4人の男の光と影の軌跡を鮮烈に描き
出す、ミュージカル『ジャージー・ボ
ーイズ』チームGREENプレビュー公演
レポート

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が、2022年10月8日(土)に東京・日生劇場にて開幕する。
1960年代に世界的な成功を収めた伝説のヴォーカルグループ、ザ・フォー・シーズンズ。彼らの光と影の軌跡を大ヒットナンバーと共に描く本作は2004年に世界初演され、翌年にはブロードウェイに進出。その後トニー賞作品賞を含む4部門を受賞し、2014年にはクリント・イーストウッド監督により映画化され、日本でも高い評価を得た。
ミュージカル版の日本初演は2016年。2018年には世界初となるコンサートバージョンを上演し、全国ツアーも成功させた。2020年には帝国劇場での上演を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大のため全公演が中止に。同年7月に改めてコンサートバージョンとして上演された。こうした経緯を踏まえ、本公演は2020年のリベンジとも言える念願の公演と言えるだろう。
演出は初演から引き続き藤田俊太郎が務める。“天使の歌声”と称されるフランキー・ヴァリ役は、日本初演時からたったひとりで演じ続けてきた中川晃教に加え、新たにWキャストとして花村想太(Da-iCE)が務める。それによって、今回は初の試みとなるチームGREEN(花村想太・尾上右近・有澤樟太郎・spi)とチームBLACK(中川晃教・藤岡正明・東啓介・大山真志)の完全2チーム制での上演となる。
本記事では、10月6日(木)に行われたチームGREEN(花村想太・尾上右近・有澤樟太郎・spi)のプレビュー公演の模様をレポートする。
これはザ・フォー・シーズンズの物語であり、ニュージャージー州で出会った4人の男たちそれぞれの物語だ。
“天使の歌声”を持つ青年フランキー・ヴァリ(花村想太)は、トミー・デヴィート(尾上右近)とニック・マッシ(spi)のバンドグループに迎え入れられる。だがフランキーの歌声を持ってしても、バンドの成功への道はなかなか見えてこなかった。そんな3人の前に、才能ある若きホープのボブ・ゴーディオ(有澤樟太郎)が現れた。ボブはフランキーの歌声に惚れ込み、彼のために曲を書くことを心に決める。その後も地道に音楽活動に取り組み続けた末、彼らの音楽は大物プロデューサーの目に留まり、ついにザ・フォー・シーズンズとしてデビューするチャンスを掴む。「Sherry」をはじめとするヒット曲を次々生み出しスターダムを一気に駆け上がる4人。しかし、光があれば影もあるものだ。膨大な借金、グループ内の確執、家族の不仲……数々の問題が積み重なり、彼らの絆は少しずつ引き裂かれていくーー
 写真提供:東宝演劇部
冒頭、アンサンブルキャスト陣が扮するショービジネスの世界の住人が、ザ・フォー・シーズンズのヒットナンバーを歌い踊り華やかに幕開けする。舞台の両端にはテレビを模した多様な大きさの四角いスクリーンが設置されており、そこにリアルタイムで舞台上の映像が流れるという仕組みだ。開演前は舞台中央に置かれたカメラは客席に向けられ、スクリーンには観客が映し出されている。この時点で、観客一人ひとりが本作の物語の参加者となるのだ。
舞台中央には3フロアに分かれた大きなセットが組まれており、盆が回ることによってステージ、レコーディングスタジオ、楽屋、フランキーの自宅など、様々な顔を見せる。ザ・フォー・シーズンズのパフォーマンス中にあえて彼らの背中を客席に向けることで、バックステージものならではの高揚感も味わえるという憎い演出だ。
物語はザ・フォー・シーズンズというグループ名に掛けて春・夏・秋・冬の構成で、4人が代わる代わる語り部となって展開する。語り部となるときにそれぞれの心情が吐露されることで、一人ひとりの人物像が浮き彫りとなっていくのである。
 写真提供:東宝演劇部
【春】を担って観客を物語の世界へと誘うのは、トミー・デヴィートを演じる尾上右近だ。兄貴分として常に矢面に立ち、フランキーを一人前の男へと育て上げる一方、プライドが高くお金にだらしのない面もあり、気付けば莫大な借金を抱え込んでしまう。尾上は鋭い眼光を光らせ無骨な男として振る舞いつつ、弟分のフランキーへの温かい眼差しも感じられ、最後まで憎みきれない人間臭いトミーを見事に構築していた。
ザ・フォー・シーズンズの誕生となる【夏】は、有澤樟太郎扮するボブ・ゴーディオが担う。作曲家兼キーボードとしてグループに加入したボブは、最年少ながらも誰よりも冷静でビジネスセンスを合わせ持ち、フランキーにとって最良のパートナーとなる。有澤は本公演が初出演なのだが、それを一切感じさせないほど自信に満ちた野心家のボブとして舞台上に存在していた。彼のピアノ演奏に合わせて、初めて4人が歌声を重ねる瞬間は鳥肌モノだ。
 写真提供:東宝演劇部
【秋】を担うのは、2018年公演から本作に携わるニック・マッシ役のspi。ベースのニックは音楽はもちろん、バックステージにおいても縁の下の力持ちとしてメンバーを支え続けた。穏やかで口数も少ない故にあまり目立たないのだが、彼なくしてザ・フォー・シーズンズは存続できなかったに違いない。それは本公演のチームGREENにおいても同じことが言えるだろう。spiの持つ安定感があるからこそ、周りのキャストは伸び伸びと役を生きることができるのである。
【冬】で物語を締めくくるのは、待望の新生フランキー・ヴァリを務める花村想太だ。“天使の歌声”と称されるハイトーンヴォイスが劇場を震わせた瞬間、誰しもが花村フランキーの誕生に歓喜しただろう。理髪店で見習いをしてる世間知らずな純朴な少年が、出会いと別れを繰り返しながら大衆のスターへと上り詰めていく。稀有な才能を持つ彼も、結局はひとりの男であり、夫であり、父親であり、人間だった。花村の等身大の演技を通して、フランキー・ヴァリという人間の生き様がダイレクトに伝わってきた。
 写真提供:東宝演劇部
一見バラバラで全く異なる個性を持つ4人の男たちを結びつけたもの、それこそが他ならぬ音楽だった。本作の最大の魅力は、人を魅了して止まない音楽の力にこそあるのではないだろうか。その力はザ・フォー・シーズンズの4人の心を繋ぎ止め、同時に我々観客の心をも掴んで離さない。何より、彼らが紡ぎ出す音楽の歓びに満ち溢れたハーモニーがそれを証明しているのである。
 写真提供:東宝演劇部
この日はプレビュー公演の初日にも関わらず、バラードを除いたほぼ全てのナンバーで手拍子が沸き起こっていた。さらに、劇中に登場するヒット曲がメドレーで歌い継がれていく豪華カーテンコールになると、1階席は総立ちとなりペンライトの緑の光で埋め尽くされた。こうしたところからも、本作に対するファンの熱烈な愛を感じずにはいられない。
上演時間は1幕1時間20分、休憩25分、2幕1時間15分の計3時間。東京公演は2022年10月29日(土)まで上演、その後12月11日(日)の神奈川公演での大千穐楽まで全国ツアーが続く。新体制となって生まれ変わったミュージカル『ジャージー・ボーイズ』を、どうぞお見逃しなく。
プレビュー開幕に先立ち、出演者の意気込みが届いた。
■花村想太(チームGREEN フランキー・ヴァリ役)
チームGREENならではの『ジャージー・ボーイズ』にできていると、自信を持って言えます。このご時世に劇場へ足を運ぶと決めてくださった皆様、本当にありがとうございます。その皆様の覚悟に添える最高の音楽と、不安を吹き飛ばす最高の感動を必ずお届けしたいと思います。僕達と大切なお時間を過ごすと決めてくださった事、本当に感謝しかありません。お気をつけてお越し下さいませ。
■尾上右近(チームGREEN トミー・デヴィート役)
お芝居を作る作業も歌の精度を上げる作業も全部大変でしが、新たな経験に恵まれたと思っています。稽古初めの頃、花村さんに「ええ声してますねぇ」と歌を褒められたことは嬉しかったです。やっぱり楽しんでいただくためには自分が楽しんでいなければとつくづく感じます。その意味ではチームGREENは本当に楽しい空気に包まれているので、お客様に楽しんでいただけること間違いなしだと思います!
■有澤樟太郎(チームGREEN ボブ・ゴーディオ役)
稽古で作り上げてきた関係性、4人の空気感、『ジャージー・ボーイズ』という素晴らしい作品。これを皆様にお届けできるのが楽しみでなりません。大変だったことも嬉しかったこともたくさん、この稽古期間を通していろんな感情が揺さぶられました。これだけは言えることは、『ジャージー・ボーイズ』という作品に出会えたことが一番嬉しいです。
■spi(チームGREEN ニック・マッシ役)
早くお客様にお見せしたいです。本当に良い作品になりました。作品を見終わる頃には、皆さまの大切な人と時間を過ごしたくなるような、素敵な気持ちになれると思います。何を聴くか、何を見るか、じゃなく、誰と聴くか、誰と見るか。そんな事を皆様に問いかけれたらいいなと思ってます。ニックの新解釈お楽しみに!
取材・文=松村 蘭(らんねえ)

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