間、上演しますので、ぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです」。
続いて個別インタビューの模様を。
宮沢氷魚
――宮沢さんは「舞台は成長する場である」と過去のインタビューでおっしゃっていました。今回の舞台『パラサイト』は、ご自身のキャリアにどんな影響を与えると思われますか。
舞台は、マームとジプシーの『BOAT』(2018年)や、PARCOプロデュースの『ピサロ』(2020年)などに出演しましたが、どれも舞台『パラサイト』のような会話劇ではなくて。たくさんのセリフのやり取りがある作品は初めてなので、自分の役者としてのパフォーマンスが試される場だと思っています。稽古も苦労することがあるかもしれないし、本番期間中もいろんなことに挑戦しながら進んでいくと思いますが、新しいものに挑戦するということは、この先、絶対に活きてくると思います。
――チャレンジしてみて、壁が立ちはだかった時は、燃えるタイプですか? それとも解決策をじっと考えるタイプですか?
自分で考えて答えが出せるのであればそうする時もあります。でも、経験上、すごく悩んでも分からないことは分からないし、悩んでいることの答えが意外と他の人からポンと出るんですよね。今回も、これだけの素晴らしい役者の方が揃っているので、分からないところは分からないと言って、助けていただけたらと思っています。
宮沢氷魚
――本作では純平が水先案内人でもあります。そういう役どころに挑むにあたって、今の心境を教えてください。
プレッシャーはありますが、裏を返せば、ある意味、自由自在に物語を進めていくことができるのは、すごく楽しいと思うんですよね。その日の自分のセリフの発し方、そこに乗っかる感情次第で、作品に影響を与えることができると思うので、それも楽しみたいなと思います。
――最後に、俳優というお仕事をしていて、本当によかったなと心底思う時は、どういう時ですか?
舞台で演じている時間とか、稽古の時間は、身体的にも精神的にもかなり大変なのですが、作品が完成して、皆さんに届いた時に、ひとつの作品を残せたという達成感があります。それを観てくれる人がいて、評価してくれる人もいて。そういう達成感は、役者だからこそ感じられること。それを感じたいがために僕は役者を続けているのだと思います。
宮沢氷魚
取材・文=Iwamoto.K 撮影=福家信哉

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