BBHF 『SUPER MOON TOUR 2021』ファ
イナル公演で見せた、鳴らしたい音に
忠実に向き合い続けるバンドの強さと
未来への大きな期待

BBHF “SUPER MOON TOUR 2021”

2021.12.10 Zepp DiverCity(TOKYO)
月(=MOON)は、BBHFというバンドがエネルギッシュな状態にあるとき、もしくは大きく前進しようとしているとき、それを象徴するひとつのモチーフのようなものなのかもしれない。2016年に前身バンドであるGalileo Galileiを終了させたあと、翌年、Bird Bear Hare and Fish名義でバンドが始動したとき、彼らの1stアルバムのタイトルが『Moon Boots』だった。直訳すると、月の靴だ。あれから4年。尾崎雄貴(Vo/Gt)が「ベストなステージチーム」と太鼓判を押すバンドメンバーと共にまわった、今回の全国5都市のワンマンツアーに掲げたのは『SUPER MOON TOUR』というタイトルだ。ステージに設置された円形のLEDスクリーンには、地球や月など様々な惑星を立体的に映し出し、まるで宇宙旅行でもするように自由に音が飛び交う美しい空間を作り上げた。
BBHFが2年ぶりに開催した全国ツアーのファイナルとなったバンド史上最大キャパとなるZepp DiverCity(TOKYO)公演だ。
BBHF
「鳥と熊と野兎と魚」がSEとして流れた。雄貴、DAIKI(Gt)、尾崎和樹(Dr)に加え、サポートメンバーの岩井郁人(Key)、岡崎真耀(Ba)の5人がステージに登場した。ライブの口火を切ったのは10月にリリースされたばかりの最新曲「ホームラン」。ぐいぐいと疾走していく推進力のあるギターロックにのせて、雄貴のやわらかで力強いボーカルが瑞々しいメロディを紡いでいく。ムービングライトがゆっくりと旋回する。「シンプル」から「僕らの生活」へ。ステージ上の5人が全身でリズムを感じながら、体を揺り動かして鳴らされるバンドサウンドは、しっかりと抑制が効いていながらも、気がつくとじわじわと熱を帯び、心地好い昂揚感を生み出していく。
BBHF
アーバンな浮遊感がドラマチックな起伏を描いた「だいすき」のあと、緩急をつけたアレンジにロマンチックな気分を覗かせる「1988」、岩井がハーモニカを吹き、軽やかにスキップするような和樹のビートにのせて開放感のあるメロディを聴かせた「黄金」へ。中盤はバンドらしいフィジカルなエネルギーを放つ楽曲が続いた。00年代から現在に至るまでのUSインディーシーンの音楽を中心に幅広いインプットを想像できるBBHFのバンドサウンドは、一時期エレクトロなアプローチに比重を置き、たとえば、ライブではほぼ全員がシンセを弾くような構成をとることもあった。それがここ最近は(もちろん楽曲によってはDAIKIもシンセを弾く楽曲も多くあるが)、また少しずつギター、ベース、ドラムを核とするベーシックなバンド編成に回帰しつつある。自分たちが鳴らしたい音に忠実に。そうやってバンドの土壌を丹念に耕し続けてきたことで、BBHFのグルーヴがいま成熟の季節を迎えている。この日のライブではそれを肌で感じるシーンが何度もあった。
尾崎雄貴
有観客と配信というハイブリッド形式のツアーファイナルということで、「たくさんの人に見てもらえる、つながれることがうれしいです。今日はよろしくお願いします」と、MCでは雄貴が手短にあいさつをした。オレンジ色のライティングが穏やかにステージを照らす。音楽そのものへの想いを綴ったような「真夜中のダンス」では、音源以上に熱を帯びた雄貴のボーカルが強く心を揺さぶる。青い空と白い雲。LEDスクリーンに晴れやかな大空を映し出して届けたのは「かけあがって」だった。3拍子でゆったりと刻むグルーヴにファルセット交じりの優しいメロディが揺れる。そこから「涙の階段」へとつないだ流れはあまりにも美しかった。ふっと脳裏の浮かんだのは“人生”という名の螺旋階段をひたすらにのぼってゆく人間のイメージだ。淡々と、それでいて心の内側に熱いものを抱えてじりじりと歩き続けるような、そんな強さがBBHFの音楽にはある。
DAIKI

尾崎和樹

透明感のある音像がやがて祝祭感のあるクライマックスへと上り詰めていく「リビドー」のあと、本編最後のMCでは、「このメンバーがしっくりきてから、演奏をするのも、歌うのも楽しくてしょうがないです」とライブの歓びを語った雄貴。言葉にせずとも、そのステージ上のムードはここまでのライブで十分に伝わっていた。メンバー同士が互いに何度もアイコンタクトを送り合い、演奏そのものを心から楽しんでいる雰囲気は自然とフロアにも伝播していた。
BBHF
牧歌的なシンセのリフが朗らかな空間を作り上げた「バック」から、そんな素敵な雰囲気を引き連れたままライブはフィナーレに向かっていった。人間の体温と命の拍動を体現するような生命力に満ちた楽曲の世界観と連動するように、スクリーンに真っ赤に燃える炎を映し出した「Torch」、繊細でありながら泥臭い息吹を伴ってダイナミックな景色を描いてゆく「なにもしらない」へと、終盤はハイライトの連続だった。雄貴が「最後の曲です。今日はどうありがとう」とだけ言い、本編のラストソングとして届けたのは「君はさせてくれる」。心地いいテンポで揺れるグルーヴィーなサウンドにのせて、その歌の最後に紡がれるのは<ずっとこうやって生きていたいって そんな気に 君はさせてくれる>というフレーズだ。振り返れば、この日披露された楽曲たちは、生き続けること、歩き続けること、そこに君がいること、をテーマにした楽曲が多かったように思う。ステージ上で多くは語らなかったが、新型コロナで生活が一変して以降、今回はBBHFが初めて開催した全国ツアーだった。そういう状況もあり、いまバンドとして伝えられることは何なのか、そこに真摯に向き合った結果がこの日のライブには凝縮されていたように思う。
BBHF
アンコールで再びメンバーがステージに登場すると、大きな拍手を浴びて、雄貴が「みんなの拍手にコンサート感があってとてもうれしいです(笑)」とうれしそうに言う。そのまま、この日のライブで唯一ギターを持たずに歌い出したのは「黒い翼の間を」だった。雄大なバンドサウンドがリスナーの背中を優しく押す。「なつかしい曲をカバーしたいと思います」と言い、軽快なビートがたっぷりと助走をとってから突入したのは前身バンドGalileo Galileoのナンバー「恋の寿命」だ。最近のBBHFのライブではGalileo時代の楽曲も披露されるようになったが、あえて「カバー」という言い方をするのも雄貴らしい。そして「いま僕たちはたくさん新曲も書いてまして。来年はEPもしくはアルバムをリリースしたいと思ってます。このツアーでもらったエネルギーを詰め込んだ曲を作りたいと思っています」と次回作への意気込みを伝えると、「まだ完成してない曲なんですけど」と前置きをして、未発表曲「死神」を披露した。エレクトロな音像が映えるダークなアンサンブルに紡がれた<死神をさっと避けて見つめ合って生きている>というフレーズが耳に残った。最後は「めちゃくちゃに名残惜しいんですけど……」と終わりを惜しみながら、この日のオープニングを飾った「ホームラン」のカップリング曲「愛を忘れないで」で終演。祝祭感に満ちた温かなサウンドのなかで、愛と命の意味を歌い上げて全18曲のライブを締めくくった。大きな拍手に見送られてメンバーが退場したあと、スクリーンには「BBHF」のバンドロゴをデザインした球体がゆっくりとまわり続けていた。
BBHF
なお、この日のアンコールで、BBHFは来年の6月からバンド史上最大キャパとなる東京・Zepp Haneda(TOKYO)公演を含む全7公演のツアー『BBHF TOUR 2022』を開催することを発表した。雄貴は「来年はBBHFとしても大きく動く1年になると思います」と意欲を覗かせた。いまBBHFはバンドとして、とてもいい状態にある。それを目の当たりにしたからこそ、2022年のBBHFへの期待感はさらに高まるばかりだ。

文=秦理絵 撮影=佐藤広理

なお、同公演の様子はイープラス Streaming+他にて12月17日(金)23:59までアーカイブを配信中。

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