帝国喫茶という若者たちが、本格始動
して僅か1年で辿り着いた素晴らしき
ファーストアルバムとは

帝国喫茶という大阪のバンドの名前が音楽好きや関係者界隈で一気に広まったのは、僅かここ1年足らずくらいのこと。2020年夏に関西大学の軽音サークルで一緒だったメンバーで結成され、去年夏にライブをやり始め、その秋に現メンバーが揃ったというバンドが何故ここまでのすごい速さで動き出したのか? メンバーが一度、就職でバンドから、そして大阪から離れざるをえなかった2021年4月から時系列に沿ってメンバー4人全員に話を訊いてみた。今回、バンド初となるメンバー4人全員のインタビューとなる。順風満帆でありながらも、もちろん苦しみや悩みもあり、それを全てフロントマンの杉浦祐輝(Vo.Gt)が冷静に判断しながらバンドを引っ張っていることも、このインタビューで改めて理解できた。
それぞれの才能が、それぞれの役割が、この1年の経験で明確になり、その集大成として9月21日(水)にリリースされるファーストアルバム『帝国喫茶』。あくまでファーストアルバムは通過点に過ぎず、次の段階へとすでに向かっている4人。誰も知らない音楽から、誰もが知る音楽へと広まる第一歩目を確実に歩み始めている。今現在の4人の強い気持ちを読んで頂きたい。

帝国喫茶 杉浦祐輝(Vo.Gt)

ーー今日はメンバー4人全員でのインタビューが初ということもあり、時系列に沿って話をして、その時にメンバーそれぞれが何を考えていたのかを訊いていきたいと思います。まずは2020年夏に杉浦君、疋田君、杉崎君、当時のギター担当で結成しますが、翌年3月には疋田君とギターを担当していたメンバーが就職して地方へ行って大阪を離れますよね。それでもバンドを続けたのは、どうしてだったんですか?
杉浦祐輝(Vo.Gt):その3月にオーディションを受けていて、関係者の方しかいませんでしたがライブハウスでライブ審査があったんですよ。やっぱ、そこで自分も今まで感じたことがない手応えを感じて、これがお客さんの入ったライブだったら、どうなるんやろうと思って。これ以上の感じを味わっていきたいなと。手応えというか直感というか、もっと言うと疋田は就職しても大阪に帰って来るだろうと思っていたんです。僕がバンドを上手く活動させていたら、絶対に帰ってくると思っていました。
疋田耀(Ba):僕はオーディションの時のライブについては、マジでなんとも思ってないです(笑)。「楽しかったな」ぐらいだったし、大阪を離れる時も「がんばってな~!」と普通に言ってましたから。仕事はすぐに辞めようとは思ってましたけど、バンドが上手くいってなかったら半年後に帰ってきたりはしてないし、ノリでバンドも入ってますね。
ーーそこまで音楽にこだわりが無かったということだよね?
疋田:大阪に帰って来ようとは思ってましたが、別に仕事を辞めてとかでは無くて。転職はそもそも考えていたし、それが楽な仕事やったら続けながら曲も作ろうかなというくらいでしたね。
杉崎拓斗(Dr):僕も完全にノリでした。杉浦さんと仲良いから誘われて、オーディションでデカいライブハウスでやらしてもらったのも良い経験になったというくらいでしたね。あくまで、ひと夏の思い出でした。疋田さんもどっか行っちゃって、一区切りついた感じでとらえていたし、こんなにバンドが続くとは思わなかったです。去年は大学3回生で、就職の道もまだあったし、やれるとこまではやりますよと思いながらも、ちょっと未来についても考える様になってましたね。
アクリ(Gt):サークルの先輩がギターを担当されていたので、私はサークル内のライブで初期の4人のライブは観たことがあるんです。いいバンドだなとは思ってましたけど、バンドを続けていく気があるとは知らなかったですね。
杉浦:その時のMCで言うてたよ~!
アクリ:覚えてない(笑)。去年の春は大学4回生でしたし、私は普通に就職するつもりでいました。
杉浦:アクリには後々バンドのロゴとかジャケットを頼んでいくことになるんですが、去年の春はまだ何も頼んでなかったですね。去年6月に「カレンダー」を配信でリリースする時にジャケットのイラストとかを頼んだのが初めですかね。
アクリ:ジャケットなどのアートワークをするのは夢でしたし、ちょうど就活がしんどかったので、現実逃避で息抜きができましたね。でも、まさか「カレンダー」のアニメーションMVまで頼まれるとは思ってなくて(笑)、ロゴとかは一夜漬けでできましたけど、MVは1週間かかりました。その頃、喫茶店によく打ち合わせがてら行っていて、新しいギターのメンバーをどうするかの話をしながら、3月のオーディションを進めていましたね。その時の私は、アートワークだけで携わっていきたいと思ってました。
帝国喫茶 疋田 耀(Ba)

ーー去年6月に「カレンダー」のMVがアップされて、翌月には杉浦君がラジオに呼ばれたりして、よりバンドを続けていく決心がついたんだよね?

杉浦:そうですね。マジで疋田には電話してましたね。
疋田:仕事が忙しくて、ようやく洗濯物ができる時に電話が凄くかかってきたのを覚えている(笑)。
杉崎:2020年の秋にアップしていた最初の「夜にえて」のMVが1万再生いったりして、あの時期は動き出してきた感じがありましたね。
杉浦:それもあって疋田をバンドに、大阪に、何としてでも戻そうと。それからサポートメンバーふたりと去年8月からライブをやり始めたんですけど、その子らは何も悪くないんですけど、ここまで違うんやと驚いたんです。同じ曲ならば別の人が弾いても変わらないと思っていたら、グルーヴというか……音にも人がめっちゃ出るんやなと。最初の4人の時とサポートとの4人の時では、スタジオの雰囲気からして違うし上手く嚙み合わなくて。
杉崎:疋田さんが戻ってきてくれないと先が見えなかったですね。
杉浦:この状態が続いたら、杉崎も辞めるかなと思ってました。
ーー去年10月のライブから、この4人になりましたけど、その時、疋田君はバンドで食っていくんだと腹を括った感じでした?
疋田:括るほどの腹も無くて、さっきも言いましたけど、普通のインディーズバンドよりは軌道に乗ってそうやから戻って来た感じでした。そこから、ここまで大きくなるとも思ってないし。最初のライブも「楽しかったな」くらいでしたよ。
ーーアクリちゃんはサークルで趣味程度でギターを弾いてたくらいなのに、アートワークだけで関わろうと思っていたバンドに正式ギタリストとして誘われることになるわけですが、それこそ驚かなかったですか?
アクリ:9月中旬に杉浦君がラジオに出ることがあって、その時に正式メンバーを発表したいから、「早く決めて!」とは言われていて。ギターは遊びでやっていただけなので、めちゃくちゃ驚きました。大学を卒業してからも、デザインの専門学校に行くのを決めていたので両立できるか不安で。「まぁ、おもしろそう」とは思いましたけど、仲良い最初の4人の姿も観ていたので、「私で本当にいいの?」とは何回も何回も聞きましたね。
疋田:その話を最初に聞いた時は、「デザインやってる子がギターで入るなんて!」と爆笑しました(笑)。
杉崎:僕はいちばん仲良い先輩やったので嬉しかったですね。
アクリ:就活とかで色々悩んでムシャクシャしていた時期だったので、「やったる!」という勢いでした!
疋田:ただ、10月の最初のライブも楽しかったとは言いましたけど、その時にはすでに、今も関わってくれてる大人の関係者の方々がいっぱい観に来ていて「ヤバすぎでしょ……」とは思いましたね。
アクリ:私は来てくださってる大人の関係者の方々のことはよくわかってなくて、初めてのライブだったので素直に楽しかったです。ただ、ギターが別に弾けてるわけではないので、「よくライブに出れたな。凄いな」と今となっては思いますけど。

帝国喫茶 杉崎拓斗(Dr)

ーー僕は、そのライブを観ていたのですが、最初に杉浦君だけステージに出てきて、ひとりで弾き語りで歌ってる曲を歌って。それ終わりにメンバー3人が出てくるという演出がバンドが集まって、始まっていく感じがして凄く良かったんですよ。
杉浦:まぁ、シンプルに4人でできる曲が無かったのもありますし、良いように言えば、ひとりの弾き語りから始めて、これからはバンドでやるぞという流れではありましたね。事務所の社長が観に来る日でもあったので、僕は勝負やと思ってました。杉崎が卒業するまでには、何かしら色々と決まっていて完全に動き出していないといけないと思っていたので、僕は何とか間に合って良かったなと。
杉崎:この4人でやってたら続けていけそうとは思いましたね。
疋田:ただ動きが早すぎるし、追っつかないという気持ちはありましたよ。でも、まぁいっかと思っていたし、どこか遊びの延長でやっていたし、大人の関係者もたくさん集まってきて何か楽しそうだなくらいに思っていたんです。でも、具体的にレコーディングの話が進んできて、マジで締切は怖かったですね……。10月以降はほぼ記憶無くて、白眼剥くんちゃうかなと思ったくらい。ずっと家で自分と対話して、曲と向き合っていました。自分が何を作りたいのか、商業の中で曲の幅をどこまで活かして、どこまで伝えられるかを一生考える生活が始まったなという感じでした。
杉浦:わざわざ自分らでペースを早めて、EPではなくアルバムを作ることにして、レコーディングスケジュールも事務所に組み直してもらったんですよね。でも実際にレコーディングに入ったら、どんな感じのアルバムになるかはわからなくて風に身を任せていました。
ーー杉浦君も曲を作るけど、現段階では疋田君が曲を作ることが多いですよね。
杉浦:疋田から良い曲ができてきますからね。逆に自分で作っても勝たれへんと思ったので。
疋田:そんなことないって! メンバーに丸投げせず曲を書けよ(笑)。
ーー疋田君は急激なスピードで数多くの曲を書いていくのは、本当に大変な作業だったと思うんですよ。
疋田:まず帝国喫茶と紙に書いて、ジャンルとか声質とか、それぞれのギターとかドラムとか、たくさんメモしてから作っていきましたね。
杉浦:そういうのを僕はできへんから。
杉崎:正直、先輩である疋田さんの大変な姿は観たくなかったし、ごめんなさいと思ってました……。僕も曲を作るんですけど、最初から良い曲を作ろうとするのは無理なんで、等身大の大学生の自分にしか書けないことだけを意識しました。それ以上は何も考えないようにしました。
アクリ:私はギターのアレンジとか全くわからなくて、とにかくギターを弾く練習をしていました。コードとかも全くわからなかったし必死で……。
疋田:今年の2月に伊豆のスタジオにレコーディング合宿で行ったんですけど、そこでも基本的なコードのことを聞いていたもんね(笑)。
アクリ:その時のことを思い出すと、今でも泣けてきて……。
杉崎:伊豆の時にしっかりせなと改めて本気で思いました。そこで商業的なことをしっかりと意識するようになりましたね。こういう機会を与えてもらってるからこそ、僕らも全力でいかないと失礼ですから。毎晩メンバーと喋っていたので、メンバーの絆もできました。
疋田:自分たちが作った曲が良いレコーディング環境で、良い音質でできていったのは嬉しかったです。もっと良い音楽を作りたいと思ったし、どうしたら良い音楽を作れるかも考える様になりました。
杉浦:僕はずっと楽しかったですね。商業的というよりも、自分のやりたいことが、なりたい自分が全部叶っていきましたから。毎日夢中で遊んでる感じでした。それまで酷いレコーディング環境でやっていたので(笑)、別の曲みたいに聴こえていくのが嬉しくて。
疋田:流石サッカー部出身だからバイタリティーが違う(笑)。
​帝国喫茶 アクリ(Gt)
ーー自分で色々と考えてメンバーを集めて、大人のスタッフたちとも出逢ってタッグを組んでいき、それも楽しみながら本気でやってる杉浦君を見ていると、この人は本当にフロントマンだなと思うんですよ。
杉崎:それは節々で僕も思います。自分には絶対的に無理ですし。杉浦さんが引っ張ってくれないと、僕はバンドを絶対にやってないですから。
ーーそして2月の伊豆合宿を乗り越えたからこそ、春以降の帝国喫茶があるとも感じていて。
アクリ:伊豆の頃は何もわかってなかったし、頑張りも足りてなかったし、そもそも頑張り方も間違えていて。でも、今は練習の仕方とかも掴めてきて、確かに4月以降は色々と変わっていきましたね。
疋田:4月くらいからは拓けましたね。レコーディング経験も活きましたし、ライブにも慣れてきましたし。音楽が好きで、ずっと音楽を突き詰めていたら、勝手にそうなっていくんでしょうね。
ーー7月リリースの配信シングル「ガソリンタンク」も、このバンドにとって凄く大きなポイントになりましたよね。
杉浦:伊豆でアルバム用の曲は大体レコーディングしていましたけど、もう一発強いのが欲しいとなったんですよね。
疋田:でもオーダーがあったから出したというよりは、曲がこっちに来てくれた感じでしたね。その頃、悶々としていて全部が煮詰まって出てきたというか。その生まれてこようとする曲が凄くパワフルで、これに勝てるかなと思いながら向かい合いました。三日三晩眠れないし、飯も入らなくて水だけを飲んでいて、あばら骨が出るくらいに痩せてきて…。死ぬか覚醒するか、どっちかだなとまで思っていたら、ぶわーっと曲が出てきましたね。それで杉浦に聴かせました。念とかパワーは凄い強く感じましたし、「ガソリンタンク」ができたのは大きかったです。今、自分に言えることは、これくらいしかないし、自分らと似たような世代は、こういうことを思って、死にかけるくらいに苦しんでいるというのがなんとなくあったんです。救いの曲という聴かれ方をすると思いますけど、一番の作った理由は自分を救ってあげたかったんだなと。死ぬわけにはいかなかったから、死なないように、この曲で防護柵を張るみたいな……。きつかったので、二度とあんなことにはなりたくないですけど。
杉浦:今日のまとめじゃないんですけど、まずはみんなが伊豆で苦しい思いをしたのは、何もわからないまま進み過ぎたからで。僕は目的の行く場所は決めるんですけど、道筋は決めれなかったから、それを探しながらやっていたので苦しかったんです。そこは正直なところ甘かったと思います。でも、伊豆以降は、よりそれぞれの役割とかも見えてきたし、曲作りの仕方もわかってきたんです。その上で「ガソリンタンク」ができたことによって、ファーストアルバムが完成したなと思いました。疋田が倒れてる横で、「これを歌えるんや!」と喜んでましたから、僕は。このファーストアルバムで、帝国喫茶がどういうものかという土台ができたので、次からのアルバムは全く別のものになっていきますよ。何もわからずにやるのと、何をやるかをわかっているのとでは、全く違いますから。今は、このファーストアルバムが、誰も知らない音楽から誰もが知ってる音楽として広まったらいいなと思っています。
帝国喫茶
取材・文=鈴木淳史 撮影=渡邉一生

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