岸田総理

岸田総理

同性婚に反対したら即差別主義者認定
するのは大間違い

LGBTに関する法整備において、「同性婚を認めるのは当然!」「LGBT差別禁止法を早急に進めよ!」という意見に反論しようものなら、即、差別主義者認定される状況になっている。しかし元参議院議員の松浦大悟氏は、ことはそう簡単な問題ではないという。

 岸田文雄首相が同性婚について「社会が変わってしまう課題」と答弁。また荒井勝喜首相秘書官が同性カップルについて「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」とオフレコ会見で語り大炎上。火消しに躍起となった岸田首相は、LGBT理解増進法の国会提出準備を進めるよう指示を出した――。
 こうした手法はいわゆるピンクウォッシュ(※「ゲイフレンドリー」であるという印象を与えることにより、他の人権侵害から目を逸らさせる戦略のこと)と呼ばれるものであり、これまでリベラルサイドが批判してきたものだ。防衛増税や旧統一教会問題、閣僚の辞任ドミノなどの失態を覆い隠すためにLGBTを利用していることは明白であるにもかかわらず、左派が誰もそのことを批判しないのは何故なのか。筆者はそこに利権の匂いを感じ取っている。
 岸田首相は当事者に会って話を聞いたというが、その当事者とは有名な左派LGBT活動家たちであり、LGBT全体の代表でもなんでもない。SNSでは一般当事者から「なんで首相はこの人たちにお詫びしているの?」という疑問の声が上がっていた。まさにこの謝罪映像こそLGBT理解増進法ができた後の世界を象徴しているのだが、詳細については記事の後半に示すとして、まずは法案の中身から見ていこう。

国会にある3つのLGBT法 読者の皆さんは、国会に3つのLGBT法が存在することをご存知だろうか。
(1)元々の自民党案である元祖LGBT理解増進法
(2)野党案であるLGBT平等法(旧LGBT差別解消法)
(3)与野党担当者間で手直しされた修正LGBT理解増進法
 この3つである。マスコミはこれらを混同して伝えているため、国民に混乱が生じている。
 たとえば自民党は2021年の衆院選アンケートで「性的指向や性自認に関する差別禁止を明記した『LGBT平等法』の制定に取り組みますか?」との質問にバツをつけた。マスコミは「自民党は差別禁止を認めないのか」と批判したが、そうではない。野党案のLGBT平等法には構造的問題があるのだ。
 この法律ができると全国各地に地域協議会が作られ、委員として委嘱された地元の有識者やLGBT団体が差別案件について審査することになる。だが差別の定義は不明瞭で、協議会メンバーの胸先三寸でいくらでも白を黒と言い張ることができるのだ。かつての人権擁護法案とそっくりだと指摘する人もいる。日頃から北朝鮮に厳しいコメントをしている保守系議員に対し、「自分は在日コリアンだ。傷ついた」と協議会に訴える人がいれば、この議員は差別主義者だとして大きく新聞で報じられるだろう。審査の結果、後日「問題なし」と判断されても後の祭り。名誉を回復することは困難だ。差別主義者としてのラベルを貼られることは、それだけ大きなダメージを被る。LGBT団体には左派が多く、意図的に政敵を倒すことも可能となる。
 こうした問題意識のもと、自民党は独自案のLGBT理解増進法を進めようとしていたのだが、野党と折り合いがつかず、担当者の稲田朋美議員と立憲民主党の西村ちなみ議員は自民党案に「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」との文言を盛り込むことで手打ちをした。これが(3)の修正LGBT理解増進法である。だがそれでは野党案の問題点をクリアしたことにはならず、自民党内が大紛糾する原因となっているのだ。

「差別は許されない」の意味 21世紀最後の人権問題と言われるLGBT問題は、1960年代の公民権運動のような素朴な構図を持たない。複雑で一筋縄ではいかない難問だからこそ、マイケル・サンデル氏の『白熱教室』でも度々取り上げられるテーマなのだ。次は、法律に「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」との言葉が入るとどのようなコンフリクトが生じるか見ていこう。

【ケース1】車椅子介助者からのクレームは差別か?
 筆者が住んでいる秋田県では2022年にあらゆる差別の禁止をうたう多様性条例が施行された。それに伴い23年には公共トイレの表示の見直しが始まり、秋田市消防本部4階の多機能トイレがオールジェンダートイレへと変貌した。入り口には車椅子や妊産婦のピクトグラムも掲げられているものの、一際目立つレインボーカラーのピクトグラムに圧倒されている。トランスジェンダーが入りやすいように配慮したのだという。
 ところがこれに、車椅子ユーザーの介助者から批判が寄せられた。多機能トイレを着替えに利用するトランスジェンダーが多く、待っていたら中から女装した男性が出てきたこともあったそうだ(国連の定義に従うと、異性愛者の女装家はトランスジェンダーに含まれる)。車椅子ユーザーが使えるトイレは数少ないわけだから、多機能トイレの使用は障がい者や乳児連れなどに限定してもらいたいというのだ。
 さてこの場合、差別をしているのは車椅子ユーザーに配慮しないトランスジェンダーか。それともトランスジェンダーのトイレ利用にクレームを入れる車椅子介助者か。

【ケース2】自治体の婚活イベントは差別か?
 広島県の安芸高田市は、男女の結婚を後押しする婚活事業を2021年度限りで廃止した。人口減少対策の一環として10年続けてきたが、LGBTへの配慮を欠いているとして打ち切りを決めたという。
 さて、全国各地の自治体で行われている異性婚を前提とした婚活パーティーはLGBT差別か否か。
 同性婚問題で争点になっているのは、生殖可能性のない同性愛者にも婚姻を認めるかどうかである。わが国の結婚制度は、子どもを産み育てることをベースに構築されているというのが保守派の主張だ。もし修正LGBT理解増進法ができれば、こうした考え方自体が「性的指向および性自認を理由とした差別」だと断定される可能性はある。そして、婚姻制度が生殖可能性のあるカップルの優遇目的ではないとなれば、少子化の懸念を背景に行政が乗り出している婚活イベントは、税の使い道として公共に反しているとの指摘を受けるだろう。「LGBTが増えると少子化になる」というのは暴論であり直接の連関はないが、このような理屈で異性愛者の出会いの場がなくなっていくのだとすると、その分、今より子どもの生まれる数が少なくなることは間違いない。

【ケース3】りゅうちぇる氏への批判は差別か?
 タレントのりゅうちぇる氏が、ぺこ氏と離婚した。結婚後しばらく経ってから、自分がトランス女性だと気づいたからだ。これに対し、SNSでは賛否両論がわきおこった。「奥さんがかわいそう」「LGBTを言い訳にしてぺこに家事育児すべて押し付け、自分は自由な独身ライフを謳歌している」「自分の子どもが欲しかったという安易な理由で女の子の人生を変えてしまった」など。しかし、修正LGBT理解増進法が可決すると、こうした投稿は差別となる。なぜなら何人も他人の性自認を否定してはならないからだ。
 いま国会では、性同一性障害特例法が課している性別変更の要件を緩和する議論が、いつ始まってもおかしくない状態にある。現行法では、未成年の子がいないことを条件としているが、当事者からはこれを削除してほしいとの要望が出されているのだ。「子どもは父親が徐々に女性へと変化していく姿を見ているのでショックを受けることはない」というのが彼らの言い分だ。性別移行した夫からある日突然離婚届を突きつけられ、妻子が路頭に迷う――。妻の法的地位や子の福祉よりも、トランスジェンダーとしての権利が優先される社会の入り口に我々は立っているのかもしれない。

【ケース4】ゲイの代理出産利用を認めないことは差別か?
『おひとりさまの老後』シリーズが大ベストセラーになった社会学者の上野千鶴子氏が実は結婚していたというニュースに驚かれた人も多いだろう。社会学は「あの手この手」を使って結婚や家族を相対化してきたが、結局上野氏でさえ結婚引力に抗うことはできなかった。それは同性愛者も同じであり、同性婚を結婚制度に組み入れてほしいと願う一部の人たちの気持ちはよくわかる。しかし問題は、愛する2人の権利関係だけに終わらない点である。
 同性婚の次に出てくる要求は、代理出産を享受する権利である。「自分たちだって血の繋がった子どもをもうけ、温かい家庭を築きたい」と思うのは自然なことだろう。2022年、自民党の生殖補助医療についてのプロジェクトチームは、先天的に子宮がない人などに対し、一定の条件下で代理出産を認めるべきだとする案をまとめた。無子宮であれば代理出産が認められるのなら、まさにゲイは無子宮であり、条件としては同じである。WHOがゲイやレズビアンに生殖医療を認めるロジックとして「彼らは不妊症」と述べたことを考えると、あながちぶっ飛んだ話でもないのだ。海外と同じように、わが国でもゲイの代理出産利用はいずれ認可されるに違いない。
 だが代理出産は貧困女性が担うことが多く、フェミニストから大変な批判を受けているのも事実。あのウクライナが代理母ビジネスの一大産地だったことを知った上野氏は、NHKの番組『100分deフェミニズム』において「他人の体を使って自分の自由を追求するな」と怒り心頭に発した。
 さて、修正LGBT理解増進法は代理出産についてどのようなジャッジを下すだろうか。差別をしているのは貧困女性を搾取しているゲイか、それともゲイが子どもを持つ権利を認めないフェミニストか。
フェミニストの代表格・上野千鶴子氏は代理出産に怒り心頭。
公共事業としてのLGBT法 ここまで見てきたように利益相反は多岐に渡る。拙稿では触れなかったが、身体男性のトランス女性が女性スペースに入ることの是非や、女子競技に参加することの是非などもある。修正LGBT理解増進法は、「なんとかなるさ」と見切り発車していい代物ではないのだ。
 ところで、左派LGBT活動家の本丸は別のところにあると指摘する向きもある。それがこの法案の中に位置付けられている「基本計画」だ。
 例えば男女共同参画社会基本法は、条文に基づいて基本計画が策定され、全国の自治体が予算を付けてそれを執行していった。ハコモノである男女共同参画センターや女性センターが乱立し、行政フェミニストが多数誕生した。
 修正LGBT理解増進法も同様の構造になっており、条文には基本計画の策定が義務付けられている。おそらく各県にLGBTセンターが作られ、多くのLGBT活動家が行政の仕事を担っていくことになると想像する。すでに水面下では、誰がセンター長になるのか、どの団体が教材のDVDを作るのか、小中学校への講師派遣は誰に頼むのかといったLGBT活動家たちによる綱引きが行われている。左派LGBT活動家は記者会見で「理解増進なんてあまりにも生ぬるい。作るのであれば差別禁止法」と言うが、LGBT理解増進法が通れば自民党側のLGBT活動家が主導権を握り、LGBT平等法が通れば野党側のLGBT活動家が主導権を握ることになるわけだから彼らも必死だ。どちらに決まるかで、自分たちに回ってくる補助金は雲泥の差となる。
 2013年、筆者はアメリカ国務省に招聘されてLGBT研修に行ってきた。そこではどの州を訪れても立派なLGBTセンターのビルが立っていた。サンフランシスコにはLGBTの歴史資料館も建設されていた。ソドミー法などを通してLGBTへの虐待を行なってきた欧米の贖罪意識が根底にはあると感じた。歴史や文化の違うわが国において本当にこのような予算措置が必要なのか、国民の税金の使われ方を注視していかなくてはならないと思う。
アメリカにおける最初のLGBTコミュニティセンターであるロサンゼルスLGBTセンター。

「LGBTと向き合う」とは 2022年に始まった東京都パートナーシップ宣誓制度の事前調査では、自分の住む地域に同様の制度があっても活用しないと答えた当事者が8割を超えた。20年から始まった大阪府でさえ利用者は約300組しかおらず、LGBT人口1000万人から換算すると雀の涙だといっても過言ではない。同性愛者はポリガミー(※1対多数や多数対多数のパートナーシップ)的生活を送っている人が少なくない。15年成立の渋谷区パートナーシップ制度で旗を振っていたLGBT活動家の多くは、すでにその時のパートナーとは関係を解消している。
 そうした中、ゲイの出会い系アプリでは、異性愛者の女性との友情結婚を斡旋する広告が流れている。ゲイ同士の流動的な関係に疲れた人たちが、性愛抜きの安定的関係を求め始めているのだ。しかもこれは経産省の補正予算で行われている事業である。このように同性愛者への法的保障のやり方は複数あるにも関わらず、あたかも同性婚しか選択肢がないかのような報道は、本当にLGBTと向き合っていると言えるだろうか。
 首相秘書官の失言に乗じ、「与党の信頼回復」や「野党の実績」として法案を成立させるのではなく、「LGBTの中の多様性」にもっとスポットライトを当ててほしいと思う。
文/松浦大悟初出/実話BUNKAタブー2023年5月号PROFILE:
松浦大悟(まつうら・だいご)
1969年生まれ。神戸学院大学卒業後、秋田放送にアナウンサーとして入社。秋田放送を退社後、2007年の参院選で初当選。一期務める。自殺問題、いじめ問題、性的マイノリティの人権問題、少年法改正、児童買春児童ポルノ禁止法、アニメ悪影響論への批判、表現の自由問題などに取り組んだ。ゲイであることをカミングアウトしている。著書に『LGBTの不都合な真実 活動家の言葉を100%妄信するマスコミ報道は公共的か』(秀和システム)。

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