【杏沙子 インタビュー】
人に言いたくないことを
どんどん曲にしていこうと思った
恋をして女の子が可愛くなるのって、
自分と向き合うからだと思う
「ともだちに戻るよ」も失恋の曲ですよね。でも、すごく大人な気がしていて。
この曲はお互い同じ熱量で“私たち、離れたほうがいいよね”となったふたりのうち、ひとりの本当の気持ちを歌っているんですが、そのふりをしているだけで、離れないでほしいって思っているんです。もし、本当に別れたとしたら赤の他人よりも遠い人になってしまうじゃないですか。それがすごく嫌で、今も大切で大好きだから、“私も別れたほうがいいと思っていた”くらいの嘘をついて、友達として側にいることを選んだ気持ちを書きたいと思ったんです。
“そうじゃないのに”ですよね。
はい。そういう矛盾を心に持ちながら生きている人たちを、より強調して書きたいと思ったんです。すごい強がりですよね。強がるから矛盾も生まれて。その強がり、矛盾ってすごく人間らしい気がしていて、実は曲を書く上で好きなところでもあるんです。
そういう意味では、《ばーか ばーか》と歌っている「元カノ宣言」はめちゃくちゃ強がっていますよね（笑）。
そうですね（笑）。この曲ができた時は笑えるくらい強がりソングになったので、“これはさすがに出せないなぁ”と思ったんです（笑）。書いてはみたものの自分が歌うのはどうなのかって。でも、この曲ほど矛盾が滲む曲もないので、すごく好きになったんですよ。
さらに、これらの曲とは対照的に「Mirror」や「ピスタチオ」といったハッピーなラブソングも収録されていますよね。中でも「ピスタチオ」は言葉遊びが面白くて大好きになりました。
嬉しい！ この曲は“言いたくなる言葉って何だろう？”と考えながら作ったんです。完全に言葉選びに振りきった曲を作りたかったから、そう言ってもらえると嬉しいですね。これまで物語やそこから伝わる気持ちなどを重視して曲を作ってきましたが、単純に歌いたくなる、聴きたくなる曲を作ってみたいと前々から思っていたんです。でも、曲ができた時、あまりにも中身がなくて“本当に大丈夫なのか？”と思ってしまい、あとから意味が生まれるような言葉を付け加えたんです。…不安に負けました（笑）。
あははは。でも、この曲は本当に口ずさみたくなりますよ。
ありがとうございます。作っている時に“ピスタチオ”以外にも“カルパッチョ”、“チュッパチャップス”や“テラコッタ”などいろいろ探したんですよね。あとは、“マジョラム”とか。初めての挑戦だったので、すごく楽しかったです！
あと、「Mirror」での可愛いらしい主人公も杏沙子さんらしいと思いました。
私自身、何かを通して自分と向き合うことが好きなんです。例えば恋をして女の子が可愛くなるのって、自分と向き合うからだと思うんですよね。そういった女の子の自己肯定感が上がるような曲を書いていきたいと改めて思いました。
今回はプロデューサーさんを入れることによって、自分の中で譲れないものも見えたのでは？
確かに！ これまで誰も入ってこなかった創作の頭の中の部屋に光さんをお招きしたことによって、自分のこだわりに気づくことが多かったですね。言葉の意味を大事にしつつも、耳触りや響き、譜割りなどもだいぶ意識して選んでいたことが分かりました。
いい一歩になったようですね。
まるっと一年をかけて制作したミニアルバムなんですが、新しい風が入ってきたことによって第二章が始まった気がします。
そんなターニングポイントともなる今作につけられたタイトル、“LIFE SHOES”の意味を教えてください。
私の中で愛おしいと思うことって、まったく違うものが共存していること…いわゆる矛盾のようなものなんです。そこにキュンとするんですよね。すごく人間らしさを感じるというか。その矛盾を指の形状や大きさが似ているようで違う右足と左足に例えたら、違いを愛でながら、認めてあげながら、前に進んでいくための靴のようなアルバムになったらいいなという気持ちで“LIFE SHOES”と名づけました。
そして、今作の初回限定盤には収録曲のアコースティック映像が付くんですよね。ものすごく豪華で驚きました！
私もそう思います（笑）。ピアニストの方と、ギタリストの方と、それぞれ1対１で歌わせていただいたんです。自分の伝えたい気持ちや主人公の気持ちのグラデーションがより繊細に伝わる気がしていて、アコースティックで歌うことが好きなんですよ。ピアノとギター、印象がまったく違う感じで録れたので、かなり見応えのあるものに仕上がったと思います。
今後もさらに本音が覗くアルバムができそうですね。
そうですね。今作を作って“もっと脱げるな”と思ったんです（笑）。ただ、脱ぐには着ていることに気づかないといけないんですよね。だからこそ、今後も自分でさえ気づいていない気持ちを掘り下げて曲を作っていきたいと思っています。そのぶん、カッコつけることが減るので、今年はそんなちょっとダサい本当の私を楽しんでもらえると嬉しいです。
取材：吉田可奈
