奇妙な100の家訓がある三上家の婿役
・田中俊介と悩める長男役・堀夏喜を
インタビュー 現代社会の問題にもリ
ンクする家族会話劇『ホームレッスン

新進気鋭の注目の劇作家・谷 碧仁(劇団時間制作)と、骨太かつ包容力のある演出で注目を集めるシライケイタ(劇団温泉ドラゴン)がタッグを初めて組む、奇妙な味わいの家族劇『ホームレッスン』。物語の舞台となるのは、何気ない日常のルールから厳しい罰則付きの規律まで“100の家訓”がある三上家だ。長女・花蓮といわゆる“出来ちゃった結婚”をした伊藤大夢(だいむ)は、義父・歳三、義母・奈津子と三上家で同居することになる。最初はとまどいつつも、だんだんと三上家の家訓を守ることで頭がいっぱいになっていく大夢。生活を続けるうちにやがて、ある家訓を破るととんでもない罰が待っていること、まさにその罰を受けている花蓮の弟・朔太郎の存在を知る……。
大夢を田中俊介、朔太郎を堀夏喜(FANTASTICS from EXILE TRIBE)が演じるほか、花蓮に武田玲奈、両親に宮地雅子、堀部圭亮が扮する。家族だからこそ、わかりあうこともあれば、家族だからこそ、見えなくなってしまうものもある。現代社会が抱える問題にも斬り込む、この家族会話劇に果敢に挑む大夢役の田中俊介と、朔太郎役の堀夏喜に作品への想いを語ってもらった。
ーー9月24日(土)の初日に向け、今は稽古の真っ最中だと思いますが。稽古場の様子はいかがですか。
田中:メチャクチャ順調だと思います! 着々と進んでいて、まだ大まかにではありますが全体像が見えるようになってきました。ここから、これをどうやってみなさんと一緒に、よりブラッシュアップして深みのあるものにしていけるか。僕自身も、純粋に楽しみです。
堀:僕はこういった一本の本格的なお芝居に出演することが初めてなので、舞台の稽古というものに触れること自体をすごく新鮮に感じています。共演者のみなさんのお芝居を間近に観察しながら、勉強させていただいている毎日です。
ーームードメーカーは、いたりしますか?
田中:ムードメーカーがいるかというより、演出のシライさん含めみなさんおちゃらけはしないけど、ただ寡黙でいるわけでもなく。しゃべりかけられれば返すし、同じように笑い合うし。そのバランスが僕は本当に好きだなと思います。
堀:いやいや、正直なところ、ムードメーカーは田中さんじゃないですか。
田中:僕、作れてる? ムードメイクできてる? 本当?(笑)
堀:はい(笑)。確かに、ワーッと盛り上げたり、キャハキャハふざけあったりするわけではないんですけど、田中さんがおっしゃるようにふわっと笑いが起きることの繰り返しで。
田中:メチャクチャ、居心地がいい稽古場です。
田中俊介
ーー普段から、家族みたいな空気が生まれたりも?
堀:世代もバラバラですし、初めてお会いする方ばかりではあったんですが、家族の役というのが入口にあったので、僕的には自然と家族という認識になっているような気がします。武田さんとは本当は同い年なのに、お姉さん役なので年上のように思ってしまっていたりしますし。
田中:そうですね。また今回はキャストがこの家族五人だけというのも僕には大きくて。自分にとっては、最少人数の舞台作品を経験することにもなるんですよ。ですからこの五人で一致団結して劇場を埋め尽くすエネルギーを出さなければいけないですし、でもこの五人だったらきっといける! とも思っています。
ーー今回の脚本を読んだ時、まずどんな感想を抱かれましたか。
田中:読み始めたらもうページをめくる手が止まらなくて、ガーッと一気読みしました。それだけ、興味深い内容でしたね。確かに家族という、その中にある愛情みたいなものは不確かなものであって、僕もいろいろな作品に触れた時や、私生活においても「愛ってなんなんだ?」ということは考えたりしますから。この作品はその点、可笑しくもあり、痛々しくもあり、でもそこに確かな温もりがある家族愛みたいなものを描いているんですよね。そこが、純粋に読み物として面白かったです。
堀:100も家訓があるというところからしてとても異常に感じますし、猟奇的な部分もたくさんあるので、現実離れした感覚に陥ってもおかしくないはずなのに、どこかリアリティが溢れていて。そこが、すごく引き込まれたポイントでした。もともと僕、暗いお話を演じてみたいと言っていたので、そういう意味では今回まさにやってみたかった路線の作品で。脚本を読んで、すぐに魅了されましたね。
ーー稽古でそれぞれ実際に大夢、朔太郎を演じてみて、どういう点が難しいと感じていますか。
田中:僕が演じる大夢という男は、あまり詳しくは言えませんが前半と後半で両極端な面を出してくるんです。そこへの移り変わりみたいな表現が、難しいなと思っています。別人ではないけど、まるで別人のような面を出さなければいけないので。だけど、どんな人にも多面性はありますからね。そこは芯をぶらすことなく表現したいなーと思いながら、難しいなーと思いながら、やっています。
堀:もう、僕にとっては難しいことだらけです(笑)。まだ舞台の稽古の感覚が完全にはつかめていない状態なので。このお話の中で、朔太郎は一段階さらに話をややこしくしたりするような役柄でもあるので、客観的に見てそういった役割をちゃんと担えるようにしなきゃいけないのですが……、それを考えながら稽古に取り組むことも、やはり難しい。ここから本番までの期間で、どれだけ納得のいくお芝居ができるようになるかが、自分にとっては一番の課題かなと思っています。
ーー田中さんが演じる大夢については、どういう人物として捉えていますか。
田中:大夢は、実は幼少期に辛い経験をしていることもあって、その経験から家族というものに対して強い憧れと執着があるんだと思います。そういう憧れを抱いて三上家に入ったものの、「あれ? なんかおかしいな?」と。だけど大夢は“社会適合のプロ”だと自負している人でもあるので、どんな環境にもどんな相手にも適合できる柔軟さを持っているんですよね。
ーー大夢の描いていた家族像は、どんなものだったんでしょう。
田中:家族像というもの自体、ふわっとしているようなものですし。めちゃめちゃ、難しいですね。僕自身も自分の家族を説明してくれと言われても、どう説明すればいいかわからない。それぞれ、家族の中に入ってみないと見えない部分だし、自分の家族がもしおかしくても気づけないんじゃないかな。だから大夢にとっての家族像も、ふわふわしている状態なんじゃないでしょうか。ぼんやりとした、とにかくあったかい気持ちになれる、笑っていられて幸せを感じられるような空間を生み出すのが家族なんだと思っているんじゃないかな。
ーー堀さんは、朔太郎をどういう人物だと思っていますか。
堀:朔太郎は18歳の少年なんですけど、その年代は自分もそうでしたけど、若いがゆえの意志の強さとか、真っ直ぐさってあると思うんです。あと、やっぱり反発心。朔太郎は、そういったものが滲み出ている人なのかな、と思いますね。家族の中でも一番若い登場人物でもあるし。実際、僕もこの家族を客観的に見た時に「朔太郎は、若いなあ!」って思いましたから。
ーーその朔太郎の目には、三上家はどんな風に映っているのでしょう。
堀:朔太郎はこの家族像しか知らなかったわけで。ずっとこれが普通だと思っていたと思います。でも、きっと何かのきっかけがあって、自分たちが、普通ではない変な家族だと気づいたんだと思います。おそらくその衝撃は相当なものだったはずで、だけど一度気づいてしまったら、やはり普通になりたいという想いが芽生えますよね。自分の家族も普通に戻ってほしいというか、周りと同じでいようよと、そういう想いで見ているんじゃないかな。
ーーそれぞれの役を演じるにあたり、どんなことを意識していきたいですか。
田中:キャラクター的にはいろいろな面を出していかなきゃいけないのですが、そこでブレないようにと一番意識しているのは、根本的に武田さん演じる花蓮のことが大好きだということ。そしてこの家族を愛したくて、守りたいからこそ起こしている行動なんだということ。そこは、行動心理がよく分からない人物に見えないよう、花蓮と家族を守りたいがためにやっているのがちゃんと伝わるように、演じていきたいと思っています。
堀:僕が意識するのはやはり、朔太郎の意志の強さです。何を言われたとしても、そこは揺らいでいないなと思っているので。その強さについては、しっかりと台本に書かれているものでもあるので、その朔太郎の部分をしっかりと自分の中に落としこんで演じられたらと思っています。
堀 夏喜(FANTASTICS from EXILE TRIBE
ーーこの作品は、ある意味マインドコントロールとか洗脳の怖さに触れる話にも受け取れますし、もちろん現代における家族との関係に関しても描かれているわけですし。それを今、このタイミングで上演するということに関しては、お二人はどういう風に思われていますか。
田中:本当にそうですよね、まさしく今、超タイムリーな作品なので、こんな巡り合わせもあるんだなと僕もビックリしました。世間でもずっと議論になっていますけど、決して強く信じること自体は悪ではなくて。誰もが信念みたいなものにすがりたくなる気持ちもわかるし。特別、僕は何かを信じているというわけでもないですが、そうなっていく気持ちは理解できる。でも、そこには越えちゃいけないところもあるのに、その境目がわからなくなってくることが問題だと思います。たぶんこの作品を観たら誰もが最初「おかしいぞ、何だ? この家族」と思うんでしょうけど、それがだんだん、いつの間にか理解できるようになってくるんです。そのあやふやな境目でもがいている経験は、自分にもあるかもなあって思うでしょうし。もちろん結末は言えませんが(笑)、この作品を観終わった時に何かしらを持って帰ってもらえたらいいな、うれしいなと思うのでなんとかがんばりたいですね。
堀:僕も、最初に顔合わせをした時に、脚本を書かれた谷さんが、今感じている世の中の極端すぎるもののとらえ方に関して疑問を抱かれているようなことを、おっしゃっていたんです。僕、それにすごく共感できて。この脚本も、すごく極端なことを描いていたりするとは思うんですが、それを客観的に、僕らが演じることを観ていただいた時、果たしてどんなことを感じてもらえるんだろうかと考えると、すごく楽しみに思えてきて。もちろん感じること、物語のとらえ方は人によって違うとは思うんですけどね。ぜひとも何かを、感じていただけたらなと僕も思いますね。
ーーでは最後に、お客様へ向けてのメッセージをいただけますか。
堀:この『ホームレッスン』は家族のお話ですけど、家族にもさまざまな形があって、何が普通で、何が普通じゃないのかは本当にわからないものだと思うんです。観てくださる方によって、普通だと思うポイント、異常だと思うポイントはそれぞれ違うでしょうし。ここは、たくさんの方に観ていただいて、各自で自分の家族の形を思い出して重ねてみたり、いろいろな見方をしてほしいですね。そして僕、個人的に今回はすごく挑戦させていただいている舞台でもありますので、その姿も見届けていただけたらうれしく思います。
田中:先ほども言いましたが、この作品は今の世の中とリンクする部分がすごく多いので、今こそ見てもらいたい作品です。そしてこのタイミングで、この舞台を、この役柄をやらせてもらえることには感謝していますし、今の自分が出せる100%のものをしっかり出して表現していきたい。この、100の家訓を持った一風変わった家族の行く末を、どうかみなさん劇場で見守ってください!
取材・文=田中里津子

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