ストレイテナーの最新映像作品『Cra
nk Up STUDIO COAST -2021.12.11-』
が映し出す歴史と現在をホリエと語る

筆者に限らずストレイテナーファンであれば、年末には新木場STUDIO COASTのワンマンで1年を締めくくるというのが通例となっていた人は多いだろう。そのコーストが閉館する直前、ストレイテナーが最後に立ったコーストのステージが映像として収められた、BD/DVD『Crank Up STUDIO COAST -2021.12.11-』がリリースされた。

このライブは直前のツアーの追加公演として、2021年リリースのミニアルバム『Crank Up』の名をタイトルに掲げて行われたもの。最新の楽曲群と懐かしい曲や意外な曲たちが引き起こす化学反応や、リリース当時にもコーストで演奏された象徴的な曲たちがいくつもの名シーンを生み出していく様が、克明に、そして臨場感たっぷりに切り取られている今作について、ライブ当時を振り返りながらホリエアツシに話を聞いていく。
──今回の映像作品『Crank Up STUDIO COAST -2021.12.11-』には、ストレイテナーにとって所縁の深い新木場STUDIO COAST(2022年1月で閉館)へ最後に立ったライブが収められているわけですが、このライブは2021年を締めくくるものでもありました。まず2021年を振り返ってみて、どんな年だったと感じますか。僕としてはわりとヌルッと過ぎてしまった印象もあって。
そうですねえ。2020年ほどのひっ迫感はなかったにせよ、「変わった」っていう感覚はなかったですね。ただ、このツアーと年始に回ったアルバムツアーとでは雰囲気がガラッと変わっていて。自分たちの単独公演でいうと、お互いにだいぶ遠慮とか探り合いみたいなのがない状態で、最初からぶつかって盛り上がれた実感はありました。
──『Applause TOUR』の当時は、有観客のツアー自体が久々だったですもんね。
ほぼ1年やれてなかったので、結構厳しい中でしたね。そのときのガイドラインであるとか、制限をいろいろと設けて、それに対してはちゃんと前向きに受け取っていたんですけど、蓋を開けたら、やっぱり自分の意思でライブを観に行く/行かないっていう選択をする上で、行かない選択をするファンが圧倒的に多かった。それはもう自分たちは受け入れなきゃいけないんだけど。
「まだそうか」というよりは、それも込みでツアーに出る決意をしたところがあったので、ガッカリとかはしなかったですけど、厳しかったなって。ライブについては自分たちも楽しくやれたし、そのときの良いものは作れたなと思います。ただ、反省面もいっぱいあって、「ライブが楽しい」っていう気持ちはすごく強かったけど、演奏面とかはあれだけブランクがあると……クオリティの面でだいぶ鈍ってたなと(苦笑)。
──それはあらためて映像を見返したりして思うこととして。
そうですね。それを踏まえて去年の後半の『Crank In TOUR』『Crank Up TOUR』だったので、だいぶ見直せたかなという気はしました。
──この『Crank Up TOUR』は、『Crank In TOUR』の追加公演のような位置付けで捉えていいんですよね?
追加ですね。スケジューリングでいうと追加公演だったんですけど、追加公演をそのまま追加にするのか、ちょっと洗い直してタイトルまで変えるか?っていうところで、やっぱり作品が出た後の追加公演だったので、タイトルも素直に『Crank Up』にしちゃって、最後のSTUDIO COASTっていうことをより踏みしめたいなという思いもありましたね。
──セットリストでいうと、『Crank In TOUR』の各地で演奏していた曲を抜粋して組み合わせたものと、そこに意外なものもプラスされていた印象があって。
そうですね。ツアー中も(セットリストが)徐々に徐々に変わっていくから、最初から用意していた曲じゃないものもツアー中に混ざってきたりしています。で、最後の『Crank Up TOUR』の2本ではそこに何曲か新しい曲をプラスして選択して、おおまかな流れは『Crank In TOUR』に則りつつも、やってない曲をバチっと入れた感じですね。
──ツアーの総集編じゃないですけど、一旦区切った後のライブならではの特別感になっていた気はします。初めの2曲の段階では『Crank In TOUR』をある程度なぞるかと思わせておいての、そこから別の展開になっていくあたり、両方観た人ならニヤリとさせられると思いますし。
そう、『BLACK BREW SHOW』っていう映像になってるスタジオライブ(ミニアルバム『Crank Up』初回盤に付属)の演奏曲をガッツリ入れたというのもあります。『Crank In TOUR』のときはリリース前だったから、まだそこまで見せない方がいいっていうことでしたけど、『Dark City』とか『GUNSHIPRIDER』みたいなレアな曲がその映像の方に入ってたので、やってしまおうと。
──レアですよねえ。見応えのあるセトリでした。
あと「TRAIN」とか「DISCOGRAPHY」に関しては、コーストの今までの思い出の中にあるなあというか。
──当時、『LINEAR』のツアーも「Dear Deadman」のツアーも、コーストでやってるんですよね。
やっぱり「TRAIN」でダイブが起きてる画とか、「DISCOGRAPHY」であのデッカいミラーボールが回ってる画っていうのが頭の中にあって、それを最後に思い出したいなっていう。
──「TRAIN」なんてもう、当日ガッツポーズものでしたよ。
そうですよね(笑)。
──で、『Crank Up』のリリースツアーとして考えたときには、リリースとその前後のツアーという段階を経て、ひとつ完成したというような印象もありますか。
まあ、一曲やってない曲もあるし、完結っていうわけでもないんだけど。ミニアルバムだし、作品のツアーと言ってもその作品に縛られるものでもなかったから。ただ、『Crank Up』のライブ感というか、ライブで自分たちも高揚するという、作品の持ち味は強く感じました。ライブに向かう熱量みたいなものが、ライブを思うようにできない期間に高まっていて、それをお客さんの前でぶつけたときのリアクションを見ても、新しい曲で圧倒してやったぜ、みたいな(笑)。「倍で返せ」は『Crank Up TOUR』の2本しかやってないけど、「宇宙の夜、二人の朝」とか「流星群」はツアー初日から「新曲やべえ」みたいな声が返ってきたりしたので、「やれてるな」って思いました。
──作ったモードのまま届いたと。
そうですね。ライブに向けて作ったというのが伝わったなと思いました。大人しく聴かせるライブはやらないっていう姿勢も伝わったかなって。
──「宇宙の夜、二人の朝」のパンチ力は言わずもがな、「流星群」や「倍で返せ」も“ライブで聴きたい”タイプの曲に仕上がっていて。
「流星群」は音源で聴くとあまり見えてこないけど、実はライブになるとめちゃくちゃドライブするっていう。これは本当、ライブハウスで観ないと分からない。
──音源だとクール寄りの印象ですし。
かもしれないですね。ストレイテナーの曲って、得てしてそうなんですけど(笑)。音源でクールっぽく聴こえてたものが、ライブではすごい爆音で鳴ってたり、我々のテンションとかも「あ、この曲をこんな熱量でやるんだ」みたいな。まあ、慣れてくると想像つくだろうけど、慣れてないとビックリするかもしれないですね。
──緻密さは損なわずに荒々しくなる。
それは見せたかった面でもあります。
──このコーストのライブでステージに立っているときに感じた事とかって、覚えてます?
はい。悪い意味でいろんなことを考えすぎちゃったライブではあるんですけど(苦笑)。
──そうなんですか?
コースト最後だけどあんまり実感わかないなぁとか。あとは『Crank In TOUR』から全部通した中で一番お客さんが大人しく見えて、メンバー間でも「あれ、今日のライブイケてるのかな?」って顔を見合わせたり。特にこのステージに上がる上で意気込みすぎたとか、そういうことではないと思うんですけど。
──お客さんも噛み締めちゃってたのかもしれないですしね。
たしかに。あとは本来のキャパの半分くらいの人数しか入れてないので、例年のコーストに来れてた人たちが来れたかっていうと、狭き門ではあったのかなって。どうしてもチケットが取れなかったっていう人もいたし。
──そういう方からしても、こうして作品になるのは大きいでしょうね。映像作品としてまとめるにあたっては、どういう画をどういう方向性で組んでいくか?という話になると思うのですが、その際どのくらいバンド側のイメージや要望を伝えていくんですか。
監督にもよるんですけど。撮り方だったり、その作品性みたいなものを見込んでお願いしているので──今回は野田竜司くんっていう、ストレイテナーでいうとスペシャのイベントのライブ映像では関わってたんだけど、作品的には『NANA-IRO ELECTRIC TOUR 2019』が初で、ストレイテナー単独ではスタジオライブの『BLACK BREW SHOW』と……本来であれば5月に振替でやるはずだったけど中止になっちゃった『テナマニ』もお願いしてたんですよ。それが叶わずで、今回やっと単独公演を撮ってもらうということで。
──そうだったんですね。
彼自身もめちゃくちゃ意気込んでたし、ずーっと「ストレイテナーを撮りたい」って言ってたから、すごいシミュレーションをしてきたと思う。曲自体もそうなんだけど、ライブで我々がその曲を演奏しているところまでイメージして撮り方を考えてきてるなあという風に思いました。だから編集に関してもほとんど指示とか要望もなく、良きようにって感じで、ほぼそのまんまで完パケしましたね。
──ファンなんだろうなっていうのは観て伝わりました。ツボが分かっているというか。
すごいところを写してますよね。
──パートごとのソロみたいな明らかな見どころ以外の場所でも、「そうそこ!」っていうタイミングで各メンバーを抜いていたりするじゃないですか。
そうそうそう(笑)。新たな発見があって良いなと思いました。最後のエンディングの映像だけは、僕が結構直前になって「せっかくコースト最後だから全体的な、コーストというもののドキュメントが1日撮れたらいいな」と思って、それをお願いして。「ちょっとカメラ足りないかも」と言われながらも、ギリギリでなんとか手配してもらって、僕らの入りからリハーサル、お客さんの入場のシーンとか、いろんな映像を押さえてもらって、エンディングにくっつけてます。
──あれ、良いですよね。
うん。そこで「群像劇」が流れて。
──最後、印象的な天井のスピーカーとミラーボールで終わるのも良かったし、「シンペイさんがMCでよく言ってるイスってこれか」みたいなカットもあって。
僕ら目線のコーストっていうのもあるけど、半分くらいはお客さん目線で、しかもライブ自体っていうより動線というか、コーストでライブの前後をどう過ごしているか?みたいな、逆に僕らが見れない画が入っていて。だから僕がグッときてしまう。自分たちがライブをやる日にバーカウンターの方とか他のエリアって見ないから、「あ、ちゃんとあるんだ」みたいな(笑)。
──たしかに、双方の視点があの数分にちゃんと詰まっていて。ライブの映像への収め方としては、映像としての綺麗さとライブ感のバランスがとても良かったと思います。わりと淡々と撮りつつもそこに熱があるというか。
生々しさがあってすごく良いなと思いました。わりと近い距離で実際にフロアから観ているような画が多くて、ライブ全体を写すより、ポイントポイントが切り取られている。そこにむやみにエフェクトなんかが入らないというか、盛り上がりを映像で足し算する的なことがあまりないなと。お客さん目線ではこういう風に見えてるなっていう実感があればいいなと思いますね。
──ライブを観る時って、俯瞰の時もありますけど、大概はどこか/誰かを観ていたりしますしね。そのあたりが、過去の映像作品と比べても今作ならではの色といえそうです。
そうですね。撮る人が違うと全然変わってくるんでしょうね、見えている部分が。
──そういえばMCがほぼ全カットなのも印象的でした。
前のLINE CUBE SHIBUYAのライブ映像はMCを別枠にして全部入れてるんですけど、あの時のあのライブは、演奏の熱量とかよりもおそらく、あの時点でのライブの在り方として、自分たちを見せることを意識しながら、ライブならではの「人間が伝わる」ことを目指していたから、MCも全部入れちゃおうっていうふうにしたんですけど。今回はライブハウスで、僕ら的には今までと変わりなく思いっきりやったライブだというところがとにかく伝わればいいと思ったので、ゆるい要素はいらないかなって(笑)。
──演奏シーンが連続していくことで、最後のエンディング映像に至る流れが際立ちますよね。
ただのライブの記録っていうだけじゃなくて、作品ごとにテーマとまではいかないけど、今はこういうものを作りたい、このライブはこういう見せ方をしたいっていう意識は表れてると思います。
──曲単位の話もすると、個人的に「Stilt」や「プレアデス」が印象的でした。
「Stilt」は『Crank In TOUR』では何度かやっていて。「プレアデス」はスタジオライブでやっていて、最後の2Daysにぶち込んできたという。「プレアデス」、すごくいいですよね。たまにやると。
──「宇宙の夜 二人の朝」「流星群」という新曲2曲からの「プレアデス」という並びも良いですしね。そこに限らずですけど、映像になるとライブで体感した時以上にエモーショナルにも感じました。もう少しアッパーなライブだった印象もあったんですけど。
あ、本当ですか。中盤の「倍で返せ」あたりからはわりと速いし、照明とかもガンガン攻めるから、その印象があったのかもしれないですね。
──ああ、たしかに照明もすごかったですね。吊り下げ型の照明も綺麗だったし、レーザーなんてばんばん飛んで。
やりまくってましたね(笑)。「DISCOGRAPHY」の大団円感も強調してくれて。今回はいろんな曲があるけど、ストーリー性を出せたなと思って。「Stilt」とかもここに来て意味がある曲になってるなと思うし、宇宙つながりで「流星群」や「プレアデス」を並べたり。
──僕は、あとはなんといっても本編最後の「TRAIN」ですね。ライブで聴くたびに「うおー!」ってなる曲ではあるんですけど(笑)。
「TRAIN」ってたまにやるんですけど、あんまり練習しないんですよ、普段。ただ、このライブに向けてはいつもより練習して引き締めたというか、渾身の「TRAIN」です(笑)。結構グシャッーっと流れて、とにかくみんな楽しんでくれてるな、みたいなことが多いんですけど、自分たち的には「速えー」とか思ってて全然手元とか追いついてなかったりして。今回はビシッと引き締まってます。
──勢いで行っちゃっても良い曲ではあるけれど、そこをあえて。
ツアー中に急にやったりすることが多い曲なんですよ。最近はアンコールの決め方も適当になってきて、しっかりリハでやってきた曲っていうよりは、その日にやりたい曲を「あれやれるかな?」「やれんじゃない?」みたいなノリで持ってきたりする、その位置付けなんですよ。「TRAIN」って。
──なるほど。でも今回に関しては背景もあっての「TRAIN」だったから──。
そう。最後のツアー2会場のために久々に仕上げたっていう。
──そしてこの作品が出た後、7月にはまたツアーがありますけども。
そうですね。これは「ただのツアー」です(笑)。
──あ、そうなんですか(笑)。てっきり何か出たりするのかと。
リリースがあるとすればこれですね。そこまで生き急げないです。
──じゃあ、今のモードとしてはちょっとずつ次へ向けて作っている感じですか。
そうですね。ライブのお誘いも受けながら。1年前、2年前に出来なかったイベントにまた呼んでもらったりして、「今年こそは」っていうのもいくつかあったりするので、久々に行くイベントとかフェスも楽しみにしてます。
──ちょっとずつですけど、対バンやフェスも戻ってきそうですし。
自分たちから動いてやるライブって、単独の方がまだ安心感があるし、お客さんにとってもその方が安心だと思うので、7月はワンマンツアーなんですけど。でも、(対バンやフェスに)呼んでもらえることはめちゃくちゃありがたいから、感謝の気持ちで出させてもらいます。

取材・文=風間大洋 撮影=高田梓

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