松たか子×広瀬すず、NODA MAP第25回
公演『Q』:A Night At The Kabuki
を語る

NODA MAP第25回公演として、2019年に初演された『Q』:A Night At The Kabuki が再び上演される。初演のメンバーが全員そろう嬉しい再演だ。
野田秀樹が『ロミオとジュリエット』をベースに、時代を源平合戦の鎌倉時代に置き換えた『Q』は、家同士の争いを超え恋に落ちた平の瑯壬生(ろうみお)と源の愁里愛(じゅりえ)が悲劇の最期を……迎えない。もしも生き残っていたら? と“その後の物語”を描く。その後の瑯壬生(上川隆也)と愁里愛(松たか子)と若き日の瑯壬生の面影(志尊淳)と愁里愛の面影(広瀬すず)が時空を超えて交錯し、源氏と平氏を演じる俳優たちが所狭しと時空を混ぜるように動き回る。さらにそこにQUEENの名盤『A Night At The Opera』の楽曲が絡み合って……。とても濃密でゴージャスな作品だ。
“それからの愁里愛”を演じる松たか子と、若き日の“愁里愛の面影”を演じる広瀬すずが、『Q』の魅力と再演への意気込みを語り合う。

――初演のとき、松さんと広瀬さんは同じ愁里愛役を演じるうえでお互い意識したことはありますか。
松たか子(以下 松)、広瀬すず(以下 広瀬) (顔を見合わせて笑う)
松 いや……(笑)。
広瀬 ふふ(笑)。
松 すずちゃんがこんなふうになっちゃって……と一部のお客様は思っていたでしょうけど、そういう反応はいっさい無視して(笑)、そういう戯曲なんです! と堂々とやっていました。
――映画やドラマで同じ役の違う世代を演じるとき、どちらかの演技を見て寄せることもあると聞きますが、そういうことはなかったですか。
松 似せることはできないですが、すずちゃんとは稽古から本番まで一緒に過ごしている時間が長く、稽古場の席も隣だったので、そうしていたら徐々に似てくるのではないかなあという期待がありました。どうやっても私はすずちゃんのようにはできないし、すずちゃんは私のようになる必要はないし。でもお互いに相手をすごくよく観ていて、それが刷り込まれていけー!と念じるような気持ちでした。
広瀬 私はもともと誰かの真似ができるような器用さはなく、とくに松さんのあの圧倒的な表現を真似ることは無理だと最初から諦めていました。ただ、初めての舞台で右も左もわからなかったので、ワークショップの頃から松さんのやっていることを見倣ってやっていれば、私の粗が野田さんの目に留まらずに済むかなと思って(笑)、松さんにぴたりとくっついていました。野田さんも「松さんについていけばいい」とおっしゃっていたので。本番の2幕では“それからの愁里愛”(松)と“愁里愛の面影”(広瀬)が、もうずっと一緒にいるような感じだったので、まるで手が4本あるみたいにシンクロさせて動いていた記憶があります。
松 すずちゃんの演じる愁里愛は、人生最高潮の愁里愛で、美しくて強い愁里愛そのもの。稽古中から素敵だなと思って観ていました。だから私はそれこそ、その“成れの果て”をしっかり演じたいと思っていました。野田さんの描いた生き残ってしまった愁里愛にしっかりたどりつくことが大事で、そこに誇りを持つことで、愁里愛の一番いいときを生きてもらえると信じていました。
――ふたりの愁里愛と瑯壬生の物語『Q』の魅力を教えてください。
松 すごくカラフルで、目にも刺激のあるお芝居です。ときには色のない時間もありますが、総じて華やかです。楽しめるポイントは盛りだくさんです。でもそのうち、ふと、とても厳しい現実や風景に出会います。それまで見えていたものとまったく違うところに連れていってもらえる。それが野田さんの演劇の魅力だと思います。
それと、QUEENの楽曲ですね。どの曲も素晴らしいのですが、『Q』ですごいのはその楽曲の一部をカットして使っているところです。例えば、鹿の鳴き声がギターの部分だったり。よっぽど好きな人にしかわからないように使うことも許可するQUEENチームがとても協力的でしたし、曲を使い切る野田さんとサウンドデザインの原摩利彦さんがすごいです。
広瀬 異色なものがいろいろ織り混ざっている世界は野田さんにしか生み出せないものだろうなと感じます。私は『Q』が初舞台だったので、舞台がどういうものかわかっていないのですが、NODA・MAPに参加して感動したことは、俳優の演技で一気にその場の空気が変わることでした。様々な表現で人間ではないものになったり、別の人物になったり、ほんとうにすごいなと思いました。新幹線に乗っているように一気に駆け抜ける感じも含め、客席から『Q』を観てみたいです。
――映像化されたものは観ていないですか?
広瀬 WOWOWで放送したときの映像を観ましたが、私の発声や動きが驚くほどうるさく感じて(笑)。恥ずかしくなってさらっと流し観した程度です(笑)。
松 すずちゃんは日に日にどんどん爆発していく感じがありましたよ。楽日までやりきったー!という顔をしていたのが印象的でした。
広瀬 頭で考えずにカラダを動かすと体温と共にテンションも上がって、ある瞬間、ふと頭とカラダが一致するときがあり、それがすごくおもしろいと思えました。この感覚をほかの映像の現場でも味わいたいと思ったのですが、現場の環境が違うのでなかなか出会えなくて……。今回、『Q』の再演でまたあの瞬間を得られることが楽しみです。
松 初日に、野田さんが台詞をただただ早口で言う「イタリアン」という名前の稽古方法をしたんです。本番直前にそんなことをしたら疲れちゃうのではと私は心配でしたが、逆に意外とテンポがよくなったんですよね。
広瀬 いま、思い出しました。そんなこともありましたね(笑)。
松 舞台は体力が必要だから、ベストの健康状態で臨みたいですね。私が野田さんの舞台に出るとき大事にしていることは、テンションをキープすること。トップまで上げたらそのままでいくとか下げたら下げたでそのままキープとか。それってかなりの体力が要るんですよ。
――野田さんの舞台は、野田さんが本番で偶発的なことをやりはじめたりすることがあると聞きます。ほかの俳優の皆さんはそういうことはしないのでしょうか。
松 野田さんはご自分で戯曲を描いていらっしゃるから自由に変化させられるんでしょうね。とはいえ俳優たちもそれほどガチガチに決め決めではないです。源義仲役の橋本さとしさんも、ものすごく自由でしたよ。野田さんと絡む場面では特別な空気が醸されてお客さんも何を観にきたのだろうと少し困惑していたのではないでしょうか(笑)。
広瀬 (笑)。さとしさんは真面目にふざけていらっしゃいますよね。
松 さとしさんは無邪気な人です。狙っているのか天然なのかわからない。ただ、笑いの間(ま)には敏感で、こっちのほうがおもしろいよと教えてくれることが適切で、とても助けられました。
――おふたりは自由にやることもありますか。
松 私は自由にやるのは得意ではなくて、アドリブとかほんとうにできないので、とにかく戯曲に描いてあることをしっかりやるだけです。
広瀬 私もどちらかというとアドリブは得意ではないです。それ以前の問題で、つい笑ってしまうことがあるんです。内容に関係なく。
松 おもしろくなくても?
広瀬 なんか笑っちゃうんですよ。一瞬、素に戻って照れくさくなってしまうんですかね……。
――ご自身の得意技みたいなものありますか。
松 そうですねえ……舞台空間のなかでの居場所探しみたいなことは、得意かどうかわからないけれど、好きです。センターはそこにいれば、ある種なんとかなるものですが、センター以外の場所にどういるかは難しく、それを探すことが好きです。目立ち過ぎず、目立たなさ過ぎず、ほどよいところにいたいんです。愁里愛は中心にいない時間があるので、そのときの位置は重要と思っています。すずちゃんは2幕でそういう時間が多いですよね。
広瀬 そうなんです。黙って観ている場面が増えます。でもそのほうが気持ちは楽でした。
松 ほんと?
広瀬 セリフを喋っていると、聞かれているという自意識が働いてしまうので、黙って立っているほうが楽で、その時間がすごく面白かったです。
――野田さんとの共演はいかがでしたか。
広瀬 野田さんが演じる乳母と愁里愛の絡みではすごく引力を感じました。花火が打ち上がるようなドキドキ感もありながら、この人について行ったら大丈夫というような安心感もあって。異次元の方という印象で、脳内はきっとすごいことになっているのだろうと思います。
松 私は野田さんの舞台に出演するのが今回の『Q』で6回目ですが、舞台上で関わる機会があまりないんですよ。『Q』もあまりなかった気がします。ただ、最初に参加したときに、誰よりも動き、みんなを引っ張ってテンションをあげて、失敗をおそれず率先して行う姿に、自分で限界を決めちゃだめなんだと思ったんです。野田さんが舞台に立っている姿を観ると、若いときの野田さんを知らないですが、たぶん、その頃の精神といまも変わってないような気がします。年をとるとだんだんみんな諦めていく気がしますが野田さんは諦めない。誰に何を言われようと、自分の信じたものを貫くまっすぐさが昔から変わらないのではないかと思います。そんなふうだからか、誰よりも真っ先に声が枯れますけれど(笑)。
広瀬 勢いがあり過ぎて(笑)。
松 でもね、でも! そこから自力で回復する体力はすばらしいんですよ。だからこそ私たちも負けていられない。そういう気持ちを呼び起こしてくれるかたです。
――今回、海外公演もあるそうですね。
広瀬 海外公演というものが想像できなくて、「海外公演があります。行きますか」と言われたら「はい」というしかなく(笑)。笑いのタイミングや言葉の意味や文化などが海外ではどういうふうに届いて日本とはどう違うか予想がつきませんが、日本の演劇を海外でやるべき何かがあるのだろうなと。それがうれしい経験になったらいいなと思っています。
松 私も海外公演は過去に1回しか経験がなくて。1998年、『ハムレット』(蜷川幸雄演出、真田広之主演)でロンドンに行ったことはとても楽しかった記憶があります。字幕なしでやったんですよ。蜷川さんが「『ハムレット』だから(本場のイギリス人には)わかるだろ」って(笑)。それも『Q』と同じく再演で海外公演に行ったんですよね。21歳だったかな。いまのすずちゃんよりちょっと若いときでした。
――再演ながら刺激がたくさんありそうですね。最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。
広瀬 この3年間で舞台を観る皆さんも環境が変わり、演者を含め、私自身にも変化があり、あの頃とまったく同じ自分ではない気がします。そのなかで生まれ変わっていく公演を私自身も楽しみにしています。
松 今回、初めてご覧になられる方も、前回、ご覧になられた方も楽しめるものになるように頑張ります。とっかかりは、QUEENでもいいし、野田さんでも、すずちゃんでも、何でもいいので、少しでも琴線に引っかかるものがあったらぜひ劇場に足をお運びください。演劇は演者と観客が時間を共有するものです。舞台で俳優たちが汗をかきかきいろいろなことをやっている姿から何かを感じていただければ嬉しいです。一緒にいい時間を過ごしましょう。

ヘア&メイク/稲垣亮弐(松たか子)
スタイリング/梅山弘子(松たか子)
ヘア&メイク/奥平正芳(広瀬すず)
着付け/大川恵理子(広瀬すず)

取材・文=木俣冬
写真撮影=池上夢貢

衣装(松たか子)/ブラウス¥71.500-、パンツ¥93.500- BLAMINK(03-5774-9899) 靴¥118.800-JIMMY CHOO(0120-013-700)
着物(広瀬すず)/JOTARO SAITO(03-6263-9909)

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