アツキタケトモ

アツキタケトモ

【アツキタケトモ インタビュー】
やろうとしたことが
しっかりかたちになった曲

得意なことや持ち味を活かしながら、
好きなことややりたいこともやる

では、新曲「Period」について。失った恋愛に折り合いがつけられない存在が主人公として描かれていますが、この楽曲はどこから作り始めたんですか?

「Family」もそうだったんですけど、「Period」も歌詞から書きました。槇原敬之さんのように全てが詞先というわけではなくて、比率としてはメロディー、アレンジ、歌詞の順番が多いんですけどね。

歌詞が先ということは歌いたいことが明確だった?

というより、一行目がフッと浮かんだんです。《欲しいものなら何だって/アマゾンで届くけど》がまず出てきて、そこから《簡単に入れ替わるほど/思い出は便利じゃない》までできて。無意識のうちに浮かぶことが多いかもしれないですね、歌詞は。それこそ風呂場とかで(笑)。

お風呂に入ってる時に歌詞が浮かんだって、そこはシンガーソングライターっぽいですね(笑)。

そうですね(笑)。何て言うか…どんなに便利な時代になっても人間はそんなに変われないんだなと思って。外側が変わっても、失恋したショックから立ち直れていないことはあるじゃないですか。スマホでどれだけ暇を潰しても、ずっと寂しさが頭の隅にあるっていう。“アマゾン”とか“マッチングアプリ”という固有名詞を出すことで2020年代の空気をまとわせてはいるけど、いつの時代に聴いてもしっくりくる曲にしたかったんですよね。

10年後に「Period」を聴いた若者が“マッチングアプリって何だ?”と思ったとしても、失恋の寂しさや後悔はきっと伝わるでしょうからね。

そうだと思います。そう言えば、槇原さんの「CALLIN'」に《会うといつでも言えない言葉/ラインにたくしてる》という歌詞があるんですけど、おそらくこれは電話のことを“ライン”と表現していて。でも、今聴くと“LINE”にしか聴こえないじゃないですか。「ポケベルが鳴らなくて」という曲がありますけど、僕はポケベルを使ったこともないし、どんなものか知らないのに、“ポケベル”という言葉によってなぜかノスタルジーを感じるから、それが固有名詞が時代を超える瞬間なのかなと。宇多田ヒカルさんが「BADモード」で“ネトフリ”“ウーバーイーツ”という言葉を使ってるのも勝手に共感していました。

非常に興味深いですね、その話。「Period」はトラックもめちゃくちゃ格好良くて。特に低音の響かせ方は素晴らしいですね。

もうそれはミックスエンジニアの小森雅仁さん(official髭男dism、宇多田ヒカル、米津玄師などの作品を手がけるミックスエンジニア)のおかげですね。僕がほぼほぼ完成させたデモをお渡ししたんですが、こちらからは大したオーダーはしてなくて、“小森さんのファンなので、よろしくお願いします”という感じだったんですよ(笑)。ミックスが上がってきた時、“そう! こういうふうに聴かせたかった!”という音像になっていたし、感動しましたね。アーティストが抱いているイメージを具現化させるのが本当にうまいし、小森さんがヒット曲を数多く手がけている理由が分かりました。

“この人にお願いしたい”と決めたら全て任せちゃうんですね。

確かに“そんなに音に拘っているのに任せちゃうんだ”と思われるかもしれないけど(笑)、自分なりにしっかり作り込んだ音源をお渡ししたし、“これを聴けば“こうしてほしいんだろうな”と分かってもらえるはず”と思ってたので。そこは自信がありましたね。

素晴らしいです! リズムのアレンジもすごく凝ってるし、今のグローバルポップの流れも感じたのですが、とにかく歌がポップなので、ちゃんとJ-POPになってるんですよね。

J-POPですね(笑)。幼い時に吸収した音楽だし、自分が一番得意なこともおそらく、J-POPのメロディーなんですよ。作り手としての適性がそこにあると思うし、その持ち味は捨てず、いかに音で遊べるかがテーマなんです。自分がやりたいことをやるだけでもなく、作れる音楽を作るだけでもなく、得意なことや持ち味を活かしながら、好きなことややりたいこともやる…そのバランスを探っているんですよね。

ポップミュージックをやる上でで一番大事なことかもしれないですね。

しかも、「Period」には例えばコンビニとかで流れた時に“何だろう?”と惹きつけるキャッチーさもあって、それも狙いどころでした。僕も最初の入口はポップスだったし、そこから音楽の楽しさや深さを知ったので、自分が作った曲がとっかかりになったらいいなという気持ちもあるんですよね。ライトに楽しめると同時にディープな奥行きも作っておくというか。年齢を重ねたらもっとディープな方向に行きそうな気がするけど、今は社会性も欲しいので。

音楽で社会との接点を作りたいと。《マッチングアプリに/次々と通知が来る/本当に会いたい人は/今も繋がらないまま》とかTikTokで拡散されそうじゃないですか。

ぜひ使ってほしいです(笑)。TikTokを意識してるわけではないですが、楽しみ方はいろいろですからね。もちろんフルで聴いてほしいし、しっかり向き合ってほしいけど、どこを切り取っても成立するように作っているので。

「Family」「Period」によってアツキタケトモの音楽性は確実に音楽リスナーに浸透すると思いますよ。となると、次のビジョンは?

「Period」は言わばアツキタケトモの第一章のピリオドでもあると思っていて。『無口な人』でやろうとしたことがしっかりかたちになった曲だと思うし、「Period」ができたあと、ちょっと空っぽになって1カ月くらい曲ができなかったんですよ(笑)。でも、今はそれを乗り越えてモードが切り替わったので、ひとりで制作を完結させるスタイルベッドルームポップから一歩進んで、次に向かいたいと思っています。

取材:森 朋之

配信シングル「Period」2022年2月23日配信 ZEN MUSIC
    • ※詳細はオフィシャルHP等をチェック
アツキタケトモ プロフィール

アツキタケトモ:2020年7月より活動開始。時代やジャンルを問わず過去の膨大なアーカイブを吸収し、“ポップスの普遍性”を日々研究するZ世代のシンガー。 歌謡曲に影響を受けたメロディーに乗せ、現代社会の陰を描き、オルタナティブなサウンドを掛け合わせた独自の音楽性を追求している。作詞・作曲・編曲・演奏・録音までを全てひとりで行った1stアルバム『無口な人』は20年9月にリリースすると、ノンプロモーションながらSpotifyや Apple Musicなどのストリーミングサービスで多くのプレイリストに選出され、早耳の音楽ファンから好評を得た。21年7月には10カ月振りの新作となる2ndアルバム『幸せですか』をリリースした。アツキタケトモ オフィシャルHP

「Period」
(Official Lyric Video)

「Family」MV

「しあわせのうた」
(Official Lyric Video)

「カモフラージュ」MV

「 おとなげ」(Official Lyric Video)

「マイライフ」
(Official Lyric Video)

「悪者」 (Official Lyric Video)

「ヒーローショー」
(Official Lyric Video)

「リセット」MV

「オンリーワン」 (Lyric Video)

OKMusic編集部

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