音楽シーンにも影響を及ぼし始めたバ
ーチャルライバーグループ・にじさん

月ノ美兎や葛葉を筆頭に、バーチャルライバーグループ・にじさんじには多くバーチャルタレントたちが所属している。無二の個性を持ったメンバーらの動きは、バーチャルYouTuber(VTuber)シーンだけに留まることなく、音楽シーンにも影響を及ぼし始めている。ここではそんな彼らが2021年から2022年に発表してきたオリジナル楽曲に的を絞り、ファンの中でも注目されるユニットやソロ活動をおこなう魅力的なタレントたちが生み出してきた音楽を記してみようと思う。
朝日南アカネ「カナリア
2020年8月10日にYouTubeで初めて配信して以来、西園チグサ・北小路ヒスイ・東堂コハク・周央サンゴらとともに世怜音女学院に通う学生としてデビュー。
マンガ・アニメ・ゲームをしっかりと網羅している彼女だが、「どこからヒネりだしたんだ?」と思えるほどのセンスとアイディアが彼女の配信内容や会話から分かる、非常にユニークな存在だ。
そんな彼女が一番に愛をこめ、自身の活動の軸においているのが音楽だ。活動をスタートして約1年半以上に渡って、歌を唄うカラオケ配信に歌ってみた・カバー動画も月1を超えるペースで届け続けている。
音楽にはカバー/サンプリングといった表現方法があり、自分がどのようなものに影響され、どのように育ったかを見せ、オマージュとリスペクトを感じとることができるわけだが、彼女がカバーするのは、ボーカロイド楽曲やボカロPが手掛けた楽曲、あるいは「歌ってみた」から登場したシンガーによるオリジナル楽曲だ。YOASOBI、Adoといったメジャーな存在へと進んだメンバーから、DECO*27、キノピオピー、kanaria、syudouと新旧問わずボカロPとして著名なサウンドメイカーらの楽曲を取り上げている。
「歌を始めたのは最近になってから」と語ってはいるものの、その歌唱力はにじさんじ内でも随一だろう。曲のテーマに沿うことはもちろん、曲中ではフレーズごとに声色を変えて楽曲を表現できるボーカルスキルを持ち合わせ、それは生で歌声を聴くことのできる歌配信で感じ取ることができる。
にじさんじの同僚やファンからも高い評価をうけており、歌を唄えばハスキーな歌声でリスナーの心を刺す早瀬走と、ソロライブをこなしてソロ楽曲もリリースしている戌亥とこの2人からは、「にじさんじで歌が上手いひと」という話題のなかで「ピッチの正確さでいえば朝日南はん、正しきことガイドボーカルのごとし。」と意見が一致するほどだ。
そんな彼女が2021年12月15日に自身のオリジナル楽曲「カナリア」をリリースした。作曲・作詞にはギタリスト兼ボーカロイドプロデューサーとして活動してきた164(読み:いちろくよん)が担当している。
左右のチャンネルから交互に鳴るギターカッティング・鍵盤楽器がハネるよう鳴らされるイントロ、そこから始まるボーカルはメロディラインを切って歌うのではなく、しっかりとなぞるように唄ってみせる。
自身にウソをついて不器用に生きていたこれまでの過去から一変し、現実と理想を抱えたままで生きる今の自分についてを歌ったこの曲は、いまだ「何者」かを捉え切れていない焦りや悲しみ、それでもなおしたたかに進もうとする心象を描いた。
リズミカルさを失わないトラックに合わせることなく一音に一語ずつしっかりと唄い、濁りの少ないクリーンな歌声やどこか切なさあるメロディ/ハーモナイズがとめどなく続き、「憂い」となって溢れでているかのようだ。ソロとして初めてのオリジナル曲にして、この重さを表現してきた彼女。変幻なるボーカリズムでどんな楽曲を発表してくるか、非常に楽しみだ。
フルトイ「恋なんて蜃気楼feat.Nem」
フミ、ルイス・キャミー、白雪巴の3人コラボであるフルトイ。2019年10月から順々にデビューしていった彼女ら3人による組み合わせは2020年1月にまでさかのぼる。
にじさんじきっての高身長、肩から下まで伸びる長髪、スタイルの良さなどから「お姉さん」らしさをもち、デビュー時期がたまたま近かったことからお互いが「可愛い」「美人」と思っていたところからスタート。
ゲーム配信ではガヤガヤと騒がしく、外のスタジオでお酒を飲んで雑談するなど、初対面とは思えないほどに息の合った3人は、2020年11月には「フルトイ衣装」を新たに制作するほどのトリオへと成長し、オリジナル楽曲「ゲッカビジン」を公開することになった。
【切り抜き】10分でわかる仲良しお姉さんズ”フルトイ”とは【#フルトイ/にじさんじ】
ここで紹介するのは、2022年1月17日には3曲目となるオリジナル「恋なんて蜃気楼feat.Nem」だ。これまでのオリジナル曲や歌ってみた曲でいえば、彼女ら個々人のイメージ・好きな楽曲に寄せる曲が多く、3人のビジュアルを活かしたセクシーさをうまく活かした楽曲を制作してきた。
ここで歌われるのは「お姉さん」「女性」像。「優しくしてくれるの勘違い上司だけ約束した未来と乖離し過ぎて目が廻る」という最初の歌詞や、「焦ってなんてないわ だって今令和よ?古い価値観で生きてんじゃねぇわよ」という歌詞には、2022年の現代社会に生きるオトナな女性としての苦労や、どこかダラしなく見える彼氏への怒り・妬みなど、解像度の高いエピソードを描くようにして表現されている。
艶っぽさのある白雪、優しいソフトなルイス、どこか凛々しさあるフミ、三者三様の声色が十二分に活かされていることは言うに及ばず、むしろここまでリスナー側に寄り添う生活感へとチューニングした楽曲をリリースしたこと、そこに驚きを覚えてしまう。
「VTuberやバーチャルタレントは画面の向こう側の存在」などという言説は今は遠く向こう。むしろリスナーやファンの生の声とはYouTubeの配信コメントなどで間近で読むことができ、むしろどんな芸能タレントよりも近い存在なのかもしれない。
VTuberの音楽にはどこか架空性の強いファンタジーな世界観を持った楽曲は確かに多いが、この曲ほどのリアリティあるメッセージを持った曲はなかなか見当たらない。その逆に、オトナな男性ならばなおさら刺さるストレートなオンナの言葉を、どこかファニーな音楽として届けることができたのは、フルトイという存在だからこそだろう。
こじらせハラスメント「インターネットは最悪」
緑仙、相羽ういは、弦月藤士郎の3人によるユニットであるこじらせハラスメント。大元はデビューして間もない弦月と緑仙の2人で行なった雑談コラボ配信で、「『全力ブーメラン』っていうアイドルソング作りたくない?」と緑仙が発したなんとなくの言葉から始まった。
この雑談から約7か月後、再び2人がコラボ配信した際には弦月が本当に「全力ブーメラン」のデモ音源を制作し、2人で歌詞を制作。翌年4月1日には雑談中に共通の友人として名前があがっていたアイドルライバーである相羽ういはを加え、同曲を公開、3人グループとしての活動がスタートすることになった。
雑談中のなんとなくの盛り上がりとノリで始まり、このエイプリルフールで一度ゴールした禍のように見えたが、なんと2021年10月9日に2曲目「インターネットは最悪」を公開し、11日には2曲ともにサブスク配信がスタートすることにもなった。
自身の歌ってみた動画だけでなく、にじさんじに所属する同僚らの歌ってみた動画のミキシングを担当し、ちょっとしたBGMや本格的な楽曲にいたるまでの作曲・作詞を担当してきた弦月藤士郎。
6人組ボーカルグループRain Dropsとしてだけではなく、ソロシンガーとしてEPを発表するなどにじさんじを代表するボーカリストであり、面白企画をかんがえて周りを巻き込んでいくプロデュース力にも長けた緑仙。
VTuber・バーチャルタレントというビジュアルでとびぬけた体力とダンスパフォーマンスを見せつけ、バーチャルアイドルとして活動を続ける相羽ういは。
作曲者・シンガー・アイドルというクリエイターとしての活動者であり、YouTubeを主軸に活動するストリーマーでもある3人。それぞれの来歴や経験から見ても「インターネット・カルチャー」とは切っても切れない関係にある。
「むずかしいことわかんない 考えちゃって眠れない 犬と猫とご飯だけを眺めていたい インターネットは最悪」
「知らないこと知らないと言いたくない アイコンでは全てを図れない 偽物だらけの空白に息を呑む インターネットは最悪」
ソフトタッチなエレクトロニカやアンビエントめいたシンセサイザーやキックサウンド、どこかロマンティックに揺らめくメロウなムード。
ファンから募った「最悪なエピソード」が間奏パートに使われ、3人は普段の楽曲のように歌うのではなく、インターネット上での悩みや息苦しさを韻を軽く踏みながら、まるで愚痴をこぼすように言葉を吐く。
「全力ブーメラン」がAKB48や坂道シリーズを筆頭にしたアイドル曲を意識した楽曲だったところ、チルいムードなシンセポップやローファイヒップホップといったここ数年のネットカルチャーで流行った質感をうまく組み合わせた楽曲になっている。
キラっとしたサウンドスケープのなかで、薄汚れた感情が言葉となって零れ落ちる。仮にもっと他のアーティストだったならば、より禍々しく、痛みとノイズに満ちた音楽として表現されていても不思議ではないくらいに、この曲が描こうとしている感情は自虐と自省が永久ループする真っ黒なソレだ。
企業とのコラボグッズとしてハンドローションが制作されるなど、この3人が纏うのはある種の美意識の高さであり、どこか少しだけズレたセンスによって生まれる高潔さ、そして自意識の強さだ。それはグループ名が意味するように、柔らかな自分の心をささくれ立った他のなにかで傷つけられてしまうナイーブさこそ、このグループのコアだろう。この曲でそれを示して見せたといえよう。
Rain Drops「エンターテイナー」
にじさんじに所属する緑仙、三枝明那、童田明治、鈴木勝、える、ジョー・力一による6人組ボーカルユニットであるRain Drops。2020年春にユニバーサルミュージックからメジャーデビューして以来、堅実かつ地道に、すくすくとその人気を広めていくことになる。
にじさんじファンのみならず、テレビ番組・ラジオ番組への出演やドラマ番組へのタイアップを務めるなど、あくまで一組の「ボーカルグループ」「シンガー」として活動してきた。
その姿のみを見ていると、まるでアニメ作品のキャラクターが自由に音楽活動をしているかのように錯覚する方もいるだろう。再度書かせていただくが、アニメキャラクターではなく、バーチャルタレント・VTuber6人組グループである。
だが、この錯覚・誤解は大きなヒントにもなる。ゲームやアニメのようなキャラクタールックをした存在が、YouTube・TikTok・Instagramを通じてゲーム配信や面白動画をアップし続け、多くのファンが生まれていく。
互いが近しいカルチャーでありながらどうしても一つにまとまり切れなかった2010年代のネットカルチャーそれぞれの流れを、VTuber・バーチャルタレントがうまく1つの流れとしてまとめてしまったかのよう。
そんな彼らの楽曲を作曲するのは、2010年代のネットカルチャーのなかでも大きな存在でありつづけた初音ミク楽曲を通して羽ばたいたクリエイターが多く、ここで紹介する「エンターテイナー」はまさにお手本のようですらある。
作詞・作曲・編曲にはじんと堀江晶太 (PENGUIN RESEARCH)が務め、ギターにはじん、ベース・鍵盤・プログラミングに堀江晶太 (PENGUIN RESEARCH)、ドラムにゆーまお (ヒトリエ)。ニコニコ動画を起点にした「演奏してみた」カルチャーや『カゲロウプロジェクト』の中心人物らが集結している。
じんがRain Dropsに楽曲を提供するのはこれで3曲目。彼ら6人の熱心なファンでもある彼は、『にじさんじ Anniversary Festival 2021』では闘病中だった童田明治やステージパフォーマンスに感化され、共作した堀江にも熱心に6人がどのような配信をしているかを説明するほどの入れ込みよう。
アイディアを受け取って新たにアイディアを付け足す、「ぶつかり稽古」と称した堀江との共作曲は、ゆーまおのドラムスと堀江のトラックメイクが混ざりあい、鍵盤・ギター・ストリングスは慌ただしく展開していく楽曲を彩り、矢継ぎ早にリレーションされる6人の歌声が聴くものの心を刺していく。
主旋律やカウンターメロディを含めたメロディライン、わずか十秒もしないうちに拍子やパターンが変わっていくリズム、華やかさに訴えかける音色の種類、「曲をどのようなサウンドで表現するか」というアイディア量は尋常じゃない。めくるめくスピード感と予想を裏切るように展開していくポップスとして、鮮やかにリスナーの心をかっさらっていく。
1人の活動だけでも追いかけきれないほどの情報量をファンに与えていくVTuber、そんな存在が6人もいて、心を震わせる。2月17日、18日に開催予定だったセカンドワンマンライブ『SQUALL ~雨ニモマケズ/風ニモマケズ~』が2日共に開催延期となってしまったが、次はどんなマジックで驚かすのか期待は高まるばかり、まさに「エンターテイナー」と呼ぶにふさわしいだろう。
ChroNoiR「ブラッディ・グルービー」
「僕達はアイドルなんだから、みんなに愛を届けなきゃ!」
「アイドル……」
こんな語りから始まるのは、叶と葛葉によるユニットChroNoiRが2021年2月21日に配信した歌動画「【オリジナルMV】ChroNoiRHoneyWorks medley【cover】」だ。
どこかノリノリな叶、めんどくさげに返事をする葛葉。普段の配信を見ているリスナーなら、このやりとりに近しいムードを思いだせるのではないだろうか。
歌が得意かつメインで活動するVTuber・バーチャルタレントは他にも沢山いる中で、彼らは決して歌をメインで活動しているわけではない。
そんな中にあって2人は男性VTuber・バーチャルタレントとして傑出した成功を収めてきた。2人それぞれが各々のカラーを出して配信活動を続ける中で、ChroNoiRが見せるのは、ゲーム配信・ストリーマーとして活動する際には退いてしまいがちな2人のキャラクター性が混ざりあった活動だ。
ChroNoiRとして配信する際は、ゲームを使っていつも以上にガチガチにバトルする姿を見せることもあれば、吸血鬼である葛葉と人間である叶という立場・生き方・考え方の違いについて触れる会話も多い。
何より、この2人にとって音楽は、2人のキャラクター性を存分に表現する場所として機能してきた。
ChroNoiRとしては6曲目となったオリジナル楽曲「ブラッディ・グルービー」も、これまでのChroNoiRカラーを忠実に守る楽曲だ。
「KING」「エンヴィーベイビー」などで2020年にデビュー後すぐに大ブレイクを果たしたボカロPのKanariaが作詞・作曲をつとめ、エナジードリンク「ZONe」のキービジュアルやメディアミックスプロジェクト「takt op.」でキャラクターデザインを務めるLAMが同楽曲の歌動画のイラストを担当。ネットカルチャーに明るい方なら、この2人をチョイスするというセンスに反応するだろう。
ドギつく攻撃的なタッチと色使い、見る者に印象深くのこるギラついた瞳やデザイン。トゲついた印象を持たせるLAMのイラストに呼応するよう、Kanariaの制作したトラックはボーカルができるだけ映えるよう、「KING」といったヒット曲に比べれば音数も音色も少し抑えめだ。
そして夏代孝明によるボーカルディレクションを受けたことも好影響となり、これまでのどの楽曲と比べてもクールで、凛々しく、どこか煌びやかすらある2人のボーカルがセンターポジションでスポットライトを浴びる。シンプルな曲展開と音作りで踊れる楽曲でありながら、十分に2人の声を堪能できる。このクオリティの楽曲をYouTubeでのみ公開をしているというのが、彼ららしさとも言えよう。
1月には招待制ゲームコミュニティー「vaultroom」とのコラボグッズを発表した彼らは、2月27日にはYouTubeのChroNoiRチャンネルで3Dライブの無料配信を控えている。ストリーマーとしてだけではなく、「マルチかつ全方位的に活動を行なっていける」立場へ変化した2人。ChroNoiRとして何を見せてくれるのか、その一挙手一投足は注目すべきだろう。
今回紹介する楽曲を選ぶにあたり、チョイスの軸に考えたのは、それぞれのタレントが持つ背景やオリジナリティを活かしていたり、メンバーらがリスナーへと届けたいメッセージを強く封じ込めているという部分だ。その魅力やインパクトはともに、メジャーシーンで広く活動しているアーティストにも劣らない強度を持っている。彼らの魅力を十全に知る上でも、まずは彼らの楽曲、何よりYouTubeなどでのライブ配信に目を向けて欲しいと筆者は強く思う。
文=草野虹

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