水江建太、中川晃教らが音楽に魅了さ
れた人や悪魔を熱演 『CROSS ROAD〜
悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ
〜』ゲネプロレポート

藤沢文翁が原作・脚本・演出を手がける音楽朗読劇『VOICARION(ヴォイサリオン)シリーズ』。物語と音楽が見事に融合した作品は「歌わないミュージカル」と評されている。その中でも、東宝初の朗読劇として2012年にシアタークリエで上演されたのが、稀代の天才ヴァイオリニスト・パガニーニと、彼を惑わす音楽の悪魔・アムドゥスキアスを主役にした『CROSS ROAD〜悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ〜』。
満を持してミュージカルとなる今回、Wキャストでパガニーニを演じるのは、数々のミュージカルで活躍する相葉裕樹と東宝ミュージカル初出演で主演に抜擢された水江建太。さらに、中川晃教がW主演を務める。さらに、早川聖来、青野紗穂、畠中洋、山寺宏一戸井勝海(Wキャスト)、香寿たつきと、若手からベテランまで実力派が顔をそろえた。

【あらすじ】
多くの音楽家が誕生し、素晴らしい音楽が次々発表された19世紀。それまでにない技法を駆使した素晴らしい演奏で「悪魔と契約し、魂と引き換えに音楽を手に入れた」と噂されるヴァイオリニストがいた。彼の名はニコロ・パガニーニ(相葉裕樹/水江建太)。街外れの十字路で音楽を司る悪魔・アムドゥスキアス(中川晃教)と血の契約を結んだ彼は100万曲の演奏と引き換えに自らの命をすり減らしてゆく。19世紀ヨーロッパの華麗なる音楽黄金期を舞台に、音楽の悪魔と“悪魔のヴァイリニスト”と呼ばれた男が奏でるメロディーはヨーロッパをそして世界を熱狂させる。

開幕前に行われた、ゲネプロの模様をレポートする。
物語はパガニーニの死後、彼の弟子であるジプシーの少女・アーシャ(早川聖来)と執事のアルマンド(山寺宏一/戸井勝海)が出会うことから始まる。口さがない世間の人々や聖職者から“悪魔”と呼ばれていたパガニーニを近くで見てきた二人と共に、パガニーニの生き様を追体験するという流れだ。
“音楽の悪魔”である中川は、歌声だけならむしろ天使のように甘く柔らかく、音楽に対する想いに満ちている。作中で彼が語る芸術に対する愛情や陶酔はどこか人間臭い。だからこそふとした瞬間に見せる悪魔らしい表情、人間の心の隙につけ込む鮮やかな手口の恐ろしさが際立っている。また、作中で多くの人間を惑わせ操るだけでなく、舞台上のオーケストラに向かって指揮をするシーンも。この作品自体がアムドゥスキアスの掌の上、悪魔に捧げられるために紡がれているのでは? と考えてしまうような演出が心憎い。物語が進むにつれてアムドゥスキアスの脅威がどんどん明らかになっていくのだが、美しい歌声に思わず魅了されてしまう。
ゲネプロでパガニーニを演じたのは水江建太。自らの限界を悟って苦悩していた青年が悪魔と契約して成功を手にし、すり減っていく命を前に改めて様々なことに向き合う様子を、一本筋を通して繊細に描いている。天才として強気に振る舞い憎まれ口を叩いていても根底に苦しみや寂しさが感じられる、愛おしさを覚えるパガニーニだ。いい意味で普通の青年らしさがあり、アムドゥスキアスがなぜここまで執着するのだろうかと考えているうちに、パガニーニの生き様から目を離せなくなっていく魅力がある。超絶技巧を駆使した演奏は激しいダンスで表現しており、歌唱に加えてダンスも存分に楽しむことができる。

息子の才能をまっすぐに信じる母・テレーザを、香寿たつきはあたたかく包み込むような愛情を持って表現。悪魔と契約してしまったパガニーニの苦悩が中心となる本作だが、テレーザが繰り返し歌う「Casa Nostalgia」もメインテーマのひとつと言っていいだろう。
早川は天真爛漫なアーシャを好演。心から音楽を楽しんで自由に踊る姿が美しく、自由を失ってしまったパガニーニとの対比が光っていた。シリアスな物語の中で、彼女の明るさと素直さが大きな癒しとなっている。
エリザを演じる青野紗穂は、周囲から「ナポレオンの妹」としてしか見られない孤独を哀愁の漂う歌唱と表情で見事に伝えた。運命の相手であると同時に男を破滅させる魔性の女、ファム・ファタルとして登場する彼女だが、パガニーニに対する愛情は乙女のように純情でまっすぐ。悲痛な胸の内を歌い上げる青野の歌唱に心を掴まれる。
パガニーニと、彼の弱さを理解して側で支える執事・アルマンドの距離感や関係性も楽しい。ゲネプロでは戸井がアルマンドを演じた。親心ともいえる深い愛情を感じさせる歌唱に胸を打たれる。
アンサンブルキャストが演じる修道士たちや街の人々など、パガニーニを悪魔と信じて糾弾する人々も印象的だ。パガニーニの師であり、いち早く異変に気付くコスタ(畠中洋)は飄々としているが現実的で食えない一面もあり、二面性が楽しい。

パガニーニと彼の弟子であるアーシャ、『幻想交響曲』などで知られる作曲家・ベルリオーズとのやりとりなど、音楽を志す者同士の対話もグッとくる。パガニーニはもちろん、シューベルトやリストに関する逸話も盛り込まれており、ロマン派の作曲家たちを身近に感じられるのも本作の魅力だろう。
そして、キャスト陣の芝居をより引き立て、物語を盛り上げているのが村中俊之による楽曲だ。原作・脚本・作詞・演出の藤沢、作曲・音楽監督の村中は、ミュージカルを制作するのは共に初めて。しかし、「ラ・カンパネラ」をはじめとするパガニーニの曲を効果的に盛り込みながら、印象深いオリジナル楽曲でキャラクターそれぞれの魅力を最大限に引き出している。ロックやラテン、ブルースのような雰囲気が漂うものまで、多彩な楽曲がキャラクターの個性や心情を見事に表現しており、処女作とは思えない完成度だ。
本作は6月30日(木)までシアタークリエにて上演される。朗読劇がオール日本人クリエイターによってどのようなミュージカルに生まれ変わったのか、ぜひ劇場で見届けてほしい。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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