ハンブレッダーズが初のホールツアー
で示した確かな熱と揺るぎなさ

ハンブレッダーズ ワンマンライブ2022“ホール!ホール!ホール!”

2022.7.10 LINE CUBE SHIBUYA
ムツムロ アキラ(Vo/Gt)の故郷・吹田とバンドの現在の拠点・東京で開催された、ハンブレッダーズ初のホールツアー『ハンブレッダーズ ワンマンライブ2022“ホール!ホール!ホール!”』。チケットはソールドアウトとのことで、客席を埋めるファンの熱気、期待が開演前から場内に充満している。そしてステージを覆う紗幕越しにムツムロ、でらし(Ba/Cho)、木島(Dr)、サポートメンバーのうき(Gt)の登場を確認した瞬間、観客は拍手してメンバーに喜びを伝えた。
1曲目は「BGMになるなよ」。サビ始まりの歌い出しをメンバー全員の合唱で始め、続いて幕が落とされると、そこにいたのは驚くほどいつも通りの4人だった。やんちゃなギター。抑揚し、歌うベース。瑞々しい音色で様々なリズムパターンを奏でるドラム。ホールの音響も相まってムツムロの歌声はいつもよりよく響いているが、その点以外は本当にいつもと変わらない。ライブハウスのイメージが強いバンドだけにホールワンマンと言われてもイメージしづらかった人もいたかもしれないが、おそらくバンド側の心境としては“場所が変わっても自分たちがやることは変わらない”といった感じなのだろう。ホールだろうとどこだろうと、ハンブレッダーズはハンブレッダーズだという頼もしさが感じられたオープニング。ライブ終盤には「これ、案外やれそうだね」(ムツムロ)という発言もあったように、メンバー自身も手応えを感じていたことだろう。
ギターリフが導く2曲目は「弱者の為の騒音を」。ライブの始まりから演奏にしっかりと熱が入っているのが素晴らしく、最初にお立ち台に立つのがまさかのサポートメンバーというのもハンブレッダーズらしい。演出は全体的にシンプルで、バンドの音をそのまま伝えようという姿勢を感じた。昨年11月に2ndフルアルバム『ギター』をリリースし、その後はツアー『ギター!ギター!ギター!』と追加公演『ギター!ギター!ギター!ギター!ギター!ギター!』をまわっていたハンブレッダーズ。『ホール!ホール!ホール!』というタイトルはツアーからの連なりを感じさせるものだが、今回はバンド初のホールツアーというメモリアルな公演のため、ツアーで育ったアルバム曲のみならず、新旧を網羅したセットリストを展開した。そんななか、最初のMCでは1年前に上京したことに触れつつ、「吹田を贔屓しすぎて東京に熱がないように見えたら申し訳ないなって。第二の故郷にすべくやってきていますので、よろしくお願いします」とムツムロ。実はこれが伏線になっていて、アンコールではリリース未定の新曲「東京」が披露された。じんわりと染み入るミドルバラードは、上京してからの1年間で感じたことを書いた曲なのだそう。
また、「マイラブリーボアダム」は1stアルバム収録曲ながら、このツアーでバンドセットとしては初披露。そして「名前」に「プロポーズ」を続けた『ギター』収録のラブソング2曲による中盤セクションは、ホールツアーならではのハイライトとなった。星空のような照明演出が印象的だった「名前」はスローバラードで観客もじっと聴き入っていたが、こういった曲であえてドラムの手数を抑えず、むしろそこを起点に全体のダイナミクスを形作っていくスタイルがハンブレッダーズらしさか。「プロポーズ」は骨太なサウンドをダイナミックに聴かせる演奏で、イントロから会場中の視線をグッと引きつける。ソロ然りアウトロ然り、うきのギターも抜群で、彼のプレイに観客だけではなくメンバーも笑顔にさせられていた。また、先ほど、ホールだとムツムロの声はより響くと書いたが、響きの部分が増えても薄っぺらく感じられないのは、歌声自体に実が詰まっているからこそだろう。バンドが熱量高く思いっきり演奏できるのは、そもそもボーカルがいつでもど真ん中にいてくれるから、という側面もありそうだ。
「スクールマジシャンガール」から後半へ。ステージ上を縦横無尽に動き回りながらアッパーチューンを連投するターンだ。ツアースタート前日にリリースされたばかりの新曲「カラオケ・サマーバケーション」は、新曲と思えないほどの盛り上がり様だ。そしてムツムロ&でらし&うきのリズミカルなリフをきっかけに「SUMMER PLANNING」へ、さらに転調とともにカラフルに展開する「見開きページ」へ……と、こうなったら止まらない。木島の鳴らすビートに手拍子が起こるなか、でらしのバッチバチのスラップソロから始まるアレンジで届けられた「ワールドイズマイン」はこれぞキラーチューンといった佇まいを見せた。ミラーボール回る幸福感に満ちた光景の中、ムツムロは「この状態で(観客が)声を出せるようになったらえげつなく楽しいんじゃないか。前しか見ていません」と実感を語る。
「再生」までを終え、「あっつー!」と顔にタオルを当てているメンバー。本編は残り1曲。ここでムツムロが、先日物騒な事件があったからか、ファンから「怖くなったらハンブレッダーズを聴いています」というメッセージを受け取ったと話し始めた。日々の生活に潜む暴力、差別、同調圧力などが何かのきっかけで表出してきた時に怖くなってしまう気持ちは理解できると前置きした上で、こう続ける。友達がいなくて寂しい想いをしていた青春時代を経て、「数分間だけでも無敵状態になれるという確信を持って、今も音楽をやっています」と。そして「どんな状況であれ、音楽を聴いて幸せになること、数分間だけ別の世界に行けることを忘れないでほしい」と。
「イヤホンだけしてくれたら、必ずそこを宇宙にしに行くので」。そんな言葉とともに本編ラストには「DAY DREAM BEAT」が鳴らされた。ホールであろうとどこであろうと、ハンブレッダーズの音楽が、ハンブレッダーズの音楽として存在すること。それは、あなたがどこでどんな気持ちでいようとも、この音楽が鳴っている間は現実から連れ出してみせるんだ、という強固さにもなる。この日最初に歌われた言葉が<愛と平和を歌っても相変わらずな世界で/変わらず愛と平和を歌うのが僕の戦いさ>というバンドの宣言だったのも象徴的だろう。今この時代と向き合いながら、だからこそ“変わらないこと”を貫くこのバンドの力強さに触れたライブだった。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=タマイシンゴ

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