【インタビュー】歩き、繋がり、舞う
〜表現者「O B A」が追い求めるダン
スの本質

(ダンスク!より転載)
コロナ以降、ダンス部全体の作品の方向に少々の変化が見えてきた。
かつてバブリーダンスで一世を風靡した大阪府立登美丘高校は近年シュールな作風に方向転換し、高度な技術を持つ創作ダンス出身のダンス部は、シリアスで芸術的な表現でストリート勢を圧倒。昨年のダンススタジアムでも、関西大倉高校の抽象的な表現などは今後のダンス部の新しい潮流を作りそうな予感だ。
ダンスを表現と捉える。
本来そうであるべきなのだが、ことストリートダンスはスタイルが確立されているジャンルだけに、そう意識しているダンサーは多いとは言えない。
コンテストで勝ち上がるためにはもちろん、ダンスをより広く一般に届けるために、ダンスを追求していくために、何よりダンサー自身が意欲的に踊り続けるために、「表現としてのダンス」ということを今一度考えていきたい。
昨今の教育現場でのダンス導入も「身体表現能力の向上」が狙いの1つでもある。
アメリカまで追ったストリートダンスの答え
 (c)Issey Miyake . Session One
一人の表現者がいる。
ダンサーO B A。
ストリートダンス出身で、ジャンルはPOP。
数々のバトルやコンテストで名を上げ、やがて自らのダンスを「表現」に向かわせるキャリアを重ねてきた。
POPからダンスを始めて、今ではだいぶ違うスタイルになっていますが、POPは「道」に近い部分があるかもしれません。空手とか剣道とかにある「道」です。
究極的に自己と向き合う身体感覚があるというか、例えばヒットの練習をしていく過程では、自分の負荷を自分でかけていくんですね。そういう向き合い方は他のジャンルにはないのかなと思います。
確かにPOPは、HIPHOPやLOCKほどの取り組みやすさがあるわけではなく、JAZZやBREAKINのような派手さがあるわけではない。どちらかと言うと、マニアックで職人気質。
そこを極めるダンサーには、O B A氏のような求道者のイメージが似合う。
僕はダンスの師匠がアメリカ人で、必然的にアメリカのカルチャーを意識しながらダンスを覚え、現地でバトルなんかに出ると日本人であることのアイデンティティも強烈に意識せざるを得なかった。
帰国してからも、コンテストやバトルに繰り返し出ていましたが、徐々にストリートダンスでアメリカのカルチャーを追っていくことへの疑問を感じ始めたんです。
 O B A氏が海外のバトルに参戦していた頃の映像。
2005 FunkStyleConference East vs West 1on1 PoppingDanceBattle:優勝時の決勝ラウンド(vs Onion | Judge ElectricBoogaloos)
そして、O B A氏が苦悩の末に行き着いた答えは——
「ストリートダンスの本質はファッションである」
ということだった。
ストリートダンスは“Just for Fun”“Just for Play”、あくまで“楽しむ”ためにある。そこが他のダンスジャンル、コンテやバレエや伝統芸能とはちょっと違うと思います。そういう意味での「ファッション」です。
でもそれはとても良いことで、だからこそ今ここまでストリートダンスが広がったわけなんですけど、自分的にはだんだんそこに限界を感じるようになって、その向こう側にある世界を求めていったんです。
 2016 NYC Popping Dance Contest 準優勝した際の記念写真。約10年ぶりの渡米。East Coast OG Dancerが集い、大いに盛り上がった。 
767kmで得た答え「歩くことが踊り」
そしてO B A氏は、暗黒舞踏やコンテンポラリーなどの前衛芸術の歴史を研鑽しながら、ダンスのルーツや意味を深く考え始める。
そもそも、ダンスを踊るって相当にポジティブな行為で、人間の日常としてはかなり極まった行為ですよね(笑)。正直、生きるには無用なものだけど、最も初源的な芸術行為だと思います。
踊るって言うのは、人間的には無条件な衝動のはずなんです。岡本太郎さんが言う「芸術とは無条件の衝動」ですよね。
それにつれて、踊りのインスピレーション源も徐々に変化していったという。それはスタイルでも、他人のダンスでもなく、もっともっと巨大なものに——。
いろいろ模索していって、最終的には、葉っぱが落ちる動きとか、波打ち際の流動性とか、万物の流れが自分にもあることに気づいたんです。
それまで人間対人間でダンスを学んでいたことが、「自然対自分」という交信になり始めました。そこからの学びは膨大すぎるけど、すごく面白みを感じているんです。そして、そんなことを考えながら歩いていると、その「歩く」という行為に全部の身体表現の収斂が学べるということにも気づいてきました。
「歩く」——
O B A氏は2017年、住居のある鎌倉から島根県の出雲まで「歩く」旅に出る。一本歯と地下足袋で、767kmを28日間。最終的には出雲での短編映画の撮影が目的だったが、「歩く」という原始的な行為が彼にさまざまな気づきを与えてくれたという。
 「日本うるるん一本歯」 767km完歩到着時の写真。共に歩んだのはダンサー 大宮大奨氏だ。 Photo by Yoshihiro Saeki
1日30キロ近くも歩くことは確かに苦しかったですけど、先人の身体感覚や禊(みそぎ)も感じることができたし、最終的には「歩くことこそが踊り」なんだと気づきました。
人間にとって歩くことは生きること、歩みにはリズムがあって、生きるリズムとは歩くこと。だから「歩くことこそが踊り」なんですね。
 翌2018年、鎌倉から滋賀県まで一本歯と地下足袋で歩み舞う企画 「歩んで舞る」を、(株)大人 代表の五十嵐慎一郎氏と共に企画・出演。滋賀県は東近江市「野々宮神社」での奉納舞台が最終地点だ。下は当時、報道された新聞記事。

Dews

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