チェコ、新作『MANTLE』の音楽的冒険
を語る「ドラムとベースの鳴りが今ま
でとは違う」

(参考:「日本の音楽の“方程式”を超えたい」チェコ・ノー・リパブリックが目指す、世界標準のポップ)

・「前作よりも一人一人のパーソナルな部分が詰め込まれている」(砂川)

――新作『MANTLE』は、海外のバンドにひけをとらない質の高い音作りという点に加え、日本語の歌としてスッと入ってくる楽曲が揃っていると感じました。前作『NEVERLAND』とも趣が違いますが、どんなプロセスで作り始めましたか。

武井優心(以下、武井):前作の『NEVERLAND』はインディーズ時代の楽曲が9曲入っていて、自己紹介に適したアルバムだったんですが、その頃にはもう新曲を毎日作っていたので、次々に出来る楽曲群をリリースできないことにちょっとしたストレスを正直感じていました。なので今回は「アルバムをどうするか」と考えて楽曲を作ったのではなく、「溜まった楽曲を1枚にどうまとめるか」ということを念頭に作った作品ですね。

砂川一黄(以下、砂川):前作は僕とタカハシさん(タカハシマイ)が新メンバーとして加入後初のアルバムで、なおかつメジャーデビューしてから1作目という感じでした。ただ、加入前にこれまでのチェコで作ってきた既存曲が結構多かったので、昔のフレーズをそのまま弾くことも多かったように感じます。それに比べて『MANTLE』では、現体制の5人で合宿に行ったりしながら、全ての楽曲を作り上げました。僕はこうして5人で作られた作品の意味合いって非常に大きいものだと考えていて、前作よりも一人一人のパーソナルな部分が詰め込まれたものに仕上がったと思います。

――曲の長さが短くなったのも大きな特徴ですね。

武井:前はBメロとか大サビとか、なにかしらのものを放り込まないと気がすまなかったんですが、今回は出そろったメロディだけで、割と統一されているものが多いと思います。あまり狙ったわけじゃないですけど、無理矢理(サビなどを)付けなくてもいいという気持ちもあるし、流れるままに終わっていく感じが気持ちよかったので、メンバー同士で曲の構成を話合って作っていきました。

――確かに今度のアルバムでは、音楽性の幅は広がりつつ、よりポップな楽曲もあれば胸をグッと掴むようなものもあります。

武井:1stを出して以降、ライブで新曲をどんどん試していました。そこで暗い感じの曲をやったときに、お客さんの反応でギャップをめちゃくちゃ感じて。『NEVERLAND』を聴いて俺らを聴きにきた人たちにとっては、予想外なものなんだと知り、「早すぎたなあ」と思いました(笑)。そこでお客さんとの距離感が分かったので、裏切らないように「ポップで歌えるチェコ」らしさはキープしつつ、サウンドで打ち込みを使ってみたり、こだわりを随所に出していきました。

――作りこんだ分、ライブでの再現は結構難しい?

砂川:そうですね。コーラスなどがはいっているので、前よりは難しくなりました。でも楽しいです。

武井:メンバーが加入したことにより、曲を作ったり、演奏する上での選択肢は増えたので、諦めようとしたものも上手く実現できるようになりました。タカハシもボーカルを取るから、自分がメインで歌いつつ、2番やBメロで彼女に振ろうとか。あとはサビの音程が高くて届かない場合は、八木(類)にコーラスを歌ってもらって、砂川さんにフレーズを弾いてもらうことで上手く演奏できたりします。

・「サウンドは明るいワンパクな俺、歌詞は薄汚れた俺なんです(笑)」(武井)

――また、今回のアルバムはある意味で、日本語ポップスの伝統の中に位置づけることも出来るのではないでしょうか。私は1970年代の加藤和彦の作品に通じるものを感じましたが、いつも思い浮かべるような日本の音楽はありますか。

武井:あんまり日本のものを意識したことはないんですけど、ブルーハーツやスピッツがめちゃくちゃ好きなんです。洋楽を聴く方が多いとは思うんですが、根っこの部分には彼らの音楽が存在しています。

――当時のブルーハーツは歌謡曲的な要素もあって、「こんなメロディ歌っちゃうんだ」というような感覚はリアルタイムで見ていてすごく新鮮でした。そういったメロディセンスというのが武井さんの中にもあるような気がします。

武井:それはうれしいです。

砂川:ご年配の方に「メロディがいい」と言ってもらえることもあったりするので、日本人が歌いやすいメロディなのかも知れません。

――先ほど、ライブをやるなかでお客さんが求めているものを感じ取って、このアルバムにも反映されているというお話でしたが、リスナーが求めているチェコの音楽とは何だと思います?

砂川:武井さんの作るサウンドや歌詞の世界観はキャッチーなんですけど、普遍的なJ-POPになりすぎないところがあるので、その部分かなと思います。USインディーの系譜を受けているけど、歌はキャッチーで、ぱっと聴いてすぐ歌えたり、アグレッシブに体が動くようなリズムだったり。そういうものを作るのが絶妙に上手いんですよ。

――キャッチーだけど一癖あって、一筋縄でいかないもの。そんな武井さんの個性が曲に出ているという感じでしょうか。歌詞にはアイロニーを含んだものも多いですね。

武井:ドラムの正太郎(山崎)とは付き合いが長いんですが、彼と飲んでいる時に、「昔はすごい明るかったけど、周りに影響されてどんどんシュールに捻くれていっている」ということに気付いたんです(笑)。どんどんマイノリティな笑いを追求している自分がいて。根っこの明るい性格はサウンドに繋がっていて、歌詞は後付の性格が表れているんだと気付きました。サウンドは明るいワンパクな俺、歌詞は薄汚れた俺なんですよ(笑)。

――その二面性がチェコだと。面白いですね。

武井:悶々としていた時期があったからかもしれません。細かいことがいろいろあって、ライブのセットリストもしばらく変えられなかったり…。『NEVERLAND』に全然入ってなかった5人用の曲をライブで聴いてCDを買ってくれた人が「タカハシマイが全然歌ってないじゃん。詐欺だ!」って言ってるのを知ったり。そんなこと言われても困るんだけど(笑)。そんなことがあったので「お前に言われたくない」という気持ちが高まって、「俺がチェコなんだから、お前より俺の方が分かっている」っていう感情が籠っているのかもしれません。

――タカハシマイさんの存在はバンドにとっても大きいということですね。彼女の加入がチェコにもたらしたものとは?

武井:俺は今回、タカハシの歌を楽器と捉えて曲を作っていました。楽器ができる訳ではないのに彼女をバンドに入れたのは、歌ってもらうことで一番パワーを発揮すると思ったからです。個人的には、1曲をまるまる歌ってもらうより、曲中でスイッチすることがバンドのオリジナリティを出せていいのかもしれないなと考えたりしています。

・「自分の持ち味をちゃんと理解し、やるべきことをやる」(武井)

――武井さんは現在ラジオ番組『オールナイトニッポン0(ZERO)』でパーソナリティを担当していらっしゃいますが、そういった形でマスマーケットにコミットし、自分たちの音楽が多くの人に届いていくことに関してはどう捉えていますか。

武井:今の自分たちが成功しているとは思ってないですが、段々輪が広がるのは一番うれしいですね。

――最近は「成功」の基準も色々ですが、具体的に何かイメージしていますか。武道館公演とか。

武井:武道館でライブをするというのは昔からありますよね。自分たちも武道館でライブしたいと思いますし。

砂川:それこそ、紅白とか? うーん、想像できないですね(笑)。

武井:想像できないけど売れたいよ(笑)。そのためにも「好き」という感情を越えて、何やっても「いい」と言ってくれる信者のようなファンは欲しいです。売れているバンドにはそういったファンの方が多くいると思うので、そこを越えないとブレイクできないんじゃないかと思ったり……。

――あえて佇まいをクールにしてみるとか。

武井:暗くなってみる、とかですかね。今そうしてみても「何かあったの?」と言われるくらいの感じでしょうね(笑)。

――確かに、シリアス然としたイメージを打ち出すバンドではないかもしれませんが、武井さんの音楽への探究心の強さは、熱心なファンを今後生み出すのでは。ご自身の中で音楽への探究心が強くなっていると自覚していますか。

武井:探求心は経験と比例して増しています。今回で言うとドラムとベースの鳴りが今までとは違ってきていると思うし、メリハリが全然違うというか。僕らは前作から2年以上ずっと低音域が上手く出ないことに悩まされていました。そこで今作では宅録を使いこなせるようになっていたこともあって、打ち込みのドラムの音を多用したりもしました。でも正太郎にドラムは叩いて欲しいんで、電子ドラムを使ってもらって。「No way」という曲はアルバムの中でも最後にできたものなんですが、「ぜひ生ドラムで録ってくれ」という声もあったなかで「絶対に嫌だ。電子ドラムで録る」と言ったんです。完成した音を聴いたときに「凄く曲に合ってる。タイトでかっこいい!」って思いました。

――音の細部までこだわり抜き、その結果が出たという感じですね。

武井:宅録を経験して「打ち込みのドラムが生ドラムに負けるということは絶対にない」と確信していました。音の種類が選べるし、シンバルも生みたいな音が出るし、すごく便利ですね。

砂川:選択肢が増えたというのは、いいことだと思います。今までは生のドラムとベースだけだったから。

武井:ライブは生ドラムなんですけど、要所要所では電子パッドを使っているんです。

――このアルバムをどういう風にリスナーに届けていきたいのですか。

武井:なんか今までふわふわした「ゆるポップ」的なバンドと思われていたところもあるんじゃないかと感じているので。今回はロックな部分もあるし、今まで聴いてなかった人にも届くようなものになったので、手に取ってもらえると嬉しいです。自分の音源の中でも一番気にいったものに仕上がりました。そんなアルバムが完成したことはとても嬉しいですし、これがダメだったらどうしようという感じです。

――今年は『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO』や、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014』などのフェスにも数多く出演します。他のアクトとは雰囲気の違うステージになりそうですが、どんな気持ちで臨みますか。

武井:何かを演じてダメになるより、自分たちにできることを一生懸命やりたいです。100点を叩き出せるように工夫をすることも重要ですが、自分の持ち味をちゃんと理解し、やるべきことをやるのが先決です。

砂川:多くのロックバンドと共演するなかで、自分たちが浮いてしまうこともこれからは出てくると思います。でも、本当に自分たちがやりたいことを臆せずにやっていきたいですね。(取材=神谷弘一)

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