新キャストもお披露目!ミュージカル
『フィスト・オブ・ノーススター〜北
斗の拳〜』が上演中

世界中で圧倒的な人気を誇る漫画『北斗の拳』を初めてミュージカル化し、2021年に大きな話題を呼んだ『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』。新キャストが加わるなど、初演から更なる進化を遂げて、東京・Bunkamuraオーチャードホールで再演されている。
9月24日に行われたゲネプロ(総通し舞台稽古)に続いて、26日の本番を観劇した。本作の見どころやWキャストの違いなどをお伝えする。この日のキャストは以下の通り。
ケンシロウ:大貫勇輔
ユリア:May'n
トキ:小西遼生
ジュウザ :上川一哉
シン:上田堪大
マミヤ :清水美依紗
トウ/トヨ:AKANE LIV
リュウケンほか:宮川浩
レイ:三浦涼介
ラオウ:永井大
バット: 渡邉 蒼
リン:桑原愛佳
深い人間ドラマと引き算の演出
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
つくづく思うが、ミュージカル作品とはいえ、ここまで登場人物が死ぬミュージカルはそうそうない。通常、登場人物が死ぬということは、ある種「クライマックス」を迎えるわけで、作品中で一番の「見せ場」として扱われる。そんなに数多く死んでもらっては、物語が止まってしまう。
しかし、この「アタタミュ」こと『フィスト・オブ・ノーススター』では、ばたばたと登場人物たちが死んでいく。トキもジュウザもシンもリュウケンもレイも、ラオウですらも死んでいく。観客たちは各々のキャラクターの死を、ケンシロウと同じ目線で、愛と哀しみを持って見届けることになる。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
当たり前と言えば当たり前だが、死に至る過程も思いもみんな違う。それらに一つひとつの感情やドラマを思えば、言葉もない。胸がギュッと締め付けられるし、現実に置き換えたら到底耐えられない。
ただ、この作品が不思議なところは、これほどたくさんの死が描かれているのに、最後には一筋の光が見えるのだ。丁重に描かれたそれぞれの死が、ケンシロウに託されていくことで、その死に意味を見出すことができるのだ。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
そして、深い人間ドラマに加えて、エンターテイメント作品としてのある種の爽快感を感じられるのもいい。
フランク・ワイルドホーンの壮大で耳に残る楽曲、劇場を取り囲む映像や照明を“駆使”しながら、その生き様を演出する。まぁ駆使とはいえ、ワイヤーアクションなどド派手な演出はほどほどに、あえて闘いを非常にシンプルな絵で見せる。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
効果音は多少プラスされているとはいえ、肉体がぶつかる音や吐息が聞こえてくるほど、俳優と俳優が生身の肉体でぶつかり合う。ケンシロウとラオウが戦う虎も、ラオウが乗る馬「黒王号」も人間がやる。随所に人間味があふれている。思わず「頑張れ〜!」「いけ〜!」と手に汗を握り応援したくなる。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
初演時から思っていたが、石丸さち子の引き算の演出が何より光っている。再演でも基本の演出プランは変えず、シーンの追加や細かいセリフの調整で、より初見でも分かりやすく作品を進化。録音での上演だが、感じられる熱量は初演と同じかそれ以上だった。
見終わった後に、ずーんと重い気持ちに浸るのではなく「楽しかった!」「すごかった!」と思えるのは、エンターテイメント作品に昇華できたという証だろう。
原作のリスペクトがありつつも、個性的な俳優たち
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
原作漫画の『北斗の拳』は累計発行部数は1億部を突破し、TVアニメや劇場版アニメ、脇役たちをフィーチャーした外伝が作られるなどしている。それゆえ各々のキャラクターのファンも多い。
ただ、今回の『フィスト・オブ・ノーススター』では、原作を最大限にリスペクトしつつも、役づくりは俳優たちに委ねられている印象を持つ。キャラクターに寄せていくスタイルではなく、俳優がその役に寄り添って、入り込んでいくスタイルというべきか。キャスティングも絶妙で、特にWキャストは役への全然違うアプローチが楽しめる。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真
まずジュウザ役は、陽気なラテンのリズムを刻む作品の中でも異色なナンバーで、初演でも非常に人気が高かった「ヴィーナスの森」をはじめ、なかなかおいしい役どころだが、初演から続投の伊礼彼方のジュウザと、再演で初めて出演する上川一哉のジュウザは全然違う。伊礼ジュウザが陽気でスパイシーな色男なら、上川ジュウザはスイートな優しさを漂わせる色男といったところ。アドリブひとつにしても、その俳優の個性が感じられる。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
三兄弟の長兄で、世紀末覇者“拳王”として覇を唱えるラオウ役は、初演から続投の福井晶一と、今回が初めてのミュージカルとなる永井大。福井は圧倒的な歌唱力でその力強さを見せつけ、肉体面でもブラッシュアップ。永井はそのビジュアルで観客の目を引きつける。福井は、心の揺らぎを芝居の中ではっきり出すことで、後半にかけてラオウが抱えている孤独を浮き彫りにする一方、永井は強くなることへの執着が色濃く見えて、まるで少年漫画からそのまま飛び出してきたかのよう。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
南斗孤鷲拳の伝承者であるシン役の植原卓也、上田堪大。シンがラオウにつく展開は、原作にはないミュージカルのオリジナルの部分なので、それゆえに自由度が高く、役づくりも難しかったかもしれないが、植原も上田も初演を経験したことで、ユリアへの一途な愛がより鮮明に見えた。その死に際までユリアへの愛を貫く姿は、無様で、弱くて、美しくて、格好いい。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
ケンシロウの婚約者で、ラオウやトキ、シンからも愛されていたユリア役を演じるのは、平原綾香とMay'n。ユリアは出番も台詞もあまり多くはないのだが、失意の中で歌う「死兆星の下で」や、ケンシロウとラオウについて歌う「氷と炎」など、作品の中でもとりわけメロディアスな曲を担う。平原もMay'nもその確かな歌唱力で、観客を惹きつけた。個人的な印象を言えば、平原は女性らしさと母性も感じるユリアで、May'nは芯の強さがありつつもどこか可憐さが残るユリア。なぜユリアがここまで愛されるのか、二人それぞれに答えが見えた。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』舞台写真 (ホリプロ提供)
今回は公演数が初演に比べて短いので、なかなか全部のキャストを制覇することは難しいかもしれないが、ぜひいろいろと見比べて、その化学変化を楽しんで欲しい。
漫画『北斗の拳』の世代ではない観客たちにも、一方で原作のファンたちにも。初演をご覧になった方も、再演で初めてご覧になる方も。新しいエンターテインメントとして深化した『フィスト・オブ・ノーススター』をお見逃しなく!
取材・文=五月女菜穂

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