INTERVIEW / Mori Zentaro 「もがい
た分の答えは出せた」――Soulflex率
いるMori Zentaro。キャリア初のソロ
EPで見出した自分の表現

ビートメイカー/プロデューサーのMori Zentaroが1st EP『Hue』を5月にリリースした。
SIRUPやZINなどを擁するアーティスト・コレクティブ、Soulflexの制作面で中心的な役割を担うほか、近年では向井太一iri、MALIYAといったR&B/ヒップホップ・アーティストへの楽曲提供、岩田剛典(EXILE/三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE OFFICIAL)やV6、山本彩などオーバーグラウンドなアーティストの楽曲プロデュースなど、多方面での活動を展開しているMori Zentaro。
満を持して発表された初のソロ作品となる今作には、ラッパーのDaichi Yamamotoをはじめ、先述のMALIYA、そして沖縄出身のSSW・nazをフィーチャーした楽曲に加え、自身が歌唱するナンバーも収録。底流にはSoulflexのようなブラック・フィーリングを湛えながらも、全体としては風通しのいいポップネスが光る一作だ。また、ビートメイカーとしての矜持も感じさせつつも、ジャンルの境界を溶かすような独創的なアプローチも見て取れる。
プロデューサー・アルバムのようでもあり、SSWの作品とも言える、そんな不思議な作品を紐解くために、今回は彼の音楽遍歴を振り返りつつ、創作の裏側を訊いた。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Official
Stevie Wonderで起きたサード・インパクト、“Changing Same”の精神
――EPの話に入る前に、Mori Zentaroさんがソロ・プロジェクトを始めるに至ったきっかけや流れなどからお聞きしたいです。
Mori:話すと長いんですけど、僕は元々バンドから音楽に入っていて。高校生のときに3ピース・ロック・バンドを組んで、僕はギター・ボーカルで作詞作曲も担当していました。ビートメイクの道に進むのはその後、20歳を過ぎてから。SIRUPとかZIN、Soulflexの面々に出会って、そこから大きく変わっていったんです。でも、作詞作曲をやっていた頃の自分、要するにアーティストとしてのMori Zentaroを打ち出したいという思いは頭の片隅にずっとあって。
――なるほど。
Mori:歌うことも含めて、自分で舵を取って作品を作りたい。コンセプトから自分のコアな部分を表現したい、というようなことをずっと考えていて。ただ、ありがたいことに他アーティストさんへの提供やプロデュース・ワークが忙しくなったり、Soulflexの制作もここ何年か忙しくて。Soulflexはある意味自分の作品に近い位置付けではあるんですけど、それも去年発表したEP『More Vibrant』でひと段落したというか、ひとつのフェーズが終わったような感覚があって。流石にそろそろ自分のソロ作品を作らなきゃなと。結構前から作っていた曲も入っているんですけど、それを今回一気に仕上げてパッケージしました。
――プロデューサー/ビートメイカーへと向かっていった時期のことについても教えてもらえますか?
Mori:SIRUP――当時はKYOtaroでしたけど――やZINに出会った頃はまだ自分も歌っていて、弾き語りでライブもしていたんです。それからしばらくは自分の作品も作りながら、彼らに曲を提供したりっていう感じだったんですけど、めちゃくちゃ歌が上手い彼らと接するうちに、自然と自分は歌わなくていいかなという流れになったんです。
――同時にビートメイク/トラックメイクへの興味も湧いてきたのでしょうか。
Mori:最初はトラックメイクしてるというよりは、デモを作っているという感覚で。DTMもバンド時代の後期から始めて。Soulflexがスタートした当初もトラックメイクというよりかは、みんなに聞かせるためのデモ制作ツールでしたね。それと並行してライブではキーボードでサポートをしたりしていたんですけど、僕は演奏があまり上手くなくて。演奏面ではどうしてもある一定のラインから上達できないという壁にぶち当たって。その反面、ビートメイクだけはずっと右肩上がりでスキルが上がっているという実感があった。こんなに悩むんやったら、1回スパッと演奏も歌も止めてビートメイクに集中してみようかなと思いました。それが2015年くらい。最初にフリーのビートテープを作って発表したら、自分でも手応えを感じたし、周りの反応もよくて。そこから2017年の『Beat Grand Prix』出場に繋がったり、ほぼ同タイミングでSIRUPの1st EPの制作に入っていきました。
――バンド時代やソロで弾き語りなどをされていたときって、どのような音楽性を志向していたんですか?
Mori:バンドでやっていたのは90’sのグランジ、オルタナっぽいサウンドですね。軸としてはロックやパンクがありつつも、僕は熱心な『rockin’on』読者だったので、そこで紹介されていたOutKastとかMissy Elliott、Jay Z、Pubilic Enemyといったヒップホップ、R&Bも聴いていましたし、RadioheadMassive Attackなどのエレクトロニックなサウンド、トリップ・ホップとかも好きでした。DJをやっている先輩の影響でハウスやビッグビート系も聴いていましたし、振り返ってみるとMarvin GayeCurtis Mayfieldといったソウルも昔から聴いていたんですよ。
――そういったアーバン・ミュージックとの出会いは? Soulflexしかり、Mori Zentaroさんのキャリアにおいてとても大きな影響源ですよね。
Mori:最初は……ジャケ買いかもしれません(笑)。家の近所にとても趣味のいい個人経営のCDショップがあって、そこでMarvin Gayeの『I Want You』を買った記憶があります。あとは雑誌のレビューとかでも名前が挙がったりしていて、興味を持ったんだと思います。これがソウルだとちゃんと認識して出会うのはもう少し後になるんですが。
――辿っていけば自然と行き着きますよね。ソロ時代はどうでしたか?
Mori:SIRUP、ZIN、ドラムのRabとかと出会うちょっと前に、音楽リスナーとしてのサード・インパクトが起きたんです。元々、親が音楽を聴く人だったので、物心ついたときに家でかかっていたThe Beatlesなどが僕の音楽の原風景なんですが、自発的に聴くようになったのはEric Claptonの「Change The World」に感動したことがきっかけで、それがファースト・インパクトでした。セカンド・インパクトが中学生のときに聴いたThe Clash。音楽は選ばれた人にしかできないと思っていたんですけど、The Clashのおかげで「自分でもできる!」って思えた。……結局、巡り巡って今でもThe Clashが一番尊敬する存在のひとつで。今でも1stアルバムの『The Clash』(1977年)や『London Calling』(1979年)、『Sandinista!』(1980年)はめちゃめちゃ好きだし……って何の話でしたっけ(笑)。
――リスナーとしてのサード・インパクトについてですね(笑)。
Mori:そうでした(笑)。10代の間はロックを聴き過ぎて、ロックの概念が僕の中でゲシュタルト崩壊したんですよ。当時のロックってすでに成熟してきていて、何でもあり過ぎる状態で、ちょっとわからなくなってきたんですよね。それでロック以外のものを積極的に聴くようになって、ラテンやアフロ、そこからレゲエに行って。レゲエには実はアメリカの〈Motown〉系のコーラス・グループからの影響もあるということを知って、〈Motown〉といえばStevie Wonder、名前は知ってるけどちゃんと聴いたことないなと思って『Music of My Mind』っていうアルバムを聴いたんです。そのとき、フワーッと風が吹き抜けていって……衝撃でした。「これが自分が求めていたものだ!」って。それがサード・インパクトです。そこからソウル・ミュージックやアフロ・アメリカンの人たちの音楽をとにかく聴きまくって、D’Angeloの『Voodoo』、Moodymannの『Black Mahogani』などに夢中になって。Soulquariansも自分のなかのアイドル的な存在になりました。
――それこそSoulflexの見本じゃないけど。
Mori:完全にロールモデルですね。ソロのときはSoulquarians周辺のサウンドを目指していました。今聴き返すとボーカルも打ち込みも聴くに堪えないレベルなんですけど、やってること自体は根本的にはあまり変わらないのかなって。当時からネオソウルっぽいコードや打ち込みは研究していました。
――ちなみに、Stevie Wonderの『Music of My Mind』を聴いたときの衝撃って言語化できたりしますか?
Mori:特に「Superwoman (Where Were You When I Needed You)」っていう曲が2部構成みたいになっていて、その曲中の変化、切り替わる瞬間がとても有機的で、自由を感じたんです。「音楽で自由になるってこういうことなんだ」って。がむしゃらにやるんじゃなくて、ある程度高度な演奏技術やノウハウがあってこその自由さというか、それが当時の自分が求めていたものと合致したんですよね。
――いわゆるロックとはまた違う自由さというか。
Mori:ソウルやR&B(リズム & ブルース)のようなブルース、ゴスペルとかと直接繋がっているような音楽って、“Changing Same”(変わりゆく同じもの)っていう言葉でも表現されていて。その歴史の積み重ねに意識的だからこそ出せる力強さみたいなものに魅力を感じたんだと思います。
――近年では楽曲提供のお仕事も多いですが、どのようなことを意識して制作に臨んでいますか?
Mori:僕は根が音楽オタクなので、リスナー視点で音楽を捉えていて。「この人のこういう曲を聴いてみたい」とか「この人がこういうサウンドで歌ったら最高だな」みたいな、オタクの妄想的なところからスタートすることが多いし、それが自分の持ち味だとも考えています。どのアーティストさんの作品でも意識していることは一緒ですね。
わかり合えない悲しさを、音楽やアートで癒すことができる
――EP『Hue』収録曲は前々から作り溜めていたとおっしゃっていましたが、具体的にはどれくらいの時期に制作していたのでしょうか。
Mori:Daichi(Yamamoto)くんとの曲「Muddy Water」やMALIYAちゃんとの「Escape」は去年作りました。nazちゃんをフィーチャーした「Barefoot」はもっと前、2019年の曲ですね。作ったはいいものの、Soulflexが忙しくなっちゃって、リリース計画も立てていたんですけど実現せず。でも、すごく気に入っていたので、今回ブラッシュアップしてEPに収録しました。
――2曲のインスト「Parallax」「Whirl」と、ご自身で歌っている「Plain」は?
Mori:インストはどちらも去年制作しました。「Plain」は実は2017年とかに作ってた曲なんです。実はSoulflexメンバーでコンピレーションを出そうというアイディアがあって、そこに自分名義で収録しようと考えていました。その話が流れてしまい、お蔵入りになってしまったんですけど、自分にとっては大事な曲だったので、今回新たに仕上げました。
――タイトル『Hue』にはどういった意味や思いが込められているのでしょうか。
Mori:家にあったデザイン用語辞典の中に書いてあった言葉で“色相”っていう意味なんですけど、今回の6曲は割と幅があると思うので、そのグラデーションみたいなものを表現できるのかなと。あと、自分の音楽は原色というよりは、グラデーションっぽいなと思って付けました。
――せっかくなので、1曲ずつお伺いしていきたいと思います。オープナー・トラックの「Parallax」はインスト曲ですが、どのようにして生まれてきた曲なのでしょうか。
Mori:この曲はプロデュース・ワークのときのように、音楽オタクな自分がMori Zentaroを客観視して、デビュー作の1曲目はこんな感じだったらいいなというイメージで制作していきました。
――イントロであることを強く意識したと。
Mori:そうです。ただ、最初は結構力んだ感じ、「これからいくぜ!」というような曲調になってしまって。その気張ってる感じがあまりよくないと思い、何回かリテイクを重ねて今の形に落ち着きました。
――穏やかなムードと、スペーシーなシンセの音色が印象的です。
Mori:実は音楽以外だとSF小説やSF映画から影響を受けることが多くて、そういうテイストを自分の音楽にも反映させたいなって思っていたんです。あと、自分の持ち味のひとつだと考えている、ちょっと荒めのドラム・サウンドだったりをミックスさせていきました。
――なるほど。
Mori:「Parallax」っていうタイトルも実は『スタートレック:ヴォイジャー』のエピソード・タイトルから取っていて。そういう自分の内面にある世界観を見せたいっていう気持ちがこの曲には表れていると思います。
――SFに惹かれる理由をご自身ではどのように分析しますか?
Mori:現実世界からの逃避ではなく、現実を理解、認識するひとつの手段だと思っています。SFって人外のキャラクターが出てくるじゃないですか、そういう空想の存在を生み出すことで、逆に人間を客観視できるんじゃないかなって思います。SFのそういった面に惹かれますし、単純に特撮とか映像技術が好きっていうシンプルな理由もあります(笑)。
――では2曲目の「Plain」。これは資料にもあるように、“人や世界を理解することの難しさ、そこから生まれるヒューマニティ”がテーマの1曲ですよね。まずはこういったテーマ、主題が生まれた経緯について教えて下さい。
Mori:デモを作った2017年頃、自然科学系の本を読むのにハマっていて。ちょっとうろ覚えなんですけど、量子って人が観測したら性質などが変化してしまうという話を知ったときに、すごい示唆的だと思って。僕ら人間も、人をありのままに見ることなんてできないじゃないですか。どれだけその人の素を見ようとしても、絶対に先入観が入るし、“こうあってほしい”といった願望なども入ってしまう。世の中の出来事とかも人によって意見が全く異なるし、それぞれ見ているものが違うんじゃないのかって。
――それこそ、コロナ禍以降はそういったことを感じる機会がさらに増えた気がします。
Mori:本当にその通りで。誰しもがわかり合えないという感覚が強まったと思います。ただ、それってすごく悲しいことだと思う反面、音楽とかアートはそういう差異があってこそ生まれるものだとも思うんです。その人がある物事を見て感じたことからアートは生まれるわけで、僕たちはわかり合えない悲しさを持っているけど、同時に音楽やアートなどでそれを癒も知っているよねっていう曲にしたかった。
――構想は2017年ですが、今の時代により響く作品ですね。
Mori:音楽や映画、文学といったアートって、悲しみや苦しみの緩衝材になってくれる気がしていて。悲しい曲を知っていたら、自分が経験した悲しさも分散できるというか、「こういうこともあるよな」って思わせてくれる。逆に幸せなことがあったときは、幸せな曲を聴いて倍増させることもできるし、アートにはすごい力があると思っていて。
僕は20代の頃、人生全般があんまりうまくいかないなっていう感覚があったんですけど、気持ちは全然へこたれなかったんです。振り返ると、それは音楽――素晴らしいメロディや和音、もしくは素敵な文章などを知っていたからだと思っていて。ちょっとキザな言い方になってしまうかもしれませんが、辛くても、光を見出す術を何となく身に付けていたというか。音楽やアートのそういった力は伝えたいと思っています。
「Plain」はシンプルな曲ですし、歌詞も簡潔だから、今話したようなことをすぐに汲み取ってもらえるとは思わないんですけど、それをメロディなりサウンドなりに落とし込みたかった。
――自身の歌を乗せることに際して、意識したことなどはありますか?
Mori:昔はD’AngeloやErykah Baduみたいに歌えたら、と思っていたのですが、自分にはそういったスタイルは無理だし、目指す必要もないんだと気付いて。自分の声質で表現できることを追求しました。これはKYOtaroやZINたちとの出会いも大きくて、間接的ではあるけど彼らから影響を受けた部分もあります。
MALIYA、Daichi Yamamoto、nazとの共同制作
――3曲目の「Escape feat. MALIYA」はタメの効いたビートなど、Mori Zentaroさんらしさ溢れる1曲だなと感じました。最初から女性ボーカルありきで考えていたのでしょうか。
Mori:女性ボーカルありきではありましたけど、女性ボーカルとなると僕の中ではMALIYAちゃんしかいないなと。当時、MALIYAちゃんのアルバムの曲を作っていて、その流れもありました。
――歌詞のテーマはどのように?
Mori:僕からはありふれた愛の歌にしてほしいとオーダーさせてもらいました。
――確かに、ちょっとベタな、正統派R&Bという趣ですよね。
Mori:「Plain」が哲学的だったり、「Muddy Water feat. Daichi Yamamoto」は享楽的な曲だったり、「Barefoot feat. naz」はかなり内省的な曲なので、ちょっと息抜きみたいな役割も欲しいなと思いました。チルな曲というか、力みすぎない曲を作ろうと。
――Moriさんから見た、MALIYAさんの魅力というのは?
Mori:実はSIRUPがKYOtaroだった頃から2人が共演していたこともあって、彼女のことは昔から知っていて。僕が初めて共作したのは「7 Signs」(2019年)なんですけど、そのときも何も言わずとも伝わるヴァイブスがあって。Soulflexのメンバーとも近い感覚だったんですよね。
――アウトロでのビート・スイッチもおもしろいです。
Mori:あれは、僕がCD世代の人間ですよっていう暗号みたいなもので(笑)。90〜2000年代のアルバムってやたらインタールード入っていたじゃないですか。D’Angeloの『Voodoo』にもセッションの断片みたいなのが入っていたり、そういうアルバムを聴いてきた世代ですよという隠しサインでもあり、CD時代へのラブレターみたいな感じです。僕は作品を作るときはどうしても全体の流れを意識してしまうので。
――インタールード的な展開から、「Muddy Water feat. Daichi Yamamoto」へと流れます。この曲名は、ブルースマンのMuddy Watersとは関係があるのでしょうか。
Mori:なんていうか「Muddy Water」っていう言葉のイメージを取り入れたいって思ったんです。こんなん言ったらMuddy Watersにしばかれるかもしれないですけど(笑)、Muddy Waters自身っていうよりかは「Muddy Water」っていう言葉から連想される雰囲気を取り込みたかった。
――「Muddy Water」という字面からはどのようなイメージが湧きますか?
Mori:荒削りで、踊りたくなるような、体が刺激されるような曲っていう感じですかね。それをDaichiくんにもお伝えして。かつ、歌詞はあまり意味を持たせなくて大丈夫ですと。
――なるほど。この曲のリリックは言葉遊び感もありつつ、ついつい深読みもしてしまいそうで。すごくDaichi Yamamotoさんっぽいなと思いました。
Mori:わかります。あと、めちゃくちゃおもしかったのは、Daichiくんにデモを送って、1回目に返ってきた音源から《Kaikan》というフレーズが入っていたんです。
――一番癖の強いフレーズですよね。
Mori:「ウォー!」ってめちゃくちゃテンション上がりましたね(笑)。最初はタイトルも「Kaikan」にしようかと思ったくらい。そこから1、2回お会いして、データでやり取りしつつ完成させました。リリックについては修正などは全くありませんでしたね。
――そもそも、Daichi Yamamotoさんにオファーしたきっかけ、狙いというのは?
Mori:直接の面識はなかったんですけどずっと作品は聴いていて。ラップの曲は入れたいと思っていたので、そしたらもうDaichiくんしかいないなと。MALIYAちゃんと一緒で、映画でいう当て書きのような、その人を想定して書く感じでトラックは作りました。自分の中ではSoulflexの「ADDICTION」とSIRUPの「POOL」の続編みたいなイメージも実はあって。続編というか、同じカテゴリーという感覚ですね。Mori Zentaroのダンス・ミュージック・シリーズみたいな感じです。
――nazさんをフィーチャーした「Barefoot」は2019年に制作したとのことでした。
Mori:そもそもの始まりは「ソロの作品を作りましょう」っていうのをマネージャーからずっと言われていて、そのときに「こんな感じでどうですか?」っていうリファレンスをいくつかもらって。そこから構想を練っていきました。そのときマネージャーと話したり、自分が刺激を受けていたのがH.E.R.やSabrina Claudio、Alaynaなどのアンビエント〜オルタナR&B。そのイメージと、同じく当時聴いていたnazちゃんと冨田ラボさんの「OCEAN」という曲がリンクして。
Mori:歌詞はZINにお願いしたんですけど、まずメロディに乗る/乗らないは一旦置いといて、こういう詞の曲を作りたいっていうテキストを書いて、ZINに送って。それを元にZINに歌詞を書き上げてもらったっていう感じです。
――そのテキストで伝えた部分、コンセプト的なものをお聞きしてもいいですか?
Mori:「Bearfoot」っていうのは“裸足”っていう意味なんですけど、裸足で歩くと痛いけど、痛みや傷を知ったら相対的に喜びもより感知できるようになると思うんです。「勇気を出して歩こうよ」とは言わないけど、裸足で歩くのも悪くないというか、そういうことだよねっていう曲です。
――それは、Moriさんが自身の人生で得た知見ですか?
Mori:そうですね。僕にもこてんぱんに打ちのめされた経験があるんですけど。それがあったからこそ、嬉しいことをもっと強く感じれるようになれたと思っていて。傷つくのって悪いことだけではないんじゃないか、ということを伝えたいです。
――nazさんは沖縄拠点ですよね。遠隔でやりとりを?
Mori:準備段階は遠隔で、レコーディング時は直接お会いしました。ZINも一緒に立ち会ってくれて。やっぱり歌声が唯一無二だなと思いましたね。ちょっと語弊があるかも知れないんですけど、テクニックだけではない方だなと思いました。歌が上手いというのは前提であって、それ以外の部分でも届いてくるものがある、感情に訴えてくる。そういったテイストが「Barefoot」のコンセプトにもすごく合っていました。
――サウンド面ではストリングのような音色の使い方が印象的でした。
Mori:あれは打ち込みの音に、生の弦を足しています。それこそオルタナR&Bやトリップホップも意識しつつ、敢えてサンプリングっぽく聴かせたくて、DJ Shadowみたいな感じなども目指しました。nazちゃんもMassive Attackなどを好きで聴いていたらしく、自然と繋がった感覚がありましたね。
根底に存在し続けた“ロック好きの自分”
――最後の「Whirl」ですが、「Parallax」と同様に、この曲もとてもアウトロっぽいナンバーですよね。ただ、おもしろいなと思ったのが、グランジのようなギター・フレーズが聴こえるところ。
Mori:そこに気づいてもらえて嬉しいです。グランジで多用される半音下げのチューニングで弾いているんですけど、これは完全に僕の大事なルーツである90’sのオルタナ、グランジ、インディ・ロックの要素を入れたくて。あと、大団円っていう感じの終わり方じゃなくて、「to be continued……」っていう感じの終わり方にしたかったっていうのもあります。実は今後、もっとロックに寄ったサウンドをやりたいなと考えていて、その宣戦布告というか。こんなこと言って、やらんかったら笑ってください(笑)。
――まさしくアウトロであり、次のMori Zentaroの予告編みたいな1曲ですね。
Mori:音楽家になる前は映画監督になりたいって思ってたくらい映画大好き少年だったので、この終わらせ方はそういったところからの影響かもしれませんね。
――「Whirl」は“旋回”、“渦巻き”という意味がありますが、これは昔の自分と今の自分がグルグルと回るようなイメージですか?
Mori:いえ、これは今この時代に生きていることに対しての葛藤というか、自分の中で渦巻いている感情というようなイメージですね。ポジティブなことばかりじゃなく、ネガティブも含めて表現するべきだなと思ったんです。
――ひとりのアーティストとして、1st EP『Hue』を作り上げて感じたことなどはありますか?
Mori:自分の作品はめちゃくちゃ難しいなって思いました。Soulflex結成以降は人に提供することが主な活動だったので、他者をイメージするのは好きだし得意なんです。けど、自分と向き合うと沼にハマるというか、だからこそ、こんなに時間がかかってしまった。でも、もがいた分の答えは出せたと思います。高校生のときに組んだバンドからスタートして、やっと正式なソロ作品を作ることができた。間違いなく自分の人生のターニング・ポイントになったと思います。
……とか言っておきながら、実はこのEPは早くも過去作という感覚になっていて。早くも次に進みたいなという気持ちがあります。これを言ったら自分で自分の首を絞めることになっちゃいますけど(笑)、今後はもっとコンスタントに発表していきたいなと。自分のこれまでの音楽性の変遷を統合していくような、ロック、ソウル、ビート・ミュージックなどをMori Zentaroという名の下で混ぜ合わせた作品を作っていきたいです。
――最近のムード的にはどういった作品を聞いていますか?
Mori:EPが完成してからはロックばかり聴いていて。Lucky DayeとかRemi Wolfのアルバムとか、R&B方面でもめっちゃ好きな作品もあるんですけど、それでも最近は狂ったようにロックを聴きまくっていて。PixiesIncubus、Faraquetなどを聴き返しています。このFaraquetっていうのは〈Dischord〉に在籍していたマスロック的なバンドなんですけど、高校のときに当時のドラマーが薦めてくれて。久々に聴いたらめちゃくちゃカッコいいんですよね。
Mori:あとはLed ZeppelinThe Smashing PumpkinsDinosaur Jr.Deerhunter、Pavement、Sonic Youth……最近で言うとSoccer MommyやPhoebe BridgersのようなSSWにもシンパシーを抱きます。とにかくギターを取り入れたいなというモードに入っていますね。
――ロックを、ギターを改めて欲するようになったのはなぜだと思いますか?
Mori:ソウル・ミュージックと出会ったとき、自分の核が刷新されたと思ったんですよ。あまりにも衝撃的過ぎて、自分の芯が入れ替わったと。でも、最近そうじゃなかったことに気づいて。ロック好きな自分も根底には存在し続けていて、そして共に成長していたんだって。それに気づいときにハッとして、「あ、ギター入れなきゃ!」って思いました。Soulquariansなどからバチボコに影響を受けてきた自分と、思春期の頃にThe Clashを聴いてぶっ飛んだ自分を融合させなくてはと。自分でもそれがどういう音楽になるのか、まだ全くわからないんですけど。そこに自分の表現があるはずだと。
――それを模索していくと。
Mori:はい。試行錯誤していきたいなと思います。
――今後の活動がとても楽しみです。
Mori:ハードルを上げまくってしまった(笑)。でも、今、気持ち的にはめっちゃ燃えているんです。もちろん並行して、プロデュース・ワークではR&Bやソウル、ヒップホップを突き詰めたいっていう自分もいて。SIRUPやZINへの提供、その他プロデュース・ワーク、Soulflexではそこに徹したい。ただ、Mori Zentaroとしてはパーテーションで区切って、全然違うことをしたいですね。音楽オタクなので、色々なサウンドに手を出してみたい。
――ちなみに、Soulflexは今どのような状態ですか?
Mori:最初の話にも被るんですけど、EP『More Vibrant』で一区切り付いた感覚があって、名刺的なものが提示できたと思うので、今後はマイペースに活動していくと思います。というか、元々そういう集団なので。あまり気張ったりはせず、作りたくなったら作る。そういう感じですね。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://lnk.to/MoriZentaro_Hue)
SIRUPやZINなどを擁するアーティスト・コレクティブ、Soulflexの制作面で中心的な役割を担うほか、近年では向井太一、iri、MALIYAといったR&B/ヒップホップ・アーティストへの楽曲提供、岩田剛典(EXILE/三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE OFFICIAL)やV6、山本彩などオーバーグラウンドなアーティストの楽曲プロデュースなど、多方面での活動を展開しているMori Zentaro。
満を持して発表された初のソロ作品となる今作には、ラッパーのDaichi Yamamotoをはじめ、先述のMALIYA、そして沖縄出身のSSW・nazをフィーチャーした楽曲に加え、自身が歌唱するナンバーも収録。底流にはSoulflexのようなブラック・フィーリングを湛えながらも、全体としては風通しのいいポップネスが光る一作だ。また、ビートメイカーとしての矜持も感じさせつつも、ジャンルの境界を溶かすような独創的なアプローチも見て取れる。
プロデューサー・アルバムのようでもあり、SSWの作品とも言える、そんな不思議な作品を紐解くために、今回は彼の音楽遍歴を振り返りつつ、創作の裏側を訊いた。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Official
Stevie Wonderで起きたサード・インパクト、“Changing Same”の精神
――EPの話に入る前に、Mori Zentaroさんがソロ・プロジェクトを始めるに至ったきっかけや流れなどからお聞きしたいです。
Mori:話すと長いんですけど、僕は元々バンドから音楽に入っていて。高校生のときに3ピース・ロック・バンドを組んで、僕はギター・ボーカルで作詞作曲も担当していました。ビートメイクの道に進むのはその後、20歳を過ぎてから。SIRUPとかZIN、Soulflexの面々に出会って、そこから大きく変わっていったんです。でも、作詞作曲をやっていた頃の自分、要するにアーティストとしてのMori Zentaroを打ち出したいという思いは頭の片隅にずっとあって。
――なるほど。
Mori:歌うことも含めて、自分で舵を取って作品を作りたい。コンセプトから自分のコアな部分を表現したい、というようなことをずっと考えていて。ただ、ありがたいことに他アーティストさんへの提供やプロデュース・ワークが忙しくなったり、Soulflexの制作もここ何年か忙しくて。Soulflexはある意味自分の作品に近い位置付けではあるんですけど、それも去年発表したEP『More Vibrant』でひと段落したというか、ひとつのフェーズが終わったような感覚があって。流石にそろそろ自分のソロ作品を作らなきゃなと。結構前から作っていた曲も入っているんですけど、それを今回一気に仕上げてパッケージしました。
――プロデューサー/ビートメイカーへと向かっていった時期のことについても教えてもらえますか?
Mori:SIRUP――当時はKYOtaroでしたけど――やZINに出会った頃はまだ自分も歌っていて、弾き語りでライブもしていたんです。それからしばらくは自分の作品も作りながら、彼らに曲を提供したりっていう感じだったんですけど、めちゃくちゃ歌が上手い彼らと接するうちに、自然と自分は歌わなくていいかなという流れになったんです。
――同時にビートメイク/トラックメイクへの興味も湧いてきたのでしょうか。
Mori:最初はトラックメイクしてるというよりは、デモを作っているという感覚で。DTMもバンド時代の後期から始めて。Soulflexがスタートした当初もトラックメイクというよりかは、みんなに聞かせるためのデモ制作ツールでしたね。それと並行してライブではキーボードでサポートをしたりしていたんですけど、僕は演奏があまり上手くなくて。演奏面ではどうしてもある一定のラインから上達できないという壁にぶち当たって。その反面、ビートメイクだけはずっと右肩上がりでスキルが上がっているという実感があった。こんなに悩むんやったら、1回スパッと演奏も歌も止めてビートメイクに集中してみようかなと思いました。それが2015年くらい。最初にフリーのビートテープを作って発表したら、自分でも手応えを感じたし、周りの反応もよくて。そこから2017年の『Beat Grand Prix』出場に繋がったり、ほぼ同タイミングでSIRUPの1st EPの制作に入っていきました。
――バンド時代やソロで弾き語りなどをされていたときって、どのような音楽性を志向していたんですか?
Mori:バンドでやっていたのは90’sのグランジ、オルタナっぽいサウンドですね。軸としてはロックやパンクがありつつも、僕は熱心な『rockin’on』読者だったので、そこで紹介されていたOutKastとかMissy Elliott、Jay Z、Pubilic Enemyといったヒップホップ、R&Bも聴いていましたし、RadioheadやMassive Attackなどのエレクトロニックなサウンド、トリップ・ホップとかも好きでした。DJをやっている先輩の影響でハウスやビッグビート系も聴いていましたし、振り返ってみるとMarvin GayeやCurtis Mayfieldといったソウルも昔から聴いていたんですよ。
――そういったアーバン・ミュージックとの出会いは? Soulflexしかり、Mori Zentaroさんのキャリアにおいてとても大きな影響源ですよね。
Mori:最初は……ジャケ買いかもしれません(笑)。家の近所にとても趣味のいい個人経営のCDショップがあって、そこでMarvin Gayeの『I Want You』を買った記憶があります。あとは雑誌のレビューとかでも名前が挙がったりしていて、興味を持ったんだと思います。これがソウルだとちゃんと認識して出会うのはもう少し後になるんですが。
――辿っていけば自然と行き着きますよね。ソロ時代はどうでしたか?
Mori:SIRUP、ZIN、ドラムのRabとかと出会うちょっと前に、音楽リスナーとしてのサード・インパクトが起きたんです。元々、親が音楽を聴く人だったので、物心ついたときに家でかかっていたThe Beatlesなどが僕の音楽の原風景なんですが、自発的に聴くようになったのはEric Claptonの「Change The World」に感動したことがきっかけで、それがファースト・インパクトでした。セカンド・インパクトが中学生のときに聴いたThe Clash。音楽は選ばれた人にしかできないと思っていたんですけど、The Clashのおかげで「自分でもできる!」って思えた。……結局、巡り巡って今でもThe Clashが一番尊敬する存在のひとつで。今でも1stアルバムの『The Clash』(1977年)や『London Calling』(1979年)、『Sandinista!』(1980年)はめちゃめちゃ好きだし……って何の話でしたっけ(笑)。
――リスナーとしてのサード・インパクトについてですね(笑)。
Mori:そうでした(笑)。10代の間はロックを聴き過ぎて、ロックの概念が僕の中でゲシュタルト崩壊したんですよ。当時のロックってすでに成熟してきていて、何でもあり過ぎる状態で、ちょっとわからなくなってきたんですよね。それでロック以外のものを積極的に聴くようになって、ラテンやアフロ、そこからレゲエに行って。レゲエには実はアメリカの〈Motown〉系のコーラス・グループからの影響もあるということを知って、〈Motown〉といえばStevie Wonder、名前は知ってるけどちゃんと聴いたことないなと思って『Music of My Mind』っていうアルバムを聴いたんです。そのとき、フワーッと風が吹き抜けていって……衝撃でした。「これが自分が求めていたものだ!」って。それがサード・インパクトです。そこからソウル・ミュージックやアフロ・アメリカンの人たちの音楽をとにかく聴きまくって、D’Angeloの『Voodoo』、Moodymannの『Black Mahogani』などに夢中になって。Soulquariansも自分のなかのアイドル的な存在になりました。
――それこそSoulflexの見本じゃないけど。
Mori:完全にロールモデルですね。ソロのときはSoulquarians周辺のサウンドを目指していました。今聴き返すとボーカルも打ち込みも聴くに堪えないレベルなんですけど、やってること自体は根本的にはあまり変わらないのかなって。当時からネオソウルっぽいコードや打ち込みは研究していました。
――ちなみに、Stevie Wonderの『Music of My Mind』を聴いたときの衝撃って言語化できたりしますか?
Mori:特に「Superwoman (Where Were You When I Needed You)」っていう曲が2部構成みたいになっていて、その曲中の変化、切り替わる瞬間がとても有機的で、自由を感じたんです。「音楽で自由になるってこういうことなんだ」って。がむしゃらにやるんじゃなくて、ある程度高度な演奏技術やノウハウがあってこその自由さというか、それが当時の自分が求めていたものと合致したんですよね。
――いわゆるロックとはまた違う自由さというか。
Mori:ソウルやR&B(リズム & ブルース)のようなブルース、ゴスペルとかと直接繋がっているような音楽って、“Changing Same”(変わりゆく同じもの)っていう言葉でも表現されていて。その歴史の積み重ねに意識的だからこそ出せる力強さみたいなものに魅力を感じたんだと思います。
――近年では楽曲提供のお仕事も多いですが、どのようなことを意識して制作に臨んでいますか?
Mori:僕は根が音楽オタクなので、リスナー視点で音楽を捉えていて。「この人のこういう曲を聴いてみたい」とか「この人がこういうサウンドで歌ったら最高だな」みたいな、オタクの妄想的なところからスタートすることが多いし、それが自分の持ち味だとも考えています。どのアーティストさんの作品でも意識していることは一緒ですね。
わかり合えない悲しさを、音楽やアートで癒すことができる
――EP『Hue』収録曲は前々から作り溜めていたとおっしゃっていましたが、具体的にはどれくらいの時期に制作していたのでしょうか。
Mori:Daichi(Yamamoto)くんとの曲「Muddy Water」やMALIYAちゃんとの「Escape」は去年作りました。nazちゃんをフィーチャーした「Barefoot」はもっと前、2019年の曲ですね。作ったはいいものの、Soulflexが忙しくなっちゃって、リリース計画も立てていたんですけど実現せず。でも、すごく気に入っていたので、今回ブラッシュアップしてEPに収録しました。
――2曲のインスト「Parallax」「Whirl」と、ご自身で歌っている「Plain」は?
Mori:インストはどちらも去年制作しました。「Plain」は実は2017年とかに作ってた曲なんです。実はSoulflexメンバーでコンピレーションを出そうというアイディアがあって、そこに自分名義で収録しようと考えていました。その話が流れてしまい、お蔵入りになってしまったんですけど、自分にとっては大事な曲だったので、今回新たに仕上げました。
――タイトル『Hue』にはどういった意味や思いが込められているのでしょうか。
Mori:家にあったデザイン用語辞典の中に書いてあった言葉で“色相”っていう意味なんですけど、今回の6曲は割と幅があると思うので、そのグラデーションみたいなものを表現できるのかなと。あと、自分の音楽は原色というよりは、グラデーションっぽいなと思って付けました。
――せっかくなので、1曲ずつお伺いしていきたいと思います。オープナー・トラックの「Parallax」はインスト曲ですが、どのようにして生まれてきた曲なのでしょうか。
Mori:この曲はプロデュース・ワークのときのように、音楽オタクな自分がMori Zentaroを客観視して、デビュー作の1曲目はこんな感じだったらいいなというイメージで制作していきました。
――イントロであることを強く意識したと。
Mori:そうです。ただ、最初は結構力んだ感じ、「これからいくぜ!」というような曲調になってしまって。その気張ってる感じがあまりよくないと思い、何回かリテイクを重ねて今の形に落ち着きました。
――穏やかなムードと、スペーシーなシンセの音色が印象的です。
Mori:実は音楽以外だとSF小説やSF映画から影響を受けることが多くて、そういうテイストを自分の音楽にも反映させたいなって思っていたんです。あと、自分の持ち味のひとつだと考えている、ちょっと荒めのドラム・サウンドだったりをミックスさせていきました。
――なるほど。
Mori:「Parallax」っていうタイトルも実は『スタートレック:ヴォイジャー』のエピソード・タイトルから取っていて。そういう自分の内面にある世界観を見せたいっていう気持ちがこの曲には表れていると思います。
――SFに惹かれる理由をご自身ではどのように分析しますか?
Mori:現実世界からの逃避ではなく、現実を理解、認識するひとつの手段だと思っています。SFって人外のキャラクターが出てくるじゃないですか、そういう空想の存在を生み出すことで、逆に人間を客観視できるんじゃないかなって思います。SFのそういった面に惹かれますし、単純に特撮とか映像技術が好きっていうシンプルな理由もあります(笑)。
――では2曲目の「Plain」。これは資料にもあるように、“人や世界を理解することの難しさ、そこから生まれるヒューマニティ”がテーマの1曲ですよね。まずはこういったテーマ、主題が生まれた経緯について教えて下さい。
Mori:デモを作った2017年頃、自然科学系の本を読むのにハマっていて。ちょっとうろ覚えなんですけど、量子って人が観測したら性質などが変化してしまうという話を知ったときに、すごい示唆的だと思って。僕ら人間も、人をありのままに見ることなんてできないじゃないですか。どれだけその人の素を見ようとしても、絶対に先入観が入るし、“こうあってほしい”といった願望なども入ってしまう。世の中の出来事とかも人によって意見が全く異なるし、それぞれ見ているものが違うんじゃないのかって。
――それこそ、コロナ禍以降はそういったことを感じる機会がさらに増えた気がします。
Mori:本当にその通りで。誰しもがわかり合えないという感覚が強まったと思います。ただ、それってすごく悲しいことだと思う反面、音楽とかアートはそういう差異があってこそ生まれるものだとも思うんです。その人がある物事を見て感じたことからアートは生まれるわけで、僕たちはわかり合えない悲しさを持っているけど、同時に音楽やアートなどでそれを癒も知っているよねっていう曲にしたかった。
――構想は2017年ですが、今の時代により響く作品ですね。
Mori:音楽や映画、文学といったアートって、悲しみや苦しみの緩衝材になってくれる気がしていて。悲しい曲を知っていたら、自分が経験した悲しさも分散できるというか、「こういうこともあるよな」って思わせてくれる。逆に幸せなことがあったときは、幸せな曲を聴いて倍増させることもできるし、アートにはすごい力があると思っていて。
僕は20代の頃、人生全般があんまりうまくいかないなっていう感覚があったんですけど、気持ちは全然へこたれなかったんです。振り返ると、それは音楽――素晴らしいメロディや和音、もしくは素敵な文章などを知っていたからだと思っていて。ちょっとキザな言い方になってしまうかもしれませんが、辛くても、光を見出す術を何となく身に付けていたというか。音楽やアートのそういった力は伝えたいと思っています。
「Plain」はシンプルな曲ですし、歌詞も簡潔だから、今話したようなことをすぐに汲み取ってもらえるとは思わないんですけど、それをメロディなりサウンドなりに落とし込みたかった。
――自身の歌を乗せることに際して、意識したことなどはありますか?
Mori:昔はD’AngeloやErykah Baduみたいに歌えたら、と思っていたのですが、自分にはそういったスタイルは無理だし、目指す必要もないんだと気付いて。自分の声質で表現できることを追求しました。これはKYOtaroやZINたちとの出会いも大きくて、間接的ではあるけど彼らから影響を受けた部分もあります。
MALIYA、Daichi Yamamoto、nazとの共同制作
――3曲目の「Escape feat. MALIYA」はタメの効いたビートなど、Mori Zentaroさんらしさ溢れる1曲だなと感じました。最初から女性ボーカルありきで考えていたのでしょうか。
Mori:女性ボーカルありきではありましたけど、女性ボーカルとなると僕の中ではMALIYAちゃんしかいないなと。当時、MALIYAちゃんのアルバムの曲を作っていて、その流れもありました。
――歌詞のテーマはどのように?
Mori:僕からはありふれた愛の歌にしてほしいとオーダーさせてもらいました。
――確かに、ちょっとベタな、正統派R&Bという趣ですよね。
Mori:「Plain」が哲学的だったり、「Muddy Water feat. Daichi Yamamoto」は享楽的な曲だったり、「Barefoot feat. naz」はかなり内省的な曲なので、ちょっと息抜きみたいな役割も欲しいなと思いました。チルな曲というか、力みすぎない曲を作ろうと。
――Moriさんから見た、MALIYAさんの魅力というのは?
Mori:実はSIRUPがKYOtaroだった頃から2人が共演していたこともあって、彼女のことは昔から知っていて。僕が初めて共作したのは「7 Signs」(2019年)なんですけど、そのときも何も言わずとも伝わるヴァイブスがあって。Soulflexのメンバーとも近い感覚だったんですよね。
――アウトロでのビート・スイッチもおもしろいです。
Mori:あれは、僕がCD世代の人間ですよっていう暗号みたいなもので(笑)。90〜2000年代のアルバムってやたらインタールード入っていたじゃないですか。D’Angeloの『Voodoo』にもセッションの断片みたいなのが入っていたり、そういうアルバムを聴いてきた世代ですよという隠しサインでもあり、CD時代へのラブレターみたいな感じです。僕は作品を作るときはどうしても全体の流れを意識してしまうので。
――インタールード的な展開から、「Muddy Water feat. Daichi Yamamoto」へと流れます。この曲名は、ブルースマンのMuddy Watersとは関係があるのでしょうか。
Mori:なんていうか「Muddy Water」っていう言葉のイメージを取り入れたいって思ったんです。こんなん言ったらMuddy Watersにしばかれるかもしれないですけど(笑)、Muddy Waters自身っていうよりかは「Muddy Water」っていう言葉から連想される雰囲気を取り込みたかった。
――「Muddy Water」という字面からはどのようなイメージが湧きますか?
Mori:荒削りで、踊りたくなるような、体が刺激されるような曲っていう感じですかね。それをDaichiくんにもお伝えして。かつ、歌詞はあまり意味を持たせなくて大丈夫ですと。
――なるほど。この曲のリリックは言葉遊び感もありつつ、ついつい深読みもしてしまいそうで。すごくDaichi Yamamotoさんっぽいなと思いました。
Mori:わかります。あと、めちゃくちゃおもしかったのは、Daichiくんにデモを送って、1回目に返ってきた音源から《Kaikan》というフレーズが入っていたんです。
――一番癖の強いフレーズですよね。
Mori:「ウォー!」ってめちゃくちゃテンション上がりましたね(笑)。最初はタイトルも「Kaikan」にしようかと思ったくらい。そこから1、2回お会いして、データでやり取りしつつ完成させました。リリックについては修正などは全くありませんでしたね。
――そもそも、Daichi Yamamotoさんにオファーしたきっかけ、狙いというのは?
Mori:直接の面識はなかったんですけどずっと作品は聴いていて。ラップの曲は入れたいと思っていたので、そしたらもうDaichiくんしかいないなと。MALIYAちゃんと一緒で、映画でいう当て書きのような、その人を想定して書く感じでトラックは作りました。自分の中ではSoulflexの「ADDICTION」とSIRUPの「POOL」の続編みたいなイメージも実はあって。続編というか、同じカテゴリーという感覚ですね。Mori Zentaroのダンス・ミュージック・シリーズみたいな感じです。
――nazさんをフィーチャーした「Barefoot」は2019年に制作したとのことでした。
Mori:そもそもの始まりは「ソロの作品を作りましょう」っていうのをマネージャーからずっと言われていて、そのときに「こんな感じでどうですか?」っていうリファレンスをいくつかもらって。そこから構想を練っていきました。そのときマネージャーと話したり、自分が刺激を受けていたのがH.E.R.やSabrina Claudio、Alaynaなどのアンビエント〜オルタナR&B。そのイメージと、同じく当時聴いていたnazちゃんと冨田ラボさんの「OCEAN」という曲がリンクして。
Mori:歌詞はZINにお願いしたんですけど、まずメロディに乗る/乗らないは一旦置いといて、こういう詞の曲を作りたいっていうテキストを書いて、ZINに送って。それを元にZINに歌詞を書き上げてもらったっていう感じです。
――そのテキストで伝えた部分、コンセプト的なものをお聞きしてもいいですか?
Mori:「Bearfoot」っていうのは“裸足”っていう意味なんですけど、裸足で歩くと痛いけど、痛みや傷を知ったら相対的に喜びもより感知できるようになると思うんです。「勇気を出して歩こうよ」とは言わないけど、裸足で歩くのも悪くないというか、そういうことだよねっていう曲です。
――それは、Moriさんが自身の人生で得た知見ですか?
Mori:そうですね。僕にもこてんぱんに打ちのめされた経験があるんですけど。それがあったからこそ、嬉しいことをもっと強く感じれるようになれたと思っていて。傷つくのって悪いことだけではないんじゃないか、ということを伝えたいです。
――nazさんは沖縄拠点ですよね。遠隔でやりとりを?
Mori:準備段階は遠隔で、レコーディング時は直接お会いしました。ZINも一緒に立ち会ってくれて。やっぱり歌声が唯一無二だなと思いましたね。ちょっと語弊があるかも知れないんですけど、テクニックだけではない方だなと思いました。歌が上手いというのは前提であって、それ以外の部分でも届いてくるものがある、感情に訴えてくる。そういったテイストが「Barefoot」のコンセプトにもすごく合っていました。
――サウンド面ではストリングのような音色の使い方が印象的でした。
Mori:あれは打ち込みの音に、生の弦を足しています。それこそオルタナR&Bやトリップホップも意識しつつ、敢えてサンプリングっぽく聴かせたくて、DJ Shadowみたいな感じなども目指しました。nazちゃんもMassive Attackなどを好きで聴いていたらしく、自然と繋がった感覚がありましたね。
根底に存在し続けた“ロック好きの自分”
――最後の「Whirl」ですが、「Parallax」と同様に、この曲もとてもアウトロっぽいナンバーですよね。ただ、おもしろいなと思ったのが、グランジのようなギター・フレーズが聴こえるところ。
Mori:そこに気づいてもらえて嬉しいです。グランジで多用される半音下げのチューニングで弾いているんですけど、これは完全に僕の大事なルーツである90’sのオルタナ、グランジ、インディ・ロックの要素を入れたくて。あと、大団円っていう感じの終わり方じゃなくて、「to be continued……」っていう感じの終わり方にしたかったっていうのもあります。実は今後、もっとロックに寄ったサウンドをやりたいなと考えていて、その宣戦布告というか。こんなこと言って、やらんかったら笑ってください(笑)。
――まさしくアウトロであり、次のMori Zentaroの予告編みたいな1曲ですね。
Mori:音楽家になる前は映画監督になりたいって思ってたくらい映画大好き少年だったので、この終わらせ方はそういったところからの影響かもしれませんね。
――「Whirl」は“旋回”、“渦巻き”という意味がありますが、これは昔の自分と今の自分がグルグルと回るようなイメージですか?
Mori:いえ、これは今この時代に生きていることに対しての葛藤というか、自分の中で渦巻いている感情というようなイメージですね。ポジティブなことばかりじゃなく、ネガティブも含めて表現するべきだなと思ったんです。
――ひとりのアーティストとして、1st EP『Hue』を作り上げて感じたことなどはありますか?
Mori:自分の作品はめちゃくちゃ難しいなって思いました。Soulflex結成以降は人に提供することが主な活動だったので、他者をイメージするのは好きだし得意なんです。けど、自分と向き合うと沼にハマるというか、だからこそ、こんなに時間がかかってしまった。でも、もがいた分の答えは出せたと思います。高校生のときに組んだバンドからスタートして、やっと正式なソロ作品を作ることができた。間違いなく自分の人生のターニング・ポイントになったと思います。
……とか言っておきながら、実はこのEPは早くも過去作という感覚になっていて。早くも次に進みたいなという気持ちがあります。これを言ったら自分で自分の首を絞めることになっちゃいますけど(笑)、今後はもっとコンスタントに発表していきたいなと。自分のこれまでの音楽性の変遷を統合していくような、ロック、ソウル、ビート・ミュージックなどをMori Zentaroという名の下で混ぜ合わせた作品を作っていきたいです。
――最近のムード的にはどういった作品を聞いていますか?
Mori:EPが完成してからはロックばかり聴いていて。Lucky DayeとかRemi Wolfのアルバムとか、R&B方面でもめっちゃ好きな作品もあるんですけど、それでも最近は狂ったようにロックを聴きまくっていて。Pixies、Incubus、Faraquetなどを聴き返しています。このFaraquetっていうのは〈Dischord〉に在籍していたマスロック的なバンドなんですけど、高校のときに当時のドラマーが薦めてくれて。久々に聴いたらめちゃくちゃカッコいいんですよね。
Mori:あとはLed ZeppelinやThe Smashing Pumpkins、Dinosaur Jr.、Deerhunter、Pavement、Sonic Youth……最近で言うとSoccer MommyやPhoebe BridgersのようなSSWにもシンパシーを抱きます。とにかくギターを取り入れたいなというモードに入っていますね。
――ロックを、ギターを改めて欲するようになったのはなぜだと思いますか?
Mori:ソウル・ミュージックと出会ったとき、自分の核が刷新されたと思ったんですよ。あまりにも衝撃的過ぎて、自分の芯が入れ替わったと。でも、最近そうじゃなかったことに気づいて。ロック好きな自分も根底には存在し続けていて、そして共に成長していたんだって。それに気づいときにハッとして、「あ、ギター入れなきゃ!」って思いました。Soulquariansなどからバチボコに影響を受けてきた自分と、思春期の頃にThe Clashを聴いてぶっ飛んだ自分を融合させなくてはと。自分でもそれがどういう音楽になるのか、まだ全くわからないんですけど。そこに自分の表現があるはずだと。
――それを模索していくと。
Mori:はい。試行錯誤していきたいなと思います。
――今後の活動がとても楽しみです。
Mori:ハードルを上げまくってしまった(笑)。でも、今、気持ち的にはめっちゃ燃えているんです。もちろん並行して、プロデュース・ワークではR&Bやソウル、ヒップホップを突き詰めたいっていう自分もいて。SIRUPやZINへの提供、その他プロデュース・ワーク、Soulflexではそこに徹したい。ただ、Mori Zentaroとしてはパーテーションで区切って、全然違うことをしたいですね。音楽オタクなので、色々なサウンドに手を出してみたい。
――ちなみに、Soulflexは今どのような状態ですか?
Mori:最初の話にも被るんですけど、EP『More Vibrant』で一区切り付いた感覚があって、名刺的なものが提示できたと思うので、今後はマイペースに活動していくと思います。というか、元々そういう集団なので。あまり気張ったりはせず、作りたくなったら作る。そういう感じですね。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://lnk.to/MoriZentaro_Hue)

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