市川團子インタビュー「そんな澤瀉屋
が大好きです」【歌舞伎座『新・三国
志』集中連載5 完結篇】

市川團子が、三代猿之助四十八撰の内『新・三国志 関羽篇』に出演している。会場は歌舞伎座で、公演は3月28日(月)まで。『新・三国志』は、1999年に市川猿翁(当時、三代目猿之助)がスーパー歌舞伎として初演した作品だ。独創的な演出、スペクタクル、スピーディーな展開で描かれる普遍的な物語が人気を博し、2年半のロングラン公演を実現。第二弾、第三弾も作られる大ヒットシリーズとなった。今回は四代目市川猿之助が演出・主演し、横内謙介が脚本・演出、そして猿翁がスーパーバイザーをつとめる。
『新・三国志』メインビジュアル
この日、舞台を終えて取材にのぞんだ團子は、開口一番に「むずかしいです」とこぼした。團子が勤めるのは、関羽の息子の関平。初演で猿之助が勤めた役だ。インタビューがはじまってからも、時折「悔しいなあ」とうなだれてみせていたが、決して後ろ向きではない言葉と表情で、役について、澤瀉屋について、思いを語った。
<あらすじ>
物語の舞台は、魏・蜀・呉の三国が群雄割拠した1800年前の中国。人々が幸せに生きる世を夢見る劉備(市川笑也)のもとに、のちに軍神と讃えられる関羽(猿之助)、豪放磊落な猛将・張飛(市川中車)が集い、理想の世の実現を目指し乱世に飛び込んでいく。関羽に育てられた関平(團子)は、関羽と劉備の隠し事に気がつきながらも、胸の内にとどめている……。

『新・三国志』ダイジェスト映像
■我らの使命は腐り果てた世の中を変えること
ーー『新・三国志 関羽篇』が22年ぶりに上演されています。
歌舞伎座での上演が決まり、全三部作を一気に観て、明け方に大号泣しました。役が発表されるまでの間は、皆さんから「関平だといいね」「関平じゃない?」「きっと関平だよ」など、これまでにないほど声をかけていただいて(笑)。
ーーそして見事、関平役にキャスティングされました。
初演で、猿之助さんがなさったお役です。その時の関羽は、じいじ(猿翁)でした。関平は、育ての親である関羽を心から尊敬し慕っています。僕自身、映像で見たじいじの関羽が大好きなので、「その関羽を慕う関平」の役はうれしいです。猿之助さんの関平も好きでしたから、大好きな役です。
(左から)関平役の市川團子、関羽役の市川猿之助 /(c)松竹
ーー猿之助さんからは、何かアドバイスがありましたか?
台詞の抑揚など、色々教えてくださいました。最後に関平が幕前で一人で言う台詞は、初演の映像ではなく、今の猿之助さんが今回のために言い直してくださったものを録って練習しました。
ただ……すごく難しいです! スーパー歌舞伎をやるには、古典ができないといけないんだと痛感しています。スーパー歌舞伎の台詞は、現代の口語だと思われる方もいるかもしれませんが、同じではありません。古典の型や台詞回しを会得した人が、そこに自分の気持ちを上手く采配してのせるから、現代劇とは違うのに、現代劇のように気持ちが伝わるんだと思うんです。
関平役の市川團子『新・三国志』 /(c)松竹
ーー今回は感染症対策の影響もあり、初演のようなスペクタクルは省かれ、その分ドラマが際立った作品になっています。團子さんの好きな場面を教えてください。
まずは桃園の誓いですよね! ずっと流れていたメインの音楽が別の音楽に切り替わって、猿之助さんの「我らの使命は! 腐り果てた世の中を変えることだ!」という台詞がパンっと入る。最高に好きです! 加藤和彦先生の音楽と、猿之助さんの声がピタッとあって本当に気持ちがいい。あと、やっぱり一幕の切れですね。関羽と劉備が手を重ねるところは、とても綺麗で大好きな場面です。
(左から)張飛役の市川中車、劉備役の市川笑也、関羽役の市川猿之助 /(c)松竹
■美しき国でございまするぞ
ーー最後の幕前での独白は、関平の一番の見せ場です。團子さんは若々しく精悍な関平でした。最後の台詞には大きな拍手が起こっていました。
“美しき国でございまするぞ。この国は我らが守ります”というところですね。正直悩みまくりながらやっています。先ほどお話したとおり、スーパー歌舞伎の台詞回しは、古典ができる人がやるから成立するもの。僕はまだ音域を上手く使えなくて、感情をのせようとすると声がガナってしまう。スーパー歌舞伎は、初舞台の『ヤマトタケル』以来。8歳の頃には分からなかった皆さんのすごさを、あらためて理解しています。
関平役の市川團子『新・三国志』 /(c)松竹
ーー節回しなどの技術面はもちろん、「感情」作りも難しそうです。
気持ちをどう作るか悩んでいた時、父(中車)から言われました。「自分の人生と重ね合わせてみたらいいんじゃないか? それが最後の君の台詞だろうし、きっと『ヤマトタケル』の最後に“お父様”と叫んだのともつながる演出。自分の人生を感じて台詞を言ってみたら」と。だから、“美しき国でございまするぞ”は、“この美しい澤瀉屋を守り続けるんだ”という思いで言っています。子どもだった頃は、いい意味で純粋に何も考えずにできました。意識することが増えていくと、振り切って何も考えずに……が難しくなり、一つひとつ悩みながらになるんですよね。
ーー現在18歳ですね。ご自身の感覚としては、いま子どもですか? 大人ですか?
まさに子どもから大人に渡っている最中という気がします。身長は178㎝になりました。見た目的に、お客様からは大人の役者と認識されることが増えていますし、周りの先輩方からもその目線でアドバイスをいただくことが多いです。子役なら「美しき国でございまするぞー!」って元気に言えれば、まずは良かったんですが(笑)。
関平役の市川團子『新・三国志』 /(c)松竹
最後の台詞なのですが、どこか国を思い続けている関平の哀愁も持たせたいと思っているんです。哀愁って、大きな声ではないですよね。少し抜くような声。猿之助さんが「張飛よ……」と哀愁を込めて言う時、声を張るわけではないのに、台詞は奥の席のお客さんにも届くんです。腹からの密度の高い声なのかな。それを高音でも低音でも出せるようになると、長い台詞も単調にならずリズミカルになって、感情ものせられて……。
でも! そこでも歌舞伎の節回しが大事なんですよね。古典の出力で現代劇のような感情をのせられるようになりたいですね。哀愁の気持ちは込められても、出力が上手くいかないのがすごく悔しいんです。
ーー試行錯誤されているようですが、手応えを感じた瞬間もあるのではないでしょうか(※取材は3月上旬に行われました)
たまたま今日は、前に比べたら腹にすわった声になった気がします。それでもレベル2とか。猿之助さんは10万とか100万だとして(笑)。
関平役の市川團子『新・三国志』 /(c)松竹
ーー初演で猿之助さんが勤めた役を受け継ぐことへのプレッシャーはありますか?
プレッシャーは感じません。緊張もあまりしない方です。ただでさえ未熟なのに、プレッシャーや緊張のせいで芸が落ちるのはいやなので。ただ、悩みすぎなくらい悩んではいます。悩んだせいで何か滞ってしまうのも違う。理想は、言い方や技術にとらわれずに、関平そのものをやれること。純粋に父・関羽だけを見て、関羽と劉備のことにも気がつきながら、皆がいなくなっても勇ましく戦おうとする、そのままの関平になりたいです。
■ただ見ているだけでは何の意味もない
ーー春から大学に進学されます。しばらくは学業を優先されるのでしょうか。
いいえ。勉強も舞台も死ぬ気で……という思いはあるのですが、学業に関して大口をたたくのはやめておきます(笑)。でも、どちらもがんばります!
ーー演出にもご興味がおありだとか。
あります! 大学でも、そのようなカリキュラムがあるのかな。『新・三国志』の稽古場では、猿之助さんから「もし演出に興味があるなら」と、演出助手の方の横について、どんな仕事をされているのか見ておくように言われた日がありました。ふだんの稽古中でも猿之助さんの指示は聞こえてきますので、「この台詞をそういう理由でカットするんだ」とか学ぶことが多いです。
市川團子
ーー歌舞伎の世界に入り10年。歌舞伎に対する気持ちに変化はありますか?
今月が一番悩んではいますが、取り組む気持ちはずっと変わっていません。
ーー中車さんはどんな存在でしょうか。
迷った時、何かしらの答えをくれる存在です。父の映像の仕事での経験は、歌舞伎に応用できる部分が物凄くたくさんあると思っています。その意味でも、相談をすると何かしら答えをくれる大先輩という感じです。
ーー父親というより先輩ですか?
父親であり先輩です!(笑)
ーーでは團子さんにとって、澤瀉屋はどんなところでしょうか。
澤瀉屋以外を知らないので、他のお家と比べたお話はできないのですが、僕の中で「とにかく一番カッコいい」存在です。じいじや猿之助さんだけでなく、誰もが熱い。そこがカッコいいです。以前は夏になると一門で稽古合宿をしていたんですよね。その熱量はすごいと思います。今回の『新・三国志』も、再演ですがほとんど新作。それを9日間の稽古で作るとか最高です!(笑)。しかも皆さんが、それぞれにこだわってこだわって芝居をされるので、演技の密度が濃い。歌舞伎に命を捧げているような方々です。そんな澤瀉屋が大好きです!
ーー熱量の分だけ、乗り越えていくべきものも増えていくかと思います。心の支えになっている言葉があればお聞かせください。
“どのような美しき夢でも、ただ見ているだけでは何の意味もない。その夢を信じ追い求めねば、虚しい幻に過ぎぬ。”
『新・三国志』の初演の関羽の台詞です。この言葉を聞くと「じいじがこう言ってる。前を向こう」という気持ちになります。今回はカットされてしまいましたが、いつか猿之助さんの関羽でも聞きたい台詞です。
ーー『新・三国志』は「夢見る力」がキーワードです。團子さんの夢は?
じいじを超えることです!
……言った(笑)。大人になるほどに、歌舞伎俳優として乗り越えないといけないことや、その道のりの険しさが見えてきます。でも諦める気はないので死ぬほど努力するだけです。
ーー最後に『新・三国志』への意気込みをあらためてお聞かせください。
お客様に感動していただけるお芝居をしたいです。最後の台詞だけでも、歌舞伎の台詞として、そこに自分の感情をのせてお伝えできるようになりたいです。ああ……くやしいな(笑)。がんばります!」
『新・三国志』は、歌舞伎座『三月大歌舞伎』の第一部にて3月28日(月)までの公演。
※「澤瀉屋」の「瀉」のつくりは、正しくは「わかんむり」です。
取材・文・撮影(クレジットのないもの)=塚田史香

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