杏沙子

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【杏沙子 インタビュー】
人に言いたくないことを
どんどん曲にしていこうと思った

より自分の心を掘り下げてリアルな気持ちを描くことに目覚めた杏沙子。ミニアルバム『LIFE SHOES』は誰もが心に抱いたことのある、でも誰にも言えなかった想いを代弁してくれる、お守りのような一枚となった。今作を制作するにあたっての心境の変化、気づいた新たな想いについて教えてもらった。

本当に裸の気持ちだからこそ、
歌うことに意味がある気がした

久しぶりのミニアルバム『LIFE SHOES』はかなりコンセプチュアルな作品となりましたが、どんな想いから制作に入ったのでしょうか?

今作からプロデューサーの石崎 光さんとご一緒することになって、2021年の1月中旬に初めてお会いしたんです。その時に光さんから“恥ずかしいとか自分が情けないこと、隠したいと思っているところに、杏沙子ちゃんにしか書けないものがあるんじゃない?”と言っていただいてハッとしたんですよね。それをきっかけに人に言いたくないことをどんどん曲にしていこうと思ったところから、このミニアルバムの制作が始まったんです。

作詞作曲のクレジットも連名になっていますよね。どのように作られたのでしょうか?

基本的に私が曲のベースを作り、意見を求めるようなかたちだったんですが、今までの私なら採用しなかった言葉でも、光さんが“使おうよ”と言ってくださって入れたようなことが多かったんです。なので、今回のアルバムは光さんがいなかったら生まれてこなかった曲がたくさんあります。

“今までなら作らなかった曲”とは具体的にどの曲のことでしょうか?

最初に作ったのが「女の子にしてよ」で。これが全て実話というわけではないんですが、似たような気持ちを持ったことがあるという話をした時、“それを書こう!”となったんです。でも、この曲に書いてあるのはかなりぶっちゃけた気持ちだし、赤裸々すぎるから恥ずかしくて友達にも言ったことのないようなことだったので、最初は“大丈夫かな?”って思いました。

確かに踏み込みづらいテーマです。

でも、本当に裸の気持ちだからこそ、歌うことに意味がある気がしたんです。それに、ここまで自分の着ぐるみを脱いだ経験がなかったので、この一曲を作ったあとに何も怖くなくなったんですよ(笑)。

あははは。いきなり大きなハードルを越えた感覚になったんですね。

そうですね。最初は聴いてくれる人がびっくりしてしまうのではないかと思ったんですけど、リリースをして、共感してくれる人たちがいたことで、すごくすっきりしました。それに、“こういうことを書いていいんだ!”と思ったのと同時に、“これが私ができることなのかもしれない”って思ったんです。

その他の曲もものすごく物語性が強いと思ったんですが、ストーリーテラーとして楽曲制作をする部分でも、かなり楽しい作業になったのではないでしょうか?

もともと自分のルーツが松田聖子さんの楽曲だったり、松本 隆さんの作品なので、ストーリー性が高いものが好きなんです。音楽を作り始めた時から書きたいものはどんどん変わっていったんですが、ベースとして映像が思い浮かぶものが好きなのは変わっていなくて。今回もそこを自分の中で大切にしながら作ったからこそ、そう思ってもらえたんだと思います。

ものすごく主人公を応援したくなるような曲ばかりでした。

ありがとうございます。今までは自分がいろんなお洋服を着て“こういう物語もありますよ”と、自分とは違うものを演じていた曲が多かったんです。でも、「とっとりのうた」(2019年2月発表のアルバム『フェルマータ』収録曲)や「見る目ないなぁ」(2020年7月発表のアルバム『ノーメイク、ストーリー』)をきっかけに、自分のことを掘り下げて書くほど多くの人が共感してくれることに気づいて、もっとみんなと近くなりたいと思ったんですよね。それからはどんどん自分を掘るようになりました(笑)。

自分を掘る中で、改めて“こういう曲を大事にしたい”という想いも強くなったのではないでしょうか?

自分が経験した気持ちはもちろん、友達から聞いた話がヒントになって曲を作ることも多いんですが、物事に対して“自分はどう考えるのか?”“どう向き合うのか?”と考えた時に、明らかに自分の答えがはっきりと見えるようになってきましたね。

なるほど。

そう言えば、「負けたんだ」を作った時、このタイトルになった言葉は最初は出てこなかったんですよ。でも、“本当に大切な人と別れた時って人はどうなるんだろう?”と考えて、“想像する”の先に行って、この言葉と出会ったんです。

先?

はい。決して自分の体験じゃないのに、その主人公になりきってしまって、どんどん涙があふれて、号泣してしまって…。その時に出てきた言葉が“負けたんだ”だったんです。もしも私が大切な人に新しく好きな人ができた上で別れを告げられたら、きっと負けを認めるんだろうなと思って。それくらい彼のことを尊敬していたり、彼が選んだ選択を尊重するくらいの愛があれば、“負けたんだ”って思えるんだろうなと。それは今の年齢になったから辿り着けた答えだと思うんですよね。

すごくいい経験ができたんですね。

そうですね。今まではひとりで閉鎖されたフィールドで作っていることが多かったんですが、自分の中だけで生まれてくるものにはどうしても限界があるんです。そこに光さんが入ってくれたことで新しいものが生まれて、また新しい自分を知ることができたんです。すごくいい経験になりました。
杏沙子
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OKMusic編集部

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