矢井田 瞳

矢井田 瞳

【矢井田 瞳 インタビュー】
隙間の美学みたいなものを
楽しめる年齢になった

“これが答えだ!”みたいなものが
ないようにしたかった

とてもいいですよね。「オンナジコトノクリカエシ」と「shadow/alone」はダークサイドでサウンドもエッジーでしたが、「Everybody needs a smile」でそれががらりと変化します。ここは起承転結の“転”に当たるでしょうね。この曲順はパーフェクトだと思います。

やったー! 曲順は私ひとりの意見じゃなくて、ディレクターさんと話していく中で、不思議と“この曲はおへそら辺だよね?”とか“この曲は頭ら辺だよね?”って、それぞれの意見が似たようなものになっていき、その結果ここに落ち着いたという感じです。

個人的には「Everybody needs a smile」のあと、「LOVESiCK」と「駒沢公園」が続いているところもいいと思いました。奥行きをすごく感じます。「LOVESiCK」で描かれているのはボーイ・ミーツ・ガールにも近い、恋愛初期とも受け取れる内容ですが、「駒沢公園」は《「ねぇママどうして戦争なんてするんだろう?」》という歌詞があるとおり、「LOVESiCK」とはまったく立ち位置が全然違う。でも、そこがいいんですよ。まったく違う視点が連なっているのが。

言われてみれば、歌詞の内容もタイプも全然違うんですけど、この2曲は並べたかったんですよね。で、この位置が自然というか、これが逆だとまた違いますし。

「LOVESiCK」は「Everybody needs a smile」で場面転換したあとの回想シーンみたいな感じがします。「LOVESiCK」の主人公が成長した姿が「駒沢公園」かなと思ってしまう。そんなドラマティックさがあると思うんです。

おおっ! そんな物語を!?(笑) 嬉しいです!

「LOVESiCK」の瑞々しさもいいんですが、「駒沢公園」は深みがあっていいですね。

ありがとうございます。歌詞の中には駒沢公園は出てこないんですけど、駒沢公園でこの曲の欠片ができて、そこから書いた曲なんです。“駒沢公園”というのはずっと仮タイトルだったんですけど、レコーディングが終わった時に“これはこのままがいいな”と思って(笑)。

“駒沢公園”というタイトルだからいいんですよ。“とある公園にて…”みたいなタイトルだとちょっと違いますからね(笑)。東京の風景が想像できるところもありますし、これも日常と地続きなところがいいと思います。

娘が12歳になったんですけど、小さい頃の質問はすごく可愛かったんです。“これ何色?”とか答えのある質問だったんですけど(笑)、最近は答えのない質問で“愛と恋って何が違うんだろうね?”とか、そういう質問も増えてきて。そんな質問攻めに合いながら書いた曲なんです。でも、だからこそサウンドやメロディーにもたくさん隙間を持たせたかったというか、“これが答えだ!”みたいなものがないようにしたかったので、それもあってフェードアウトにしたりとか(笑)。

まさにドキュメンタリーチックなんですね。《「ねぇママどうして戦争なんてするんだろう?」》というのは、ロシアとウクライナの戦争が関係しているんですか?

いえ、それよりも前ですね。この歌詞は本当にドキュメンタリーと言いますか、娘からのパッと答えられない質問が増えてきて、“どうしよう? 困ったな”と思ってる時だったので(笑)。その“どうして戦争なんてするんだろう?”はニュース番組を観ながら彼女がふと言ったんですよね。で、ニュース番組を観ている時だけじゃなく、公園にいる時とかも“戦争するんだったら上の人たちだけで、例えばジャンケンで決めるとか、プロレスとかで決めればいいのに、どうしてするの?”みたいなことを訊かれてドキッとした覚えがあって、それをそのまま歌詞にしようと思ったんです。

そうですか。“どうして戦争なんてするんだろう?”というのは普遍的な問いでもあるんでしょうね。悲しいことですが。

新しい憎しみの連鎖の種が増えていくことを毎日目の当たりにするのはつらいし、しんどいですよね。

アーティストとしてはもちろんのこと、親として、ひとりの人間として考えることが多い昨今ではあるんでしょうね。

そうですね。

「駒沢公園」はメロディーも歌詞の内容も柔らかな印象がありますが、DURANさんのエレキギターはザラついた感じで、そのマッチングが面白いですね。

いろんなタイプのギタリストの方がいて、エフェクターをいっぱい持っているタイプの方もいれば、DURANくんの足元はシンプルで男前な…エフェクターが1個という。それもまたすごい素敵で! “ここにない音は俺のプレイで補って聴かせる”みたいな(笑)、気持ちで持っていくみたいなところがひとつひとつのプレイに乗っかってて、人間臭くて素敵だと思いましたね。

その人間臭さがこの曲の日常感に合ってるんでしょうね。続いて、アルバムのラスト「speechless」です。《曖昧こそ美しいのに/なぜ聞きたがる》という歌詞がありまして、何でもかんでも急いで結論を出せばいいというものではないというメッセージが含まれているように思います。

「speechless」は一番最後に書いた曲で、“このアルバムであとどんなサウンドが足りないかな?”って考えてから作りました。「speechless」以外の曲を見渡した時に、眠りにつく前に聴いて安眠できるような、テンポがゆっくりで温かいサウンドがこのアルバムに入っていないことに気づき、そういうものが作りたいと思って書いた曲ですね。

弾き語りを基調にして、そこにバンドサウンドを加えた?

そうですね。音数も最小でいいと思ったし。弾き語りツアーをしている最中に書いた曲なので、自然と曲を書く時にはアコギを持ってましたから、メロディーも歌詞もとても自然に生まれてきてくれた感じですかね。

アルバムの最後に出て来た曲だからこそ、歌詞の主題も結論ではないにしても、それに近いものになった感じですか?

そこまで計算できていなかったかもしれないですけど、このアルバムの一番最後に入れる曲として、それこそ断定するようなことはしたくないと思ったので、歌詞もメロディーもアレンジも、曖昧さや抜け感だったり、全てを包み込む大きさみたいなものは、最小の音で作るからこそ余白みたいなものを持たせた曲にしたいというのはありましたね。

「オンナジコトノクリカエシ」に《白か黒かの二択で寿命を縮めるのはもう辞めたい》とありますけど、「speechless」はその返答であるようにも思いますし、締め括りとして美しいと思います。

わぁっ、嬉しいです!(笑)

そんなニューアルバム『オールライト』は、私、『Sharing』でも申し上げたと思うのですが、今回も収録タイムが約40分くらいです。前作が40分弱で、今作は42分を少し切るくらい。アルバムってやっぱりこのくらいの尺がいいですよね。

私もマスタリングの時に思いました。“我ながらいいサイズ感だな”って(笑)。ダラダラもしていないし、かと言って一瞬で通り過ぎちゃう感じでもないし、手前味噌ですけれど、マスタリングが終わって1曲目から最後まで聴いた時に、“あぁ、すごくいいボリュームとサイズ感だな”と思いました。

個人的には、人間が集中して一枚の音楽作品を聴くのって45分くらいが限界なんじゃないかと思ってまして。ですから、アナログ盤のA、B面って実は良くできていたと感じるところがあります。

ひっくり返す作業もあるし(笑)。あと、私、デビュー作の『daiya-monde』(2000年10月発表)が38分くらいだったんで、短いアルバムに抵抗はないんです(笑)。

短いと中身が薄いのはまた別で、必然的に一曲が長くなるのはいいとして、無理に延ばす必要はまったくないですから。

そうなんですよね。その曲が求めている長さってきっとあると思ってて、一番映える長さで…という。

全体のタイム感もヤイコさんらしいということですし、それも含めて今作も見事なアルバムだと思います。そんな『オールライト』のリリース記念ライヴはすでにバンドメンバーが発表されています。西川 進(Gu)、鶴谷 崇(Key)、FIRE(Ba)、水野雅昭(Dr)と黄金の4人ですね。

そうですね。発表した時の写真が見事に戦隊ものみたいで(笑)。本当に気心知れたメンバーだけど、ここ最近は一緒に音を出せてなかったので、一緒にいなかった時…例えば、弾き語りツアーで得たグルーブ感や気持ちを還元してバンドで出せるようにと、すごく楽しみにしています。

『オールライト』収録曲も再びバンドメンバーと演奏することで収録時から進化していきそうですか?

『オールライト』の楽曲を中心にセットリストを作ろうとは思ってます。で、『オールライト』の曲たちをライヴでやるとどうなるかは、まだ未知数なところが多いんですけど、未知数なだけに楽しみですね。ずっと弾き語りツアーで自分の歌とギターしか聴いてなかったから、まずいろんな人の音に包まれるのが楽しみです(笑)。

取材:帆苅智之

アルバム『オールライト』2022年9月7日発売 日本コロムビア
    • 【初回限定盤】(CD+DVD)
    • COZP-1934〜5
    • ¥4,400(税込)
    • 【通常盤】(CD)
    • COCP-41813
    • ¥3,300(税込)

ライヴ情報

『⽮井⽥ 瞳release tour 2022 「オールライト」』
10/07(⾦) 東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋⾕公会堂)
10/22(⼟) ⼤阪・メルパルクホール

矢井田 瞳 プロフィール

ヤイダヒトミ:1978年大阪生まれ大阪育ちのシンガーソングライター。2000年5月に青空レコードより「Howling」でデビュー。同年7月に「B'coz I Love You」でメジャーデビューを果たし、1stアルバム『daiya-monde』はアルバムチャート初登場1位を獲得。2020年にはデビュー20周年を迎え、新曲のリリースやライヴの開催等、精力的にアーティスト活動を続け、2022年9月7日に12thアルバム『オールライト』をリリース。矢井田瞳 オフィシャルHP

「駒沢公園」MV

「オンナジコトノクリカエシ」
LYRIC VIDEO

「さらりさら」MV

「Everybody needs a smile」MV

「ずっとそばで見守っているよ」
Lyric Video (Short Ver.)

OKMusic編集部

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