SHISHAMOの10年を祝うと同時にバンド
の最高地点を更新してみせた3度目の
武道館

SHISHAMO NO BUDOKAN!!! ~10YEARS THANK YOU~』 2023.1.4 日本武道館
赤白タオルがぐるぐる回る光景から、バンドと観客とが一緒になって、10周年を全力で祝うことのかけがえのなさを実感した。そしてまた、お祝いの場だからといって浮かれることなく、これまでの最高記録を更新するステージを展開するバンドの真摯な姿にも、胸が熱くなった。SHISHAMOの現在のバンドの充実ぶりと、この10年間で積み上げてきた成果とが見えてくる素晴らしいライブだった。
武道館に入ってまず目を引いたのは、“赤と白”の配色の鮮やかさだ。ステージの床は赤。ステージの中央からの花道も赤。花道の先のセンターステージには、おなじみのSHISHAMOの赤地に白のロゴがデザインされている。赤白なのは、それだけではない。客席を埋めつくしている観客が首に巻いている赤白タオルが目立っていた。天井からは赤白の日の丸の国旗。会場内には10周年を祝う、めでたい雰囲気が漂っていた。
「恋する -10YEARS THANK YOU-」のMV特別バージョンの映像が、武道館の前で男の子(岡田翔太郎)を待つ女の子(上原実矩)のシーンにつながっていくという始まりだったのだが、実はここで画面はリアルタイムの中継映像に切り替わっていた。開演10分後、男の子が現れて、二人が武道館の中に入って扉を開けると、武道館の内部の扉も開き、実際の二人が館内に入ってきた。客席から驚きの歓声が起こったところで、映像が終了。映像から生中継映像へ、リアルな本物の二人の登場へとつながる演出が鮮やかだ。そして、宮崎朝子(Gt/Vo)、松岡彩(Ba)、吉川美冴貴(Dr)が登場。温かな拍手が3人を包み込んでいく。
1曲目は「恋する」。デビューアルバム『SHISHAMO』収録曲であり、CDデビュー10周年コンセプトアルバム『恋を知っているすべてのあなたへ』にもリレコーディングした「恋する -10YEARS THANK YOU-」が収録されている、ライブの始まりにふさわしい曲だ。キャノン砲から紙吹雪が発射され、祝福ムードがさらに盛り上がっていく。同時に、緊張感を気迫へと変換していくような演奏に、こちらまで身が引き締まっていく。観客がハンドクラップで参加。「ねぇ、」での疾走感あふれる演奏に場内が気持ち良さそうに揺れていた。ステージの背後のLEDには「10YEARS THANK YOU」と書かれ、星のマークが10個輝いているSHISHAMOの10周年ロゴが映し出されている。満員の観客に、宮崎が挨拶。「仕事始めの日に来て下さってありがたいです。みんなは祝いに来てくれたんですよね」との言葉に会場内から大きな拍手が起こった。この日の模様は、U-NEXTでもライブ配信されている。会場内だけでなく、自宅でSHISHAMOの10周年を祝っている人たちがいるのだ。
スケールの大きさと切れ味の良さを備えたバンドサウンドが気持ち良かったのは「中毒」だ。宮崎の歌声に松岡と吉川のコーラスが混じることで、独特な高揚感が漂っていた。MVにも登場する怪獣をモチーフにした映像と歌詞の映像が流れる中で演奏されたのは「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」。宮崎のキーボードの弾き語りで始まり、ベースとドラムが加わると、緩急自在のグルーヴに観客が揺れた。レーザービームが飛び交う中で演奏されたのは「きっとあの漫画のせい」。宮崎の奏でるグレッチの伸びやかな音色が印象的だ。宮崎、松岡、吉川が一丸となった演奏。観客のハンドクラップが加わって、会場も一丸。
「ベストも入れたら、アルバムをこれまでに8枚出したことになります。あなたたちの聴いている他のバンド、10年で8枚出している?」と宮崎が客席に問いかけている。観客からどよめきの声。確かに、音源制作とライブ活動をこれだけの密度でやっているバンドは、そうはいないだろう。突出しているのは活動量だけではない。質においても、SHISHAMOは破格だ。アルバムを出すごとに自分たちの音楽性を広げ、ライブをやるごとに演奏の精度も表現力も向上し続けてきた。その成果は存分に発揮されている。10周年については、それぞれこんなコメントが。
「最初は“えっ、もう10年なんだ”ってびっくりしていました。でもみなさんが“おめでとう”って言ってくれて、うれしい気持ちが日に日に増しています」(松岡)
「軽音楽部でやっている時から12年くらい経っていて。当時は卒業したら終わりでしょって言っていたので、本当にうれしいです。SHISHAMOを好きでいてくださるみなさん、スタッフのみなさん、二人にも感謝の気持ちでいっぱいです」(吉川)
「いろいろな出会いがあって、いろんなことがあって続いてきました。自分がやりたいと思っただけでは続かないと思います。SHISHAMOを聴いてくれる人、支えてくれるスタッフ、みんながいないと、無理でした。みんなでたどり着いた10周年イヤーだと思っています。みんなの顔を見られることがうれしいです」(宮崎)
この10年の間で生まれた恋の歌がたくさん披露された。変幻自在のグルーヴで演奏されたのは「狙うは君のど真ん中」だ。恋心をファイティングスピリッツに昇華させていくような演奏がスリリングだ。歌、ギター、ベース、ドラムが一体となって観客のど真ん中を直撃。「量産型彼氏」では、男の子の健気な恋心をロックで表現。カラフルでポップなイラストを使った映像も楽しかった。ギターソロで宮崎が花道に出てくると、観客が大きく手を振る。せつなさと力強さとが共存する演奏が素晴らしかったのは「メトロ」。失恋から立ち直ろうとする女の子の気持ちに寄り添うような凜とした演奏だ。
SHISHAMOのこれまでの10年間を辿るヒストリー映像が映し出されている間、センターステージに楽器がセッティングされて、3人がセンターステージへ。バンドと観客の距離がさらに近くなっている。ソリッドなギターで始まったのは「僕に彼女ができたんだ」。前方に吉川、後方下手に宮崎、後方上手に松岡。三角形となって、それぞれが向き合う形で演奏している。
「近いですね。SHISHAMO歴が長い人ほど、“どうせアコースティックでやるんでしょ”って思ったでしょ。違うから。10周年のSHISHAMOはここでバンドをやっちゃうから」と宮崎。たしかに、鍛え上げてきたバントサウンドこそが10周年の証し。3人のバンドにかける心意気が伝わってくるようなステージだ。「ちょっとくらいなら、声を出してもいいはずなんで。“かわいい”くらい言ってもらっても、大丈夫なんで」と宮崎が言うと、会場内から「かわいい!」という声が上がった。「私は“かわいい”って言われるのはライブくらいなのよ」と吉川が言うと、すかさず客席から「かわいい!」との声。「ありがとうございます。これで明日から、世界がどんなに残酷でも生きていけます」と吉川。そんなやり取りに続いて演奏されたのは、疾走感あふれる演奏が痛快な「バンドマン」。観客のハンドクラップとともに始まったのは「生きるガール」だ。ダイナミックでエネルギッシュなグルーヴに会場内が揺れる。
中盤はメインステージに戻って、恋のダークサイドを題材としたナンバーが続く構成だ。「君の大事にしてるもの」では、ファンキーなグルーヴに乗ったエモーショナルなボーカルがスリリングだった。3人のみずみずしいコーラスワークが印象的な「二酸化炭素」。カップルの微妙な空気感や距離感をバンドがリアルに表現している。ギターとベースのユニゾンでのフィニッシュ。「忘れてやるもんか」では、緩急自在の演奏を堪能した。宮崎の歌の感情の高ぶりと松岡、吉川の演奏のテンションとが見事に一致。赤と白の光を使った照明の美しさも際立っていた。
ミディアムテンポの夏の曲「ハッピーエンド」は、バンドのスケールの大きな演奏が気持ち良かった。宮崎のボーカルからも松岡のハーモニーからもせつなさがにじんでいる。吉川の力強さと温かさとが共存するドラムが曲の土台をしっかり支えている。浮遊感の漂う演奏でスイートな恋をみずみずしく表現していたのは「天使みたい」。宮崎のアコースティックギターで始まった「夏の恋人」では、ニュアンスに富んだ歌声と広がりと深みを備えた演奏に聴き惚れた。「夢で逢う」は宮崎のブレスでの始まり。おだやかなトーンで演奏が進行するが、徐々に演奏が熱を帯び、松岡の歪んだベースをきっかけとして、曲の世界観がよりディープに展開していく。せつなさの極致と言いたくなる歌と演奏だった。
SHISHAMOのワンマンライブで恒例となっている「吉川美冴貴の本当にあった○○な話」のコーナー、いつもはコミカルな話題がテーマとなるのだが、この日は吉川が率直に自分の心境を語っていた。挫折の多い人生だったこと、自分には特別な才能がないとわかったこと、ステージに立つのが怖いと思う日があったことなどなど。
「もしかしたら自分はSHISHAMOのことが好きじゃなくなったのかなと思うこともありました。でも最近わかったのは、“好き”と“楽しい”がイコールではないということ。どんなにつらくても怖くても、自分がSHISHAMOのことが好きなんだなって、10年かけてわかりました。明日からももがきながら、活動を続けていくので、そばで見守っていてくださったらうれしいです」と吉川。すかさず宮崎が反応する。
「いや、才能はありますよね、吉川さんの努力の仕方は尋常じゃないから、それは才能だと思います」と宮崎。「努力も才能です」とは松岡。こうした互いのMCからも、SHISHAMOの音楽に向かう真摯な姿勢や3人の結束力の強さが見えてきた。そしてなによりも、3人の演奏そのものの充実ぶりが、この10年の日々を雄弁に物語っていた。
終盤に突入して、「君と夏フェス」「君とゲレンデ」など、バンドとリスナーとの出会いとなった曲へ。観客もハンドクラップで参加。LEDにはSHISHAMOのロゴが映し出されていた。松岡がセンターステージへと出てきて、「タオル」のフリの練習をする。「元気にいけますか!」という松岡の言葉に「イエ~イ」と観客。「準備はいいですか?」という宮崎の声にも、大きな歓声が応えている。コロナ禍でしばらくは聞けなかったコール&レスポンスは新鮮でかつ感動的だ。何千もの赤白タオルが回る光景そのものが、SHISHAMOの10周年のお祝いみたいだった。「タオル」は武道館内の全員が一緒に演奏していると感じた。客席から「最高!」との声。
「明日も」でキャノン砲から銀テープが発射されると、たくさんの歓声が起こった。LEDに歌詞が映し出されている。「明日も」はライブで演奏されることで育ってきた曲だ。<痛いけど走った><苦しいけど走った><今日をひたすらに走ればいい>などのフレーズがリアルに響いてきた。もともとは、サッカーのサポーターの姿に触発されて作った曲とのことだが、この日は10年走り続けてきたSHISHAMOの姿と重なって聴こえてくる瞬間があった。涙を流している観客もたくさんいる。「明日も」は“みんなの歌”になったのだなと感じた。続いての「明日はない」では、エネルギーのほとばしる演奏が気持ち良かった。3人の渾身のプレイに体が揺れる。今の瞬間を完全燃焼するような演奏で本編終了。熱くて温かな拍手が起こった。
アンコールは「ブーツを鳴らして」から。3人のハーモニーがロマンチックに響く。ライブの冒頭で流れた男女の物語ともシンクロするような、せつない歌の世界が展開されていく。この10年の間に、たくさんの恋のストーリーを音楽で紡いできたSHISHAMOの魅力が詰まった歌と演奏だ。あっという間に時間が過ぎていく。この日のステージの感想を、3人がそれぞれの言葉でこう語った。
「楽しみにしていたし、楽しめました。いい年明けになりました。ここから10周年イヤー駆け抜けていきます。みなさんと一緒に楽しい時間を共有していけたらと思っています」(松岡)
「時が一瞬ですぎていきました。本当にいい日、忘れられない日になりました。みなさんがいてくれたおかげです。一緒に楽しい一年にしていっていただけたらうれしいです」(吉川)
「10年間で3度目の武道館なんですが、この10年いろんなことがあって、コロナ禍があって、簡単じゃなかったような気がしています。特別な武道館になりました。これからいろんな場面で今日のことを思い出すような、糧になる時間でした。みんなのおかげです。みんなにとっても覚えてくれている日になったらうれしいです」(宮崎)
3人の挨拶に続いて、アンコールのラストは「またね」。思いの詰まった歌、ギター、ベース、ドラムが大きなうねりを生み出していく。失恋の曲だが、この日の<またね>というフレーズは、観客との再会の約束の言葉のようにも響いてきた。演奏が終わると、3人が花道を歩いて、センターステージで手をつないでお辞儀。客席から「大好き〜!」という声がかかった。「ありがとうございました」と3人が生声で挨拶。
3人が去ったあとで、LEDに冒頭の映像の続きが映し出され、SHISHAMOの武道館ライブを観た2人が、武道館から出てきた。この映像も武道館前からのリアルタイムの中継だ。「楽しかった」「感動したな」と二人が会話。そして女の子が男の子に自分の気持ちを告白した。「今日から私のことを好きになってよ。女の子だと思って接してよ」と女の子が言ったところで、武道館前からの生中継終了。SHISHAMOの音楽を通して、物語と現実とが一体となっていくかのようだ。SHISHAMOの今後の展開とともに、この恋の行方がどうなるのかが気になってしまった。
10周年のお祝いのライブ。さまざまな恋の歌を軸とした構成だった。恋の歌をこんなにも多彩に表現できるところに、SHISHAMOというバンドの素晴らしさがある。SHISHAMOがなぜこの10年の間に、3度も武道館のステージに立つことができているのかが、よくわかるライブだった。数々の困難を乗り越えることで、バンドが磨かれてきたことを実感すると同時に、バンドと観客との絆の強さも見えてきた。しかし、これがゴールではない。コンセプトアルバムのリリース、大阪城ホールでのライブなど、10周年の企画もまだまだたくさん用意されている。お祝いの気持ちをエネルギーとして、SHISHAMOはまだ見ぬ新しい場所へと向かっていくだろう。この日の武道館は達成のステージではなく、飛躍のステージだ。

取材・文=長谷川誠

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