中村歌昇×種太郎×秀乃介親子の取材
会レポート 『秀山祭九月大歌舞伎』
吉右衛門への感謝と播磨屋の誇り

2022年9月4日(日)に、歌舞伎座で開幕する『秀山祭九月大歌舞伎』。第一部『菅原伝授手習鑑 寺子屋』(すがわらでんじゅてならいかがみ てらこや)で、中村歌昇の2人の息子が、中村種太郎と中村秀乃介を名乗り初舞台を踏む。
『秀山』は、初世中村吉右衛門の俳名だ。『秀山祭』は、初世吉右衛門の功績をたたえ、芸を受け継ぐべく、2006年にはじまった。コロナ禍を経て3年ぶり13回目。今年は二世中村吉右衛門の一周忌追善でもある。
開幕を前に取材会が開かれ、吉右衛門と同じ播磨屋の俳優である、歌昇親子が出席した。取材会は、感謝の言葉を尽くした歌昇の挨拶で、和やかに始まった。
(左から)中村秀乃介、中村歌昇、中村種太郎
■中村種太郎と中村秀乃介、初舞台へ
長男の小川綜真は6歳。2019年に当時3歳で初お目見得して以降、本名で舞台に出ている。来月の『寺子屋』菅秀才役で、中村種太郎(たねたろう)を名乗り、初舞台となる。歌昇は、種太郎を「お兄ちゃんらしい性格」と紹介する。
「何事もよく状況をみて慎重に考えてから挑戦するタイプのようです。ふだんは、おしゃべりと食べることがとても好きな子。『寺子屋』でつとめる菅秀才は、ずっと正座をしています。しっかり背筋を伸ばしキョロキョロせずに座っていること。それをきちんと勤めることが、菅秀才というお役につながるのではないでしょうか」
中村種太郎
次男の小川悠真は3歳。『寺子屋』小太郎役で、中村秀乃介(ひでのすけ)を名乗り、初舞台となる。歌昇によれば、「天真爛漫。お調子者でひょうきん」な性格。
「彼はお兄ちゃんのことが大好きで、お兄ちゃんは1日中遊びに巻き込まれています(笑)。兄弟仲が良いのは、うれしいことです。秀乃介は、初お目見得と初舞台が同時になりますので心配もありますが、お兄ちゃんが舞台に立つ姿を見ています。だから弟もやれているところがある。その点も、お兄ちゃんには感謝しています」
好きな芝居をたずねられると、種太郎は内緒話をするように、歌昇の耳元で『義賢最期』と答えた。
「昨年、松本幸四郎のお兄さんの『義賢最期』に、種太郎は太郎吉役で出させていただきました。その印象が強かったようです。でも最後の立廻りは、怖くてみていられなかったと聞いています。秀乃介は妖怪が好きなので、今月上演されている『闇梅百物語』は楽しんだようです」

(左から)次男・中村秀乃介、中村歌昇、長男・中村種太郎
■かっこいい名前、「秀」に込める思い

種太郎は、新たな自分の名前の印象を問われると「かっこいいと思っています」と、明るく答えた。「種太郎」は、歌昇が四代目として名乗っていた名前だ。一方、「秀乃介」は今回初めて使われる名前となる。
「『種』の字を使うことも考えましたが、秀山祭のタイミングでの初舞台であること。そして僕自身、播磨屋への気持ちが強いことから、播磨屋のおばさま(二世中村吉右衛門の妻)にご相談し、『秀山』の『秀』の字を頂戴したいとお話ししました」
中村秀乃介
この日、秀乃介の受け答えには、歌昇がフォローに入っていた。
歌昇「秀乃介という名前は、どうですか?」
秀乃介「どうです」
歌昇「好きですか?」
秀乃介「好きです」
歌昇「(記者に向けて)誘導尋問で、すみません……」
微笑ましい掛け合いが一同を和ませていた。
■怖かったり普通だったりする歌昇
現在、子どもたちは「台詞と動きのお稽古」をしているところ。稽古中の歌昇の様子を問われると、種太郎は「怖くなったり、ふつうになったりします」と明かし、秀乃介は「こわ~い!」と、おどけてみせる。歌昇は、笑いながらも真摯に答えた。
「兄弟で教え方は、分けています。秀乃介には、いまは舞台は楽しいものだと思ってもらえるよう、何をしても、すぐに『よくできたね~!』と褒めています。種太郎は、ちゃんと教えれば、ちゃんと返してくれる。だから、出来る限りのことをちゃんと伝えるようにしています。ただ、僕も少し厳しくなりすぎるところが……」
歌昇の横で種太郎が無言で頷き、記者たちに笑いがこぼれた。
中村種太郎
兄と弟で教え方に違いが出るのは、歌昇自身も経験したことなのだろうか。
「父の又五郎は、歌舞伎界随一と言っていいくらい優しい人。怒られた記憶も、ほとんどありません。じゃあ、なぜ僕はお兄ちゃんに厳しくなるのか……反省しています(苦笑)。ただ僕自身、子役のころから舞台に立たせていただき、1か月25日間、舞台に出続けるのは大変なことだと感じています。親がしっかりと、サポートし続けなくてはいけません」
歌昇は、第一部は、舞台裏で「ふたりのサポートに徹する」という。
「種太郎は大丈夫だと思います。心配はしていません。秀乃介は初お目見得と初舞台が同時。僕は常に舞台袖で、何かしら彼らが喜ぶものを懐に携えて、(機嫌をとるような口調で)がんばったらコレね! と送り出すつもりです」
歌昇自身が子どもだった時の兄弟関係を問われると、キマリが悪そうに「あまり仲の良い兄弟ではありませんでしたが」と前置きしつつ、あたたかい言葉をつづけた。
「歌舞伎のお仕事をさせていただくにあたり、僕にとっては、兄弟がいてくれることは、とても大きなこと。子どもたちが、この道に進むとなった時には、手を携え、困った時は一緒に悩む。笑える時は一緒に笑う。楽しみながらやってほしいです」
ただし、取材会の時点で、種太郎の将来の夢はニュースキャスター。秀乃介の夢は未定。
「その時はニュースキャスターになればいいと思っています。自分で、好きで選んだ道でないと、本人が苦労をするだけ。僕自身、歌舞伎をやるよう強制されることはありませんでした。そして今、自分の好きなことを仕事にさせていただき、本当にありがたく思っています。子どもたちには、好きな道を選んでほしい。彼らがしたいことを第一に考えながら、もし歌舞伎をやりたいと思った時には、その道も選択もできる環境を残しておいてあげたいです」
■播磨屋であることを誇りに
『秀山祭九月大歌舞伎』は、一日三部制。二世吉右衛門が作った作品や、当たり役としていた作品が、縁の深い俳優たちにより上演される。吉右衛門の最後の舞台は、2021年3月の『楼門五三桐』。吉右衛門が石川五右衛門を勤め、歌昇と種之助は、兄弟で右忠太と左忠太を勤めた。
「以前から、吉右衛門のおじさまは、お体の具合が良くないとうかがってはいました。でも、いざ舞台に上がられると、それを微塵も感じさせませんでした。五右衛門のお役で、大きなお声を響きわたらせて。僕らは、五右衛門にかかっていく役でしたが、こんなにも大きいのかと、その大きさを、あらためて感じたことを覚えています。おじさまは、命をかけて役にのぞまれていました。ご自分のあらゆるものを費やして舞台に出す。その姿から多くを学びました」
具体的に教わったことは「情報漏洩になってしまうから」と明言は避けつつ、「顔ではなく肚で芝居をしなさい。そこからにじみ出るものが、顔の表情につながるように」と指導を受けていたことを振り返る。
中村歌昇
歌昇が出演するのは、第二部『揚羽蝶繍姿』(あげはちょうつづれのおもかげ)。そのタイトルと配役から、吉右衛門の当たり役の数々のオムニバス形式の演目が想像させる。記者から「吉右衛門さんがお元気だったら、そのお相手となる役どころですね」と言われると、歌昇は「そういう想像を、なるべくしないようにしてきました。泣いちゃうので」と困りながら笑っていた。
「おじさまの相手役を、なんて申し上げるのは、おこがましいことかもしれませんが、お相手を勤められる役者にならなくては、とずっと思っていました。おじさまが亡くなられてからは、生きていらっしゃる間にそうならなくてはいけなかった、とずっと思っています。これからも思い続けるのだと思います」
生前、吉右衛門は又五郎に「(歌昇の)長男の初舞台で、種太郎の名前を継いでは」と話をしていたという。それが9月の歌舞伎座で実現する。
「そこまで考えてくださっていたおじさまには、感謝しかありません。おじさまたちのお名前と芸を残していけるよう、残された播磨屋一同、総力をあげ、勤めていかなくてはと思っています。子供たちには、まだ分からないかもしれませんが、初代中村吉右衛門、二代目中村吉右衛門という偉大な方々と同じ屋号であることを、いつか誇りと思えるように。播磨屋の屋号を背負う以上、私はそこに、自分の一生をかけていきたいと思っています」
フォトセッションから離脱する秀乃介。種太郎の手を握り、秀乃介を呼ぶ歌昇。弟を気にしつつカメラにも気を配る種太郎。
帰ってきた!
取材・文・撮影=塚田史香

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