「どうぞ、良い旅を」~2022年秋公演
がスタート、ミュージカル『刀剣乱舞
』にっかり青江 単騎出陣 東京公演
レポート
2022年9月13日(火)昭和女子大学人見記念講堂にてミュージカル『刀剣乱舞』にっかり青江 単騎出陣 の幕が開いた。ここまでコツコツと公演数を重ね良い評判も舞い込んでいる中、いよいよ“地元”を訪ねてくれたというワクワクと共に席に着く。この広い会場の真ん中で一振りだけでの公演は素晴らしいチャレンジだ。やがて、開演のとき。舞台上の“あるモノ”がス〜ッと気配を消した。小さくドキッとする。
やがて「その日」はやってくる。これまで自身の内に深く深く封印してきた感情のマグマが、激しく噴出する瞬間が!
刀剣男士は人の形を得る際、刀剣として記憶してきた体験や持ち主の人生、それらをとりまく逸話や伝説をよすがにさまざまな姿で顕れる。おそらく「にっかりと笑った女とこどもの幽霊を斬った」とされるにっかり青江にとっては、その逸話は“お守り”というよりは“縛り”に近く、本当に強い刀剣男士としての自分を確立するためには乗り越えなければいけない“自分自身のストーリー”となっていたのだろう。そして……快適だが孤独な旅を続け、十分な時間を費やして自身の歴史の追体験と再発見ができたとき、また、自分の弱さを受け入れることができたときにこそ祈りは果たされ、次へ進むべき“新しい本当の自分”へと再生することができるのだ……と。
2017年からにっかり青江を演じ続けている荒木宏文は、その流麗な姿にしなやかな強さとにっかり青江特有の“つめたいあたたかさ”をまとい、若い俳優が多いシリーズにおいては頼れる先輩としてもしっかりと作品を支えてきた。本作ではさらに「刀剣男士とは?」という大きな命題へ一筋の光が強く差し込むほどに己のキャラクターへと深く潜り込み、芝居、歌、殺陣、講談を織り交ぜながらたったひとりで非常にシンプル且つ豊かな演劇を創り出すことに成功している。
講談での声の調子の使い分け、一言ずつの言葉のやり取りの連続で本丸の刀剣男士たちがそこに居るかのようにイメージさせる巧みさ、会場全体に丁寧に視線を投げかけながら手踊りで一体感を導いていく包容力、激情あふれるクライマックスシーンの熱量、美しい殺陣、多彩な表情を伝えてくれる歌声と、これまで培ったスキルと表現力を惜しみなく披露する“俳優力”は圧巻。作品全体を飽きのこない1本のエンタメとしてコントロールする手腕も素晴らしかった。
SPICE
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