型破りな「森の石松」を12月23日から
7日間限定配信 出演俳優にインタビ
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大衆演劇に大きな変革をもたらした新作芝居、『遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚』が、イープラス「Streaming+」で配信開始される。配信期間は12月23日(金)~12月29日(木)。配信チケットは2,500円~。
『遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚』メインビジュアル
本作は東京・北区 篠原演芸場で12月12日(月)に上演されたばかり。芝居の中にパフォーマンス集団・破天航路(はてんこうろ)によるギター、ドラム、ベースの生バンド演奏を入れ、型破りな内容が、企画発表当初から話題を呼んだ。主催の一般社団法人 日本文化大衆演劇協会は、「少しずつだが、今まで大衆演劇を観なかった層にも確実に響いている」と手ごたえを見せた。
遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚

遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚
遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚
遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚
遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚
遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚
遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚
遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚
遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚
芝居の題材となる森の石松は、約150年前の侠客・清水次郎長一家の子分の一人。石松を演じたのは三咲暁人。語り部である虎造を演じたのは、嘉島典俊。悪役の都鳥(みやこどり)三兄弟を演じたのは、伍代孝雄・恋川純弥・二代目恋川純。5名の、公演準備中のインタビューを紹介する。

■森の石松役・三咲暁人
三咲暁人(みさきあきと)。25歳になったばかりの大衆演劇期待の若手スター。『遠州傾キモノ』の演出も手掛けた。劇団暁(あかつき)の若座長。
森の石松は色々な役者が演じている役なので、イメージがお客様の中にあると思いますが、また違った、僕の石松をやれれば良いなと思っています。僕の若座長七周年記念公演でもあるので、企画段階から話し合いに入らせてもらいました。大衆演劇の伝統的な演目に、新しい見せ方を取り入れた、コラボみたいなことができたらいいなという考えがあって、森の石松に決まりました。自分の劇団でも石松の芝居を持っていて、僕は石松役をよく演じていますが、今回は渡辺和徳さんに脚本を書いていただきます。脚本が変われば役も変わってくるので、石松の固定概念を一回捨てて、新しい役として挑戦するつもりです。演じ方もそうですが、演出や芝居全体の作り方を含めて、新しい「見せ方」の森の石松をお届けできればと。破天航路さんの演奏も加わってくれます。
――本作も含めて、2022年は大衆演劇を新しいファン層にアピールするための「新風プロジェクト」公演が次々と企画されました。その多くの芝居の演出をされています。
ありがたい限りです。挑戦させていただく一年でした。
――これまでの大衆演劇であまり見られなかった、斬新な演出はどのように考えているのでしょう。
歌舞伎、ミュージカル、オペラなど、土俵が全然違う舞台を観て、インスピレーションを受けるようにしています。観に行ったり、DVD を買ったり。そこで格好良いなと思った舞台上のフォーメーションや、音楽の使い方を頭の中に入れておいて、いざ大衆演劇の演出をするときに、この芝居には、あのやり方をアレンジしたら合うんじゃないか?って自分なりに変えていきます。
――大衆演劇は公演がほぼ毎日あり、かつ演目が日替わりです。劇団暁は、12月は東京・篠原演芸場での一か月公演です(12/1~12/25、休演日12/19)。
10月末から毎日の演目を決めて、公式LINEで発表しました。お客さんが座席予約をしてくださったり、有休を使って来てくださったりすることを考えて、早めに出しました。
――この配信や、12月の劇場公演を観る方に、どんな気持ちを届けたいですか。
大衆演劇を観たことのない方に初めて観ていただいて、大衆演劇って良いな、面白いんだなって思っていただきたいです。また、大衆演劇を元から観てくださっている方たちにも、大衆演劇の良さをあらためて感じてもらえる舞台にするつもりで頑張ります!
『遠州傾キモノ』には、暁人の所属する劇団暁の座長、三咲春樹・三咲夏樹も出演している。
次郎長役:三咲春樹
お蝶役:三咲夏樹

■虎造役・嘉島典俊
嘉島典俊(かしまのりとし)。14歳まで大衆演劇の劇団に所属したのち、フリーの役者に。NHK大河ドラマやスーパー歌舞伎に出演。
――虎造は『遠州傾キモノ』の核になる役ですが、語り部なので物語の外側にいます。
狂言(物語)回しのポジションですね。浪曲師ですが、石松の死に様のくだりはあまり語りたくないんだ、ここは悲惨だから嫌なんだっていう思いを抱えています。その思いが、物語の中の石松とリンクしていきます。
――悲惨な物語の最後を変えたいという虎造に、共感するところは。
僕の持論ですが、どの作品に出演させていただくときも、お金を払って観てくださるお客さんが、重い気持ちで帰るのは避けたいと思っています。観客が、最後にスカッとするところがあったほうが良いのではと。脚本を何回も読み込んだ上で、演出家の方や脚本家の方に、こういうのはどうですかと提案をすることも多いです。本来は辛い終わり方をするものであっても、その後にハッピーエンドを付け足したり、観に来た人が気持ちよく帰れるように作っていきたいです。もちろん、全部がハッピーエンドでは成り立ちません。でも、役者側がいくら良い芝居や踊りをしたと思っていても、お客さんが、あそこへ行くと寝つきが悪いなあ…と思われていたら、次はもう観てくださらないですから。
――お客さんが気持ちよく観られるように、芝居の嘘が生きるのですね。
特に時代劇はそうです。史実に沿っていると言っても、僕らがやっていることは結局、嘘です。たとえば当時の人々の髪型が、時代劇の鬘の通りなどということはあり得ません。でしたら、観てくれる方にとって、お殿様がより格好よく、お姫様はきらびやかなほうが良いと僕は思います。リアリティとエンターテイメントが融合して、初めて真実味がでるのかと。
――映像、舞台、そして古巣である大衆演劇への出演と多忙です。
僕は子どもの頃に、大衆演劇の先輩方から古き良きものを教わることができました。14歳で大衆演劇の世界を離れることになりましたが、今の座長さんたちからも、古き良いものを受け継いでいきたいので、出演してほしいとか、また、僕がジャンルの違うお仕事をさせていただいているところから、吸収したいとおっしゃってくれる座長さんもいます。どのお仕事であっても、芝居は、役者とスタッフとお客さんの三角ベースだと思っています。役者同士のキャッチボールではなく、スタッフに投げてお客さんにボールを渡す。その心を大切にしていると、共鳴と共感、感動の三角ベースができて面白くなります。
――大衆演劇の醍醐味は何でしょう。
仕事が終わってから急いで劇場へ駆けつけたら、芝居の後半に間に合ったと、途中からご覧になるお客さんが間に合った場面から観ても面白いなと思えるように、理解しやすくお届けできるのが大衆演劇のメリットです。誰でも、いつでも、ポンと劇場に飛び込めば楽しめる。それが醍醐味だと思います。

■都鳥吉兵衛役・伍代孝雄
伍代孝雄(ごだいたかお)。東西の様々な劇団にゲスト出演し、芝居を引き締めている。
――吉兵衛は都鳥三兄弟の長男です。これまでに演じられたことは。
二度ほど、座長大会でやらせていただきました。吉兵衛は弟二人の力を借りて、お兄ちゃんぶってる感じでしょうかね。
――悪役ですが、お兄ちゃんぶっているのですか。
と、思いますね。大して強いというわけでもないと思います。お金を借りるのが癖みたいな人で、ただ悪事に手を染めてしまった、ずる賢い、悪党でしょうねえ。
――森の石松のお芝居では、多くの役を演じてきたと思います。
僕が演じたことがあるのは、石松、次郎長、小政、大政、都鳥の長男と次男です。石松は、芝居の中でも言われるように“馬鹿”ですよね。酒を飲んだら何をするかわからない。でも人間味があって、愛されるキャラクターです。石松は、次郎長親分の悪口を言われると我慢しきれない。死ぬとわかっていても飛び出して、命をかけて喧嘩をする。やっぱり人のために命をかけられるというところが心を打つんじゃないでしょうか。
――大衆演劇の芝居は口立てが多いですが、「新風プロジェクト」では脚本家の書き下ろした脚本に基づいて演じています。
文字で書かれた台詞を、口に出して言ったときに、命、魂を込めなければいけない。そこが難しいですね。僕は福岡の人間で、言葉の訛りがあるので、そこでも苦労しています。
――『遠州傾キモノ』の出演者は、2022年6月「新風プロジェクト」公演の『桜雪』出演者と重なります。(この記事の三咲暁人、伍代孝雄、恋川純弥、恋川純が出演)
6月の稽古で他の皆さんを見ていて、僕は同業者でありながら、すごいなと思いました。これまでにやってきた大衆演劇の芝居とは違う台詞がたくさんありましたし、その多さ、難しさ。僕はそこまで台詞の多い役ではなかったので、人を見る余裕があったんですが、稽古のときに大丈夫かな~と心配していたことがあっても、いざ本番では稽古の何十倍も完成された舞台になっていて、本当に皆さんの力を感じました。
■都鳥常吉役・恋川純弥
恋川純弥(こいかわじゅんや)。三味線、殺陣、日本舞踊などの多才ぶりで知られ、大衆演劇と他ジャンルのコラボ公演への出演も多い。17LIVEの人気ライバーでもある。二代目恋川純の兄。
――常吉は都鳥三兄弟の次男です。これまでに演じられたことは。
今回、初めてです。従来の森の石松では、悪役の兄弟三人の真ん中は、一番キャラクターが薄い役なんですよ。末の弟がわちゃわちゃしたキャラクターで目立ちやすいいっぽう、真ん中はちょっと優柔不断で気が弱いイメージがありますが、一番、印象に残りにくい役だと思います。なので、どうしたらいいかなと考え中です。
――純弥さんが今回打ち出したものが、みんながイメージする次男になるかもしれませんね。大衆演劇は演目が日替わりなので、新作芝居であっても、前日の夜の稽古だけでおおよそを詰めます。
そうですね、基本は一晩です。たとえば6月の「新風プロジェクト」の芝居『桜雪』の場合、前の日の公演が終わってから、5~6時間のお稽古で仕上げました。稽古が終わったのが午前4時くらいでしたね。でも、それに慣れていますから。逆に僕は、違うジャンルの舞台に立たせていただく機会もありますが、一~二週間かけて一つのものをお稽古するのに、集中力を持たせるのが大変です。3~4日で、集中して覚えるのが自分としてはベストです。緊張感を常に持っていたいので。稽古期間を長くいただけるときは、気が抜けたりミスをしたりしないように、かえっていつも以上に集中しないといけないですね。
――たくさんの技術を持っていますが、最近、力を入れられていることは。
三味線を集中して練習しています。もともと弾いていましたが、2年くらい前に吉田兄弟のお兄さん、吉田良一郎さんに三味線を教えていただく機会があったんです。そのことがきっかけで、再び火がつきました。
――大衆演劇以外の仕事もされている中、俯瞰して見ると、あらためて大衆演劇というジャンルの魅力は何でしょう。
今も昔も変わらず、親しみやすく身近で、演劇としては比較的低料金(※)っていうところは魅力なのかなと思います。だから、演劇を見るきっかけとしては、入っていただきやすい入り口なのではないでしょうか。特に「新風プロジェクト」は毎回、脚本家の方を迎えて、新しい物語に挑戦しているので、ぜひご覧いただきたいですね。
※大衆演劇の料金は通常公演では1000円~3000円、特別公演は4000円~5000円が目安。
■都鳥梅吉役・二代目恋川純
二代目恋川純(こいかわじゅん)。桐龍座恋川劇団の座長。主演の三咲暁人とは仲が良く、2022年6月には、恋川劇団に暁人が丸一か月ゲスト出演した。恋川純弥の弟。
――梅吉は都鳥三兄弟の三男です。
梅吉の役は、兄(恋川純弥)が以前、座長をしていた頃に演じました。だから十何年ぶりの役です。すごく好きな役だったので、楽しみです。僕の中では、梅吉はすごく素直で、悪い者に助言されたら悪いことをしてしまうというキャラクターです。あまり頭が良くない分、情にもろくて、悪い人間につけば悪くなるし、良い人間につけば良くなる、そんなイメージを持っています。
――森の石松で、これまでに演じた役は。
石松、梅吉、七五郎、お民、次郎長、保下田久六の残党で小島の松五郎、布橋の兼吉もやりました。『森の石松』は、大衆演劇の王道のお芝居を挙げれば、『沓掛時次郎』『一本刀土俵入り』『国定忠治』などと並んで、絶対に入る一本ですよね。その肝は、石松と次郎長親分との関係性なのかなと、僕は思います。親分にひたすら忠実なのが石松の良さです。もっとずる賢ければ生きて帰ってきたのに、と思わせる部分もあるんじゃないかと。
――「新風プロジェクト」は毎回、新作オリジナル芝居なので、稽古が大変でしょうか。
多くの演劇の場合、脚本家、演出家、振付師という方々がいらして、役者は役をやることに専念できるのかなと思うんですけど、僕たち大衆演劇の場合は、台本を頂いた後はすべて自分たちでやらなきゃいけない。自分たちで音楽を決めて、立ち位置を決めて。それも、すべて公演前日の夜の稽古だけでやります。その大変さですね。あらためて、とんでもないことをしていますね(笑)。でも、立ち稽古をする中で、この台詞を新たに入れたいなっていうのが出てきます。さらに、本番の舞台が始まってみたら、お客さんの存在が加わって、想定していたのと全然違う空気になることもあるんですよ。
――それは怖いですね。
怖いです(笑)。毎日違う演目を演じなきゃいけないので、それぐらいのスピードでやっています。大衆演劇を観てくださるお客さんも、完成された舞台を必ずしも見たい世界ではないと思います。ちょっとしたアドリブを含めて、お客さんは楽しみにしてらっしゃいます。僕自身、決められた台詞をそのまま喋るのが苦手な人間ですしね。
――今年6月は一か月間、暁人さんと共演されました。
彼の若さと技術が、うちの劇団に新たなカラーをもたらしてくれて、その融合がすごく良かったと思います。仕事以外でも、稽古が終わった後に一杯飲んで寝ようとか、本当に兄弟みたいに、ずっと一緒にいました。お互いの絆が深まってくると、舞台も変わります。信頼関係が、舞台に出るようになります。『遠州傾キモノ』は、主役の暁人自身のやりたいやり方があると思うので、そこを支えたいですね。最終的には、この作品を観てくださったお客さんが良かったと思ってくれることが一番です。
また12月18日(日)には森の石松のスピンオフ作品、三咲暁人による一人芝居『梅吉物語』が上演された。
『梅吉物語』メインビジュアル。脚本は坪田塁。
暁人いわく「一人芝居は、別の視点から石松を見て、裏ではこう動いていたという話がやりたくて。都鳥三兄弟は三人とも悪役ですが、末っ子だけ良い奴で石松のことを守っていたらどうなっただろうと、自分の中の想像が膨らんだ作品です」。こちらもイープラス「Streaming+」での配信を予定。配信期間は2022年12月25日(日)~12月31日(土)。
配信で、大衆演劇の“いま”をぜひ見てほしい。
取材・文=お萩

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