高畑淳子インタビュー~岡本圭人の祖
母役で出演する『4000マイルズ~旅立
ちの時~』は「生きている者同士のた
くましい物語」

2022年12月、シアタークリエにて、『4000マイルズ~旅立ちの時~』が上演される(23年に大阪・愛知・香川公演あり)。
今作は2011年にオフ・ブロードウェイにて初演、2012年にオビー賞のベスト・ニュー・アメリカンプレイ賞を受賞、タイム紙のベストプレイに選ばれ、2013年にピューリッツアー賞の最終候補となった。以降、世界各地で上演され、2020年春にはロンドンのオールド・ヴィック劇場にて、ティモシー・シャラメ主演で上演されることが発表され、話題を呼んだ(※ロンドン公演は新型コロナウイルスの影響により上演中止)。
大学生のレオが祖母のヴェラが暮らすマンハッタンのアパートを訪れるところから物語は始まり、長い時を経て再会した2人が同居生活の中で次第に他の人には言えなかった心の内を明かすようになり、お互いの年齢や時代を越えて共感を抱いていく様子が描かれている。
レオ役は近年舞台で目覚ましい活躍を見せる岡本圭人、ヴェラ役は映画・ドラマ・舞台とジャンルを問わずその存在感を放つ高畑淳子。読売演劇大賞最優秀演出家賞を二度受賞し、旬な演出家のひとりである上村聡史が演出を手掛ける。
ヴェラ役を演じる高畑に、今作に向けての意気込みを聞いた。
ヴェラは「華美ではないけれども自分なりに正直に生きてきた女性」
――高畑さん演じるヴェラは91歳という設定になっています。今目の前にいらっしゃる高畑さんからは、91歳役というのがとても想像できないのですが……。
自分でも、91歳のおばあさんになるってどういうことなんだろうと思っています(笑)。まず最初のシーンからして、夜寝ているところに孫が訪ねて来るから、補聴器が取れていてよく聞こえないし、入れ歯も外しているから歯がないし、っていう状態なんですよね。それってどうやるのかしら? 自分の歯は抜きたくないし、とかいろいろ気になってます(笑)。いかにも「おばあさんをやってます」っていうのも嫌ですしね。まだ演出の上村さんとはそのあたりのお話しができていないのですが、ちょっと課題が多いのかな、と思っています。
――上村さんとお会いしてお話しするのはこれからということですね。
本稽古の前に本読みがあるのでそのときになると思います。今作はセリフの量も大変多いですし、ヴェラは話しているうちに途中で「あれ、何話してたっけ」と言葉が出て来なかったりとか、ロジカルに話しているわけではないのでセリフを覚えるのがなかなか難しいですね。でも、自分の考えとか正しいと思うことをふるいにかけつつたくましく、華美ではないけれども自分なりにコツコツと正直に生きてきた女性という感じがして、愛おしいなと思います。
――ヴェラは夫の死から10年経っても表札を変えていない、時が止まってしまっている人なのかな、と思いました。
そうかもしれないですね。コツコツとは生きているけれども、夫が死んだけど表札を変えないという意味は何なのか、そこで何かプツンと気持ちが切れてしまって次のことをしたくなかった、変えたくなかったのか……。亡くなった夫のことをことあるごとに言っていて大変尊敬もしていたみたいだし、夫の価値観に影響されて生きてきた人なんだなと思います。
岡本圭人とは24年前に「一緒に遊んであげていた」
――孫のレオ役の岡本圭人さんとは、1998年に芸術座で上演された森光子さん主演の『本郷菊富士ホテル』という作品でお父様の岡本健一さんと高畑さんが共演されたときに、高畑さんが楽屋で圭人さんの面倒を見ていらしたそうですね。
そうなんですよ、もう24年前なんですね。私は第三幕にしか出ていなかったので、それまで出番がなくて時間があったんです。森光子さんは開演前に出演者みんなそろってのお茶会というのを開いてくださるので、それが終わったら私は三幕まで時間が空いて、そうしたら岡本さんの楽屋で小さな坊やが退屈そうに暴れまわっていたので(笑)、一緒に遊んであげていたんですよ。その人と芝居をするなんてびっくりしちゃいますよね。聞いたらイギリスに留学して、アメリカで演劇を勉強してきたって言うじゃないですか。すっかり立派になられたなぁ、と思います。
――今作についての高畑さんのコメントの中で「“おばあちゃんと若い人”という組み合わせは、おもしろいドラマが生まれる最強の組み合わせだと感じている」という部分が印象的でした。
ハロルドとモード』とか『6週間のダンスレッスン』とか、おばあちゃんと若い男の子の話って多いですよね。きっとおばあちゃんっていうのは、もう今は若くない、でもかつて人生を探していたし、果敢に恋愛をしたり自分の伴侶を求めたりしたことがあったと思うんですね。そこに若い男の子を出すことで、自分の過去や失っていた何かとだぶる瞬間があるんじゃないでしょうか。あと、ハグされるところなんかは、夫が亡くなってから人との触れ合いがなかった中で、何かすごくいい瞬間なんじゃないかな、と思います。
わからないところが多い本の方が発見が多くて面白い
――演出の上村さんとは今回初めてご一緒されることになります。
上村さんの演出作品は昨年シアタークリエで上演された『ガラスの動物園』や、他にもいくつか拝見していますが、中でも特に『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』(2014年)がとても面白くて印象に残っています。シアター風姿花伝という小さな劇場で上演されたのですが、転換や装置の使い方も非常にうまくて、食い入るように見ました。
――高畑さんは青年座所属ですが、上村さんは文学座出身、今年2~3月にご出演された『冬のライオン』の演出の森新太郎さんは演劇集団円所属と、新劇系の演出家とのお仕事が続きますね。『冬のライオン』は拝見しましたが大変面白かったです。
本当ですか、ありがとうございます。私は脚本をもらって読んだときに、3ページくらいで寝てしまって(笑)。稽古をしても最初のうちは何のことかわからなかったんですけど、途中からすごく面白くなったんですよね。やっぱり芝居って、お稽古しないとわからないものですね。それに、わからなかった本の方が余計に発見することが多くて面白いものなんですよね。今作もまだわからないところが多いんですけど、そういう作品の方がとても面白くなるんじゃないかなと思っています。
――森さんは2011年に高畑さんが『欲望という名の電車』でブランチをやられたのを見て、『欲望~』でこんなに笑いが起きるのか、と驚いて高畑さんとはぜひ笑える芝居でご一緒したいと思っていたそうです。
私は基本的にお客さんが笑わないと気が済まないところがどうもあるらしくて(笑)。『欲望~』は鵜山仁さん演出でしたね。鵜山さんはとても頼もしいというか、俳優の芝居だけじゃないところで補ってくださる力がとても強い方ですね。お芝居というのは役者の芝居だけではなく、明かりとか場面の転換とか音響とかいろいろなことに支えられているんだということを、近年特に思うようになりました。栗山民也さんの演出も、衣装とかミザンス(注:役者の立ち位置のことを指す)とかそういう演出的なところで整理してくださる強さがあるので、そこを信じてやっています。あとはもう俳優が身をさらして、相手役と生に言葉を交わしていれば、ステージは絶対に成立するんですよね。
演劇は豊かな心を持って生きていくための道しるべになる
――『冬のライオン』では夫婦役だった佐々木蔵之介さんとの息もピッタリでしたね。
あの作品を多くの方が面白かったと言ってくださるのは、私が蔵之介さんという俳優さんのことをとても好きで、一緒にお芝居をするのがとっても楽しかった、というのは大きかったと思います。私の友人からは「あなたと蔵之介さんはよく似てる、笑いに貪欲だと思う」と言われました(笑)。蔵之介さんとは1998年にPARCO劇場で『ロマンチック・コメディ』(福田陽一郎演出)という作品でご一緒しているんですよ。あのときの蔵之介さんは役柄もあったんでしょうけど、固くて真面目な市役所勤めのお兄ちゃん、みたいな印象でした。あれからものすごく変貌されて、大人の色気があって、芝居の欲もすごくおありになるし、こんなに人って変わるんだ、と思いました。
――そんなに以前から佐々木さんとはご縁があったんですね。
その頃は「小劇場でやってきて、広告代理店を辞めて役者になるって言ったものの、ずっと役者をやるかどうかわからないんです」なんておっしゃっていて、「どんな役がお得意なんですか?」って聞いたら「僕の当たり役はがん細胞なんです」って。「この市役所のお兄ちゃんの当たり役ががん細胞?!」ってポカンとしたのを今でもはっきり覚えています。時は経ちますね(笑)。今作でご一緒する岡本さんにしたって、あのときの坊やとお芝居をするなんて、本当に月日が経つのは早いと思いますね。
――今回高畑さんがこの役にキャスティングされたからには、きっと笑いの要素も多いのではと思っています。
この作品、笑わせるところがいっぱいあって面白いんですよ。孫のレオはちょっと事件があってそのショックな状態からスタートしますが、全然堅苦しい劇ではなくて、十分生きてきた人とこれから生きていく人、生きている者同士のたくましい話ですね。人間っていうのは永遠に生きていくものではないですし、右往左往しながらいつか終わりは来るわけで、そういう中で演劇とか映画とか本というのは心に余白を作ってくれるもので、人間同士が豊かな心を持って生きていくための道しるべのような役割があると思うので、観客の皆様にとってそういう時間になればいいなとつくづく思います。
――今回はどんな笑いがあるのか、楽しみにしています。
どんなおばあちゃんになるのか、問題が山積みでこれから戦いが始まるな、という心持ちでいます。でも、しんどいなと言いながら、しんどいことが好きなんですよね。しんどいことをしていると「生きてるな」という感じがする性分なのかな、と思います。もっと楽な生き方もあるんじゃないかなと思いますが、でもその分いろんなことに挑戦できるので楽しみです。お客様に「高畑さんだと思わなかった!」と言ってもらえるようなおばあちゃんになりたいなと思っています。
衣裳=MARINA RINALDI
スタイリスト:森 美幸
ヘアメイク:山口久勝(アルール)
取材・文=久田絢子 撮影=荒川潤

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