「素敵な中東のオリエンタルの風が吹
かせられれば」~トニー賞10部門を独
占した話題のミュージカル『バンズ・
ヴィジット』製作発表会見レポート
この度、都内で製作発表会見が行われ、出演する風間杜夫、濱田めぐみ、新納慎也、演出の森新太郎が出席した(※登壇予定だったこがけんは、お笑いユニット・おいでやすこがの相方である、おいでやす小田が新型コロナウイルスの感染が確認されたため、大事をとって欠席となった)。会見の様子を写真とともにお伝えする。
エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊が、イスラエルの空港に到着した。彼らはペタ・ティクヴァのアラブ文化センターで演奏するようにと招かれていた。しかし手違いからか、いくら待っても迎えが来ない。誇り高い楽隊長のトゥフィーク(風間杜夫)は自力で目的地に行こうとするが、若い楽隊員のカーレド(新納慎也)が聞き間違えたのか、案内係が聞き間違えたのか、彼らの乗ったバスは、目的地と一字違いのベト・ハティクヴァという辺境の街に到着してしまう。
一行は街の食堂を訪れるが、もうその日はバスがないという。演奏会は翌日の夕方。食堂の女主人ディナ(濱田めぐみ)は、どこよりも退屈なこの街にはホテルもないので、自分の家と常連客イツィク(矢崎広)の家、従業員パピ(永田崇人)と店に分散して泊まるよう勧めてーー。
言葉も文化も異なる隣国の人間たちが交わる一夜が更けていく。迷子になった警察音楽隊は、果たして演奏会に間に合うのだろうか?
「不思議な癒しの力に満ちたミュージカル」
続いて、質疑応答が行われた。
森新太郎(以下、森):先ほどの濱田さんと新納くんの歌声、風間さんの佇まいを見て、僕の中ではもうもりもりとイメージが湧いているところです。映画版の方でもそうですし、ミュージカル版の方でもそうなんですけど、この物語の冒頭は、とある字幕から始まるんです。「さほど遠くない昔、楽隊がエジプトからイスラエルにやってきた。あなたは、聞いたことがないだろう。たいしたことじゃなかった」。
僕はこの最後の2行「あなたは、聞いたことがないだろう。たいしたことじゃなかった」というフレーズが僕はとても重要な気がしておりまして。というのは、この物語は本当にびっくりするくらい、たいしたことが起きないんですね。こんなミュージカルがあるのかというぐらい、たいしたことが起きない。
如何せん舞台が中東ということで、多分中東の歴史や情勢に詳しい方の中には「そんな現状認識が甘いよ」とか「こんなのほとんど夢物語だ」と思われる方もいるかもしれません。僕も実際夢のような物語とは思うんです。ただ、原作者のエラン・コリリンさんは、きっとそんなこと全部重々承知の上で、それでも人と人とが繋がることへの希望を謳いたかったのかなと思います。
その希望というのも、デカい声で高らかに歌い上げるというのではなくて、静かな声で、ささやくような声でその希望を僕たちに届けたかったんじゃないかなと思います。その繊細さを舞台上に乗っけることができるか。それが今回の僕の最大の課題だと思っております。
風間杜夫(以下、風間):実は数年前に初めてミュージカルに挑戦しました。ホリプロさんからのお誘いで『リトル・ナイト・ミュージック』という大竹しのぶさん主演のミュージカル。私にとっても初めてのミュージカルで「踊らなくていい、歌わなくてもいい」と。騙されました(笑)。
歌は、ミュージカル界では難解な曲と言われている、ソンドハイムの曲。私は命を削る思いで、2度とミュージカルはやらない! 私には合わない! 私にはできない! そう固く心に決めていたんですが、今回「歌わなくていい、踊らなくていい」。その二言で出演を決意しました。確かに踊らなくていいんです。ただ歌は濱田さんとちょっとデュエットみたいなのがあって。この1曲に魂を込めよう。この1曲に力の限りを尽くそうと、そのように決意しました。
お話をいただいてから、2007年の映画版も参考として見せていただきましたし、ミュージカル版もDVDで拝見しました。森さんがおっしゃられたように、たいした出来事じゃないのに、なぜこの芝居は心が温かくなるんだろうという印象を持ちまして。責任の重さを今ひしひしと感じております。頑張ります。皆さま、よろしくお願いします。
何でもないことが、実はすごく大切で、素敵なこと。それは他の人には何も気がつかないし、何事もなかったかのようだったけれども、本人たちの経験や人生の中ではすごく大切な1ページで、人生の宝物なんですよね。
そういうことを踏まえた上で、この『バンズ・ヴィジット』という作品を自分が演じるにあたって一番思っていることは、自然に、素朴に、素直に、そして情熱的に。ニュアンス的には……エモい? エモいと言うのでしょうか。私の世代はあまり使わない言葉ですけど、そういう何か素敵な中東のオリエンタルの風が吹かせられるといいなと思って。これからお稽古が楽しみですし、本番も頑張りたいと思います。
それを覚えていてくださって、今回オファーをいただいたのか……と思いきや、そのプロデューサーの取材を見ると、すっかりそんなことは忘れてたらしく、別のプロデューサーからオファーをいただき、願ったり叶ったりです。ということは、いかにこの役が日本で僕しかできないのかということが、よく分かりました(笑)。
この作品の良さを何とか伝えようと思っているんですけども、この作品の良さをなかなか言葉にするのは難しいんです。なぜならば、先ほど森さんもおっしゃいましたけど、繊細で、何も起こらない。でもじわーっと心が温かく、すごく素敵な気持ちになる。ミュージカルでこんな気持ちになったことが初めてだったんです。
僕、ブロードウェイでこの作品を観た後、宿があるSOHOまで10キロ弱ぐらいのハドソン川沿いの道を後味を噛みしめながら帰ったんです。それぐらい心に染み渡る、とてもとてもいい作品なのですが……こんな平たい言葉でしか言えないんです! だからもう、つべこべ言わずに観に来て! と書いておいてください(笑)。
このお話をいただいてから映画『迷子の警察音楽隊』を見てほっこりする、本当にいい話だなと思いましたが、それと同時にこれをミュージカルでやるの? と驚きました。いわゆるミュージカルらしい派手さとは無縁の話でしたから。ただ、いろいろ調べていくうちに、トニー賞10冠の事実を知って驚愕し、オフィシャルでYouTubeに上がっている歌唱部分にまんまと感動して出演を決めさせてもらいました。
ーー『バンズ・ヴィジット』は旅先のお話ですが、今のコロナ禍が治まったら、真っ先に行ってみたい場所はありますか?
今回の芝居でアラブの文化にちょっと触れることができるような気がするので……実は『カサブランカ』という映画をきっかけに、モロッコに一度行ってみたいと思っていました。生涯一度は訪ねてみたいなと思っております。
濱田:私は久しぶりにニューヨークに行って、お芝居三昧の日々を過ごしたいなと思っています。お休みの関係もありますが、なかなか行けていないので。しばらく日本から離れて、一日中、お芝居やミュージカルだけを観る日々を過ごしたいなと思っています。
新納:僕はできれば1年に1回ぐらいはニューヨークに行って、3週間か4週間か滞在するというルーティンを繰り返してたんですけど、コロナ禍で行けなくなってしまって、それがすごくストレスです。でもせっかくだから、ベト・ハティクヴァ……って実在するんですか?
森:しないです(笑)。
新納:実在しなかった(笑)。じゃあ、ニューヨークにいきます(笑)。
ーー演じられる役とご自身の似ているところはありますか?
新納:カーレドは、さきほど歌わせていただいた曲で、パピという若い男の子に、女の子との接し方を指南するんです。ちょっと遊び人な男がカーレドなんですけど、僕は本当に絵に描いたような真面目な男なので、全くもって似ていません!
こがけん(※メッセージ代読):(電車男は)ミステリアス、そして根底にある誠実さを感じるキャラだと思うんですが、ミステリアスと誠実といえば、まんま僕のことだなと思いましたね! ただ電話はそんなに長いタイプではないかもしれません!
新納:……すみません、コメントが被っちゃいました(笑)。
風間:(共通点は)ないです(笑)。ただ、出る人間は一生懸命。どこかで誠実であろうとしています。音楽隊長はいろいろな個人的な悩みを抱えておりますが、人の心に耳を傾けるというか、そういうところがありまして。私はよく人の話を聞きます。聞き上手って言われます。誠実に人の話に耳を傾けます。拒否しません。そして心を動かされます。そういうところが似ています。無理くりに結びつけました(笑)。
濱田:今考えていたんですけど、どこが似ているんですかね……。いろいろなことに対して、物怖じしないで、どんどんチャレンジしていくところ。割とウェルカムで何でも受け入れてみて、それから判断をするところ。門戸を閉さないというのでしょうか。そういうところはディナに似ているのかな。
でも彼女が歩んできた人生と自分はかなり違うので、そこはいろいろ考えながら、似ているところは寄せてきて、演じてみたいなと思っています。
台本から入った印象で、脚本家の(イタマール・)モーゼスさんがものすごく上手いこと演劇化されていて。もう最初のナンバーなんか「待っている」という歌。電話男もそうなんですけど、「待っている」芝居なんですね。確実にこれはチェーホフだったり、一種の不条理劇みたいなものをイメージに入れて書いているなと思ったので、多分アプローチとしては、僕はちっぽけな人間と、それを押し流していく時間——そういうのを全体的に捉えられる舞台装置にしようかなと思っています。
森:基本的にアラブやイスラエルのメロディとジャズの要素があって、伝統音楽に携わっている人が実はジャズを愛しているというのはなんか面白いですよね。それぞれの曲は実は意外とポップで、聞いていて多分飽きないと思うんですけど……実はさきほど風間さんはサラリと言っていましたけど、風間さんの歌う1曲がすごいんですよ。全編アラビア語なんです。
僕もどきどきしていますし、風間さんもどうやるんだろうと思うんですけど、結構長めに歌うので、それを楽しみにしていただけたらと思います。
風間:まだ稽古に入ってないので、その楽譜にちょっと触れただけでね。確かにアラビア語なんです。ただ、間違えちゃって分からないでしょう?(笑)「アブラカタブラ」と言っていたらいいんじゃない? ……ダメか(笑)。はい、まだこれからです。
濱田:アラビア語で歌うことは私はないんですけど、先ほど聞いていただきました「Omar Sharif」など、独特の中東のオリエンタルな世界観というのは、今まで日本のミュージカルでなかなかなかったと思うんですよね。私はミュージカルをベースにやってきているので、音楽から入ることが多いんですけど、とにかく脳の中が全て中東の音楽で乗っ取られるような……夜寝ていても、ずっとぐるぐる頭の中で回っているんですね。
だからあの独特の世界観というすごく特徴的でもありますし、みんなの心をギュッと掴んで離さないじゃないですか。空気がピタッと止まるのが分かる。それを舞台上で演奏して、客席で皆さんがご覧になって、会場中があの世界観になるってどんな素敵なことなんだろう、と。
今日この会場で歌わせてもらっただけでかなりの感触というか、不思議なオリエンタルな世界に包まれたので、とにかく楽曲に関しては、楽しみでしかないですね。
新納:先ほど僕と歌わせていただいたのは、カーレドのジャズなんですけど、これは全編においてとても特殊な1曲。僕も作品を見たときに、1曲だけ毛色の違う曲を歌った人がいるなと思って、それがカーレドでした。
他の曲は中東の音楽で、僕の個人的な感想ですけど、これが日本人に合うと思うんです。ミュージカルでは聞いたことがない音色ですし、太鼓ひとつポンと叩いた音で、もうその一瞬で、アメリカやイギリスとは違う音。それがとても日本人に合うので、もちろんポップな曲やリズムのある曲も多いんですけど、全体としてとてもヒーリング効果があるような気がします。すごく癒されるので、ぜひ音楽も体感しに劇場にいらしていただけたらと思います。
森:(舞台となるのは)砂漠のど真ん中の街なので、砂漠のゆったりとした感じが全編に漂う芝居になると思います。今、日常を生きていると、いろいろな情報がものすごいスピードで入ってくるし、みんな急ぎ足で街を歩いていかなくてはいけない状況ですよね。たまにはゆったりとした空間に身を浸して、静かに自分の人生を見つめ直せるような時間になったらいいなと思っております。ぜひ楽しみにお越しいただけたらと思います。
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