『フェルメールと17世紀オランダ絵画
展』鑑賞レポート キューピッド復活
の《窓辺で手紙を読む女》がついにお
披露目!

開幕延期になっていた『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』が2月10日(木)に東京都美術館で開幕した。4月3日(日)まで行われる本展では、ヨハネス・フェルメール初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》が、修復後初めて所蔵館以外で初公開。そのほか、レンブラント、ハブリエル・メツー、ヤーコプ・ファン・ライスダールらの作品が絵画60点・版画16点が来日している。
会場入り口
当初は1月22日(土)から開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、展覧会の準備を当初の予定通り行うことが困難になったことから、開幕が延期されていた本展。その後、2月10日(木)に開幕を迎えた。フェルメール作品の来日という話題性の高い展覧会ゆえに開催自体が無くならないか不安だったファンも多かったことだろう。まだ予断を許さない時勢にあるとはいえ、こうして開幕日を迎えられたことに二重の喜びを感じる。ここに展示されているのは、もしも開幕しなければドイツ・ドレスデンまで行かなくては出逢えなかった絵画たちだ。そう思うと、本展のみならず上野や六本木の展覧会で世界のさまざまな名画にふれられる至福に改めて感謝を感じさせられる。
《窓辺で手紙を読む女》のキューピッドに「おかえり」を言おう!
さて、開幕延期もあって首を長く長~くして待っていたであろう皆様の気持ちをくんで、まずはさっそく目玉展示のフェルメール作品から見ていくことにしよう。
本展は7つの章によって構成されており、そのうちフェルメール《窓辺で手紙を読む女》は4章目である「《窓辺で手紙を読む女》の調査と修復」に展示されている。入場口のある地下1階から1階へ上がると、フロアの8割くらいの空間を使ってフェルメールのための部屋が作られている。
ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》(修復後)1657-59年頃 ドレスデン国立古典絵画館蔵
《窓辺で手紙を読む女》は、フェルメールが室内画に転向して間もない1657年から1659年頃の作品とされる。手前に緑のカーテンがかかる室内では、高貴な衣服に身を包んだ女性が静かな表情で誰かからの手紙を眺めている。青い枠の格子窓のガラスには女の顔がうっすらと映り、壁面には弓を杖のように持つキューピッドの姿がある。初期の作品でありながら、光差す窓辺に人物が立つ構図や机の上のタペストリー、果実のように寓意的なモチーフなど、後に彼が残した室内画と共通する要素を見ることができる。
映像による《窓辺で手紙を読む女》の解説
この作品は近年の大修復によって本来の姿に “生まれ変わった”。本作については1979年に行われたX線調査で、女性の背後の壁にキューピッドの画中画が隠されていることが分かっていた。その上塗りは長らくフェルメール自身によって行われたものと考えられていたが、2017年に行われた保存修復の過程において上塗り部分とそれ以外の部分にいくつかの違いが見つかり、フェルメールの没後に上塗りされたという事実が判明した。その後、画中画の状態を確認し、上塗り部分の除去が決定。4年近い歳月をかけて昨年9月にようやく修復が完了し、壁面のキューピッドがお披露目された。
本当の姿と修復前の姿、あなたが好きなのはどっち?
本作に着くまでのアプローチでは、修復プロジェクトの過程がパネルと映像で紹介されている。ニスを落としたり壁の上塗りを剥がしたりする瞬間も映像で見ることができる。世界に30数点しか現存作がない画家の作品に手を入れるという緊張の作業。その様子は映像とわかっていても息を飲むような感覚を覚える。
《窓辺で手紙を読む女》修復作業の映像紹介
なお、“誰が・いつ・なぜ” キューピッドを隠したのか、現時点で確かなことは分かっていないそうだ。謎解き的な見方も楽しいフェルメール作品にあって、本作にはフェルメール自身が残したのではない “もうひとつの謎” が乗っかっている。いずれにせよ、壁面に新たなモチーフが現れても光に照らされた女性が圧倒的な存在感を放っていることには変わりはない。
「《窓辺で手紙を読む女》の調査と修復」展示風景
また、本物の近くには修復前の同作品の複製画が展示されている。もしかしたらフェルメール作品を見慣れた人の中には、こちらの方がしっくりくるという声もあるかもしれない。もしもフェルメールが今も存命だったら怒られそうだが、決して「正しい姿」が「好きな姿」であるとは限らないとも思う。そこはおそらく個人の好みによるところだ。ちなみにここに両方を並べて載せようと思ったが、それはあえてやめた。ぜひ会場を訪れて実物を見た後に、自分の中や大切な人との間で「どちらの方が好き?」という議論を楽しんでほしい。
レンブラント、メツー、ヤン・ステーン……、17世紀オランダ絵画に浸る
本展にはドレスデン国立古典絵画館からオランダ絵画60点と版画16点が来日している。《窓辺で手紙を読む女》以外の見どころも抜粋しながら見ていこう。
ドレスデンはドイツ中西部に位置するチェコ国境に近い都市である。日本ではミュンヘンやベルリンほどの知名度はないが、ザクセン州の州都である街は古くから2つのヨーロッパ交易路が重なる重要地として栄えてきた。そして人もモノも行き交う土地では16世紀のザクセン選帝侯・フリードリヒアウグスト1世の時代から歴代君主によって美術品の収集が行われ、ヨーロッパでも有数の貴重なコレクションが築かれてきた。ちなみに「選帝侯」とは神聖ローマ帝国の皇帝を選ぶ選挙権を持っていた7つの有力な諸侯のことをいう。
「聖書の登場人物と市井の人々」展示風景
最初の章の「レンブラントとオランダの肖像画」には、レンブラントの《若きサスキアの肖像》をはじめ、17世紀のオランダで著しく発展した肖像画の数々が展示されている。海洋貿易で繁栄を迎えた当時のオランダでは、ブルジョワジー以外にもあらゆる階級の人々が肖像画を依頼し、フランス・ハルス、バルトロメウス・ファン・デル・ヘルストら優れた肖像画家を輩出した。ここには肖像画の一部である自画像やトローニー(特定の個人ではない頭部の習作)も展示されており、レンブラント作品の隣にはホーファールト・フリンクによる《赤い外套を着たレンブラント》の肖像画も見ることができる。
レンブラント・ファン・レイン《若きサスキアの肖像》 1633年 ドレスデン国立古典絵画館蔵

2つ目の章「複製版画」の展示風景

続く「レイデンの画家ーザクセン選帝侯たちが愛した作品」には、ヘラルト・ダウ、フランス・ファン・ミーリス、ハブリエル・メツーら、レイデンで活躍した風俗画家たちの作品が展示されている。レイデンはレンブラントの故郷でもあるオランダ南西部の街で、同国初の大学も置かれた古都だ。《手紙を読む兵士》《化粧をする若い女》《レースを編む女》などの作品には、フェルメール作品にも通じる市井の人々の姿が見える。
ハブリエル・メツー《レースを編む女》 1661-64年頃 ドレスデン国立古典絵画館蔵

ヘラルト・テル・ボルフ 《手紙を読む兵士》1657-58年頃 ドレスデン国立古典絵画館蔵

フェルメールの関連展示の次に見られる「オランダの静物画ーコレクターが愛したアイテム」には、こちらも17世紀オランダで盛んに製作されたジャンルである静物画の作品が集められている。ヨセフ・デ・ブライ《ニシンを称える静物》、ピーテル・デ・リングの《キジのパイがある静物》といった食を写実的に描いた作品が並ぶ中で、花瓶からこぼれるように無数の花が咲き誇るヤン・デ・へームの《花瓶と果物》の前には、特に多くの人が瞳を奪われ足を止める姿があった。
ピーテル・デ・リング 《キジのパイがある静物》 1652年 ドレスデン国立古典絵画館蔵

ヤン・デ・へーム《花瓶と果物》1670-72年頃 ドレスデン国立古典絵画館蔵

終盤の「オランダの風景画」には、17世紀オランダで最も著しい発展を遂げたジャンルである風景画の作品が展示されている。本展の中でも比較的大きなサイズの作品が集まる空間でもある。そして「聖書の登場人物と市井の人々」の章ではヤン・ステーンの作品などが見られ、最後まで見どころは尽きない。
ニコラース・ベルヘム《滝のそばの牧人たちと家畜》 1655年頃 ドレスデン国立古典絵画館蔵

ミュージアムショップ

ミュージアムショップ
ミュージアムショップも充実。最近は《窓辺で手紙を読む女》のように手紙を読むという体験をしていないという方は意外と多いかもしれない。そんな方はこちらでポストカードやレターセットを買って、大切な人に本展の思い出と手紙を読む体験を一緒に届けてみてはどうだろう。
『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』は2月10日(木)から4月3日(日)まで東京都美術館で開催中。その後、北海道立近代美術館、大阪市立美術館、宮城県美術館でも巡回開催される予定だ。

文・撮影=Sho Suzuki

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