武者絵&刀剣で見る日本のヒーローや
、世界初公開の「ふくよかな」なモナ
リザなどーー【10月版】関西で見られ
る展覧会5選

台風が来て去り、一気に気温が下がって秋らしくなった。例年なら金木犀の香りを嗅ぎながら「ちょっと涼しくなってきたなー」とセンチメンタルを感じながらウキウキする季節。今年はそのグラデーションがなさすぎて、筆者はまだ夏の記憶が薄まりきらないなか、もう10月がやってきた。秋といえばやはり芸術の秋。今月も関西で見られる幅広いジャンルの展覧会を5つピックアップする。
ボストン美術館所蔵 THE HEROES 刀剣✕浮世絵/兵庫県立美術館
『ボストン美術館所蔵 THE HEROES 刀剣×浮世絵 ー武者たちの物語』
最初に紹介するのは、11月20日(日)まで兵庫県立美術館で開催中の『ボストン美術館所蔵 THE HEROES 刀剣✕浮世絵 ー武者たちの物語』。ゲームやアニメなどの影響で人気を見せている「刀剣」。そして葛飾北斎を筆頭に、今も根強く愛される「浮世絵」。これらが「武者」というテーマでキュレーションされ、世界最高水準の日本美術コレクションを誇るボストン美術館の所蔵品から日本へやってきた。武者絵121点に加え、武者絵と共通のイメージがデザインされた刀剣の鐔(つば)27点、刀剣26口を厳選して展示。同一の主題を持つ鐔と浮世絵を並べることで、より物語の想像を膨らませることができる。
「大江山図鐔(小) 銘 起龍軒美盛(花押)」明治時代(19世紀) William Sturgis Bigelow Collection Photograph (c) Museum of Fine Arts, Boston
ボストン美術館所蔵の武者絵118点は、なんと全てが日本初出品。中でも源平合戦を主題とした作品が多く出品され、兵庫県には源平合戦に関連する名所や史跡が多く残されていることから、地域の歴史と関連した主題を持つ作品を鑑賞できるのも魅力だ。
「太刀 銘 安綱」平安時代(11世紀) William Sturgis Bigelow Collection Photograph (c) Museum of Fine Arts, Boston
ボストン美術館所蔵の刀剣がまとまって展示されるのは約半世紀ぶり。名刀を通して平安時代から江戸時代までの日本刀の歴史を概観できる。それに加えて、源氏の重宝であり源義経所持の伝承もある「刀 折返銘 長円(薄緑)」(個人蔵)や、上杉謙信の愛刀である重要美術品「太刀 銘 国俊」(個人蔵)、重要美術品「太刀 銘 友成作」(刀剣博物館 日本美術刀剣保存協会蔵)など、国内所蔵の刀剣6口も展示される貴重な機会なのだ。
葛飾北為「摂州大物浦平家怨霊顕る図」弘化4〜嘉永3年(1847〜50)頃 William Sturgis Bigelow Collection Photograph (c) Museum of Fine Arts, Boston
また、ボストン美術館所蔵の20口を中心に日本刀の時代や流派がわかるようにまとめて展示するほか、兵庫県と関連のある作品も併せて展示するなど、武者絵や刀剣に詳しくなくても学べ、楽しめる内容となっている。同展アンバサダーとして俳優の黒羽麻璃央がナビゲーターを、声優の小西克幸が解説ナレーターをつとめる豪華な音声ガイドも必聴。刀剣ファンも、浮世絵ファンも、時代劇ファンも、歴史ファンも見逃せない。
ボテロ展 ふくよかな魔法/京都市京セラ美術館
『ボテロ展 ふくよかな魔法』
10月8日(土)から12月11日(日)までは、京都市京セラ美術館 本館北回廊 1階にて『ボテロ展 ふくよかな魔法』が開催される。南米コロンビア出身の芸術家フェルナンド・ボテロは1950年代後半から欧米で高く評価され、今や世界各地で人気を博す、現代を代表する美術家のひとり。同展は2022年がボテロ生誕90年であることを記念して、作家本人の監修のもと、初期から近年までの油彩、水彩、素描作品など、全70点で構成される。日本国内では26年ぶりの開催で、東京と名古屋を経て京都に巡回してきた。
フェルナンド・ボテロ 「コロンビアの聖母」 1992年 油彩/カンヴァス
作品の特徴であり魅力は、あらゆる形がふくらんでいること。人物も動物もふくよかで、果物も、楽器や日用品さえも膨張している。ひと目見たら忘れられないインパクトとユーモアを与えてくれるボテロの作品世界。ボリュームを与えられた対象には官能、ユーモア、アイロニーなどの複雑な意味合いが含まれ、観る人にさまざまな感覚を訴えかける。
フェルナンド・ボテロ 「泣く女」 1949年 水彩 /紙
同展覧会は「初期作品」、「静物」、「信仰の世界」、「ラテンアメリカの世界」、「サーカス」、「変容する名画」の全6章で構成される。彼のボリュームへの関心が見出せる17歳の時の作品「泣く女」(1949年)や、彼を一躍有名にし、90歳を迎える今もなお描き続けている「モナ・リザ」のうち、世界初公開となる2020年制作の「モナ・リザの横顔」などが一堂に会する。
フェルナンド・ボテロ 「踊る人たち」 2019年 鉛筆、水彩/カンヴァス
展覧会オフィシャルサポーターと音声ガイドをつとめるのは7人組ダンス&ボーカルグループBE:FIRST。ボテロの描き出す鮮やかな色彩とふくよかなフォルム。世界中で注目され続ける独特の「魔法」にかかり、まだ見ぬ「ボテリズム」を体感してほしい。
瀬戸内国際芸術祭2022/瀬戸内海
『瀬戸内国際芸術祭2022』
SPICEでも春会期のレポートを行なった『瀬戸内国際芸術祭2022』の秋会期が、11月6日(日)まで瀬戸内海一体の島々で開催中だ。『瀬戸内国際芸術祭』は3年に1度、瀬戸内海の12の島と2つの港を舞台に開催される現代アートの祭典。秋会期は直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、本島、高見島、粟島、伊吹島と高松港・宇野港周辺で現代アートの作品を観ることができる。
鈴木健太郎「作品No. ta15 かたちづくられるもの」
秋会期のみ公開の高見島には、シュガーペーストで造形した約350個のバラに囲まれる西山美なコの「~ melting dream ~/高見島パフェ 名もなき女性(ひと)達にささぐ...」が公開されている。そのほか鈴木健太郎のインスタレーション作品「かたちづくられるもの」、瀬戸内海を一望できるケンデル・ギールの屋外彫刻作品「FLOW」などが登場。
金氏徹平「作品No. un14 S.F. (Seaside Friction)」
また、宇野港には夏会期に金氏徹平の新作「S.F. (Seaside Friction)」が設置された。宇野港にある玉野競輪場の改修工事によって出てきたスタンドの椅子や看板など、競輪施設で使われていた素材を使って、高さ約4mの彫刻作品を制作。ワークショップが開かれ地元の人々やサポーターとともに椅子の連結作業を行なったそうだ。
ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス 「作品No. te19 海を夢見る人々の場所」
豊島で春会期から展示されているヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディスの「作品No. te19 海を夢見る人々の場所」も大人気。穏やかな瀬戸内の島々の自然の中で出会う非日常を楽しんでほしい。作品鑑賞パスポートや瀬戸芸デジパスでスマートに島を巡ろう。
そして野外の芸術祭といえば、『六甲ミーツ・アート 芸術散歩2022』も11月23日(水・祝)まで開催。こちらもたっぷり時間を確保して現代アートを楽しんでみよう。
ロートレックとミュシャ パリ時代の10年/大阪中之島美術館
『ロートレックとミュシャ パリ時代の10年』
大阪中之島美術館にて10月15日(土)から2023年1月9日(月・祝)まで『ロートレックとミュシャ パリ時代の10年』が開催中。アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864〜1901年)とアルフォンス・ミュシャ(1860〜1939年)が芸術の都・パリで活躍した1891年から1900年までの10年間に焦点を当て、ふたりが共通して取り組んだ石版画ポスターを中心に紹介する展覧会だ。
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 「ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ(第2ステート)」1891年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託
アルフォンス・ミュシャ「ジスモンダ」1894年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託
ロートレックは1891年に第1号ポスターとなる「ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ」を、約3年後にミュシャも第1号ポスター「ジスモンダ」を発表。これを機に両者とも脚光を浴び、活躍していくこととなる。きっとこの2枚は、誰もが1度は目にしたことがあるのではないだろうか。
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「学生たちの舞踏会」(文字の入れられていないステート)1900年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託
同展は第1章「1891年から1894年「ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ」発表から「ジスモンダ」誕生まで」第2章「1895年から1897年「サロン・デ・サン」での競作」第3章「1898年から1900年 ロートレックの最後のポスター、ミュシャはパリ時代のピークへ。」第4章「1901年以降 ロートレックの死、ミュシャ装飾様式の成熟と完成」第5章「同時代のお酒のポスター」の全5章で構成される。
アルフォンス・ミュシャ「つた」1901年 サントリーポスターコレクション、⼤阪中之島美術館寄託
みどころは、わずか37歳で人生を終えたロートレックが、ポスター作家としてデビューした10年間に生み出したポスター全31点。また、ロートレックとミュシャの作品を各年ごとに比較しながら紹介するところだ。ステート(インクの色違いや文字のないバージョンなどのバリエーションのこと)違いや試し刷りの段階のものもたっぷりと展示。これはサントリーポスターコレクションが寄託されている大阪中之島美術館だからこそできること。
作品を辿りつつ、アトリエ、印刷会社、クライアントなど、作品制作を取り巻くさまざまな点にも着目し「よき時代(ベル・エポック)」の双璧をなすふたりのポスター作家の実像に迫る。双方のファンはもちろん、グラフィックデザインや広告が好きな方にもおすすめの展覧会だ。
シダネルとマルタン展 最後の印象派/美術館「えき」KYOTO
今年開館25周年を迎える美術館「えき」KYOTOにて、11月6日(日)まで開催されているのは『シダネルとマルタン展 最後の印象派』。
19世紀末から20世紀前半にかけてフランスで活躍したアンリ・ル・シダネル(1862〜1939)とアンリ・マルタン(1860〜1943)は、共に印象派・新印象派の流れを汲みつつ、象徴主義など同時代の表現技法を吸収しながら幻想的な主題を扱い、生活の情景や身近な人々を描くアンティミスト(親密派)としても知られる。ふたりは1891年の出会い以降、生涯にわたって親交を深め、シダネルは北フランスで薄明かりに包まれた穏やかな光を、マルタンは南フランスで陽に照らされた明るい光を描き出し、それぞれ独自の画風を築いた。
同展では、これまで日本で紹介される機会の少なかったふたりの画業を9つの章に分けて紹介する。初期の代表作をはじめ、19世紀末に流行した新印象派がふたりに与えた影響を窺い知れる作品、旅の中で描いた風景画、それぞれの画業において重要な場所となった北フランスの小さな田舎の村のジェルブロワと、南フランスのラバスティド・デュ・ヴェール、そして晩年に拠点としたヴェルサイユやサン・シル・ラポピーなど、彼らが暮らし、愛した土地や家族、友人を描いた作品たちを77点展示する。
シダネルとマルタンに焦点を当てた国内初の展覧会は、今年3月から6月まで東京のSOMPO美術館で行われ、初めて関西で開催される。光と色彩に彩られたふたりの作品を堪能してほしい。
現在関西では『アンディ・ウォーホル・キョウト』や『楳図かずお大美術展』など、SPICEでもレポートに入った展覧会も開催中。出かけやすくなったこの季節に、行楽ついでに足を伸ばして芸術作品に触れてみてはいかがだろうか。
文=ERI KUBOTA

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